15__魔王様の側近の 疑問と悔恨
今回、主役であるロキは出ません。
そればかりか、シシィさえ 登場するんだか してないに等しいんだか、な状態です。
だから、面白くないです。(←おい!)
それでも いいぞ、って方だけ どうぞ。
___視点:魔王の側近 - リク___
リクは、魔王城の一室で 数時間前の事を反芻していた。
自室で 自己嫌悪に陥ったままだったリクは、強烈な魔力を感じ その魔力の主が ロキであると知って、北の森へ駆け付けた。
其処で、死にかけている〔愛し子〕と 動揺し混乱しているロキを見た。
すぐに傍へ寄りたくとも、趾が進まなかった。
綜てを拒む ロキの魔力の波動のせいで。
これが変化したのは、唐突だった。
何の前触れもなく、ロキの魔力の影響を受けなくなった。
理解は出来なかったが、考えている暇はない。
リクとルネは 全力で応急処置を施し、ルトは 懸命にロキを宥めた。
そして、早急な生命の危機を脱した攸で、北の塔へ移動したのである。
ロキは、泣き疲れて ルトの腕の中で眠っていた。
幼い魔王を 寝室へ搬んだ直後、リク達は 身震いをした。
やんわりと、だが 間違いなく、軀が痛みを訴え始めたのだ。
それは、今まで感じなくなっていた ロキの魔力に因る、通常の反応だ。
まだ微弱だが、確実に 内臓が悲鳴をあげ始めていた。
此処にいるのは 危険だ。
経験から そう直感した彼等は、意識のないシシィを連れ 魔王城へと移ったのである。
シシィは、傷を痊し 重篤な状態を脱したとは云え、極限まで弱っている状態だ。
〔愛し子〕とは云え、人間である幼女だ。
何等かの影響があっても可妙しくはない。
更に、万が一に備えて 誰かが幼女に附いているにしても、ロキの影響が復活した北の塔では それも適わない、と判断しての事だった。
そうして 今、シシィは 魔王城にいる。
曾て ロキが使っていた部屋で、整えられたベッドに眠っていた。
ルトとルネは、最初に受けたダメージを恢復させる為 自室へ戻っている。
リクは、シシィの傍にいた。
故-魔王達が生きていた頃 幼児のロキが使っていたベッドは、部屋の大きさよりは 幼児の体格に合わせた造りと大きさになっている。
ベッドの脇に置いた椅子に腰を掛けたまま 手を伸ばすだけで、シシィの額に手が届くサイズだ。
リクは、眠っている幼女の顔を見詰めながら 幾度も考える。
繰り返し 繰り返し、あの空地へ着いてからの事を惟い起こす。
何度 脳内で再生しても、何かの倆が発動した様子も その気配もなかった。
《 ロキ様では、ない。》
これは、北の塔に戻ってからの事が 証明となっている。
ロキの魔力の影響が出始めたのは、何等かの倆の効果が切れた為……そう考えるのが 自然だ。
では、誰が その倆を、と考えると 1っの可能性が浮上する。いや、1っしか可能性がない。
シシィは、神々の〔愛し子〕である。
この事が、リクの頭の中を ぐるぐると回っていた。
昨日、生贄の祭壇にいたシシィをロキに会わせた後にも、惟った事だ。
願ってはいけない と、赤児に懸ける願いではない と、何度も惟った事。
それでも、悲願と云っても過言ではない願い。
《 ロキ様の魔力を制える術を、いつか………と。》
そう、いつか あの凶暴なる魔力を制える存在となってくれたら、と。
切実な惟いが 零れ出そうになっていた。
だが、あの時は 違う。
リクは、強く願ったのだ。
《 あの願いが 叶った? 》
意識はなかったが、もしも シシィの〔愛し子〕としての能力が発動したのならば……と惟ったのだ。
赤児だったシシィが あっと云う間に成長したのは、神々の〔愛し子〕としての特殊能力-〔月の雫〕の仂だ。
