20__涙の温度
大変ご無沙汰しておりました。
今回は、リクの視点から始まって ロキの視点に切り替わります。
推敲なしでの投稿になりますので、いつもより誤字脱字・重複表現があると思います。
追々 直しますので、見付けたら そっと教えてください。
では、どうぞ。
___視点:魔王の側近 - リク___
魔王城へ戻った私は、諜報部隊のミゥを訪ねていた。
早速、東の魔国の傍に在った小さな邨の事を談した。
「頼めますか?」
私は、例の邨についての調査を ミゥに任せたいと告げた。
ミゥは、諜報部隊のNo.2で 今は諜報部-筆頭として働いている。
諜報部隊は、現在 隊長不在だ。
隊長は、数10年前から失踪している。
故•魔王様と魔王妃様が謀殺された日、逸早く その犯人達を割り出した彼女は、単身 犯人達を追った。
そして、そのまま 姿を消した。
失踪した理由は判らないが、吾々に対する裏切りがあったのではない。
その証拠に、彼女は 追っていた標的を全滅させている。
当初 追っていた仇は数人だったが、樹海の外に仲間が潜伏していたらしい。
戦闘があった場所には、数100人もの人間の死体があった。
同時に、彼女が極大魔法を放った跡が 幾つも残っていた。
実際の敵の数は、もっといたのだろう。
憶測でしかないのは、誰も見ていないからだ。
彼女が 単独で標的達を追っていたのは知っていたが、誰も同行しなかったし 追走しなかった。
彼女……ユユの能力は 周囲を巻き込むモノだ。
それも 狭小の範囲ではない。
激昂していた状態なら、範囲は 数キロにも及ぶ。
下手に傍にいれば、却って邪魔となってしまう。
事実、あの時の戦闘の痕跡は 凄まじいモノだった。
長さ-2キロ・幅-400メートルもの広大な大地が 消失していたのだ。
底が見えない巨大な谿が、戦闘のあった場所に残されている。
それも 1っではない。 同等の谿が 3っも 大地に剞まれていた。
〔断ち切る者〕、それが 希少魔族であるユユが保持する能力だ。
あれを使用されたら、私でも禦ぎようはない。
人間の倆者など 何人集まった攸で、敵う筈もない。
それに、当時は ロキ様の側付きになっていたとは云え、ユユは 諜報部隊にいるのが不思議になる程、勍い。
そんな彼女が 激昂して標的を追ったのだ。
すぐに 片を付けて戻って来ると、誰もが惟っていた。
実際には、ユユの消息は 其処で途絶えた訳だが。
《 ユユが消えてしまい、そのせいで ロロが捜し廻っていて……。》
ロロは、諜報部隊の 筆頭諜報員なのだが、かなり身勝手な性格をしている。
実質的には No.2の実力があるにも抅らず、好きな事や 興味のある事しかやらない性格なのだ。
おまけに、ユユの言う事しか聆かないから 質が悪い。
迷惑千万な奴だが、戦闘に於いても 諜報に於いても優秀だった。
しかし、ユユがいなくなってからは 誰も制御出来ない状態になっている。
そもそも、今 どこにいるのかすら判らない。
全く、勝手なものだ。
そんな訳で、正直 完全に部外者であるのだが、私が臨時の隊長となっている。
勿論、諜報部隊のだ。 とても、とても不本意だが!
