53-1 突然の御知らせ
情勢も情勢だし、俺は王都学園の生徒達を少し鍛えることにした。
会場は毎度御馴染みのアドロスダンジョンに決定だ。
学園長に話したところ、豪く乗り気だった。
俺に声をかけたのは、そういう事もやってほしかったようだ。
貴族の子弟も放り込んじまうけど、本当にいいのか!?
まあ、あの学園長の事だしな。
俺も特に気にしないで実施に移ることにした。
まずは実施要綱の作成と展示配布から。
ホールにある、催し物の掲示板に張り紙をさせてもらう事にした。
『拝啓、生徒諸君。
野外実習の御知らせです。
最近、国を巡る情勢も色々と不安定です。
【明日】日の出より【実戦訓練】を行ないます。
各自、武器防具・食料・必要に応じて魔道具などの装備を整えて、校庭に集合の事。
参加しない者には、卒業に必要な単位が与えられません。
不参加者は全員退校となります。
貴族王族、外国から留学している王侯貴族も例外ではありません。
なお、ポーション類はあれば持参の事。
なければ主催者の方で最低限の分は用意します。
班分けは当日の発表です。
みんなのアルフォンス先生より』
うっかりと御知らせを見ていない不届き者がいるといけないので、各担任からも通達してもらうことにした。
各教室で、悲鳴や驚愕した生徒の声が響き渡ったようだ。
嬉しいな、あんなに喜んでもらえて。
本日の授業は、その場で中止になったようだ。
「各自、死なないように充分な用意をしてきなさい。
どうせ大した事ないだろうなどと決して思わないように。
あの魔王先生の事だから、多分甘い事は通用しないと思うので。
では、生徒諸君。
グッドラック」
などと担任教師から言われて送り出されたようだ。
さすが先生方はよくわかっておられる。
俺は市中を見回る事にした。
まだ貴族の奴らはいい。
金もあるし従者もいるので、たぶん彼らがなんとかしてくれるだろう。
平民達は装備など持っていないような奴もいる。
案の定バタバタしながら、財布の中身と相談している奴らがいた。
そして、その中でもいかにも貧乏そうな、というか平民丸出しの三人組がいた。
こいつらも成績自体は優秀なんだがな。
文官希望で腕っ節はからっきしなのだ。
「お、赤貧三銃士。装備はまだ決まらないか」
「あ、アルフォンス先生。
変な仇名を付けないでくださいよ」
「そうです。せめて清貧三銃士とか」
「よし。今から、お前達は清貧三銃士だな」
連中は頭を抱えたようだったが、自分達で決めたんだからそれはしょうがない。
「それで、装備の具合はどうだ。
懐と相談じゃ辛いだろう」
「わかっているんなら、こんな催しはやめてくださいよ」
「馬鹿者。
わかっとらんのは、お前らの方だ。
王族貴族は当然として、お前らだって王宮務めを目指しているんだろう。
その場合は、いざとなったら闘いになる事だってあるわけなのだし。
じゃあ、お前達、何か?
王様やその他の偉いさんが危ないのに、家来のくせに上の人を置いて逃げるのか?
その時に、部下がお前達だけしかおらんのかもしれんのだぞ」
それは考えていなかった、と連中の顔に書いてあった。
「今、大陸中が隣の大陸も含めて色々と怪しい雰囲気だからな。
昨日は味方だと思っていたら、もう今日は敵方になっていましたとかあるかもしれん。
それに留学したいとか言っていたようだが、留学先で騒動になる事が無いとは限らん。
あとなあ、いざ有事という時になったら学園の生徒は動員される可能性もあると規則には書いてあると思うが。
お前達もそれに同意したから、貧乏でも学園にいられるのだからな」
全員ちょっと顔色が悪くなったが、色々と日頃は縁のないような事項のあれこれを思い出したようだった。
「明日はその格好で来るのか?」
「はあ、そのつもりですが。
先立つものがなくて、もう鎧は諦めようかと思っています。
とりあえず、手持ちのというか学園の備品の剣とかを御借りできないかと思って」
「しょうがないなあ」
とりあえず、連中の制服に軽く強化をかけてやった。
そして、ちょっとナイフでついてみた。
「うわあ、いきなり何をするんですかあ」
その生徒、クリスが尻もちをついた。
「よし、切れてないな」
「切れなくても痛いですよ。
そっちの怪我は無いですが、今転んだので手首を捻ってしましました」
「しょうがねえな、ほれ」
回復魔法をかけてやると、すぐに何事もなかったかのように立ち上がってきた。
まったく。
やはり、こいつらは色々と鍛え上げないと駄目なようだ。
特に根性面で。
次回は野外活動でサバイバル訓練あたりがいいかな。
案外と貴族の方が、腕が立つ奴や魔法持ちの奴なんかは逞しいかもしれん。
この学園は、どっちかというと跡取りではない次男以降とか小貴族の子弟が将来の食い扶持のために来ているケースも多い。
なんかこう、一部の生徒にとっては「冒険者学校」みたいな雰囲気もある。
本来なら王宮に勤めるような、あるいは貴族家を盛り立てる優秀な人間を育てる場所のはずなのだが。
そのせいか平民も多いし、そこから端を発してこんな感じの生徒もいるのだろう。
上級貴族などは家庭教師もいるから、そうそうこういう事はないはずだ。
そして逆に、その手の平民が憧れの王宮務めを目指しているケースが多いという。
まあ上手にあれこれ巡って、結果として目的には合っているのか。
この学園は、冒険者ギルドの創始者である船橋『武』が作ったせいなのか、少々武に偏っている気がせんでもない。
だから俺なんかが講師として呼ばれたのだろう。
王家・公爵家の子弟の場合は必ず入学させられるとのことだ。
「いざ鎌倉」という事らしい。
いざ鎌倉をするのは、本来は王家の人間じゃないはずなのだが。
まあ武の子孫にそんな事を言っても無駄だろう。
逆にその辺の王家との関係を求めて、学園に入ってくる上級貴族もいるそうだが。
シルに言い寄っていた、あの侯爵の馬鹿息子のように。
またハイドの王様のように、違う観点から他国より留学してくる奴もいるが、あれはまた例外というべきだろう。
特にハイドの学園は「社交と商売」のテーマが基本なので、シドが不満に思っていた節がある。
いや王都の学園なんて、それが普通だと思うんだけどね。
まあ、シドだって留学していた御蔭でメリーヌ王女と出会いを果たし、違う方面でも立派に実を結んで、見事に国同士の役には立ったわけなのだが。




