第20話:最高傑作
さて、と。
目の前では、さっきまで勝ち誇った顔をしていた帝国の魔物使いが、魂でも抜けたみたいな顔でこちらを見つめたまま固まっているわけだが、正直なところ俺としてはそっちよりも、手にしたこの一振りの評価をしたい。
「……やっぱいいな、これ」
軽く手首を返し、刃を傾けるも、血は付いていない。
いや、正確には付着する前に斬れてしまうから、結果として汚れなかっただけだ。
さっき両断したSランクの魔物二匹。
あれだけの質量を持った個体を斬ったにも関わらず、刃こぼれはおろか微細な歪みすら存在しない。
これだから、無駄を削ぎ落とした純粋な刀ってやつはやめられない。
「属性なし、付加効果なし。ただし希少素材と鍛造精度を限界まで突き詰めた一本、ってな」
芯に据えたのは、千年に一度、霊脈の核でのみ結晶化する『霊鋼』。
刃には、月蝕の夜にのみ採取される『虚銀』を主材とした銀系秘合金を、数百層にも及ぶ積層で重ねている。常の鍛造では決して接合し得ぬそれらを繋いでいるのは、熱ではなく、技術と魂だ。
さらに鍛錬の最終段階。
炉の火を落とす寸前、砕いた『精霊石』の粉末をわずかに叩き込み、刃の内部に〝魔力の道〟を刻み込む。
制作には数カ月かかり、行われる鍛錬はすべて霊脈が重なる地、魔境の最深部で行われる。
完成したそれは、振るわれた瞬間に発生する魔力の奔流は一切の乱れを許さず、ただ一点、斬るべき対象へと収束する。
「要するに――ただ、斬るための理屈だけを詰め込んだ刀だ」
それだけだ。
それだけなんだが、これが一番難しい。
余計な機構やロマンを詰め込む方が、実は楽なんだよな。
「な、なんなのだ、その剣は!?」
叫ぶ男を前に、俺はこの刀の名前を教えた。
「霊刀・鈴之羽々斬。鈴の音が穢れを祓うように、この刃はすべてを断つ。余計な力はいらねぇ。すべてを澄ませ、正しく断つ」
「……ふ、ふざけるなぁッ!!」
現実逃避気味の思考をぶった切るように、男が叫んだ。
「そんな……そんな剣があってたまるか! 貴様のような――ただの〈鍛冶師〉がァッ!!」
ああ、来た来た。このパターン。職業で格付けしてくるやつ。
嫌いじゃない、むしろわかりやすくて助かる。
「へぇ、〈鍛冶師〉は戦えないって思ってるクチか?」
「当たり前だろうが! 武器に頼るだけの連中が――!」
叫びながら、男が短剣を抜いて突っ込んでくる。
……うん、なるほど。武器頼り、ね。
「まあ、その認識は半分くらい合ってる」
一歩だけ、踏み出す。
距離が詰まる。
男の視界から、俺の姿が消える。
「――え?」
間の抜けた声。
次の瞬間、俺の手刀が男の首筋に叩き込まれた。
ゴン、と鈍い音。
男の身体がぐらりと揺れ、そのまま糸の切れた人形みたいに崩れ落ちる。
「〈鍛冶師〉が戦えないって、誰が決めたんだ? 俺は自作の武器で試し斬りして、素材も自力で調達だ。ゆえに戦闘スキルも磨かれている。相手が悪かったな」
気絶を確認して、肩を軽く回す。
「一応、情報源だしな。殺すのは後でもできる」
さて、と。
視線を落とすと、男の手元にあった魔導具――水晶のようなものが転がっている。
「これが制御装置か?」
拾い上げて、軽く眺める。
内部に魔力の流れが渦巻いていて、どうやらこれを媒介にして魔物へ指示を飛ばしていたらしい。
「……壊すのは簡単だが」
指先に力を込めれば、それだけで砕けるだろう。
だが、それをしてしまえば戦場で魔物が暴れ出すことになり、余計にカオスな状況になってしまう。
