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14__魔王様の臣下

可哀相なロキと 痛そうなシシィの続きです。

駆け付けているリク達の目線で どうぞ。




___視点:薬師部隊 副長 - ルネ___


ルトが翼を拡げ 梢の上を疾風の如き速さでんでいる その腕の中で、ルネは 歯を食い縛っていた。

自分とルトの周囲に 障壁を張りはしたが、功を奏した手応えがない。

今も、無数の刃が身をきざんでいる。

ロキに対して 障壁など無力だと判ってはいたが、耐魔抵抗レジストしている様子がない。


《 前は、少しくらい 耐魔抵抗レジスト出来たのに。》


ルネは、この国の薬師だ。

〔癒しの手〕と云う能力スキルの保持者で、れる事で 薬としての効能を高める事が出来る。

ルトが ルネを連れて来たのは、緊急事態の中に ルネのちからを必要とするたぐいのモノがあった時を考慮してだ。

故に、ルネは 有りったけの薬草を鞄に詰めてきた。

しかし、この状態では 真っ先に薬草を必要とするのは自分達かもしれない、などと考えてしまう。


《 痛い!》


かつて、魔王と魔王妃(ロキの両親)が施した封環が弱まり ロキの魔力が溢れ出した時の事を思い出す。

そばにいた者が 次々と倒れ、のたうち回り 血を吐いた。

あの時は、臓器が ずたずたに切り裂かれていたが故の激痛と吐血だった。

ルネは、同じ障壁をもって これに対抗した。

完璧ではなくとも、耐魔抵抗レジスト出来ていたのだ。

だが、今回は それも敵わない。


《 一体、何が起きたの⁈ 》


ロキは、優しい魔王だ。

周囲の者達を傷付けない様に と、みずから北の塔にこもる程だ。

自身で 料理をし、自身で 掃除をする程だ。

そんなロキが、酷く取り乱し その凶器まりょくを振り撒いている。

尋常でない事態である事は確かめるまでもない。

苦痛に耐えながら、兄の腕の中で そんな事を考えていると、森の切れ目が見えてきた。

「っ⁉︎ 」

ルネは、一眼ひとめで それが異常なモノだと理解した。

ルトも、同じだったのだろう。

ルネを抱いている腕が、かすかに震えて 強張った。


《 削り取られた…… 違う、これは………。》


ロキの魔力の本質を垣間見かいまみて、ルネは 周囲に張っている障壁が無駄である事を悟った。

次に (おも)ったのは、自身と 兄の死だ。

この『錯乱する魔力の渦』の中へ入れば、ただでは済まない。

森の樹々が消滅して出来た空間が近付くと、ルネは われ知らずからだを硬くさせた。




   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽




___視点:魔王の側近 - リク・近衛部隊 隊長 - ルト・薬師部隊 副長 - ルネ___


リクは、森の空地に駆け付け 息を飲んだ。

20メートル程 先に、へたり込んでいる ロキの背がある。

その腕の中に、小さな膝の上に、更に小さなからだが抱き支えられている。

特徴的な黒髪が見えなくとも、それがシシィだと判った。

ロキのからだの陰から、小さな手脚が見える。

そのあしはだしで、土と 草の汁でよごれている。

その手は、やはり 土でよごれ、軽く握られている。

更に、にしている小さな手脚は 力なく大地に伸ばされていた。

すぐに、最悪の状況が 頭をよぎった。


《 まさか  っ! 》


シシィは、神々の〔愛し子〕だ。

彼女がまとっている光りは、それと判るモノ達を 強く惹き付ける。

それが何か・・判らなくとも、光りが視えるモノ達は、どうしても 惹き付けられてしまう。

理性や知性があるモノ達ならば、まだ 良い。

しかし、これ等が欠如しているモノ達は、手加減なく その光りにれようとする。

かよわい人間のからだの〔愛し子〕が、その暴力ちからに耐えられない事も 判らずに。

「ロキ様!」

リクは、叫ぶと同時に 空地へ駆け込んだ。

忠実なる側近が ロキとの距離を半分程に縮めた途端、ロキの発する魔力の波動が強くなった。

360度・四方八方・球体状に放たれる 拒絶の波動は、あきらかに 近付く事を拒んでいる。

「ロキ様! 私ですっ、リクです!」

叫んでみるも、地面に へたり込んでいる ロキの背は、微動だにしない。

頭の角度からするに、顔は、その蒼碧あおは 膝の上のシシィを見ている。

その状態で、酷く感情をみだしているのだ。

これだけで、シシィの深刻な状況が判る。

だが、そうと判っても 近付けなかった。

「ロキ様!! 」

三度みたび 大音量で声を掛けるが、幼い魔王は 無反応だ。

代わりに、放たれる残忍な魔力の波動だけが その間隔を縮めた。

「っ–––––––!」

断続的に襲う 内臓を鋭い刃できざまれる痛みに、リクのからだが硬直する。

次の一歩を踏み出せずに、10メートル手前で 激痛に耐える。

そんなリクの後方から、ルトとルネが 飛来した。