《 それも これも、ロロのせいですね。》
ミゥは 実力ではロロに劣るものの、立派に副隊長を務めている。
これは、ユユがいる時からなので かなり頼りになる。
「了解しました」
ミゥは 私からの譚を聴くと、小さく頷いて そのまま出掛けていった。
まずは あの邨へ邀ったのだろうが、後の事は任せておけば良い。
ミゥなら、数日で査べあげるだろう。
彼女なら、安心して 綜て任せられる。
因みに、ロロは その性格-故に 昔から平隊員だ。
あれが副隊長でなくて 本当に良かった。
当時のユユの英断には 心の底から感謝を捧げたい。
《 後は、国内の様子ですね。》
ロキ様の魔力の余波に因る影響は尠いだろうが、それ以外の懸念がある。
あの邨が 外部の者に因って焼かれたなら、この国へも その手が伸びないとも限らない。
弱者が進入出来る程 この国は脆くはないが、前•魔王様達の件もある。
油断や慢心があってはならない。
奴等の狙いが 神々の〔愛し子〕であっても、渡す訳にはいかないのだ。
《 ロキ様を、これ以上 哀しませる訳にはいきませんしね。》
私は、あれ程 取り乱して泣かれたロキ様など 見た事がなかった。
ご両親が亡くなった直後であっても、彼処まで動揺なさらなかったのに。
それだけ、ロキ様にとって〔愛し子〕の存在は 大きいのだろう。
つまりは、これまでの20年 お淋しい想いを爲さっていたと云う事なのだろう。
北の塔に 啻-独り……魔族として まだ幼いのだ、淋しくない筈がないのだ。
《 ロキ様………。》
昔のロキ様は、それは 良く笑う方だった。
いつも誰かに囲まれていて、いつも 太陽の様に笑っておられた。
今も 微笑んでいてはくださるが、昔の様ではない。
吾々の希みは、2っだ。
ロキ様に 昔の様な笑顔を取り戻してほしい事。
吾々が お傍で仕えられる様になる事。
希みの数は 言い出したら切りがない程あるが、まずは この2っが叶ってくれると嬉しい。
私だけではなく、この魔王城で働く綜ての者の願いだ。
《〔愛し子〕が、それを叶えてくれるといいのですが。》
惟い皈すのは、数日前の奇蹟だ。
加減のないロキ様の魔力に晒されている状況にも抅らず、私達は ダメージを負わなかった。
短い時間でしかなかったが、それでも ロキ様に觝れる事も叶ったのだ。
あの奇蹟が〔愛し子〕に因るモノならば、譬え 無意識の産物だったとしても、希みを託すに足る。
いつか、で 構わない。
〔愛し子〕が 吾々の切なる願いを叶えてくれるのなら……。
《 ––––––––––––いけませんね、どうも 気が急いでしまって。》
私は、冷静さを取り戻すべく 軽く頭を振った。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
___視点:東の魔王 - ロキ___
リクが、焼け焦げた小さな邨へ出向いている頃。
ロキは、眼を寤ました。
「う…………ん」
睛を開けようとしたが、泣きすぎたせいか、瞼が 上手く動かなかった。
1ミリも敞かない瞼の向うは、どうやら 昼に近い時間らしい。
寝起きには眩しすぎる晃りが、閇じている睛を刺激した。
直視した訳でもないのに、睛の奥が 訒く痛む程だ。
反射的に、ロキは 布団に潜り込もうとした。
しかし、動かそうとした腕は 何かに阻害された。
「う?」
柔らかくて温かくて 心地の良い何かが、腕の中に在るのだ。
緲かに、甘い花の様な馨りもしている。
その事に気付いたロキは、赤く腫れぼったくなった瞼を 勢い良く敞いた。
案の定、眼球の奥が痛んだが 彼は それを気にしていられる状態ではなかった。
「 –––––––––––––––し、ししぃ?」
腕の中にいたのは、あの日 グーロ達に襲われ大怪我をした 小さな幼女だった。
眠る前はいなかった とても大切な存在が、いつの間にか 腕の中に戻っていたのだ。
ロキの喫驚は 深かった。
「シシィ」
称を聘んで、空いていた左手を伸ばす。
右腕を枕に眠っている 黒髪の幼女に觝れて、漸く その存在が幻ではないと確信したのか。
ロキは、びっくり箱の様に撥ね起きた。
勿論、右腕を枕に眠っていたリリィは この勢いに圧されて 布団の上を横に転がった。
横に一回転をしても、幼女の眠りは妨げられなかったらしい。
シシィは、くぅくぅ と可愛い寝息を零している。
つい この間まで、人の気配がしたら眼が寤めていたとは惟えない様子である。
ロキの傍で 安心し切っているのか、単に 疲れ果てているのか。 深い眠りの中にいる。
推測でしかないが、怕らく 前者だろう。
そんなシシィを瞰したロキは、不安と動揺と 若干の脅えを 瞳に宿らせている。
シシィが生きて傍にいる事に感動を覚える暇もなく、恐怖の感情が先にやってきた様だ。
