47-2 祝福の舞い
入学式にはドワーフ隊が一番乗りだ。
今日は、なんと大王様が正装だった。
こいつは初めて見たぜ。
革の鎧かと思うようなゴツイ厚手の皮の服に、エルドアの紋章であるハンマーとやっとこを斜めに組み合わさった物の上に、彼らが信奉するフレア神が炎を纏った姿で描かれた絵柄が刻まれている。
そんな格好をしていると、連中が鍛冶師ギルドの集団と言われても信じるな。
まあドワーフなんて似たようなものだっていやあ、そうなのだが。
女性は真っ赤なドレス姿で、色合いはタンゴドレスっぽいような派手さだ。
つまり男は鍛冶師で、女はそれを支える情熱の炎というわけだ。
ドレスの裾は、ひらひらしたもので、炎を煽る風を意味する。
ある意味で前回の太鼓よりも衝撃的な登場だ。
「末息子の晴れ舞台」というわけか。
ああ見えて、ドワーフは家族の絆を大切にするからな。
一旦家族として受け入れた者は決して裏切らない。
孤児であるトーヤにとって、それは嬉しい事だろう。
次に代官エドモントや商業ギルドのギルマス・ロゴスなどの街の有力者が来てくれた。
本当は一番乗りを決める予定だったサイラスの国王一家は、かなりゆっくりの御登場だ。
「いやあ、今日こちらへ来る予定の情報が漏れていまして。
早朝から謁見希望の方々が押しかけてきて参りましたよ」
皆さん、国王の性格をしっかり把握しているな。
密偵も仕事がしやすいだろう。
あの開けっ放しの部屋で、飯でも食いながら話していたとかじゃないだろうか。
別に国家機密の内容じゃないしな。
むしろ仕事をさせたい宰相とかが、わざとリークしたとか。
それも有り得る。
どこにでも王様に仕事をさせるのに苦労している人間はいるもんだ。
おチビさん達は遊園地なるものが大変気になるようだったが、御式が終わって御飯と御昼寝が済んでからね。
チビ姫様達も今日はおめかしだ。
可愛いドレスと、これまた可愛らしい御帽子で決めている。
こっちは、まだ些か寒いのでコートも着ているな。
温暖なサイラスの子達のためにエアコン魔法の温度を摂氏一度ほど上げておく。
人が入ると暑くなるので、あまり上げてもいけないので細かく微調整していこう。
区分けされた床暖房のように、温度は部分的にコントロール可能なようにしてある。
来賓席は警備の都合上スカスカにしてあるから、少し寒いかもしれない。
体育館の椅子が街の人で埋まっていく。
行事の度に毎回バザーをやって、大量の地域住民と交流を持つ幼稚園というのもどうかと思っていたのだが、もうこれが当たり前になっているので小学校でもやる事は変わらない。
既に街の住人にとって御楽しみになっている感もあるしなあ。
うちはゴーレムや冒険者もいるので警備はそう困らない。
職員自体も元が殆ど冒険者上がりの人間だし。
ちなみに来てくれている人達も、場所柄かなりの数が冒険者上がりの人も多い。
もし何かがあっても各自がきびきびと行動し、ほぼ全員が戦闘体勢を取れる。
武器はうちからいくらでも供給できるし。
あと来賓のための複数国家の「王国騎士団」が大概は百人以上もいる。
ここの行事を襲撃するには、軍事基地、いや王宮を正面切って攻撃するほどの覚悟がいるのだ。
今日はアルバトロス王国騎士団に加えて、サイラスのバンダナ騎士団とドワーフの戦士団が追加で居る。
その上所在地が魔王城で、行事の際に魔王がここを留守にする事は一切ない。
チャチな魔物千匹くらいなら、俺抜きでもすぐに片付くのではないだろうか。
あと来賓席の近くには、インビジブルモードのゴーレム兵が山ほどいる。
これもわかる人にはわかるらしい。
時々さりげなくゴーレムを指し示し、意味ありげにニヤリっとしてこちらを見る人がいる。
帝国戦の時には、待ち伏せしていたゴーレム部隊も物影に隠れさせておいたのだ。
わかる連中にゴーレムがいるのがバレたら「奇襲への奇襲返し作戦」が露見しちゃうからな。
まもなく会場は人でいっぱいになり、程なく御時間となった。
「校長先生挨拶」
真理のアナウンスでプログラムが始まった。
「えー、御来賓御来場の皆さん、どうもありがとうございます。
この入学式のようなものは初めてやります。
ケモミミ幼稚園の方は随時子供が入ってくるため、入園式のようなものは特にありません。
おそらく今後もやられる事は無いでしょう。
小学校の方は幼稚園から進学してきますので、毎年入学式がやられていくと思います。
今年は開校という事もあって、まだ十五名と生徒数は少ないですが、ケモミミ幼稚園の方はどんどんと人数が増えていますので、来年度から生徒数もそれに応じて増えていくでしょう。
地球、いえ異世界の例からみますと、小学校くらいまでは年齢と比例して腕白度が増していきます。
その辺は、どうか暖かい気持ちで見守っていただければ幸せかと存じます」
昔は俺もやらかしたもんだ。
先生が「昨日、裏山で遊んでいて椎茸栽培の木を荒らした奴は手を上げて」と言ってくるので、教室が以下の光景となる。
「「「はーい!」」」
男の子達が、みんなで元気に手を上げる。
犯人はうちのクラスの男の子一同だった。
あれで椎茸栽培をしていたとは知らなかったな。
見事に学校へ苦情が入っていた。
きっと持ち主はイノシシにやられたと思って諦めた事だろう。
あれの仕業と違って木がバラバラにされていないだけマシだった。
栽培は一からやり直しだ。
もう今更だけど、ごめんなさいね~。
お前ら、御手柔らかに頼むよ。
「続けて、御来賓の方からの御挨拶。
エルドア王国、ハンニバル大王様」
親方は進み出ると、兄貴がその横に並び、その反対側に戦士長が並ぶ。
そして戦いの正装をした戦士団がバラバラと飛び出してくる。
何事っとばかりに王の後ろに控えていたバンダナ騎士団も構えるが、サイラスのルイス国王は笑って片手の甲を軽く後ろへ振って下がらせる。
そしてドワーフ伝統の「祝福の舞い」が始まった。
なんか空手の演舞みたいな奴だ。
ああ、こんな事ならバルドスの爺も呼んでおけば映えたかもしれないなあ。
そして、なんというかラストは「押忍」という感じで締めくくった。
押忍というのは、昔の日本海軍で「おはようございます」を略したのが始まりらしいが、ちょっと略しすぎだろう。
まあ、子供の部活でも「ありがとうございました」が「シター‼」になってしまうんだから、しょうがないかな。
あれ?
おい、親方。
肝心の挨拶は?