2人は、上空から この空地へんで来て、リクの 2メートル後方へ降り立った。

ルトは、これ以上 近付けずに、此処へ降りたのだ。

ルネは、ルトの腕からすべちる様に 地面へ膝を付き、そのまま 身を縮めていた。

張っていた障壁は、この空地へ入った途端に 消し飛んだ。

緩和されずに襲ってくる波動に ルネが耐えられなかった為であり、激烈に放たれた波動が 弱まった障壁を打ち破った為でもある。

何にせよ、これ以上は近付けなかった。

「っ〜〜〜〜ッ」

空地の中心で 放心しているらしいロキへ、声を掛けようとしたのだろうか。

ルトが 口をひらき、声にならない呻きを零した。

吸った息を肺へ送り込んだ途端、刺す様な痛みがはしる。

数秒 呼吸も出来ずに過ごしたのち、苦しげに吐き出した息には 血のかおりがじっていた。

「ッ!」

瞬間的にフラッシュバックしたのは、前•魔王であったロキの両親がころされた後の事。

あの時も、ロキの魔力を浴びて 従者達や メイド達が死にかけた。

からだの内部を、その凶悪な魔力にって 切りきざまれて。

もっとも、あの時は『日常的にロキから溢れている魔力』で そうなった。

今は、それとはくらべモノにならない激烈な波動が 3人に襲い掛かっているのだが。


《 誰か、この魔力を……… ロキ様を停めてくれ! 》


森が消滅した後の空地へ うずくまった妹を気遣ってやる事も出来ずに、ルトは 切実に願っていた。

7メートル先の魔王と、その膝の上で 力なく抱き支えられている小さな手脚を見た。

同じ時、リクも 願っていた。


《 これで 吾々われわれが 死んでしまっては、ロキ様は 余計に! 》


ロキの腕にあるシシィの意識がない事は 明白だった。

彼女が〔愛し子〕である事を考慮すれば、此処までの道程みちのりで 森の魔獣達に襲われた可能性が 最も高い。

そう考えれば、幼い魔王の動揺と混乱の入りじった魔力の波も 納得出来る。

ならば、救命措置は 一刻を争う。


《 お願い! どうか、さわれるくらいに! 》


一時いっときでも構わない、今-この瞬間だけでも良い。

3人は、心から そう願っていた。




   ▽   ▽   ▽   ▽   ▽




___視点:近衛部隊 隊長 - ルト___


唐突に、痛みが消えた。

唐突に、圧迫感が消えた。


《 え? 》


一瞬、死んだのか と(おも)う程だった。

何の前触れもなく、ロキの放つ魔力にってもたらされる悪影響が すべえたのだ。

3人は、(おも)わず を丸くした。

苦痛から解放されたさまは、あたかも、死を迎え 肉体から解放されたかの様だったのだ。


《 え? 》


ルトは、円の中心にいるロキを見た。

魔王の様子は、先程と変わらない。

自我が安定していない様な状態で、只管ひたすら 腕の中の幼女だけを見ている。

自分達の存在に気付き、猛り狂う魔力をおさえてくれた訳ではなさそうだった。


《 なら、何で………? 》


ルトは、自分の周囲を見た。

見回しても、障壁はない。

ルネも、足許あしもとに へたり込んでいるままだ。

何かのじゅつを使った気配はない。

同様に、前方にいるリクも その様子はなかった。

そもそも、出来るのならば 寸時も浪費せずに発動させてしかるべきだ。

出し惜しみする必要はなく、事態が急を要する この場面でためらう理由もない。

故に、しなかったのではなく 出来なかった・・・・・・と考えるのが妥当だ。


《 じゃあ、どうして………? 》


ルトが 答えの出ない疑問にとらわれていたのは、ほんの短い時間だった。

2秒にもたない わずかな間だった。

更に 思案し続けようとしたところで、まず リクが動いた。

彼は、見据える先の 小さな魔王のもとへ、全力で駆けていた。

遅れて、これに追随したのが ルネだった。

ロキのもとへ辿り着く前に、2人のには ってはならない事態が見えていた。

「ッッ〜〜〜〜っ  ルネっ、治療を!」

「はいっ」

リクと ルネは、ロキの膝の上にいる 血塗れの幼女のもとへ駆け寄った。

前へ廻り込んで、ルネは 即座に救命措置に取り掛かった。

いや、取り掛かろう・・・・・・とした。

ロキの前に膝を折り 死にかけている幼女へ手を伸ばした。

その途端、脱力していたロキのからだが びくんと震える。

同時に、ぞわり とする様な感覚が リク達を襲った。

おそらく、先程とはくらべモノにならない魔力が 幼い魔王から溢れているのだろう。

痛みや 恐怖は感じないが、流石に ゼロ距離での圧迫感は相当なモノだった。

「だ  め だ………シシィ に、さわる  な」

ロキの時間は、血塗れのシシィを見付けた時から 停まっているのか。

そばにいるのが 東の魔国の幹部-魔族達で、自分の為に 駆け付けてくれたのだ と云う事も、ロキには判っていない様だ。

シシィに近付こうとするモノを 無差別に攻撃する事で、彼女を護っているのだ。