ならばだ。
「これ、逆に使えないか?」
ふと、そんな考えが浮かぶ。
魔境での狩り。
効率の悪さは前から感じていた。
バラバラに湧く魔物を一体ずつ探して潰すより、こうやって集められるなら……。
「……いや、さすがに倫理的にアウトか?」
一瞬だけ悩む。
いやでも相手魔物だしな。
人間じゃないし。
「……よし、保留」
結論、俺はみんなに黙って持って帰るという判断をした。
壊すのはいつでもできる。
「とりあえず、今は魔物を止めるか」
とりえず、水晶に魔力を流し込んでみる。反応はないが、男が何か命令していたのを思い出す。
「うーん、〝止まれ〟……とか?」
反応がないと思った次の瞬間だった。
「……お、ビンゴか?」
周囲の気配が、変わる。
あれだけ統制されていた魔物たちの動きが、一気に散漫になる。
さらに、軽く誘導をかける。
「ほらほら、元居た場所に帰れ帰れ」
雑な操作だが、十分だ。
魔物たちは徐々に戦場から離れ、森の奥へと散っていく。
「洗脳ってほどでもないな、ただの指示強制か」
まあ、だからこそ外せたんだろうけど。
「よし、任務完了っと」
気絶した男の首根っこを掴む。
軽いな。
さては鍛えてないタイプだな?
「さて、戻るか」
地面を蹴って駆け出す。
途中、抵抗らしい抵抗もなくなった魔物の残骸を踏み越えながら、俺は左翼戦線へと帰還した。
「……終わった、のか?」
戦場に戻ると、そこにはさっきまでの地獄みたいな光景はなく、代わりに疲労の色を隠せない騎士たちが、その場に立ち尽くしていた。
そして、その中心に。
「クロム殿」
シルフィアが、こちらへ歩み寄ってくる。
氷晶剣――『氷晶剣グラキエス』を手にしたまま、その姿勢は崩れていないが、さすがに消耗はしているようだ。
「魔物の動きが止まった。……クロム殿の仕業か」
「まあな」
肩に担いでいた荷物を、どさりと地面に放る。
「例の元締め、捕まえてきた」
「……帝国兵か」
シルフィアの視線が鋭くなる。
「それと、その道具で魔物を操ってた。さっき止めたから大丈夫だろう」
「なるほど……」
一瞬の思考。
そして、頷く。
「現状、帝国軍に大きな動きはない。おそらく、この魔物による攪乱後、攻撃を仕掛けるつもりだったのだろうが……」
「潰したから失敗だろうな。上も困っているんじゃないかな」
口元が自然と歪む。
「……好機、か」
シルフィアの目が細められる。
「俺は本陣に戻る。報告と捕虜の引き渡しだな」
「了解した」
こういう判断の速さは、ほんと助かる。
そのまま部隊をまとめ、俺は王国軍本陣へと帰還した。
「――なるほど」
本陣、天幕内。
報告を聞いたグラントは、静かに目を細めた。
「魔物の統制を断ち、その術者も確保した、か」
「ああ」
俺はだらけた姿勢のまま、口元だけで笑う。
「作戦がコケて、帝国軍は静かだ。あんな声を上げていたのに、ずいぶん素直になったもんだ」
俺は机に脚を乗せ、深く椅子にもたれた。
刺すような視線が飛んでくるが、知ったことか。
「お膳立てしてやったんだ。あとは煮るなり焼くなり好きにしろ。俺はもう働かないぞ」
「感謝する。ゆっくりしているといい」
グラントがゆっくりと立ち上がる。
「そうそう。焼いてもいいが――焦がすなよ?」
「心配無用だ」
その目に宿るのは、明確な決断。
「全軍に伝令」
その一言で、空気が引き締まる。
「――総攻撃を開始する」
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