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第一章 6話 デッド・ハウンドのボス


エリカは木々の上を跳んでいた。


夜気を裂くように、軽やかに。


手には、光で形成された鞭。


淡く輝くそれが、闇の中でゆらりと揺れる。


「これ、便利ね」


(本来はそういう用途じゃないがな)


エリカは、軽く笑った。


だが視線は、鋭く地上を捉えていた。


無数のデッド・ハウンド。


腐った肉体を引きずりながら、うごめいている。


「……多いわね」


その数は、軽く見積もっても数十。


いや――それ以上。


(問題は奥だ)


セレグの声が、静かに落ちる。


視線の先。


開けた空間。


そこだけが、不自然に静かだった。


そして――


そこに“いる”。


「……あれね」


迷いはなかった。


エリカはそのまま飛び降りる。


スタッ。


軽い着地音。


同時に――


デッド・ハウンド達が一斉に振り向いた。


〝ウゥゥゥ……!!〝


低い唸り声が重なる。


囲まれる。


逃げ場はない。


「歓迎ありがと」


エリカは鞭を構える。


「さぁ、来なさい」


――次の瞬間。


一斉に来る。


牙が迫る。


爪が走る。


だが――


「遅い」


鞭がしなる。


一撃。


二撃。


光の軌跡が、夜を切り裂く。


デッド・ハウンドが吹き飛ぶ。


だが――


倒れない。


起き上がる。


また襲いかかる。


「……キリがないわね」


(上だ)


「えっ?」


即座に跳ぶ。


次の瞬間――


ドゴォォォン!!


雷撃が地面を焼き払った。


爆ぜる音。


肉の焦げる匂い。


焼けた地面から煙が立ち上る。


「……くさっ」


思わず顔をしかめる。


だが。


それでも――


まだいる。


(減ってはいるが……焼け石に水だな)


「……ほんとにね」


再び地面へ降りる。


すぐに囲まれる。


だが、その時。


〝ギャオォォン!!〝


咆哮。


空気が、一変した。


デッド・ハウンド達が動きを止める。


そして――


一斉に退いた。


「……来るわね」


闇の奥。


何かが、ゆっくりと姿を現す。


一歩。


ドン……


地面が沈む。


二歩目。


空気が、押し潰される。


巨大な影。


〝貴様……何者だ〝


低く、重い声。


「あら、喋れるのね」


エリカは構えたまま答える。


「私は篠山恵梨香」


「アンタを倒す者よ」


〝小娘が……〝


さらに一歩。


――その瞬間。


沈んだ。


「……っ!!」


体が、急激に重くなる。


足が動かない。


膝が、沈む。


(……空間ごと押されている)


「なに……これ……!」


呼吸が重い。


空気がまとわりつく。


〝逃げ場はない〝


さらに圧が強まる。


地面が歪む。


視界が揺れる。


「ぐっ……!」


その時。


上空に、無数の氷の槍が現れた。


静かに――


しかし確実に、狙いを定めている。


「ちょっと待って……それは反則でしょ!」


落下。


だが――


止まる。


見えない壁。


衝撃が弾ける。


(今だ!)


一瞬、圧が緩む。


「……っ!!」


跳ねる。


一気に距離を詰める。


「やってくれたわね……!」


鞭が走る。


突き刺さる。


〝ぐああああっ!!〝


確かな手応え。


(効いている)


「なら――!」


もう一撃。


叩き込む。


〝ぐああああ!!〝


巨体が揺れる。


押している。


確実に。


――だが。


その時だった。


止まった。


空気が。


音が。


すべてが。


凍りつくように。


冷たい。


重い。


『そこまでだ』


声が落ちた。


瞬間。


ボスが硬直する。


〝バ……バルサ様……〝


闇の奥。


そこに、“何か”がいる。


見えない。


だが、確実に存在している。


空気が沈む。


圧が変わる。


さっきまでとは、比べ物にならない。


デッド・ハウンド達が、震え始めた。


『少し……見苦しいな』


静かな声。


その瞬間。


ボスの体にヒビが入る。


〝ま、待――〝


崩壊。


体が霧となり、闇へ吸い込まれる。


「……なに、今の?」


(……まずい)


セレグの声が低くなる。


『さて』


気配が、こちらを向いた。


重い。


深い。


底が見えない。


『少し騒がせすぎだな』


『それに――美しくない』


「……何よ」


エリカは睨み返す。


「感じ悪いわね」


沈黙。


わずかに、空気が揺れた。


『ふっ……』


小さな気配の変化。


『面白いな』


一歩。


闇が歪む。


存在が、近づく。


『私が相手をしてやろう』


その言葉と同時に――


空間そのものが、軋んだ。


禍々しい力が、ゆっくりと渦を巻き始めた……





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