150-19 永遠のF
俺は定員外のメンバーなので、また帰りは一人で帰っていかないといけないから、子爵家の馬車で彼らの馬車の後ろをついていく。
彼らは自分達のチームのシンボルマークを付けた専用馬車で行くのだ。
通常ならば馬車に紋章を付けてよいのは貴族・王族だけであって、民間では商会だけだというが、功績のある冒険者の場合はギルドが王国に申請して許可をもらう事もできる。
彼らはそういう秀でた者達だから今回の任務にも呼ばれて駆り出されたのだ。
そして、ついでにおまけの御守りまで任されたのだった。
すいませんねえ、本当に。
本来なら俺なんかの面倒を見させられているほど雑魚で暇な人達じゃあないんだが。
いつの日か、入り口だけなら大量のスクロールと共に一人でゴブリン一匹を狩ってこれる冒険者に成長しよう。
まあそれだと『永遠のF』ではあるのだが。
それだって十分過ぎてゲップが出るわ。
俺は只の日本のモブ大学生なんだからな。
何が悲しくて異世界で冒険者なんかになってダンジョンへ潜らなくっちゃいけないのか。
ああ、あの楽しい合コンや大学祭が懐かしいぜ。
ゼミやサークルの悪友達は、今頃どうしているものか。
それにミヤちゃん達も。
みんな、俺がいなくなって少しは寂しがってくれたかなあ。
ま、いない奴の事なんかすぐに忘れられちゃうんだろうけどね。
街道は石畳なので乗り心地は良くないはずなのだが、この馬車は金がかかっているだけあって凄く乗り心地がいい。
一種の魔法馬車なのか。
クランツの話だと、ここのダンジョンも元はフリードリッヒ子爵家だけが管理していたが、他の冒険者上がりの領主も街を作った。
それらはフリードリッヒ子爵家の傘下に入るような形でダンジョンに参入しているため、そっちからの上りもクランツさんの家に入ってくるのだ。
だから羽振りはいいのだと。
そして今回のように何事かあれば、他の二つの街からも騎士団が馳せ参じるのだそうだ。
その前段階の調査のために今からチーム・ベルモントが行くのだ。
「ねえ、御者さん」
「なんでしょう、ダイゴさん」
「今回みたいな事って、そうそうあるのです?」
「まあ、そう頻繁にある事ではないですが、昔はダンジョンが異常活性化してドラゴンが発生してしまった事もあります。
ドラゴンはSランククラスの怪物ですな。
本来ならば、ここのAクラスダンジョンなんかに湧く事などありません」
うおおおお、Sランクのドラゴンなんて想像もつかねえ~。
こっちはFランクのゴブリン相手にビビっているんだが。
「そ、それで、その怪物は?」
「時のフリードリッヒ子爵その方が、自らソロで首を御取りになられました。
屋敷の正面から入った場所にある、両側に分かれた階段の上にある通路の真ん中に、大きな白髪の男性の肖像画が飾られているでしょう。
あれが英雄『蒼のプルマン』と呼ばれた御方、ドラゴンスレイヤーである当時の御当主様の肖像画でございます」
うおっ、あの怖そうな爺さんの肖像画かよ。
大怪獣のようなドラゴンをたった一人で退治したのだと!?
とんでもねえな、この異世界。
その子孫の内の一人が、あの凄みのあるクランツさんという冒険者ギルドのギルマスなのか。
適材適所過ぎて怖いわ。
「おっかねえ~」
「はは、大丈夫でございますよ。
入り口は殆ど魔物も出ませぬから。
何かあったら遠慮なく御手持ちのポーションを御使いください。
外に出れば回復魔法士もおりますれば」
「それを聞いて安心したよ。
いいな、回復魔法士」
「ダイゴ様は攻撃魔法が駄目だったのですよね。
回復魔法は御試しに?」
「ああいや、まだなんだけど」
「もしかすると、ヒールくらいなら御使いになれるかも。
よく魔法適性の無い方でも、そういうケースが多くて。
回復魔法のスクロールで練習なさるとよいかもしれませんね。
もし回復魔法を覚えられなくても、最悪は書き方を覚えた回復魔法のスクロールを御使いになればよろしいかと」
「そうかあ。
ありがとう、御者さん」
他にもダンジョンの中で迷った時にどうするかとか、魔物の動きなどについても講義してくれた。
ありがたく拝聴していたのだが途中で気が付いた。
この御者さん、やけにそういう話に詳しいのだ。
「あれ、もしかして御者さんは」
「はい、元冒険者ですよ。
貴族家の馬車の御者ともなれば、それくらいでないとね。
護衛を兼ねる事もありますし」
少なくとも、あの子爵家の人間に護衛が必要なシーンなど俺の稚拙な脳味噌では想像できない。
子供でさえ、あれだけ魔法を使うんだもんな。
ギルマスに至っては馬車すら使ってないし。
「はあ~、やっぱり半端ねえなあ」
「ははは、ダイゴさんも頑張りなさいな。
稀人なんだから、きっと素晴らしいスキルを御持ちなのでしょう」
「いやあ、それはどうなんでしょうねー、あはは」
とりあえず笑って誤魔化しておいた。
そんなもんねえし。
だって俺はモブなんだもんなあ。
このダンジョン界隈は荒れ地だな。
なんというか、アメリカの西部劇ウエスタン映画の舞台のような光景が続く。
岩石とそれがやや風化した感じの不毛の大地と、地を這うような植生をした乾いた感じの低層植物に灌木などで構成された景色が緩やかに流れていく。
その荒れ地の中を一応は道として比較的平らに整備された非舗装の街道が緩やかに縫っている。
もちろん西部劇で馬を飛ばしていくような道だ。
時にはそれがデザートという感じの、完全な一種の砂漠地形である荒れ地に変わる事もあった。
「ははは、殺風景な場所でしょう?
ここはかつてフリードリッヒ家の初代が開拓した場所なのです。
そしてダンジョンを発見して、その周辺に領地を築いたのです。
それはまだ、今のように国境線が比較的厳密に引かれてはいない時分ですので、それでここが国境線になったようなもので。
まだその頃は、御隣のゲルス共和国もアル・グランド王国と呼ばれておりました。
古き伝統を持ち、穏やかで良く発展していた大変いい国だったのですがねえ。
ある日突然クーデターによって滅んでしまいました。
あれを間近で見ていますので、フリードリッヒ家も彼らゲルスには油断しないようにしているのですよ」
クーデター!
こわ、異世界超こわ。
まあ地球だってそういう事はしょっちゅうあるわけなのだが、こんな身近なところでそういう話を聞くと、平和ボケした日本の大学生にとっては、あまりにも刺激が有り過ぎて怖すぎるわ。
「あれも今からほんの二十年と少し前の出来事に過ぎないのですよ。
そして国境線には長い塀が敷かれ、それはゲルス共和国国民に取り絶望の壁と呼ばれるものになったのです」
うわあ、俺が生まれる僅か数年前に、ここのすぐ向こうにある異世界の国でそのような事があったのかあ。
かつて地球にもあったベルリンの壁と同じような物が、あのフリードリッヒの街から歩いてでもいけそうな場所に延々と並んでいるというのか。
俺は思わぬ話に、遠い故郷の星へと、望郷とはまた異なる想いを馳せたのだった。