〔月の雫〕とは、大雑把に表現するならば 願いを叶える仂だ。
それは、己れの願いであったり 周囲の者の願いであったりする。
シシィは、自分の近くで発生した 強い願いを、本人が希むと希まないと 叶えてしまう。
本人の意思とは抅りなく 勝手に発動するのは、彼女が この大き佚ぎる仂を制御出来ていない為だ。
同時に、周囲の者達の願いが強すぎる為でもある。
勿論、リクは この能力の存在を知らない。
故に、自分達が希んだ事とは云え、まさか 本当に叶うとは惟っていなかった。
それでも あの時は、叶わなくとも 願わずにはおれなかったのだ。
何の邪念も 狙いもない、祈り。
だからこそ、リク達-3人の願いに、意識のない 小さな軀が反応した。
尤も、彼には 判り様もない事である。
判らないからこそ、悩んでいた。
《 本当に、この幼い人間が………? 》
信じられない惟いで、ベッドのシシィを見る。
生後-4ヶ月余りの幼女は、一見 すやすやと眠っていた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
___視点:近衛部隊 隊長 - ルト___
静けさの中で、何かが ルトの眠りを礙げた。
小鳥の声も 風の音も聴こえない 静かな部屋と、寝心地の良い ふかふかのベッド。
いつもと変わらない、何処よりも落ち着ける自室だ。
それなのに、何かが神経を刺激して 寝直せない。
浅く寤めた眠りの中で、ルトは ぼんやりと考える。
当人は 二度寝を決め込もうとしているのだが、何かが 阻害要因となっている。
端的に云えば、このまま寝ては駄目だ と云う直感だ。
《 な んで……? 》
軀は、極限に近い程 疲弊していた。
数分であったとしても、ロキの 手加減のない魔力に曝されたのだ。
ダメージは深かった。
故に、軀は 寝返りさえ打ちたくない程に 草臥れていた。
数回の呼吸の内に 寝直せそうなくらいだ。
そう惟う一方で、頭が 起きろと命じている。
起きないと 大変な事になる、と。
《 なんでだろ……ねむい のに………。》
深く溜息を咐こうとして、気が付いた。
「んぶ?」
ルトは、疲れ切って ベッドに倒れ込む様に 眠りに就いた。
そう、倒れ込む様にして。
つまりは、偃伏せに眠っていたのだ。枕に 深く顔を瘞めて。
「っ〜〜〜〜⁉︎ 」
鼻や口を塞がれ 呼吸が礙げられて、著しく酸素が欠乏していたのだ。
あの直感は、このまま眠っては危険だ と云う脳からのサインだった様だ。
惶てて、ルトは 撥ね起きた。
シーツに両腕を付き 腕立て伏せの要領で、上体を反らし 枕から顔を上げた。
「 〜〜〜〜ッ てェ」
途端に、ルトは 痛声をあげる。
骨・筋・筋肉に 異常はない。
痛んだのは、もっと内側の 臓器だ。
《 薬 飲んで、寝て……これだもんなぁ。》
妹のルネが調合してくれた薬は、効能の高いモノだ。
過去に ロキの魔力に曝され 死にかけた者達を、何10人も救ってきた薬だ。
それを飲んで 眠ったと云うのに、あちらこちらの臓腑が軋んでいる感覚がある。
強烈な毒で 内臓を焼かれた様な感覚だ。
《 本当に、ロキ様は 勍いなぁ。》
手加減のない魔王の仂が あれ程までとは惟わなかったのだ。
いや、判っていても あの場には駆け付けただろう。
あんなに取り乱した波動は、感じた事がなかった。
《 前-魔王様達が戮された後だって、あんな諷にならなかったのに。》
20年前の事を思い出しながら、渾身の力で 寝返りを打つ。
ごろり と仰向けに転がり、視線を 天井へ向ける。
尤も、見ているのは 天井ではない様だが。
《 それだけ、淋しかったんだな。》
