145-3 強者の国
そして、なんとか陸地まで送り届けてもらえる話になったセニア。
もちろん、海の五月人形御得意の水中翼船モードでだ。
「うわあ、速い。
これはいくらなんでも速過ぎるわ~。
ひーえー」
いくら素手で魔物すら倒すハイド人の少女とはいえ、時速百キロ超えの猛スピードで進む五月人形の上に留まっているのは容易ではない。
「元々人間が乗るようには出来ていない」のだ。
園長先生が子供達の御伴をするようにと渡しておいただけなので、特に乗物用途には作ってはいないのだから。
こいつは例によって全長二十メートルほどあるので、歩行モードならおチビなどは手の平の上にでも載せておけばいいという感じだ。
この三人組以外の普通の人間が乗客となる事は、設計上特に想定されていないのであった。
頭の上のシートは幼児用の分しか用意されていない。
「ねー、これすっごくいいでしょう?」
「このスピードが最高よねー」
なんというか、静かに進む遊泳モードとは違って『迫力を出す』ための荒っぽいスピード命のモードなのだ。
「そ、そうなのかしら⁇」
そう言いつつ、振り落とされないように兜の後ろ頭に掴まるセニアであった。
侍装束のスーパーロボなので、幸いにしてボートは括り付けておく場所が豊富にあった。
一応、この異世界に存在する少女なる者の名誉のために言っておくならば、普通の少女にはこのような芸当はまず出来ない。
大概はスタートするや否や一瞬にして吹き飛んでいってしまい、慌てて拾いに戻られるのがオチなのだった。
あのフィアだのなんだのの、小学生相応の冒険者少女達なら御茶を啜りながらでもこなすのだろうが。
いや、あのフィアの場合は能力は別として粗忽さのせいで飛んでいきそうだ。
この少女も、やはり只者ではないようだ。
そして到着した目的地のハイド漁師町の港というか、小舟を着ける浜にて。
「いやあ、一時はどうなるかと思いました~。
メリド殿下、本当にありがとうございます」
「ばぶう!」
そして彼女はひょいと『舟を担いで』五月人形の背から飛び降りた。
しかし、いくら小舟とはいえ、十二歳の少女が頭の上に担ぐのはちょっと無理じゃないかというサイズと重量なのだが。
だが子供達はそのパフォーマンス(本人にそのつもりは微塵もない)に大喜びだった。
三人は可愛く手を振って彼女を御見送りするのだった。
もちろん、その間は周りの漁師さん達が海の五月人形をガン見しているのは御愛嬌だ。
中にはそれを見て「こいつと戦ったら勝てるだろうか」と思案している戯け者もいたのだが、相手は苟も『王太子さまの海御座船』なのである。
いかにハイドの漁師が強かろうが、さすがにこれには敵うまい。
魔王謹製の逸品なのであるからして指一本で抑え込まれるのがオチである。
そしてメリドを送るために王宮へ向かう三人組だったが、そこには両手を腰に当てて待ち構えていたアレーデがいた。
「もう、あなた達。
朝までには帰っていなくちゃ駄目でしょう」
叱ってもどうにもならないので最近は、夜遊び禁止ではなくそのように方針を変更したようだ。
父親であるハイド国王公認なのだから、そのあたりはどうしようもないのだ。
「ばぶう」
「あ、こりゃしまったね!」といった感じで、思わず空中で可愛く踊るメリド。
別に御付きの侍女を怒らせたいわけではないのだ。
単に御遊びが止まらないだけで。
「まあまあ、アレーデ。
今日は海の上で漂流者を見つけたので、彼女を送っていて遅くなったんだから大目に見てよ」
「ハイド人の女の子だったよ。
それがもう凄いのなんの!」
「まあ、それならしょうがないですがね。
一体何が凄かったものやら」
彼女もハイド人のあれこれには、この国にやってきて驚かされたものだが、今ではもうすっかり慣れきってしまった。
なにせ、あの魔王園長のいる国からやってきたのだから。
ハイド人に対して今更そう驚くものではないのだが、この連中が凄いと言っていたのは少し気になるのだ!
そして王宮内を堂々とのし歩く巨大な五月人形。
まるで日本のアニメに登場するスーパーロボットのように巨大な物が中を歩けてしまう家というのも凄い代物なのだが。
この王宮は開放的というか明るくというか、とにかく外交通商に対しては広く門戸を開けており、そのイメージのために王宮も天井を高くしているので、そのようになっている。
アルバトロスの王宮ゾーンのように、だだっ広くはしていないのだが。
あれは地球のイメージであれこれが作られているので、この世界の物とはまた異なる異質な存在なのだ。
もちろん、それらは巨大な五月人形を歩かせるためにあるのではないのだが。
うっかりと子供が頭を天井に打ち付けてしまうといけないので、子供達の座席は手の平の上へ移行している。
まあ仮に五月人形が頭を打ち付けたところで、上に乗っているこの魔道鎧使いのスーパー乳幼児の子供達が死んでしまうわけではないのだが、そこは気配りという事で。
「おや、お帰り。
今日は遅かったな」
「うん、今日はハイド人の漂流者を人命救助してきたよ」
シドの問いに対して、喋れないメリドの代わりにレオンが返す。
「ほお、それは御苦労だったな。
海の五月人形、お前も」
そう言ってシドも、半乾きの海藻をたくさん張り付けた五月人形具足の臑当をポンポンと叩いて労った。
主の父親たる国王直々に褒められて、五月人形の瞳が喜びに震えるかのように明滅する。
顔は怖い骸骨面のままなのだが。




