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51-1 やってきた可愛い子ちゃん

 俺は、いつもの如くに作務衣姿のまま竹箒で門の前を掃いていた。


「にゃあ~ん」


 何か突然に可愛い鳴き声がしたので、思わず振り向いた。

 そして、そこには今まで絶対にいなかったはずの存在がいた。

 猫だ。


 おっかしいな。

 ついさっきまで何もいなかったはずなのに。

 俺のスキルやレーダーに反応は無かった。

 まあ特に危険な物ではないようだけれども。


 少し警戒して観察していたのだが、そいつはのこのこと近くまでやってくると俺の脚に体をこすりつけ、すりすりしてきた。


 うっ、可愛い。

 思わずしゃがみこむと、まだ子猫っぽい感じがする懐っこいそいつは、伸び上がって俺にじゃれついてきた。

 あまりにも可愛らしかったので、ついつい頭を撫でてしまった。

 だがプリティドッグの事もあるので、一応鑑定をしてみた。


「地球の猫。

 アメリカンショートヘアー 雄 生後三か月」


 俺は思いっきり噴いた。

 子猫が「汚いニャー」とでも言いたそうな顔をしている。


「お、お、お、お前、どっから来た!?」


 そう訊かれても、子猫は可愛く小首を傾げるようにしているだけだ。


「あれ、もしかして今こっちへ来たのかな、この子。

 さっきまでいなかったしな。

 それにしちゃあ俺の時とはえらい違いで、妙に静かな異世界転移なのだが。

 もしかしたら小さな子猫だから⁉

 たまたま微細な次元の隙間からストンっと⁉」 


 アメリカンショートヘアー、通称アメショーは、元々ネズミやヘビを退治するためにアメリカへ連れてこられた実用種の猫だ。

 基本的に屋外で生活してきたし、顎なんかも強い。

 噛まれたら痛そうな品種だな。

 冒険心も強いので、本来はこの世界向きの猫であるとも言えるのかもしれない。

 冒険者ならぬ冒険猫?


 一時期は雑種として人気が落ちていたくらいで、色々と逞しい品種なのではないだろうか。

 この子も利口そうだから、この世界でも上手く立ち回っていけるのではないか。


 ひょいっと抱っこしてみたが、特に嫌がる素振りも見せない。

 首輪は付けていないが、どこかで飼われていた子なのかもしれない。

 体は薄汚れておらず、目やになんかもついていない。


 野良猫の場合、よく目やにで眼が潰れていたりするが、もしかしたら誰かが世話をしていた野良子猫の可能性もある。

 それにしても……。



「山本さーん、葵ちゃーん」


 俺はケモミミ園の大広間で彼らを呼んでみた。

 この時間はまだ、ここらへんにいてくれるはずなのだ。

 この二人は正式に結婚したので、もう山本夫妻なのだが、俺は癖で相変わらずこういう呼び方をしている。


「おや、なんですか?」

「どうしたの? 園長先生」


 二人仲良く寄り添って、顔を覗かせてくれた。


「猫」


 俺はそいつを葵ちゃんに差し出した。


「きゃあ、可愛い~」


 山本さんも暢気に葵ちゃんが抱っこしているそいつの頭を撫でている。


「まだ子猫ですねえ。

 この子ってアメショーかな」


「みたいですねえ。

 地球の猫だって」


 一瞬の間をおいて、夫婦は同時にハモった。


「「ええ――!!」」


「どっから攫ってきたんですか?」


 えー、人聞きの悪い。

 人をまるで猫攫いみたいに。


「いやいや。

 門の前で拾ったんだって。

 鑑定してみたら、地球の猫だと出てね」


「あー、本当だー」


「そうなんですか?

 そういやアメショーって地球の品種ですよね。

 この世界にアメリカなんてある訳がないし」


 山本さんは、また暢気な事を言っているな。

 まあ葵ちゃんは鑑定持ちなのだが、山本さんはそんなもの持っていないし。

 この人は和菓子やその材料を作りだす能力以外に何もスキルを持っていないのだ。

 いわゆるスキルの極振りっていう奴だな。


 いや和風のスキル全般は大変素晴らしいのだが、それはこの世界で言うところのスキルではなく『稀人、日本人としての能力』に過ぎない。


 生憎な事に、俺はそういう物は一切持ち合わせてはいないんだけどね。

 葵ちゃんのユニークスキルは、また少し変わっているのだが。


「しかし、本当にどこから来たんだろうねー。

 首輪一つ付けていないし」


 ん?

