150-53 来たる空中庭園Ⅱ
そうこうするうちに、うちの下の子が生まれた。
これまた可愛らしいネコミミの女の子で名前はレーナだ。
言わずもがな、漢字では相川麗奈と書く。
俺はその可愛らし過ぎる子宝達に、もう有頂天だった。
こんな事は日本にいたら妄想の中以外には絶対にないのだから。
俺は商売なんか半ば他人任せにして、可愛い子供達の世話に夢中だった。
もう屋敷に引き籠りになった時点で既に人任せにしていたからなあ。
隣国の新生アル・グランド王国も順調に復興しているらしい。
あそこが復興していく過程で、すぐ傍に国境線を接するこの街も大変潤っており、うちのハンバーガー屋は近隣二都市にも支店を進出させ、本店と合わせて合計六店も出していた。
当然、あの厄介な「ゲルスの壁」は除去されている。
壁を壊すのに俺の必殺スキルの出番はなかったな。
さすがはモブ稀人の俺だけの事はあるわ。
そして、何故かまた急にアルフォンス商会の品揃えが凄まじくなっていて、御菓子も食品も完全に選び放題だった。
何故か賞味期限も新しくなっているようだったし。
それには俺もフィーも狂喜していた。
だが、ある日御領主様が血相を変えて俺のところへやってきた。
「ダイゴよ。
あれは一体何か。
何故か、お前の名を呼んでおるぞ」
「はあ?」
俺は子供の世話に夢中になっていて、そんな事があったなんて気が付かなかったな。
ここって壁が分厚いし。
そして屋敷の外へ出て行った俺が見たものは。
「なんじゃあ、あれは」
もうなんと言ったらいいのだろう。
なんだかゲームの世界に出てくるような、空中に浮かんだ都市のような、そんな巨大な物が浮かんでいた。
その昔、アルバトロス王国には稀人国王が作った『空中庭園』なるものがあったそうだが、これは多分違うよな。
あれは何かの騒動に巻き込まれて、かなり前に粉々になってしまったというし。
話に聞いた限りでは、あれはなんというか、いわゆるラピュタのような天然の形状に近いような浮遊島だったらしいが、こいつは純百パーセント人工物というか未来的かつ前衛的なデザインだ。
これはもう確実にコンピューターによるデザインだろう。
「馬鹿な、何故このような物がこの世界にあるんだ」
「ダイゴよ、あれが何なのかわかるのか?」
「よくはわかりませんが、これを作った阿呆な人物なら十分に思い当たります。
しかし、なんというでかさだ。
とても人工物とは思えないサイズだ。
いくら稀人だからって少しは常識を弁えろよ。
これって幅二キロメートルはあるんじゃないのか?
こんな物でどこに着陸するつもりだ。
それに、どんな動力を使っているんだよ。
まるで宇宙人の巨大な母船タイプUFOじゃないか」
「UFO……?」
ああ、異世界人で御歳も召した我が友の常識では、色々と理解出来ないのだろうな。
そして、そいつは確かに俺の名を呼んでいるようだ。
「あーあー、テステス。
本日は晴天なり〔強烈なハウリング〕 ぐわあーっ」
「うわっ、それはやめろって」
俺も子爵も両手で耳を抑えた。
しかし、見事に日本語放送でハウリングしていたな。
こんな事は中学校の体育大会以来かなあ。
「馬鹿馬鹿、何をやってるんだよ、斎藤ちゃん。
俺、それが大の苦手なんだからな。
あー、大変失礼いたしました。
えー、御呼び出し申し上げます。御呼び出し申し上げます。
日本人の相川醍醐君、いらっしゃいましたなら大至急この空中庭園までおいでください。
繰り返し、お呼び出し申し上げます。
日本人の相川醍醐君、いらっしゃいましたなら大至急この空中庭園までおいでください。
大通りにて転送用のエレベーターゲートを展開しております」
見ていたら、まるでUFOっぽい感じに光を地上に当てているが、あれはきっと場所を示すための演出なのだろう。
まるで宇宙人による誘拐気分が味わえそうなアトラクションだな。
「どうするのじゃ、ダイゴよ」
「ああ、ちょっと行ってきましょう」
「大丈夫なのかのう」
ああ、御領主様には日本語がわからないから、何を言っていたのかわからないのだろう。
「ええ、何の用か知りませんが危害を加えられる事はないでしょう。
どうせ、例のアルバトロスの勇者の仕業に決まっていますので」
だが後ろに心配そうな気配を感じて振り向いたら、そこには不安そうに見ている最愛の奥さんがいた。
「ダイゴさん、行ってしまうの?」
「あー、別に心配するような事はないと思うよ。
ただ、一体俺に何の用なのか。
それに何故俺の名前を知っているんだ。
それだけが気になるなあ」
「本当に大丈夫?」
「はは、大丈夫大丈夫」
別に宇宙人に誘拐されて解剖されるわけじゃないのだから。
だが、うちのまだ小さな娘さんは、あの空中に浮かんでいるでかい奴が大変気になるようで、素早く俺の方に駆け寄るとズボンの端をしっかりと捉まえて叫んだ。
「ミーナも一緒に行く!」
「行くの?」
「絶対に行く~!」
まあ、御子様から見たら遊園地みたいに面白そうな物にしか見えないわね。
少なくとも俺の目には『空中戦艦』なんかには見えない。
ありゃあ、どう見たって空飛ぶテーマパークだわ。
しかし何のテーマなんだろうな。
もしかしてSF都市かな?
あるいは最近のアニメなんかが元ネタ?
「だそうだから、みんなで行く?
たぶん家族で当選だと思うし」
「え、大丈夫なのかしら」
「ああ、それに上には多分テーマパーク飯の代表格たるハンバーガー屋さんとかもあるんじゃないかなあ。
見学してみようよ。
たまには他所の店の物も食べてみないと」
テーマパークならハンバーガーは定番メニューだよな。
値段は高そうだけど。
最近は上の娘さんも大きくなったので、ハンバーガーをパクパクと食べるようになった。
獣人の子はそういう子が多いらしい。
うちの店でも、御子様セットを絶賛販売中なのだ。
ちゃんとオマケの玩具付きなんだぜ。
そういや、この子は俺に似て『高い所』が好きなんだった。
俺もこんな素敵な代物には是非乗ってみたいね!
きっと上から見たら凄い絶景なんだろうな。
レーナも、あうあう言いながら一生懸命に手を伸ばしている。
もし口が利けたなら、「あたしも行くー」と叫びまくっているかもしれん。
ああ、可愛い俺の娘達よ。
姿形は奥さん似でも、遺伝子レベルで俺との絆を感じるね~。
「ようし、せっかくのテーマパーク無料御招待なんだ。
一家で遊びに行くぞー」




