第一章 5話 魔界探索
色々あって人数が増えたエリカ一行は、魔界の中を彷徨いながら、近くの〝簡易シェルター〝を目指して進んでいた。
真夜中の公園は、昼間とはまるで別世界だった。
街灯の光は弱々しく、空気は妙に重い。
遠くからは、時折、獣のような鳴き声まで聞こえてくる。
「安祐美さん、一番近いシェルターまでどれくらい?」
安祐美は携帯を確認した。
「距離的には四〜五キロくらい。でも、このまま公園を突っ切れば、三キロくらいで着けると思う」
〝じゃあ、このまま抜けた方がよさそうですな〝
オークその1が周囲を警戒しながら呟く。
『朝までやり過ごすのもアリだけどね』
セレグが淡々と言った。
『日の出まで……あと二時間ってところか』
「私はどっちでもいいかな〜」
エリカは、のんびりと答える。
――その時だった。
空気が変わる。
〝……何か来ますよ〝
オークその2が、辺りを見回した。
ガサ……ガサ……
草むらが揺れる。
そこから現れたのは――
小さな犬だった。
「……子犬?」
尻尾を振りながら、こちらへ近づいてくる。
「アン、アン……」
〝なんだ、ただの犬か〝
〝可愛いじゃねぇか、ほれ来い〝
オークその2が手を差し出した、その瞬間――
「やめなさい」
エリカの声が低く落ちた。
「こんな場所で、“普通”の子犬がいるわけないでしょ」
一瞬。
子犬の目が、不気味に光る。
「ギャワン!!」
〝うぎゃあああっ!!〝
オークその2の指が、噛みちぎられた。
「だから言ったのに……」
エリカは呆れ顔だった。
『シッ・シッ・シッ……』
子犬は、ニヤリと口元を歪める。
「なっ……なるほどね……」
安祐美が少し顔を引きつらせた。
その時。
子犬は、ふっと動きを止め――
ペッ、と指を吐き捨てた。
そして。
捨てた指へ、後ろ足で土をかけ始める。
「……」
「……今のなに?」
「もしかして、まずかった?」
一瞬、沈黙が落ちた。
〝ひどい……〝
オークその2が涙目で訴える。
「静かにして」
エリカは、それを一言で切り捨てた。
その時だった。
『……何か変だな』
セレグの声が響く。
「何が?」
『来る』
空気が、一気に張り詰める。
『ものすごい数だ』
『群れだな……デッド・ハウンドの』
エリカの目が細くなる。
「やっぱりね……」
セレグが続けた。
『さっきの子犬は斥候だ』
『俺達を、ここへ引きつけていたんだよ』
安祐美が周囲を見回す。
「……あれ?」
「あの子、どこ行ったの?」
すでに、姿は消えていた。
〝デッド・ハウンドか……厄介ですな〝
〝あいつら、群れで来るタイプです〝
〝必ず、ボスがいる〝
「ふーん……」
エリカは、小さく息を吐いた。
「じゃあ簡単ね」
「親玉を叩けばいい」
〝で、俺達は?〝
「雑魚処理」
〝了解ですっ!!〝
セレグが静かに言う。
『指を治すついでに、少し強化してやろう』
エリカの体を通して、力が流れ込む。
次の瞬間。
オーク二体が、金色の光へ包まれた。
〝……これは……〝
〝力が湧いてくる……!!〝
『一時的だけどね』
「あなた達! ちゃんと働きなさいよ!」
〝ありがてぇっ!!〝
その時。
安祐美が、少し不安そうに手を上げた。
「あの……私は?」
「ああ……」
エリカは軽く指を鳴らす。
柔らかな光が、安祐美を包み込んだ。
「簡易結界よ」
『大抵の魔物は通れないと思う』
「安祐美さんは、この中にいて!」
「……わかった」
エリカは、静かに振り返る。
「じゃあ、行くわよ」
その瞬間――
遠くの闇の中で、無数の赤い目が光った。
そして。
地面を埋め尽くすような足音が、一斉に迫ってきた。




