18__リクの休息と ルトの副官
お久しぶりです。 大変ご無沙汰になってしました。
前半は リクのお話で、後半は ルトのお話になっています。
久々すぎて 何を書いていいのか判らなくなりました(笑)
まぁ、いつも通り 期待しないでね、って事です。
では、どうぞ。
___視点:魔王の側近 - リク___
「っ はぁ……… 」
北の塔の ロキの寝室に駆け込んで、リクは 小さく息を吐き出した。
此処しかない、そう惟って駆け込んだ。
そして、大きな寝台に 捜し人を見付けた。
すよすよと眠るロキの隣に、黒髪の 小さな頭が見えた。
「 ––––––––––––はぁぁぁ……… 」
心底 安堵したのか、リクは 盛大な溜息を吐き出して、脱力した。
大きく敞いた 穴の空いた扉の取手に体重を預ける様に、扉のへりに背を凭せた。
リクの視点の先にある大きなベッドには、彼の主人にして 東の魔国の王。
そして、その隣にいるのは 神々の〔愛し子〕として生を受けたばかりの 小さな人間の女の子だ。
黒い髪に白い肌の種族は、人間・魔族に至るまで探しても いないだろう。
それ程に稀有な色、怕らく この世界に誕生する切っ掛けとなった両親の色彩を継いではいない色。
漆黒は、この幼い魔王には 余りに縁遠い色彩だった。
《 本当に、規格外の人間ですね。》
生死の境から やや死の側に踏み込んだ状態だったのが、42時間前の事だ。
リクと ルネの2人掛かりで治療にあたったが、それでも ここまで恢復するとは驚きだった。
流石は 神々の祝福を与えられた〔愛し子〕と云う攸だろうか。
生後-4ヶ月の人間の赤児が 幼児にまで育った事も合わせて、最早 人間と評して良いのか疑わしくなってくる。
リクは、寝不足で 回転数の減少した頭で そんな事を考える。
普段より格段に訒くなった思考回路は、シシィの無事を確認した事で 完全に緩んだらしい。
リクは、2人のいるベッドに近付いた。
《 良く眠っていますね。》
ベッドの横に廻り込んで、眠る 2人の顔を覗き込む。
ロキも シシィも、穏やかな顔で 熟睡していた。
シシィは、傷は痊っているものの 体力の消耗が激しい。
グーロに襲われ 出来た傷は、どれも浅くはなかった。
そもそも 致命傷に近い怪我だったのだ。
魔法で治癒と云っても、外から仂を加えるだけでは間に合わなかった。
治癒の仂を沃ぎ込みながら、シシィの治癒力を高める魔法も行使した。
そうして 尚、4日間の昏睡を要した怪我だった。
身体的な疲弊は大きく、体力は 極限まで落ちている筈であった。
一方、ロキは、自分を責め続けていた。
シシィを独りにしたが為に 今回の悲劇が巻き起こったのだ、と。
シシィを護る為に自分が出来た事を 懈ったのだ、と。
北の塔で眼が寤めてから、絶えず 己れの行動を責めていた。
そんな精神的ショックから、眠る事も喰べる事も出来ずにいた。
どちらも、今は 眠りを必要としていた。
リクは、2人を このままにしておくべきと判断した。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
___視点:魔王の側近 - リク___
北の塔でロキ様達の様子を見て安堵した私は、魔王城にある自室に戻った。
ロキ様が北の塔を離れ〔愛し子〕が怪我をしてから 4日が経っている。
久しぶりに、ベッドで眠ろうと惟ったのだ。
私は、自室の扉を後手に閉めると ふらふらとした足取りでベッドへ近付いた。
勿論、ロキ様達の お世話を懈るなどしない。
一眠りした後には、再び 北の塔へ赴くつもりだ。
《 ですが、その前に 少しだけ。》
この4日間は 碌に眠れずにいた。
5日前は、その…………大失態をしてしまったせいで、眠れもしなかった。
そのせいか、自分のベッドが懐かしく感じる。
着ていた上着を脱ぎ、ベッド脇の椅子へと放る。
適当に放ったせいか、上着は椅子の背面にも座面にも掛からず 床に隕ちた様だ。
そんな音がした。
《 …………起きてからにしましょう。》
床に隕ちた上着を掛け直す事も 着替えをする事も、今は億劫だ。
私は、上着を脱いだだけの格好で ベッドに倒れ込んだ。
偃伏せる様にしてベッドに身を預けると、途端に深い眠りに湮み込んだ。
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
どれ程の時間が経ったか。
或いは、どれ程の時間も経っていなかったのか。
昏倒する様に眠っていた私には判らない。
だが、泥の様に眠っていた私の意識が、僅かな異変を感知した。
異変と云っても、本当に 緲かなモノだ。
事実、この時点では 一体 何が自分を呼び寤まそうとしているのか、私には判らなかった。
