another: B.1-1
このままじゃいられないことは、わかっていた。
灰季がほしい。冬也がほしい。私の心は欲張りだ。
ふたりが思うほど子供じゃない。
すなおに諦められるほど大人じゃない。
私の心は、欲張りだ。
* * *
私の敵はいつだって女の子。
いわれのない言いがかりをつけられて、気づいたら的にされている。ちょっと彼女もちの子と話しただけで、次の日には泥棒猫あつかいだもん、やってられない。
灰季や冬也は、ゲームセンターの治安を気にするけど、私にとってあそこは味方。
私の存在を歓迎してくれる。受け入れてくれる。もしも私を否定する人があらわれれば、きっと私の剣となり盾となる。
あそこにいるのは、そういう人たちだ。
そういう人たちに、した。
こんなこと考えてるなんて知られたら、灰季に嫌われるかな。冬也は賢いから、気づいてそうな気がする。
それでも冬也は私を愛してくれる。私を裏切らない。私のことだけを考えて、私のためだけに生きてくれる。兄をゆがめてしまったのは、……私だ。
九条夏生の罪は重い。
それを自覚しながら、灰季の手を離せない私は、とてもズルい。
「夏生ちゃん?」
ズルい。
目の前にいる、この女と、おなじように。
「――ううん、聞いてるよ。ママ」
水滴の浮いたグラスを見つめて、カラリ、とストローを回す。冷房の効きすぎた店内は寒いくらいで、アイスティーを頼んだことを後悔した。
「ねぇ、夏生ちゃん。どうかしら?」
さらり、と艶やかな黒髪が流れる。グラスに映り込んだ、漆のような瞳がゆがむ。私と彼女は、よく似ている。
妙齢の女性、と呼ばれる歳を越えてさえも、彼女は女を捨てていない。艶っぽい仕草は様になるし、黒珠の瞳には情欲の熱がくすぶっている。隠しきれない魔性の影が、その瞳に映りこむ。
あと何年かしたら、私は彼女そっくりの現し身になるだろうか。なりたいのかどうかはわからない。憧れはしないけど、でも、すこしずつ魔性に近づいていく感覚は、どうしようもなくあった。
考えれば考えるほどに、心は闇にとらわれて、純粋なフリをつづけながら、頭のなかは淀んでいく。
九条夏生は、とてもズルい。
話なんて聞いてなかったけど、聞くまでもなくわかってた。この女が私に話す用事なんて、ひとつしかない。
「……ママ。聞いてもいい?」
どうせ、わかってた。
いつか、こういう日がくることも。
「どうして、冬也が嫌いなの?」
――こういう日が、私にしかこないことも。