「ロキ様! お気を確かにっ」

ロキの横へかしずいたリクは、迷う事なく ロキの両手をつかんだ。

そのまま 細い手を抑えている隙に、ルネが 再び手を伸ばした。

「失礼しますっ」

ロキの膝の上から 幼女-シシィを取り上げると、自分の膝の上へ ゆっくりと降ろす。

自分の手からシシィが離れた途端、ロキのが 急速に潤む。

「い、や  だ…… いや だ、よ……… シシィ………… シシィ」

ぽかり といたままの蒼碧あおい瞳から ぽろぽろとなみだとしながら、ロキは ルネの腕の中へ移されたシシィを見詰めている。

球体状に放たれる魔力の間隔は、1秒もない。

最早 連続して放たれている、と云っても良い。

幾ら 強大な魔力を持つ魔王とは云え、ロキは まだ幼い身だ。

短時間で魔力を使い続ければ、その反動は 強く現れる。

魔族とは云え、悪影響があっても可妙おかしくはない。

そう 強く懸念したリクは ロキの顔へ両手を伸べ、その柔らかい頬を挟み込んだ。

そして、無理矢理 自分のほうを向かせる。

海を想わせる蒼碧あおに 自分を映り込ませて、声を上げる。

「ロキ様っ!! 」

リクの姿と リクの声に、ようやく 相手の存在を認識出来たのか。ロキの表情に 小さな変化が起きた。

「 ………………り   く?」

まるで 夢だと(おも)っている様な、信じられない と云った表情だった。

しかし、ロキの様子は 先程までとはあきらかに異なる。

その証拠に 連続して撃たれていた波動は停まっており、日常的に溢れている魔力のみになっている。

まだ 混乱と動揺を含んでいるが、排他的なちからえていた。

「しっかりさいませ、ロキ様」

真剣な顔で そう言いながら、リクは 言葉とは裏腹の優しい手付きで ロキのなみだぬぐっていた。

われ等は 此処に、おそばにおります」

蒼碧あおから 次々と溢れるなみだが、ロキの心境を語っていた。

「り……り く………… シシィ  が…… シシィ がぁ」

大切なモノを失う恐怖に震える、小さな子供の それだった。

「大丈夫です、ルネがおります。ルトが 連れて来てくれました。まだ、充分 間に合いますよ」

シシィは、怪我と 出血具合からして、かなり危険な状態と云える。

生命いのちたすかるかは、ぎりぎりの線だ。

しかし、リクは『何の心配もない』と示す様な 穏やかな笑みで、只管ひたすら 優しく接している。

「る ね………?」

ロキが、小さく呟いた。

そして、視線を動かし シシィを見て、次いで シシィをかかえているルネを見た。

「大丈夫です、ロキ様。たすかります、絶対に たすけますからっ」

シシィの救命措置を施しながら、ルネは ロキのを真っ直ぐに見据えて そう宣言した。

言い切ってから、ルネは じかけた口許くちもとを歪めて 歯を食い縛った。

彼女は 少しの間 逡巡してから、再び 口をひらいた。

「だから、だから…… 泣かないで、ください」

眼の前で おびえて泣いているロキを見ているのは、つらいのだ。

ルネは、自分も泣きそうな顔で 懸命に笑みをかべている。

「な、く………?」

ロキは、自分の状態が判っていないらしく 疑問だけを呟いた。

流れちるなみだこまかく震えるからだも、今のロキには 感じ取る事が出来ない。

その余裕がないのだ。

こんな主人あるじを 放っておく事は出来なかったのだろう。

離れた場所で 疑問に囚われていたルトは、大股で 3人のもとへ歩き出した。

「大丈夫だ、ロキ様」

後ろへ寄るなり、ルトは 小さな魔王を持ち上げた。

ロキの眼線が 自分と同じ高さになるまで抱き上げて、小さな額に 自分の額を そっとあわせた。

「 ……… る  と」

「おれ等が いるだろ?」

ルトは、小さな背を 優しくたたいてやりながら、落ち着かせる声で そうさとした。

これに、ロキの瞳から零れちるなみだが 倍増した。

小さな唇は 何かをこらえた様に打ち震え、も 頬も 鼻の頭も、朱色になってゆく。

「 〜〜〜〜ッッ    ゔ、ゔんっ」

返答すると同時に、ロキは ルトの首に抱き付いた。

先程よりも震えているからだを抱き締め直してやりながら、ルトは そばにいるリクとルネをみおろした。

2人は、ルトの視線を理解して 小さく頷く。

「ゔ、ゔ ぇ…………ゔぇえええぇん」

こわかったよな、でも もう大丈夫だ。お前は 頑張ったよ」

遂に 声を上げて泣き始めたロキを あやしつつ、ルトは 少しずつ彼等から距離を取る。

その間に、リクとルネは じゅつを紡ぎ始めていた。

死にかけているシシィを救う為に。

ロキを泣かしてしまった……。

本当に、このシリーズを書き始めた時と 全く予定が違う。

嬉し泣きをさせる予定が、何で こんな恐怖体験をさせてしまったのか。


おかしい………。

『どの話を読んでもほのぼの』を書きたかったのに……(泣)

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