 体の一部に何か植物の種っぽいものが付いていたので鑑定してみた。


 あのよくその辺に生えている、毛がたくさん生えたナッツのような形をした「ひっつき虫」のような奴だ。

 子供の頃にこいつでよく遊んだけど、なんて呼んでいたんだっけかなあ。

 今ネットで検索してみたら、それはオナモミというらしい。

 他にも小さなハートマークっぽいような種がいっぱい付着していた。


 地球からの輸入植物だ。

 やたらとその辺に生えられても困るので収納で一粒残らず回収しておいた。

 この世界にも、そういう植物はあるかもしれないが、まあ外来種っていう奴だな。

 今までも次元の裂け目を通って、地球から紛れ込んできた動植物はあるはずだ。


 あと、地球産の蚤なんかも毛皮の中で養育していたので、その他のウイルス細菌類などと合わせて殺虫しておいた。

 やっぱ野良なんかな。

 飼い猫だったら、そんなもん飼い主が生かしておかないわな。


「園長先生、もしこの子に飼い主さんがいたら、今頃一生懸命に探しているんじゃないですかね」

「えーそれで、葵ちゃんは俺に……どうしろと?」


 そんな人達を捜し出して、日本へこの子を返しに行けるくらいなら誰も苦労はせんわい。

 そもそも、それが簡単に出来るくらいなら葵ちゃん本人を猫ごと日本へ連れて帰るわ。

 元々、この子だって女子高生の時代からうちで預かっていた子なのだから。

 まあ彼女も今は結婚したので、日本へ帰る時は里帰りっていう感じになるのかな。


「あー、そう言われると困りますねー」


 だが当の猫助といえば、もうすっかり馴染んでしまっていて、いつの間にか寄って来た子供達と既に遊びまくっている。


 アメショーという猫種は、かなり順応性が高いな。

 まあ、あれだけ一緒に弾けて遊んでくれる大勢の子供達がいたらなあ。

 まだ自分の尻尾を追いかけてクルクルと回りたいくらいの年頃なのだし。


 子供達は、また可愛い生き物がやってきたので大喜びだ。

 御互いにミミと尻尾のついた生き物だしね。


 猫アレルギーの子はいなそうだ。

 そういや、何故か猫って全然見かけないし。

 ネコミミを生やした生き物なら大量にいるのだが。


「ああ、お前らちょっと集合。

 猫は人間と違って色々と食べちゃいけないものが結構あるから、勝手に食い物は与えないこと」


「えー、ごはんたべないとしんじゃうよ~」

「えんちょうせんせい、ひどーい」


「だから、猫の御飯は山本さんが作るから。

 おやつもな。

 チョコをやると死んじまうみたいだから、あれは絶対にやるんじゃないぞ。

 ガムも駄目。

 塩や砂糖が入った物も駄目だ。

 変な草とかも、やったらいかんぞ」


 子供達も猫の食生態の脆弱性にびっくりしたようだ。


「よかった~、ぼくネコじゃなくって」

「ほんとに~」


「山本さん、ネコケーキって作れます?」


「あー、ネットを見ればなんとか。

 どうしても駄目だったら、エリちゃんに応援を貰いますよ」


 とりあえず何かあってもいけないので、ケモミミ園のマークと爆炎のエンブレムをつけた鈴付きの首輪を作って着けてやった。

 首輪の感触が慣れないので、ちょっと苦になるようで前足でかいていたが、これだけは付けさせておく。

 すぐに慣れるだろう。


 このエンブレム付きの首輪さえしていれば、この街では絶対におかしなちょっかいはかけられない。

 首輪にはマーカーを付与してあるので、どこかへ行ってしまった時にも、いつでも迎えに行けるし。



 とりあえず、レインのところへ話を聞きに行く事にした。

 もちろん、ファルも連れて。

 ファルに、いつもの「よしよし」をやられて子猫はふにゃあ~っとなっている。


「レイン。

 今日、地球から紛れ込んだと思われる猫を見つけた。

 直前まで気配が無かったのに、いきなり現れたんだ。

 何か俺と関係あるのかな。

 こんな事って、頻繁にあるものなのかい?」


 いきなり現れて、そんな事を言い出した俺にレインも驚いたようだったが、ファルを頭に載せながら少し思案顔で。


「そうね。

 あなたと関係があるかどうかはわからないけれど、そういう事は無いこともないわ。

 小さな次元の隙間が、突然発生する事はあるかもしれないわね。

 そういう事象は精霊の森の長老から聞いた事があるの。

 あなたの大きな魔力が関係している可能性が無いとは言えないけれど、それに関してはなんとも言えないわね」


 そうだったのか。

 大きな災害に付随するような、俺達が巻き込まれた大規模な白い霧を伴う異世界転移以外に、ちょっとした世界間の揺らぎのようなものがあるという事かな。


「いずれにせよ、俺達が利用出来るようなものじゃないという事か」


「多分、そうなるわね。

 それに、もしそれを使って帰る事が出来るとしたら、もうこっちには戻ってこられないと思うわよ。

 もしかしてあなたなら、その帰還出来る手段を自力で身につけてしまうかもだけど、私は出来ないんじゃないかと思うの」


「それは、何故そう思うんだい?」


 レインは少し躊躇うかのように一呼吸開けてから答えてくれた。


「だってあなたは世界を次元を超えてこの世界にやってきたけれど、その手段を身につけていないわ。

 まあ、本当のところは誰にもわからないのだけれど」


 うーん。

 転移魔法を覚えた時は、見取りのスキルがあったからな。

 だが見取りの能力は、そういったプロセスを検知して再現するために、セブンスセンスによる結果を簡易に導くためスキルとしてパッケージングしたものに過ぎない。


 もし異世界転移のような能力が存在するというのなら、あの一種の神の時間とも言える夢の中なら、俺には異世界転移の能力を覚えられたはずなのだ。


 だが、こいつに関してはなんとも言えんなあ。

 異世界間の移動という問題は、大きく世界の理に関わるほど特殊な物なのかもしれんのだし。

 もしかしたら、ダンジョンが一つの鍵を握っているのかもしれない。

 あれはその手の空間魔法を使うようだからな。


 ダンジョンが一種の魔物のようなものだというのなら、どこかでダンジョンコアと話が出来ないものだろうか。

 もしかして、ファルならばそれも可能かもしれない。


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