第三章 4話 白新とバルサ
都心の一等地に、篠山ホールディングスの本社ビルはあった……
その最上階――会長室。
篠山ホールディングス会長、兼、篠山グループCEO・篠山 白新は、眼下に広がる街並みを静かに見下ろしていた。
そして、午後の紅茶を一口、ゆっくりと口へ運ぶ――
その時、インタホンが鳴った。
「うん? 何かな……」
交換の女性の声が響く。
『会長、恐れ入ります……』
『会長とのお約束の方が、お見えになっております』
「どなたかな?」
『山地 春佐様です……』
「うむ、お通ししてくれ……」
会話は終わった。
そして、しばらくしてから――再びインタホンの音が響く。
「入ってくれたまえ」
白新は、ドアロックを解除した。
ドアが開き、女性社員に促された山地 春佐が姿を現す。
「やあ……わざわざすまないね」
白新は、幅広のデスク越しに穏やかな声をかけた。
女性社員は、一礼して部屋を後にする……
「あんまり、こういう所は……好きになれませんね……」
バルサは、室内を軽く見回した。
「何か、ご用でしょうか?」
「意外に、キミにも普通のところがあるんだね」
「あまり、雑談は趣味じゃないんですがね……」
「せっかちな男だね……」
白新は、紅茶を揺らした。
「まずは、御堂の件を確認したいんだが?」
「はて? 誰でしたっけ?」
「キミが廃人にした、御堂だが?」
バルサは、ニヤリと笑った。
「ああ……なんか、突然ボケられた副理事長のことですね」
「なんとも、お気の毒ですよね……」
「出来れば、簡潔な報告をお願いしたいんだけどね」
白新が、ギロリと視線を向ける。
「ボケた人間に、重要な仕事は無理なのでは?」
バルサは、肩をすぼめた。
「そうなる前は、それなりに役にはたっていたんだけどね……」
「きっと、荷が重たかったんですよ……」
「それで、精神が壊れたのでは?」
「ふっ……そうかね?」
白新は、静かに笑った。
「私は、誰かにやられたのかと思ったよ」
「だったら、その程度の人物だった……という事でしょう」
バルサは、面倒くさそうに頭をかいた。
「ふっ……実に、キミらしい報告だね……」
白新は、机上のインタホンへ手を伸ばした。
「ところで……お茶でもどうかね?」
「あっ、私はコーヒーでお願いします」
「……出来れば、ロストマウンテンブレンドで」
「なるほど……趣味は悪くない」
白新は、わずかに口元を緩めた。
それからしばらくして――
二人だけの会談は、青空の明るさのもとで続けられていた……
バルサは、洒落たコーヒーカップを静かに傾ける。
「ところで、今日は何のご用なのですか?」
「私も、暇を持て余している訳ではないのですが……」
「まあ、私にとっては割と重要な確認だったのだけれどね……」
白新は、紅茶を一口飲み込む。
「……まあいい」
「ところで、キミの病院に……少々変わった患者が来たんじゃないかな?」
「ほら……空を飛ぶのが好きな連中……」
「さあ……何の事でしょう?」
バルサは、興味なさそうに窓の外へ目を向けた。
「なんか、物忘れの激しい人は来たみたいですけど?」
白新は、少しだけムッとした表情を浮かべる。
「じゃあ……その人物の様子は、逐一報告してもらいたいものだね……」
「はい……それはもちろん……出来る限りはやりますよ」
「忙しい仕事の合間に……」
バルサは、コーヒーを口へ運びながら、青空を見上げた。
「やっぱり、昼間はいいですよね……」
「天使だった頃を思い出します……」
「……私は、状態よりも場所の方が気になるね」
白新は、紅茶を静かに飲み干した。
都心を見下ろす、高層ビルの最上階――
そこはまるで、地上に作られた“天界”のような光景だった……