《 まさか、まさか このまま眼寤めないなんて っ⁈ 》
見る限り怪我は痊っている様だが、力なく横衡わっている姿は あの日の光景を思い起こさせる。
致命傷に近い傷を負っていた後遺症が、永劫の昏睡と云う形になってしまったら……そんな考えが ロキの頭に過る。
「っ〜〜〜〜⁉︎ 」
脳裏に蘇ったのは、森の中での惨状だった。
グーロの爪に切り裂かれ、偃伏せに倒れた 小さな軀。
血塗れの服と、明後日の方向を向いた右腕、蹲る形をとったままの細い両脚。
ベッドの上で 3/4回転して偃伏せになった 今のシシィと、その時の光景が重なった。
「ッ‼︎ 」
何とも云えない感覚が拡がった。
次いで、震えが趁り 全身が総毛立つ感覚に支配される。
突き抜けたのは、恐怖だった。
大切な者を喪う恐怖。
独りぼっちになる恐怖。
つまりは、絶望。
それが、ロキを支配し 冷静さを失わせていた。
「ぃ……ぃ ゃ だ…………や だ、っ」
あっと云う間に 蒼碧い瞳は涙ぐみ、声は震えた。
ロキは、耐え切れずに嗚咽を洩らした。
泪の零れ隕ちる蒼碧い瞳は 悲壮に染まり、顔面は 蒼白だ。
軀は 小刻みに震え、指先から冷えてきていた。
「シシィ………起きて」
ぐっすり眠っているだけの小さな幼女の姿が、みるみる滲んでゆく。
「睛、開け て……お ねが い………シ シィ」
喋ろうとすると、歯が 勝手にカチカチと音を発てる。
ロキは、震えている自分に気付いて 余計に恐怖心を煽られた。
まるで、シシィが自分の前から消えてしまう事を 前以て感じ取っている様に惟えたのだ。
「シ、シシィ……… 」
ロキは、眠る幼女の肩に手を伸ばした。
ほぼ偃伏せになっている小さな軀は、幼女のせいもあって 非常に温かい。
だが、今のロキは 恐慌状態にある。
ほんの少し前に 温かいと感じていた小さな軀に觝れても、温度を感じ取れない程だ。
洌い とさえ、感じていた。
「っ や だっ。お きて! 起きて よっ、シシィ。 お願い!」
ロキは、眠るシシィの肩と背に両手を当てて 揺すぶった。
少し乱暴とも惟える速度で 左右に揺するが、熟睡中の幼女は 眼を寤まさない。
全力で爆睡中の様だ。
冷静な状態ならば、穏やかな寝息や 健やかな寝顔から その事を察しただろうが、今のロキは 絶賛 パニック中だ。
シシィを揺する度に、ロキの瞳から ぽろぽろと隕ちてゆく。
「シシィ、シシィっ、シシィ!」
激しく揺す振ると、小さな軀が身動ぎをした。
これだけの扱いを受ければ、流石に眠りも阻まれると云うモノだ。
長い睫の間から、淡い紅藤色の瞳が覘いた。
尤も、まだ ぼんやりとしている様だ。
視点は、すぐ眼先のシーツに向いている。
勿論、混乱状態のロキに これ等を考慮する余裕などない。
「大丈夫っ? 何処か痛いとこ っ⁉︎ 」
不安から質問攻めにしようとしたロキだったが、言葉の途中で 小さな手に強襲された。
べちん。
一気に眼を寤ました幼女の小さな手は、ロキの顔面を無遠慮に敲いていた。
偃伏せになっていた彼女は、撥ね起きると共に 攻撃を繰り出したのだ。
起き上がり ベッドの上に座っている幼女は、仏頂面でロキを睨んでいた。
数日前に死にかけ 何日も危険な状態にあったと云う事を疑いたくなるくらい、元気な対応であった。
一方、ロキは 瞠目していた。
痛くはなかったが、唐突な攻撃に ロキは面啗っている。
蒼白だった顔色も 泣き濡れていた瞳も、今は啻 喫驚していた。
「シ、シシィ?」
敲かれた事で、脳は 停止した。
勿論、一瞬の事だったが これが良かったのだろう。
再起動し始めた ロキの脳は、まず『何をされたのか』を考えようとした。
眼の前の幼女、平手打ち、どうやら怒っている様子、顔面に啗った。
辿々しくも 状況を把握しようとしたロキの脳は、この4点を あれこれと捏ねくり皈す。
そして、漸く 怒っているシシィの平手を顔面に啗ったのだと理解した。
更に、何故 怒っているのかにも 察しが付いたらしい。
同時に、思念の様なモノも送られてきたのだろう。
ロキは、哀しさと切なさと申し訳なさが混在した様な表情をした。
「 ––––––––––––ごめん、ね?」
尽くす言葉がなく、ロキは 呟く様に そう言った。
対するシシィは、未だに怒っているらしい。
仏頂面をし、両の手は 膝の上で握ったり敞いたりを繰り皈している。
爪が パジャマの生地を引っ掻き、その内 肌を傷付けそうな勢いだ。
そんな小さな手を、ロキの両手が優しく包んだ。
「うん…………独りにして、ごめん」
柔らかい手は、震えていた。
《 そうだよね、悚かったよね。俺がいなくなっちゃうかもって、帰って来ないかもって 心配だったんだよね。》