暫しの間、周囲の音に耳を澂ましてみる。
何等 変わった音はしなかった。
或いは、単に 眠りが浅くなっただけかもしれない。
そんな考えが脳の片隅に過り、私は 寝直す事にした。
祥い、眠りが途切れた訳ではない。
疲れもあるし、即座に 泥に戻れるだろう。
そう惟って綯く長く息を吐いた。
同時に、全身が重くなる感覚がした。
宛も、ベッドのマットレスに沈み込んでゆく様な錯覚があった。
あっと云う間に 深い眠りに落ち………………る筈だった。
《 ––––––––––––?》
さっきと同じ感覚がした。
何かが、私を起こそうとしている。
何やら、雑音が入る。
何処かが 非常に騒がしい。
私は疲れ切っていて 深く深く眠り込もうとするのに、その雑音は遠慮もなく私の意識の隙間に入ってくる。
《 –––––––––––––…………。》
それでも、疲弊していた私は眠ろうとした。
一瞬の静寂を縫う様に、意識を手放そうとしていた。
しかし、騒がしさは どんどん近付いて来た。
「 –––––––––––––………… 」
疲れているのに、眠れる場所にいるのに、眠っても良い時間なのに、眠れないのだ。
私の神経は、高速でささくれ立っていた。
何かが起きているのかもしれないのに 尚、眠ろうとした私も大概だとは惟うが。
う る さ い。
苛立ってきている自身に気付き、心の中で冷静になろうとした。
不躾に騒いでいる者の為ではない。
此処で苛立ってしまうと 眼が寤めてしまうからだ。
しかし、不躾な者は 何処までいっても不躾だった。
どかどかと云う趾音が部屋の近くまで来たと惟ったら、凄い勢いでドアが開けられた。
何処の? 勿論、私の部屋の、だ。
「リク!!! 」
大音響で聘ばれた瞬間、私は 魔法を放っていた。
「ごぶあッ⁈ 」
乱暴にドアを開けた 騒々しい輩を、強制的に退出させた。
《 よし。》
辛うじてだが、まだ 意識に微睡みが残っている。
静かになった事だし、これで 落ち着いて眠れる。
そう惟うと同時に、私は 再び深い眠りに堕ちていった。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
___視点:魔王の近衛部隊 隊長 - ルト___
「うん?」
上層階の何処かで、誰かが魔法を放った気配がした。
直後、凄まじい爆音と共に 地響きと訒い揺れが襲ってきた。
この魔王城は、巨大で堅牢に造られてる。
住んでるのが魔族なんだから 当然っちゃ当然なんだが、巨人族が入れるくらい巨きくて 暴れられても壊れない。
人間の街の民家が 2〜3棟 吹っ飛ぶくらいの ちょっとした魔法なら、窓だって割れやしない。
そんな魔王城が揺れるなんて、尋常な魔法じゃないな。
攻撃魔法……而も、手加減してない最大級の攻撃魔法だ。
《 あいつ、一体 何に苛付いてるんだ?》
おれは、食堂の天井に眼線を向けながら、手にしてたパンを千切った。
「な、なん…………っ?」
おれに飲み物を用意してた給仕のメイドが、きょろきょろと辺りを見回してる。
何が起きたのか判らなくて 動揺してるっぽい。
ああ、このメイドは新人なのか。
《 この程度で驚いてちゃ 保たねーよ?》
千切ったパンを口に放り込んで、そんな事を惟う。
「レン様が帰って来ただけの事です。このくらいで気を散らしていては、此処の仕事は務まりませんよ?」
おれの心を代弁した様な発言をしたのは、おれの斜め後ろに控えてる小柄な男だ。
身長は 150センチくらいで、やや丸顔に 丸い睛をしてる。
早い譚が、子供にしか見えない。
而も、すんごい可愛い子供だ。
何て云うの? 母性本能を擽る的な?
下手したら、男からも愛玩対照的な?
名前は ザジ。これでも ちゃんとした成人で、おまけに おれの副官だ。
まぁ、見た目は ガキンチョだけどな。
人間で云えば、12〜13歳の少年って攸か。
外見-詐欺だよなァ。
その外見で 嫁さん誑かしてきたんだろ?
これでも、実は 古参の魔族だってんだから、本当に詐欺だよなァ。
「 ––––––––––––隊長、何か言いました、よね?」
い〜んや、言ってねえ。 口に出しちゃいねーもん。
頭ん中で何を考えようが、そりゃ おれの勝手だ。
「 ………………何だか、午後の仕事を増やしたい気分になってきましたねぇ」
うそっ、ごめんなさい! それだけは勘弁‼︎
啻でさえ、今日は予定が詰まってんだから これ以上は無理だって!
例の お姫さんの世話でリクが動けない分、おれに仕事が回ってきてんだから。
ってか、判ってんだろが! 副官なんだから!
そもそも、おれの予定 お前が組んでんじゃねーかっ!
