ハジマリ
2015年春。
転校は、春先に紛れ込むように行われる事で馴染みやすいとされる。
家庭の事情に伴い、小学生の頃に離れてしまった生まれの地である関東の片田舎へと戻ってきてしまった。
地元より電車で数駅。恐らく同じ地元の人はいないと思った。そこには歩きで行けて、大抵の人は合格できる丁度良い高校があったから。
教壇に立つ、浅黒い肌の筋肉ダルマという言葉がしっくり来るザ・体育教師の男性、金城先生は良く通る腹から出た声で喋っている。
「転校生を紹介しよう! 篠原! 前へ来てくれ」
席で立って言えば良いんじゃなかろうか。
形式的にはやっぱりその方がいいのかな…
「2年生から転入となる篠原だ。自己紹介を頼む。」
「県内の都市部側から転校してきました。篠原 悠と申します。
幼少期にこの近辺に住んでましたが、家庭の事情で転居してきました。よろしくお願いします!」
割とそつの無い挨拶が出来たんじゃないかなぁ。ちょっと固かったか?
「そういう事なので、この辺の事がさっぱりわからん訳では無いだろうが、この学校に関しては1年ここで過ごした君達と比べればわからんだろう。
困った事があったら助けてやってくれ!」
おお。
大体、体育教師と言うのは人と人との関係性にちょっと疎い。校則には厳しいことが多いが。
この先生はなかなか人を見ているような印象を受けた。やはり田舎だと人との関係って大事だからなぁ。
「先生の話は以上だ。篠原はあとで職員室に来るように。」
ゑ?
いや、転入したから何か別のお話とか俺だけの書類があるとか…?
校則…?はないな、見た感じこの学校は校則が緩いはず。
染髪はさすがにダメだが、それ以外は見た感じあまり規則がない。
現在の自分の格好を見ると厳しい所なら違反となるかな…という程度である。
制服はさすがにこの高校の物を着用している。
あとは基本前の高校と変わらない。一応最初なのでピアスは透明ピアスにしてきた。さすがに1日つけるとちょっと痛い。
髪の毛は黒染めした。茶髪にしていたので染髪はダメと見て急いで誤魔化してきたのだ。
あとは.....やはり前と同じ着方というのはルーティンになってしまうもので、ほんのりの腰履きにストリートブランドのガチャベルトを垂らし、靴下はスニーカーソックス。
染髪がダメなのはクリアしてるはずなので校則の線は無いはず…
周りを見ると、特にルールは無いはずなのに皆飾り気もなく真面目に制服を着ているし、地毛だしまじまじと見ていないから定かじゃないがピアスもいなさそうな気がする。
あ、数名ちょっとスカート短いか.....?
やだなぁ…怖いなぁ…
「じゃ! あまり学校に居座るんじゃないぞ!
今日は初日だし早めに帰って休むように!
あまり無駄に居座ってると体育館の片付け手伝わされるぞ!」
「「「えー!!」」」
半数くらいがえーって言った気がする。
さて…職員室行くか…
なんか怒られるの確定じゃなくても職員室は気が重いな。
「篠原くん」
「ん?」
隣の席の女子生徒が声をかけてくる。
見覚えがある…いや、気のせいか。
地毛である事は明白だが色素の薄いセミロングの髪に、一目で色が違うとわかる薄めの茶色の目。
女子にしては少し身長は高く、160cmと言った所か。スカートをさりげないくらいに短くしていて、ブレザーから覗くワイシャツの胸ポケットには青緑のダッカールが見える。
整った顔は「可愛い」と言うよりは「美人」がしっくりくる子。
高校生と言うのは往々にして「可愛い」に惹かれるものなので、人気者の様子はない。
「私、舞って言うの。よろしくね」
「お、おぉ、よろしく」
コミュ障かて。
舞.....あ。
思い出した。俺はこいつを知っている。
転校寸前、他の子より少し仲が良くて今思うと恋愛沙汰になるんじゃないかと言われていたのだ。
俺がまだ全然思春期とかなくてアホの子だったせいで、好意が空振りしてた…というのも今だからわかる話だ。
転校になるとクラスで発表されると共に過ごすことも減って、自然消滅とは言わないがあまり話すことも無くなって自分が転校してしまったのだ。
今思うと、彼女はどう思っていたのだろうか。
彼女は俺のことを覚えてて声をかけたのか…?