この数日 自分が体験した恐怖、これに似たモノを あの日のシシィも体験したのだと理解した。
故に、他の言葉は惟い付かなかった。
「ごめんね」
どんな詫びの言葉も 声にならず、ロキは シシィの手を優しく撫でた。
強く握られて尚 震えの停まらない小さな手を、強く握り佚ぎて 血の気の引いた手を。
謝罪と 労りと 感謝を込めて、両手で包み込む。
「ごめんね、シシィ」
それ以外の言葉が出てこなかった。
シシィが 懸命に待とうとしていた事は、過去夢で視て 知っている。
自己の危険を顧みず ロキを追って出てしまった経緯も、綜てだ。
それだけに、繕った様な言葉は出てこなかった。
「ごめん」
単調な言葉だが、真摯な想いで 詫び句を紡ぐ。
そんなロキを見て、シシィは 口をへの字にする。
不機嫌-全開の表情は、或る意味 いつも通りだ。
だが、これまでは 直接 ロキへ向ける事のなかった表情でもある。
彼女は、ロキといる時は 上手くいかない事に不満そうにはなっても、不機嫌にはならなかった。
不服そうな顔で、只管 自己努力を繰り皈していただけだった。
そんなシシィが、初めて 直接的に見せた表情だったのだ。
《 夢と同じ顔だ。》
怒られているのに、何故か 嬉しくなってくる。
済まなかったと 心から惟っているのに、もう 頬が緩み出していた。
「シシィ……… 」
扼え切れない喜色が、称を聘ぶ声にも宿っていた。
これに対して、シシィは、拮く結んでいた口許を 僅かに緩めた。
そして、小さく 口を動かす。
桜色の柔らかい唇は 2っの形をとって、そして、すぐに閇じられた。
ほんの短い単語を紡ごうとして、それが叶わなかったのだ。
過去夢で視ていたが、直接 眼の前でされると また違った驚きがあるのか。
ロキは、蒼碧い双眸を これでもかと敞いた。
そんなロキの前で、再び シシィの口が動いた。
音は出なかったが、何が言いたいのかは………誰の名前を聘びたいのかは 伝わった。
一瞬、軀が震えた。
先程の様な 身の毛の弥立つ感覚ではない。
泪が盈れてきたが、哀しくもなければ 悚くもなかった。
《 聘んでくれた。》
勿論、声は出ていない。
生まれ落ちた時から 発声すると云う事をせずにきたシシィにとって『声を出す』事は、歩く事よりも困難だ。
言葉になり切らない 緲かな音すらも零れ出ない。
怕らく、声帯を震わせる感覚が把めないのだろう。
それでも、彼女は 眼の前の魔王の称を聘び続けた。
《 シシィ。》
ロキは、小さな口が 何度も同じ動きを繰り皈すのを、じっと見詰めていた。
身の内からは、言い表せない程の感動が 泉の水の如く湧き出てくる。
胸の奥底に光りが届き、明るく照らされた様だった。
嬉しさに 自然と零れる泪は、満面の笑みを泛かべた ロキの頬を伝ってゆく。
言葉を掛ける事も忘れている状態なのに、溢れる泪は 熱いと感じた。
あんなに泣いていた昨日までは感じなかった事だ、と 頭の何処かで考えた。
「 ––––––––––––––– 」
ロキが 微動だに出来ずにいる間に、シシィの様子は変化していた。
何度も声を出そうとチャレンジして、緲かな音も出せなかったのだ。
シシィの表情は 徐々に不服そうになり、次いで 怒った様に口をへの字にした。
そのまま 不機嫌そうにロキを睨んでいたが、最後には 泣きそうな顔になる。
《 あっ、泣いちゃう! 》
いつしか ぼんやりとしていたロキが はっと吾に還った時には、シシィが腕の中に飛び込んできていた。
それも、かなりの勢いでだ。
突進と云っても良い。
尤も、魔族であり 魔王でもあるロキは、その程度の体当たり びくともしないのだが。
「っ シシィ」
驚きつつも 危なげなく抱き止めたロキは、胸許の黒髪を瞰した。
シシィは 短い手をロキの背へと伸ばし、懸命に抱き付いてくる。
幼女の為 脇までしか届いていないが、離れまいと 懸命にしがみ付いているのだ。
そんな姿を見ていたら、止まりかけていた泪が 勢いを取り戻した。
ぽろぽろ と、熱を帯びた雫が零れ落ちる。
それすらも、嬉しく感じられた。
ぎゅうぎゅう と抱き付いてくる小さな軀を、今度は両腕で しっかりと抱き締める。
「もう しないよ、もう 独りにしないから」
ロキは、自分よりも 一回り小さな軀を、その柔らかさと 温かさを、しっかりと腕の中に収める。
緲かに、甘い花の馨りが鼻腔を擽った。
「ずっと 一緒だよ」
ぐりぐりと 胸許へ頭を押し付けてくる小さな軀は、とても温かかった。
普段より 2000文字以上 長くなりました。
この展開で 途中で切るとかアリエナイ! ロキ 可哀相! だったので。
取り敢えず、やっと再会させる事が出来ました。
漸く ほっと出来しました。




