52-4 タンゴ 端午 タマゴ
レオンは魔道鎧を展開してヒューンと飛び上がる。
ファルも霊的放射による翼を展開した。
そして二人は空中で手を取って、くるくると楽しそうに回り始めた。
こういう展開になるだろうと思ってファルに任せたんだ。
他の子にレオンの相手はちょっと荷が重過ぎる。
レインボーファルスの攪拌された霊的放射を思う存分浴びて、プリティドッグや子供姿の精霊達が痺れてしまっている。
なんとも幸せそうな様子だ。
参加者達もうっとりしてそれを眺めている。
それにレオンの魔道鎧には華がある。
なんというか、煌くような雰囲気があるのだ。
親父のアントニオや俺のように無骨な実用一点張りでなく、儀礼的にも喜ばれそうな感じの物なのだ。
無論、その性能は既に大人と比べても何ら遜色は無い。
神聖エリオンとのコンビネーションには最高の相方だ。
魔導鎧をコントロール出来ていない奴がこんな事をしたら、鎧の力で相手を弾き飛ばしてしまい大惨事となってしまうが、レオンの場合そんな無様な事は絶対にない。
アントニオの言い草ではないが、この子は本当に天才だ。
まさに生まれ持った力といってもいい。
以前、レオンに魔道鎧を出したまま生卵を掴む練習をさせてみたが、あっという間に習得してみせた。
昔読んだパワードスーツの出てくるSF小説に、そんな訓練をするワンシーンがあったのだ。
おっさんは不器用なので、かなり習得に時間がかかってしまったのだが。
御蔭で、かなりオムレツの練習が出来てしまった。
残念ながらオムレツの出来は人並みには遙かに届かなかったがね。
ネットでプロの料理人が親切丁寧に教唆してくれている動画を見ても、さっぱりだった。
ああいう物だって、それなりの素養がある人でないと見たって何の役にも立たない。
片手でフライパンを持って手首をトントンとか言われたって、プロのコックが作ってくれた動画を見ながらでもよくわからん。
しかもレオンの奴は魔道鎧の力で、その卵を見事に調理してみせた。
以前、俺も御裾分けしてもらったのだが、あれは実に美味かった。
温泉卵のようにトロっとしているのだが、滋味深い味わいというか、一口食べるだけで体に染み渡る。
しつこくなくて、その上胃腸にも負担がかからなくて、もう何個でも好きなだけ食べられてしまう。
しかも栄養満点だ。
卵はそれ自体が中に命の糧を閉じ込めた、非常に様々な栄養を含んだ食品だが、その栄養を全て損なわずに調理するのは、とんでもなく難しいらしい。
だが、レオンの『魔道卵』は自然体でそれをやってのけている。
鑑定解析してみて、それにはさすがに驚いた。
だから天上の美味と言ってしまってよいほどの美味さなのだ。
俺も挑戦してみたが、あれはなかなか難しい。
子供達に催促されるので死に物狂いで作ってみたのだが、なかなか本家のようにはいかない。
俺の作る物だって普通の卵に比べれば超絶品なのだが、レオンの域には遥かに及ばないのだ。
だが本家レオンは卵を空中に躍らせて、魔道鎧の端にひっかけながら従者のように躍らせている。
先ほど苦も無く予選を突破したが、そのまま鮮やかに本戦優勝を決めた。
何しろ、空中から人外の動きで急襲し羽を総取りしてしまうのだから。
武門の生まれだけあって、遺伝子レベルで残心が決まっている。
ジェニーちゃんは「変身」すれば飛べるらしいが、生憎と相方のトーヤがついていけないのだ。
変身したドラゴンハーフというものが、どういうものなのか興味はあるな。
いつか見せてもらおう。
ドラゴンハーフはドラゴンとは逆に人型がベースで、そこからドラゴン体形に変身するのだ。
きっと普通のドラゴンなんかよりも遥かに美しい姿をしているのではないかと思っている。
先ほどより卵が踊る端からパートナー特権でファルの御腹に収まっていくので、中々他の奴らのところへ行き渡らない。
他の連中が実に不満そうだ。
皆、おっさん卵では満足してくれそうもない。
「おいちゃん、卵の御代わり」
まだ食うのか。
さすがは成体で全長十メートルを目指しているだけの事はあるな。
俺は卵を吹き上がらせた。
他の連中にも行き渡るほど大量に。
タマゴは栄養もある万能食材だから、いつも大量に持ち歩いているので。
俺は卵の一つ一つに細い魔力糸をくっつけて次々とレオンに向けて差し出していく。