ロキと〔愛し子〕が 共にいたのは、24時間に充たない程 短い。
それでも、あの幼児は ロキにとって掛け替えのない存在になっていた。
その為の 動揺だったのだろう。
そう 惟うと、冷や汗が出た。
《 間に合って良かったぁああ。》
もしも、など考えたくはなかったが、万が一〔愛し子〕を喪うに至れば この国は消えていたかもしれないのだ。
勿論、暴走する 自国の魔王の仂で。
一部だけ、消えていた森。
その下に生えていた筈の 低木や下草までもが、最初から存在しなかったかの様に 消えていた。
大地に 魔力に因る傷などない。
それが どれ程 奇妙な状態か、あの場にいた3人には 理解出来た。
有機物だけを消し去る能力
ラノイが発動させたのは、そう云ったモノだったのだろう。
故に、地面には 緲かな傷もなかったのだろう。
其処に在った筈の樹木は、その存在の痕跡も残さずに 消えていた。
ロキに存在を拒絶されたせい、と惟われる。
《 そりゃ、最強だよなぁ。》
その時の魔力を浴びれば、この国で生き永らえる者は いないだろう。
〔愛し子〕を喪っていたら、この国-全体が あの魔力に曝されたかもしれない。
改めて、体温が下がった。
掌と 額と 背に、じっとりと 汗が滲んだ。
天井に向けて吐き出された溜息も 汗に濡れた指先も、緻く震えていた。
✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎
10数分後、ルトは〔愛し子〕がいる部屋へ来ていた。
「リク」
扉を開けて、ベッドの傍の椅子に座る背へ 声を掛ける。
リクは、軽く視線を向ける程度に首を回して ルトを見た。
「大丈夫ですか?」
小さな声だが、良く通る その声は、はっきりと耳に届く。
「ああ、おれは もう」
そう答えながら 部屋の扉を閉め、室内へ入る。
趾音を発てない様 気を配り、ルトは ベッドへ近付いた。
曾てのロキの部屋の ロキのベッドに寝かされている 黒髪の幼女が視界に入ると、ルトの表情は 僅かに曇った。
「ルネは?」
この質問に、ルトの顔が 緲かに歪んだ。
此処へ来る直前、ルトは 双子の妹の様子を見てきた。
あの空き地へ翔んでいる途中から 痛声をあげていたルネは、ロキの魔力への耐性が弱いらしい。
起き上がる攸か、まだ 眼も寤めていなかった。
「疲れて寝てる」
額に汗を泛かべ 小さく唸りながら、だが。
そんな言葉を飲み込んで、ルトは そうとだけ答えた。
眠る〔愛し子〕へ視線を戻したリクは、背後へ来たルトの様子など 見えてはいない。
「そうですか」
何も察し取らなかったのか、それとも 声の調子で気付いた上で 敢えて素知らぬフリを決めたのか。
リクは、感情のない声で呟いていた。
そして、沈黙が訪れる。
室内で発つ音は 殆どなく、窓の外から聴こえる 葉擦れの音だけが緲かに届く。
2人の間に、静かな時間が流れた。
会話がなくて困っている訳ではない。
元々、この2人が揃うと会話が途切れる傾向にあるのだ。
つまりは、いつもの事 なのである。
そして、2人共 それを苦にしてはいない。
故に、リクとルトだけでいると 沈黙が続くのだ。
長い時は 数時間にも及ぶのだが、今日は 違っていた。
「〔愛し子〕は?」
沈黙を破ったのは、ルトだった。
或る程度 考えが纏まったのか、纏まらなくて談し掛けたのか。
尋ねたのは、眼の前に眠る〔愛し子〕-シシィの事だった。
これに、リクは 淡白な言葉を返した。
「変わりありません」
第三者が この室内にいたならば『もっと他に言い方があるだろう』と示唆するだろうが、生憎と 此処にはツッコミ要員がいなかった。
尤も、当のルトは リクに対する文句などないらしい。
