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149-12 進路変更

「いやあ、よしとけばよかったわあ」


 そう言ってベッドの上で寝込んでいる、うちの第一夫人がいた。


「あはは、無理をするからだよ。

 最初から俺向きのイベントだって言われていたじゃないか」


 俺は笑って彼女の額のタオルを替えてやった。

 もちろんヒールはかけられているのだが、なんというかリジェネを使ったような感じになっている。


 人間、無理するのは体によくないのだ。

 俺はありがたくない事に、その事を地球時代から身をもって知っている人間なのさ。


「いや、だって見ていたら楽しそうなものだったから、つい」

「シルママ、だいじょうぶー?」


 あれだけ走り回っていたのに、まったくケロっとしているレミがベッドによじ登る。

 さすが、この子も獣人だけの事はあるよなあ。

 最近はすぐに電池が切れてしまうような事も無く、この程度の事ではビクともしていない。


「うん、大丈夫よー。

 ありがとうね」


「おチャ、いっぱいとれた!」


 そう言って採れたてのモッテングラー茶の葉が入った袋を差し出したレミ。

 これって人族には微妙な香りなんだよね。

 やっぱり名物に美味い物なしっていう奴なのか。


「う、またモッテングラー茶狩りの事を思い出しちゃったわ」


「大丈夫ですか、シルさん。

 やはり人族の女性にはきつかったかもしれませんね」


 そう声をかけつつも笑顔に溢れる第二夫人。

 第一夫人と第二夫人で、イベント後は天国と地獄を分けたようだった。


 まあ、冒険者が死ぬほど嫌がるような代物なんだからなあ。

 楽しい催しには違いなかったのだが。

 有り余るほどの体力さえあれば。


「まあ、ゆっくり休んでいなよ。

 これから空中庭園はしばらく内覧会遊覧飛行に行くから」


「どこまで行くの?」


「ほんの惑星アスベータ一周コースさ。

 まあ、のんびり行くぜ」


「あ、そう」


 彼女は笑って布団を直しながら目を閉じた。

 まあ重力場飛行しているので一切揺れないから、こんな時にはありがたいな。


 ジェット戦闘機だって平時は亜音速でしか飛ばない。

 ソニックブームの影響が大変だからな。

 魔法による加速や飛行は何故かソニックブームを引き起こさないのだが。


 日本上空をピカピカ光りながら飛行する、おそらくは米軍機と思われる通称名UFOだって大気圏内では亜音速でしか飛んでいない。

 この空中庭園だって、そういうマナーは守るさ。

 別に急ぐ旅でもないのだから。


 というか、のんびりと行く御披露目飛行なんだから一瞬で世界一周してどうする。

 亜音速でも、この緯度ならば惑星一周したって精々三万キロくらいだから三十時間くらいで一周してこれるのではないか。


 だが魔法やスキル関連で速度ブーストをどれほど豪快にかけても、ソニックブームなんて出た試しがないのだ。

 相変わらず出鱈目な世界だ。

 魔法効果による物理現象なら、普通なら物理的な効果は発生するように思うのだが、魔法の効果で打ち消されているのか⁇


 でも、こういう時にママが二人いると楽だよな。

 シルは寝込んでいるが、レミは産みの母親と一緒に、遠くに見える地上を観察できる展望室へと向かっていった。


 陸地を飛ぶと騒ぎになるので海上を飛び、陸地は遠目に見るだけの予定なのだ。

 俺はこっちの寝込み妻の付き添い係だ。


 そして俺は、エレーミア区画のシル用に割り当てられた部屋で魔法スクリーンに映し出された映像を見ながら、奥さんに付き添うのであった。


「しかし、よかったなあ。

 たいした事がなくてさ。

 まったくロイスの野郎め、脅かしやがって」


「あはは、十分警告に値する内容だったわよー。

 少なくとも私にとってはね!」


「ま、そいつは違いないな」


 そしてシルに付き添いながら椅子の上でうとうとし、俺は『夢』を見ていた。

 これは何の夢だろうか。

 そこは日本だと思われるのだが、俺が見た事のない景色だ。


 なんとなくわかる。

 これは、只の夢ではない。


 この光景は大学か何かの構内なのか。

 何かの予兆?

 いや、そういうものではない。

 しかし何か、何かの啓示であるものか。


 そして続けて、千里眼で視るようなイメージを見ていた。

 こいつはなんと、あの俺が日本から消えた時の、まるで巨人がアイスクリームサーバーで掬ったような、次元の裂け目が作る『転移痕跡』のイメージだ。


 そしてピシャーンっと目から火花が散って何かに叩き起こされた。

 こいつは魔法で攻撃を受けたとか、そういう物ではない。

 体の中から起きた現象だ。


『イコマが何かを伝えたがっている』のだ。

 これって電撃を食って感電したみたいにやられるのだ。

 若い頃に風呂場の中で寛いでいたら、いきなりこれをやられて沈没した懐かしい思い出がある。

 しかも、まったくたいした事のない内容の要件でなあ。


「うお、なんだい。

 いきなりまた」


 そして、いつものような白抜きの文字メッセージが、鍵括弧付きで頭の中を駆け抜けた。


『エルトミア。ダイゴ、アイカワ』


 エルトミア?

 ダイゴだと。


 ダイゴ、大悟? 醍醐?

 うん、珍しい名だがサイキックな感触からみて、おそらく醍醐の方みたいだな。

 感覚でわかる。

 相川が苗字っぽいから名前が醍醐か?


 もしかして日本人の名前なのか。

 まさか!


 だが例の政府が公開している特殊失踪者リストを検索して、リストを見てみたら相川醍醐という名前が載っていた。

 大学生とあるから、生きていれば今でも二十代前半といったところか。

 あれまあ。

 とはいうものの、エルトミアはロス大陸九国家の中では一番俺と疎遠な国だから情報も上がってきにくい。


 俺は少し考え込んだが、即決で決めた。

 本来は、こんなものでいきなり他国・他大陸へ行くと騒動になるため、今日は行く予定などなかったのだが。

 まあ、この大陸の中ならなんとでもなる。


 俺は魔法伝声システムで放送した。


「エレーミアパレス乗船の皆に通達。

 本空中庭園は予定を変更してエルトミア王国へ向かう。

 繰り返す。

 本空中庭園は予定を変更してエルトミア王国へ向かう。

 以上」


 さて、イコマ先生が行けと言うのなら、俺としては行くしかないわけなのだが。

 はたしてダイゴとやらは、本当にちゃんとそこにいるんだろうか。

 その一点だけが気になる。

 だが俺は首を傾げながらも行くと決めた。


 何故だか知らないが、今更そんな事を感じ取るのかあ。

 日本人がいるとしたら、たぶん俺達と同じ時分にやってきたんだろうに。

 相変わらず、俺の能力は訳がわからない。

 だが、きっと行かなければならないのだろう。


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