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第二章 11話 観測者の介入


そして、その翌日――


エリカの病室では、またしてもカオス状態が続いていた。


「なあ……我の弁護の件はどうなったのだ?」


セルが、腕を組んで訴える。


「まずは……天界のコーヒー豆を差し出すのが先でしょう?」


バルサが、涼しい顔で返す。


「ロストマウンテンブレンド……」


「だから……あれは売り切れだったのだ!」


セルが必死に弁明する。


「決して、我の財布の事情ではない!」


「言い訳にしか聞こえませんね」


バルサは、あっさり切り捨てた。


「もう!うるさいっ!」


エリカの怒声が飛ぶ。


「あんた達!ここは病室なのよ!」


「私は病人なの!分かってるの?」


「お前は病人で……我は被害者なのだっ!」


セルが胸を張る。


「どちらも可哀想な存在なのだ!」


「故に、我には弁護人が必要なのだっ!」


「そして――弁護人にはコーヒー豆が必要なのですよ」


バルサは、当然のように言いながら、カップを傾けた。


香ばしい香りが、ふわりと広がる。


「……ほんと、意味わかんないわね」


エリカが呆れたように呟く。


その隣では――


「ちょっとパルミア!これどういうこと!?」


「だから言ったでしょ!加減しなさいって!」


アユミとパルミアが、小声で言い合っていた。


「だって、あのくらい普通よ!」


「普通じゃないから問題なの!」


「もう!知らないわよっ!」


「こっちのセリフよ!」


小さな言い争い。


だが――


そのやり取りの中に、確かな変化があった。


(……ああ、これ……)


アユミが、ふと手を見る。


わずかに、光が揺れた気がした。


すぐに消える。


誰も気づかないほどの、ほんの一瞬。


「……なに?あれ?」


エリカが視線を向ける。


「ふっ……なんでもない」


アユミは、軽くごまかした。


だが――


完全に元通り、というわけではない。


それだけは、はっきりしていた。


そして――


エリカが、ふとバルサを見る。


「……で?」


少しだけ真面目な声。


「なんで、あの時……私達に味方したのよ?」


「別に……味方した訳じゃないですけどね……」


一拍。


「だいたい……あなた、敵でしょ?」


バルサは、コーヒーを一口含んだ。


「ええ……」


わずかに頷く。


「確かに、敵かもしれませんね……」


カップを傾ける。


その仕草は、どこまでも優雅だった。


「ですが――」


ほんのわずかに、視線を細める。


「敵よりも先に始末した方がいい存在も、いるのですよ」


エリカが眉をひそめる。


「……例えば?」


バルサは、軽く肩をすくめた。


「例えば――」


ほんの一瞬、間を置いて。


「ゴミとか?」


静かに言い放つ。


そのまま、もう一口コーヒーを飲む。


沈黙。


「……はあ?」


エリカが呆れた声を出す。


アユミは、何も言えなかった。


その言葉が、冗談なのか本気なのか――


判断がつかなかったからだ。


バルサは、それ以上何も言わない。


ただ、静かにコーヒーを飲んでいる。


まるで、それ以上話す価値はないとでも言うように。


「……ほんと、意味わかんないわね」


エリカが小さく吐き捨てる。


だが――


それ以上、追及はしなかった。


病室は、再びいつもの騒がしさへと戻る。


だが。


その奥で――


確実に、何かが変わっていた。



(そして、その裏側で――)



澄みきった光の世界。


境界すら曖昧な空間の中に、


いくつもの“光の面”が浮かんでいる。


そのひとつに――


先ほどのやり取りが、正確に映し出されていた。


音はない。


ただ、すべてが記録されている。


その前に、一人。


光そのもののような存在が、静かに立っていた。


視線が、ゆっくりと動く。


アユミ。


エリカ。


そして――バルサ。


順に、なぞる。


ほんのわずかに、口元が動いた。


「……なるほど」


小さな声。


それは、評価に近い。


「逸脱を確認」


間。


「だが――」


わずかに細められる視線。


「興味深い」


光の面が、静かに消える。


だが、空間の光は変わらない。


その中で――


ほんのわずかに、微笑んだ。



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