特に 謫める事もせず、ベッドの中の幼女を瞰した。
「 ––––––––––––大丈夫なのか?」
眠り続けている事への問いではない。
ルトには 明確な疑問があったのだ。
彼の睛には、幼なくも小さな軀の中の魔力と 軀を包んでいる魄とが視えていた。
ロキには及ばないものの、内包する魔力は 他国の魔王を凌ぐ程。
とても、人間とは惟えない濃密で強大な魔力だった。
しかし、魄は 弱まっている。
この魔力量に相応しい強さではない。
大袈裟に表現するならば、老衰死-寸前を想わせる弱々しさだ。
將に、風前の灯火と云った様相だ。
これが視えているからこそ、ルトは そう尋ねたのである。
しかし、リクからの返答は 淡白なモノだった。
「随分 落ち着いてきましたよ」
惟わず『これで?』と返したくなったが、ルトは この言葉を飲み込んだ。
リクに掛ける言葉として 間違っていた、と察したのだ。
リクは、東の魔王であるロキの側近。
魔王の為に その身を捧げる者だ。
魔王が大切にする綜てを、全力で護る者だ。
ロキが 心穏やかに過ごせる様、手を抜かず 尽力する。
〔愛し子〕を失いかけただけで あれだけの動揺をみせたなら、文字通り 生命を賭けて護るだろう。
もしも、ベッドに寝かされている幼女が 危険な状態になれば、自身を嗇む事はしない。
リクとは、そう云う人物なのだ。
「 ……………そうか」
ルトは、そう言うに留めた。
「 ………… 」
再び、2人の間に 沈黙が訪れる。
その状態が 10分-続いた後、ルトが 口を敞いた。
「なぁ、あれってさ……… 」
ルトは、空き地へ駆け付けた時の事を思い泛かべて 言葉を濁した。
あの時、暴走していたロキの魔力に當てられて 誰も近寄れなかった。
一刻を争う と判っていながら、動けなかった。
なのに、唐突に 魔力の波動が消えた……その時の事を言おうとして、ルトは 言葉を切った。
これに対して、リクは 浅く頷いた。
「怕らく、そうだと惟いますが…… 」
2人共が 主語などを欠いたまま、言葉-短に 会話を進める。
「あのさ……ロキ様、大きくなってただろ?」
「ええ」
ロキは、成長していた。
今まで 軀に合っていた衣服は 7分丈になっており、手脚は 確実に伸びていた。
3〜4歳の幼児だった魔王は、あの空き地では 小学校-低学年くらいに育っていたのだ。
「昨日は、違いましたよ?」
毎日 ロキに会っているのは、リクだけだ。
他の者達は 北の塔に近付かない為、普段のロキを知る事は出来ない。
朝夕の 数分とは云え、リクは、毎日 顔を併せ、毎日 言葉を交わせる。
故に、この変化が 昨夕からのモノだと言い切れる。
「丁度 成長する時期だったのか、それとも……… 」
ルトは、決定的な言葉を省いた。
彼は 1っの可能性を示唆しつつも、発言する事を躇っていた。
確証はない、しかし 確率は高い。
確かめる方法はないし 予測でしかないが、ルトは 自分の推測が正しいと感じていた。
「私的な意見ですが、私は〔愛し子〕の影響ではないか と惟っています」
飽く迄も 個人的な心象だ、と付け加える。
これに反論する理由もないルトは、黙ったままだ。
「 ––––––––––––……… 」
結局、その後 3時間と少々を、リクとルトは、隣り合って小さな幼女を瞰しつつ 無言で過ごす事になる。
こんな筈じゃなかった リクとルトの絡み……。
何でしょう、この2人は。
言葉なくして通じ合っているのか 喋る気がないのか、沈黙行動が続きます。
決して無口な設定ではないのに、何故か こうなりました。
修正したかったのに、どうしてなのか……(泣)
早く 元気なロキが書きたい!




