46-7 対決の時
そして、そいつらは突然にやってきた。
「ホーッホッホッホ。
負け犬どもが、こんなところで宴会~?
笑止千万ねー!」
緑色で、なんか体全体が妙にがさがさしている感じの連中がやってきたのだ。
なんだなんだ?
「あー! お前らは~」
ドライアド軍団の筆頭であるフローラは叫んだ。
「お前、あいつらの事を知っているのか?」
「あー、こいつらが例の苔です」
ああ、なるほど。
そいつらに元の住処を追い出されたって言っていたな。
よくよく見ると如何にも苔っていう感じの風体だわ。
苔テッィシュな感じ?
じゃあ、その場所も今はもさもさに苔生した感じになっているわけだな。
「よし。
じゃあ、お前ら。
俳句で勝負な」
「俳句?」
「ふふん。
あんたらなんかには理解出来ない高尚なものよ」
フローラ、お前だってよく理解出来ていないだろう。
「トーヤ、説明してやってくれ。
こいつらの頭で理解出来るくらいにレベルを落として」
「はーい」
「こらおっさん、そいつはどういう意味だ」
目を吊り上げた苔娘がこっちを睨んでいる。
こいつも口が悪いな。
やっぱり大型ゴミバケツとガムテープの出番だろうか?
「そうですよ~。
さっきから、ちゃんと聞いていたんですからね~」
フローラよ、聞いていたら出来るっていうものでもないんだが。
そしてトーヤ先生のありがたい俳句教室を簡易に開催した。
それから勝負に入る。
「まずは、このあたしからだあ~。
春雨に 歓喜の涙 ドライアド」
あれ、一応出来ているな。
こいつは意外だ。
代筆はトーヤね。
「ふん! じゃあ今度はあたいらね~。
苔むして ふさふさふさふさと 苔精霊」
こっちは全然才能が無さそうだ。
というか、そもそもトーヤの説明が完全に頭から抜けているな。
「はい。
苔軍団の負けー。
もう、さっさと帰れ」
「えー、やだー。
せっかく、こんなに楽しそうなのに」
「お前ら、結局遊びに来ただけなんじゃねえか!」
さては魔力と御菓子が欲しいんだな。
「じゃあ、魔力や菓子は食わせてやるから、それ食ったら帰れ」
魔力をブワンと振りまいてやったら、苔の精霊どもが可愛い女の子の姿になった。
当然のように髪の色は苔色だ。
可愛いんだけど、ちょっと見栄えというか色合いが悪いな。
せめて明るいグリーンだったら良かったのだが、まあ苔ってそんなもんだよな。
桜の下あたりが、かなり苔生してしまっていて桜達が文句を言っていた。
だが意外と掲示板の住人達には苔精霊どもが受けていた。
911:花見を愛する名無し
いや、中々いいんじゃね。
ピンクのサクラちゃん達も可愛いけど。
912:花見酒を愛する名無し
あの残念ぶりが堪らんよな。
今、こっちも家族で花見中だ。
913:花見酒も仕事のうちな名無し
うちの部長は苔精霊派だな。
孫の嫁に欲しいと言っている。
孫は五歳だけど。
914:花見に似合う服を愛する名無し
やっぱり着せるのは、それぞれ髪の色に合わせた服がいいのかしらね。
新しい精霊が来たので子供達が群がっている。
こいつらから見れば、精霊なんていうものは所詮只の御友達なのだ。
最近はエルミアの子達も、だいぶ毒されつつある。
そして、うっかりと酒を入れたフローラと苔少女の大将が、本体のサクラと苔でバトルをはじめた。
俺はシールドを張って、被害を防ぐようにしておいた。
苔が勢いよく這い上がって木を締め付けている。
フローラが悲鳴を上げて花弁がわさわさと散る。
結局これか。
フローラの奴も、残念ながらバトル勝負は俳句のようにはいかなかったようだ。
ええい、この酔っ払いどもが。
精霊が酒に弱いとは思わなかった。
植物系だからよく吸い上げちまうのかな?
そろそろ子供達がまた轟沈しそうなんで、エルミアの子達もゲートで送っていった。
満腹そうなエリーンがポンポンと子供達を追い立てていく。
うちも欠伸連発のケモミミチビ達を、ゲートで直接ケモミミ園へ戻していった。
さて、これからは大人の時間だ。
エルフさんの一杯飲み屋の小料理屋台が軒を並べていく。
本日は全て俺の奢りなのでドワーフ達も雁首を並べていた。
その中でも親方とギルマス・アーモンの珍しいツーショットが見られた。
ギルドで購入したい武器の話とかをしているようだ。
ギルマスが俺の関係者どっぷりであるのもあって、親方も普通に仕事の話を聞いてくれている(普通は有り得ないような奇跡)。
おっさん同士が一杯飲み屋の屋台でというのが、またなんとも言えない良い味を出しているな。
エリも家族を送ってから戻ってきて、ちょっとしたオツマミや御菓子なんかの店を始めた。
せかっく開いてくれている大師様の店なので、王族貴族が結構寄っていく。
御付きの人も来ているし、騎士さんも家族持ちは御土産に買いたいようだ。
最近はエリも弟子達の指導に回っている事が多いため、御店でエリ本人の作る御菓子には、なかなかありつけないのだ。
しかもエリ自身もまだ子供なので、本日もそこそこの時間には帰ってしまうのがわかっている。
異世界へ来て最初の頃が懐かしくて、俺も少しエリの店を手伝った。
最初は俺がこの子達のために作った屋台から全てが始まったのだ。
やがてエリも帰り、エルフさんの店も御開きになったので、俺は花見会場の照明を絞った。
「お客さん、もう看板だから帰ってくれ」
俺は苔どもに、そう宣告した。
「えーっ。
こんなに楽しいのに帰りたくないです~。
だって、あそこって苔しかないんだもの」
いや、それは当たり前だと思うのだが……。
そこの場所って、お前らがフローラ達から奪い取って、強引に占領して苔だらけにしているんだよね!?
「じゃあ、しょうがない。
でも居つくのなら、ここじゃなくてあっちだ。
新設小学校の校庭が、いきなり苔だらけになったら困る」
俺が通っていた古い小学校は結構苔なんかも生えていたような気がするのだが、新設の小学校が開校早々苔生していたのではな。
俺はそう言ってゲートを通して、ケモミミ園前の御寺を指し示した。
御寺ならば、むしろ苔で値打ちが出て趣きも出るだろう。
京都には敢えて苔を売り物にする御寺もあるくらいだ。
そこなんか、予約を取らないと入れないくらいの凄い繁盛ぶりなのだ。
完全に一種のテーマパークと化している。
苔どもは喜び勇んで、銘銘が好き勝手に苔を生やしだした。
あっというまに苔だらけになったが、ああ見えて苔精霊もいろんな種類があるので結構風情が出た気がする。
さっき連中を観察していたら種類が色々あったので、御寺で使えそうかなと思っていたのでこちらへ連れてきたのだ。
有名な寺だと二十種類以上もの苔が生えているようだ。
ここは無銘寺だったので通称ケモミミ寺と呼んでいたのだが、この度に目出度く「異世界苔生し寺」と命名された。