おっさんは不器用なくせに、こういう事だけは器用にこなすのだ。
というか手先が不器用だから、それを補うために魔法はどんどん器用になっていくのだろう。
地球にいる時も、サイキックな能力だけはどんどん器用になっていった。
それも存分に仕事の役には立ったのだが。
レオンは鎧の出力を上げて、土製の輪のように薄く展開して卵流星群を捉えた。
ものすごい数の卵が輪の引力に捉えられ、まるで本物の土星の輪のように、それ自体が大卵流星群の輪を構成していった。
それも繊細な感じに、俺の魔力糸から静かに受け取っていく。
まるで成層圏の遙か上空にある宇宙空港たる宇宙船プラットフォームに、太陽系の他の惑星と行き来する宇宙船が静かにドッキングのオンオフを行うかの如くに滑らかで静かに。
その場にいる誰もが息を飲むような卵の乱舞。
出来上がった卵達は、参加者の手元へ狙い違わずに流れ星のように降り注いだ。
彼らの手元には、俺が持たせた御椀とレンゲがある。
その中へ、殻の衣を脱ぎ去って華麗に舞い降りていく。
これはもう皆が大絶賛だった。
実は、これを食べたいがためにオルストン家を訪れる大貴族とかが増えたのだそうだ。
かつては王国の恥と謗られた一族の跡取りは、自力で新しい発展への道筋を開いた。
本当に恐ろしい奴だ。
確かまだ生後四か月のはずなのだが。
新しい技を御披露したくて、うずうずしていたようだ。
御客さんが来る度に御披露して拍手喝采なので、奴はもう有頂天だったそうだ。
その様子があまりに可愛らしいので、訪問した貴族達もすっかりレオンのファンになってしまった。
それがまた新生オルストン家の新しい礎になっていく事だろう。
今日も、いつの間にか国王夫妻が現れていて、レオンが王妃様に飛び付いていった。
アントニオが慌てて止めようとしたが、王妃様はにこにこして、そのまま抱き上げた。
「あら、相変わらず可愛いわね、レオン」
そう、王妃様も結構オルストン領に通っていらっしゃった。
普段は王族なので使用を控えているらしいのだが、転移の腕輪はこういう時に使うものらしい。
初めて行った時はアントニオが固まってしまったらしいが。
御忍びという事で、革ズボンに革ブーツの冒険者スタイルだったそうな。
もっとも、そのスタイルは結構有名でみんなが知っているので、御忍びもへったくれもないのだが。
レオンが場を離れても、軽く鎧の一部を伸ばしてロープのように繋いでおくだけで、タマゴはワイルドに輪になってタンゴを踊り続けていた。
まるで鎖鎌、いや魔道鎖卵だ。
その卵どもは、既に王室御用達の金看板を持つロイヤルブランドになっていた。
この卵は「オルストンエッグ」の銘を国王陛下からいただいており、きっと後世までその名を響かせる事になるだろう。
タンゴの節句がいつのまにかタマゴの節句になってしまったが、参加者は皆幸せそうだからいいかな。
まあタマゴだって子供の一種みたいなもんなので。
この魔道卵は美容と健康に非常にいいらしい。
葵ちゃんも、たくさん頂いていた。
最近、悪阻のせいか食が細くて山本さんが心配していたのだ。
だが、このタマゴは苦も無く食べられるらしい。
俺も魔道卵作りに精進するとしよう。
そのうちには自分の家族のために自家消費しなくてはならなくなるだろうし。
ふっとレオンが葵ちゃんの前に、そう、丁度御腹の前に下りてきてじっと見つめている。
な、なんだか嫌な予感がするな。
そして、奴はふいに口走った。
「この赤ちゃん、凄いねー」
ぐはあっ。
なんという事を!
赤ちゃんは赤ちゃんを知るというのか?
こ、怖くて鑑定とかできん。
うっかりと失念していたが、そういえば稀人×稀人の子供なんて、この異世界には他にいないのだ。
稀人能力の二乗?
父親はMP変換の公式すらなくて魔素から直接好きなだけ物体を作り出していく、ある意味では俺以上の化け物的な存在なんだが。
その気になれば無限の魔力を振るう事さえ可能なのかもしれない。
この人の場合は絶対にそんな事はせんだろうけどね。
だが、生まれてくる彼の子供の御意見はどうなのだろう……。
そのスキルを別の形で遺伝的に受け継いでいないと誰に言えようか。
だがそんな俺の心配など、どこ吹く風といった按排で、子供の日の卵パーティは盛り上がっていった。