いや、離婚に伴って名字も変わったからわかってない可能性あるな。
「職員室行くんでしょ? 担任の金城先生、怒ったら長いから気をつけてね」
「帰っていい?」
「私がダメとか言うのは違うから止めないけど、明日カンカンに怒ると思うな…」
「それはそれで嫌すぎる…」
桃太郎も丸腰では鬼ヶ島に行かないと思う。
要は俺は今から丸腰の桃太郎となって鬼ヶ島に凸するのだ。
「大人しく今日行くよ.....」
「ん。よろしい! また明日ね!」
覚えてるか聞きそびれたことに気付いたのは、舞が教室から去ってしまった後だった。
えー、怒られるのかな。違うと信じたいな。
「失礼します。」
職員室入口付近でコーヒーを淹れている大人しそうな先生がギョッとする。
「すみません。金城先生の席は.....」
「あ、あぁ、あそこだよ。」
「ありがとうございます。」
窓際奥の席に向かう。
「金城先生。」
「おぉ、篠原か。ちょっと別の部屋に行こうか。」
イヤナヨカーーン。
もうわかる。多分金城先生の周りにゴゴゴゴ…みたいなのが出てる。
怒られる。
どうしてこんな目に…初日なのに…
「さて篠原。なぜ呼び出されたと思う?」
「け、検討もつきませんね.....」
怖い。なぜ体育教師って怒ると怖いんだ。
金城先生はため息を1つつく。
「この高校は校則があまり厳しくないだろう。」
「そうですね。」
「だから、お前はその格好なわけだ。
だが、田舎だからだろうな。自然と柄が悪く見える服装をする生徒は少ない。知らないとも言えるのだろうかな。
校則が緩いのは、自由な校風と言うよりは前例が無かったんだ。」
なるほど。
この片田舎では、服もJapaneseオバチャン御用達の怪しい服屋しかない。
古着屋なんてもちろん無いし、ド○キも頑張らなきゃいけない距離だ。ヴィ○ヴァンなんてもっと遠い。
グレようにもグレ方がわからんのだ。
「だからダメとは言わん。ルールじゃないんだからな。」
「それならなぜ…」
「これは先生としてと言うよりは社会人の1人として言っておこう。」
まずい。何か黒いオーラを感じる。
鬼ヶ島の鬼が激おこプンプン丸である。
「初日から黒染めのうすら赤い髪、透明ピアス5つ、腰履きに派手なベルトとはいい度胸だなぁ…?」
アカーン!!!!
それはそれはもう大変に怒られた。
結論から言うと、赤くなった髪は地毛が生えるまでどうしようも無いという事で、自己判断、もしくは保護者などの判断で茶色になってきたら染め直すようにと言われた。
ピアスは、校則で決まってない手前ダメとは言わないが、ホールが完成しているのでせめて片耳1つで派手なものは付けないようにと言われた。
それ以外は言われなかった。はず。
「ただいまー 」
「あら遅かったじゃない。」
「めっちゃ怒られたんだよ…」
母がケタケタと笑う。
ブリーチにカラーシャンプーで染めた金髪のような髪に申し訳程度の眉毛を備えた如何にも元ヤン上がりの母。
この母にこの息子…である。
母は物心ついた時からこうである。
変わったのは俺で、都会だとやはり周りの提案や欲しいものを集めると見た目が柄悪くなってしまうのである。
ピアスなんかは向こうの友達と出来心で開けた。
「ご飯食べんの?」
「食べるー 」
「焼きそばが冷蔵庫にあるから温めて食べなー 」
「母ちゃん仕事? 」
「そ。夜勤だから明日あんたが学校行ってから帰ってくるかなー。 」
「おっけー 」
母はこちらに来てからシフト制のホテルの管理人をしている。
詳しくは聞いたことがないが、多分アレなホテルなんじゃないかと思っている。
「いただきまーす」
「私行ってくるからねー 」
「てらー 」
焼きそばをすすりながら片手間に手を振る。
スマホを開き、キャラを弾いて戦うゲームをしながら考える。
神崎 舞…だったな。あれは。
さすがに見た目が変わり過ぎる時期を一緒にいなかったから、確定とは言わんが十中八九そうだろう。
多分今の見た目で行けばあの高校においては「ヤンキー」である。そこに恐れず声をかけてくる無鉄砲さもそのままだ。
無鉄砲で。壊れたラジオかと言うくらいによく喋って。興奮すると距離感バグを起こして。そのくせ彫刻のように綺麗な顔してるもんだから扱いづらくて。
それが、幼少期の俺が覚えてる神崎 舞。
前の高校でいい感じの女の子と遊んでいて、ピンクな空気になった時に幼少期の記憶で舞がフラッシュバックして、アレが戦闘不能になったことがある。
何を子供の記憶で情けない、と思うかもしれないが実際に起きてしまったのだ。
うわ。パーティ全滅しちまった。くそったれダ○ージウォール。
スマホで開いていたゲームをタスキルする。
あまり関わる事はやめておこうか。
だが向こうからすれば転入生でしかないのなら。
近くもなく遠くもない、たまに話すクラスメイトで通せるのならそれで良いんじゃないか。
そうだ、それがいい、そうしよう。
「ご馳走様でした。」
食べ終えた焼きそばの皿をシンクに置き、水に付ける。やっぱり袋麺焼きそばはマ○ちゃんしか勝たんな。美味かった。
明日も学校だ。早くシャワー浴びて寝よう。