「あぁ、そう云えば 妻がガラパの店の お菓子が とても美味しかったと喜んでいましたっけ」
何だ、新婚自慢か? コノヤロウ。
おまけに、こいつ おれに銭出せってか?
満面笑顔で 上司に『銭で買収される』気か?
而も、その菓子で 自分の株を上げる気かよ。
最悪だ、本当に 最悪だ、こいつ。
「でも、あの店 混むんですよねぇ。今から往って 2時間くらい陳びますかねぇ」
はあっ⁈ 銭じゃなくて 行列か⁈
いや、まさかの『両方』か⁈
おいおい、おれに 菓子屋の列に陳べってか⁈ 鬼かっ? こいつ!
その前に、おれが隊長で 上司だって自覚ないのかっ?
「あの列に陳ぶくらいなら、溜まりに溜まった書類の精査をしているほうが マシなんですがねぇ。どうしたものでしょうかねぇ?」
鬼畜だ、こいつ………。
おれがデスクワーク嫌いなのを利用して、菓子を買いに往けとか。
書類整理と雑務増加との引き換えに、こいつの嫁さんの………って云うか、こいつの為に菓子を買いに陳ぶ?
堂々と公私混同しやがって。
幼さが前面に出た顔に憂いを乗せてやがるけど、ちっっとも可愛くねーよ!
新人メイドが顔を真っ赤にしてるけど、この鬼畜の腹ん中を見りゃ 即座に青褪めるぞ。
《 大体、おれが陳んで買ったって、お前の手柄になるんじゃ やる気になるかってんだ。》
ガラパの菓子屋は、魔王城から離れた街にある 人気の店だ。
開店から 豪い混みっぷりで有名な店だ。
そんでもって、陳ぶのは 女ばっかりでもある訳で。
《 彼処に陳ぶなら、おれよか お前のほうが似合いだろ。》
旁眼にゃ お子様のお遣いに見えるんだから お誂え向きだろ。
何なら、陳んでる間 お嬢サマ・奥サマ方に可愛がってもらってりゃ いいんじゃね?
んで、口紅に香水の匂いでも付けられて、帰宅早々 夫婦喧嘩でもすりゃいいんだ。
「 ––––––––––––あ、また 仕事を増やしたくなってきました」
なに こいつ、悚いんだけど⁈
詠めんの? 詠んでんのっ? おれの頭ん中 視えてんの⁈
「どうしましょうかねぇ。兵達の訓練と 国境の警備状況の視察と、各-町村の警備状況の視察と……… 」
罷めろ 莫迦!
書類だって山になってんのに、そんなに増やされたら死ぬだろうがっ!
「ああ、そうそう。陛下の お世話も、して頂かないと」
え? 北の塔に往けって?
おれ、障壁 張れねーんだけど? 往くの? おれ-独りで?
大体 ルネの障壁でも防げねーのに、ロキ様の魔力ん中に突撃して死ねって?
4日前のダメージ残ってるから、死ぬよ? マジで。
まだ 内臓ズタボロで、朝食だって オニオンスープにライ麦パンしか喰えないのに。
《 鬼だ、こいつ…………。》
いや、判ってたけど………。
副官の、上司の扱いが悪すぎるって苦情は 誰にすれば改善されるんだ?
誰に掛け合ったら『部下に因る権力濫用と闘う会』が結成出来るんだろーなァ。
《 最早 死ねって言われてる様な気がしてならねー。》
ロキ様は、外見と同じくらい 内面も可愛いのになァ。
何で、おれの副官は こうも可愛くないのかなァ。
《 副官、変えてくれないかなァ。》
オニオンスープを飲みながら、そんな事を考えたのが悪かったのか。
急に 洌い空気が 背後から流れてきた。
罷めろ、あったかいスープが 一気に冷める!
「隊長、謝罪なら お早めに」
にこやかな声だけど、背後から襲ってくる気配は 氷点下のモノだ。
水が凍るとか云う程度じゃない。
南国特産の柔らかくて黄色い果物-バニャニャが凍るくらいだ。
もう やだ、こいつゥ。
いろいろ 悚い。
《 出来ねーかなァ、部下に因る権力濫用と闘う会。》
おれ、会長に立候補しちゃうんだけどなァ。
いや、それより『被害者-同士で慰め合う会』のほうが 先に発足されそうか。
《 どっちが作られても、おれは 迷わず入るんだけどなァ。》
ダイヤモンドダストでも舞いそうな気温の中、おれは すっかり冷めちゃったスープを啜った。
今回はリクと、ルトの副官の お話でした。
尤も、リクの部屋に来た訪問者は 悲鳴しか出てきませんでしたが。
次は、もう少し出してあげられれば と思っています。
ルトの副官は、外見-ふんわりで 内面-鬼畜にしてみました。
ちなみに、新婚と云う設定(笑)
きっと 奥さんには(奥さんにだけは)紳士に違いない(笑)
こんな副官がいるんだから、ルトの受難は続きそうです。




