第22話:また頼まれる
我慢はした。
したが――限界というものは、どんな人間にもある。
「……いや、これ我慢しろって方が無理だろ」
思わず本音が漏れる。
目の前に広がるのは、相変わらず理性を試しにきているとしか思えないレベルの素材の山であり、しかもそれらが好きに使っていいという前提で置かれている以上、〈鍛冶師〉としての本能がブレーキを踏むわけがない。
「クロム殿。何度も言うが選別というものを――」
「してるしてる。ちゃんと厳選してるって」
背後から呆れた声を投げてくるエリシアに対して、俺は極めて真剣な顔で答える。
「俺基準で使えるかどうかをな」
「それは選別とは言わない」
即座に否定された。
解せぬ。
とはいえ、さすがにさっきの国王の視線は無視できないので、あからさまに手当たり次第ぶち込むのはやめ、多少は考えている風を装いながら素材を回収することにした。
……いやまあ、結果的に腕輪の中身がだいぶ充実したのは否定しないけど。
「ふぅ……とりあえず、こんなもんか」
満足げに息を吐く。
控えめに言って、しばらく素材には困らないどころか、むしろ処理しきれるかどうかが問題なレベルだ。
「満足したか?」
「ああ、最高だな。また素材が溜まったころに来るわ」
「勘弁してくれ……」
即答だった。
ですよね。まあ、契約だからまた来るけど。その時は国が管理している方にでも行こう。
そんなやり取りをしていると、国王――エドリックが一歩前に出る。
「さて、約束の件だが」
ああ、工房の話か。
「約束通り、クロム殿の住むローヴァの村に、最新の設備を備えた工房を建設する準備を進めている」
「お、マジで?」
それは普通にありがたい。
最新の工房というのがどういうものなのか、気になっていた。
「近いうちに、エリシアと職人たちを派遣する予定だ」
「へぇ……」
そこで、ふと気づく。
「……なんでエリシアも来るんだ?」
エリシアは軍人だ。
職人ではないから関係ないと思うが。
「私も同行する」
当の本人が、当たり前のように頷く。
「ローヴァは辺境だ。魔境と接している分、未開発の領域も多い。調査と、将来的な開拓の可能性を見極める必要がある」
「なるほどね」
つまり、ついでに調べるってことか。
まあ、国としては当然の判断だろう。
「別にいいぞ。便利になるなら歓迎だしな」
「感謝する」
エリシアが短く答える。
――で、だ。
話はそれで終わりかと思ったその時、国王が少しだけ表情を変えた。
「もう一つ、頼みがある」
「ん?」
国王の〝頼み〟と聞いて、俺は嫌な予感しかしない。
「クロム殿の作る武器――それを、我が国に売ってほしい」
やっぱり来たか。
内心でため息をつく。
「……断る、って言ったら?」
「無理強いはしない」
即答ではなかったが、迷いもなかった。
「だが、話だけは聞いてほしい」
真っ直ぐな視線。
ふざけている様子は一切ない。
「グラントから報告は受けている。クロム殿の武器が、どれほど戦局に影響を与えたかをな」
まあ、自重などしていなかったので、報告はされているとは思っていた。
俺は試し斬りが出来ればそれでよかったから。
「さらにシルフィア殿にあげた剣だ」
折れて使い物にならないから、代わりにあげたのを覚えている。
「氷晶剣グラキエスのことか?」
頷く国王。
「先日、見せてもらった。氷属性の強い魔剣だ。本人も喜んでいた。それに「とても強力な剣だ」とも」
ああ、なるほど。
「あれは、クロム殿の中ではどう評価している?」
俺はシルフィアに言ったことと、同じことを言った。
「氷を纏っているだけで、面白味もない魔剣。この『収納の腕輪』を作るまでは、家でモノを冷蔵するための冷却器として使っていたな」
その言葉に、国王とエリシアが絶句といった表情を浮かべていた。
何を言いたいのか理解できるが、俺にとってはその程度の価値・評価でしかない。
「なんと……では、量産などは……?」
その言葉に、国王の頼みの意味を理解した。
恐らくだが、魔剣を量産して兵に持たせたいのだろう。
「俺、基本一点モノ主義なんだよ。量産とか向いてねぇし、やりたくもない。俺はただ、作って試して、強化する。その過程が好きなんだよ」
だから、俺はローヴァでの生活が気に入っていた。
いや、手に入れたと言っていい。
ゆえに、その生活だけは守り通す。
「……素材は、こちらですべて用意する」
被せるように言われる。
「貴殿が望むだけの素材を、だ」
「……ほう?」
ちょっとだけ、興味が湧く。
「それでも嫌か?」
試すような言い方。
さて、どうするか。
少しだけ考える。
武器を作るのは好きだ。
だが、誰かのために量産するってなると話は別だ。
どうしても作業感が出て、能力なども一緒で楽しくないのだ。
「……条件付きならいいぞ」
ため息交じりに答える。
「条件?」
「報酬だ」
にやり、と笑う。
「一つ。ローヴァの村、徹底的に整備しろ。開拓もインフラも全部込みでな。中途半端は許さねぇぞ」
「……なるほど」
国王が目を細める。
「武器と引き換えに、拠点の強化か」
「ついでに住みやすくなるしな。一石二鳥だろ?」
エリシアも隣で「父上、悪くない条件です」と話している。
少しして国王は頷いた。
「いいだろう。それで一つということ、もう一つあるのだろう? それが本命だと思うのだが」
よくわかっていらっしゃる。
俺は「その通り」と頷き、二つ目の条件を提示する。
「二つ目は、〝量産しない〟しない。ということ」
「なっ!? それでは――」
エリシアが何かを言おうとして、俺は遮る。
「まだ続きだぞ」
押し黙るエリシアを見て、俺は言葉を続ける。
「何度も言うが、俺は一点物しか作らない」
「つまり、量産はしないが、都度注文は受け付けると?」
「その通り。俺の気分にもよるが、扱う者に見合った専用の剣を打ってやる。使用者は数回でいいから、武器の感想を俺に送ること」
量産はできないが、騎士団長クラスの者に装備させることができる。
加えて、フィードバックをもらえれば、一石二鳥だ。今後武器を打つときの役に立つ。
俺の時間が奪われることは少なく、王国は武器を得られるという悪くない条件だと思うがね。
「それと報酬だが、追加で少しの報酬金をもらえればいい」
「ふむ。生活費といったところか?」
「ああ」
暫しの思案の後、国王は深く頷いて答えた。
「その条件、受け入れよう」
交渉成立、だな。
「じゃあ契約成立だ。ま、期待すんなよ? 気が向いたときにしか作らねぇから」
「それでも構わない」
むしろ、それでいいといった様子だ。
ま、いいか。
素材は増えるし、拠点も強化される。
「……さて、帰ったらどうすっかな」
そう呟き、倉庫をあとにするのだった。




