第18話:収穫祭
さて、収穫祭も中盤戦といったところか、などと場違いにもほどがある感想を胸中で転がしながら、俺は相変わらず血と肉片が飛び交う戦場のど真ん中で、せっせと素材の回収――もとい魔物の駆除に励んでいた。
戦争中だというのに、素材回収に勤しむなんて感心すら覚えるね、いやほんと。
目の前で牙を剥いて飛びかかってきた狼型の魔物を、半歩だけ身体を捻って躱し、そのまま手にした『血鍛喰刃』で胴体ごと噛み砕くように振り抜いた。
骨の砕ける鈍い音とともに魔物はあっさりと命を刈り取られ、ついでに魔力と血肉もごっそりと持っていかれるわけだが――うん、やっぱりこの剣、倫理観を削り取ってくる。
「おい、あんまり調子に乗るなよ。主導権はこっちだ」
ギヂィ、と刃が軋むような音を立てて応じるあたり、ほんとに質が悪い。
そんなやり取りをしている最中、ふと背後――というか左後方から、明らかに統制の取れた気配と、魔力の波が近づいてくるのを感じ取った。
「……必要ないって言ったのに、増援か?」
振り返るまでもない。
この戦場で、あの密度と整然さを両立させた気配を放てる連中なんて限られている。
そして案の定、次の瞬間には鋭く、それでいてよく通る声が響いた。
「第五騎士団、展開! 前列は防御陣形、後列は魔法支援――対象は前方魔物群! 一体も通すな!」
視線を向ければ、銀髪をなびかせながら前線へと躍り出るシルフィア。
魔力を纏ったその姿は、戦場の喧騒の中にあってなお異質なまでに整っていて、なるほどこれは兵士たちが従うわけだと妙に納得させられる。
「クロム殿!」
俺を視認すると同時に、彼女は迷いなくこちらへ駆け寄ってくる。
「援護に来た。状況は把握している」
「そりゃ助かる――が」
俺は軽く肩を竦めながら、周囲に転がる〝成果物〟を顎で示す。
「俺が倒した分の魔物は、全部貰うぞ」
「構わない」
即答だった。
間髪入れず、迷いもない。
「……いいのかよ」
「戦果の配分は合理的であるべきだ。貴殿の働きが突出している以上、異論はない」
うん、相変わらずブレねぇなこの人。
そして多分、今の発言で周囲の騎士たちはちょっと複雑な顔してるだろうけど、団長がこう言ってる以上、文句は出ないだろう。
「よし、交渉成立だ。憂いがなくなったってことで、遠慮なく暴れさせてもらうぞ」
「既に暴れているように見えるが……」
「細けぇことは気にすんな」
軽口を叩きながら、再び前へ出る。
その横を、冷気が走った。
シルフィアが剣を振るう。
その一閃と同時に、空気中の水分が瞬時に凍結し、刃の軌跡に沿って氷の刃が伸びるように魔物を貫いた。
続けざまに放たれる氷槍、地面を凍結させて足を止める拘束、そしてそれを正確に斬り伏せる剣技。
なるほど、ただの前衛じゃない、魔剣士タイプか。
「へぇ……やるじゃん」
思わず感心が漏れる。
「当然だ。私は〈聖騎士〉であり、第五騎士団を預かる身として、最低限の戦闘力は保持している」
「その最低限の基準、絶対おかしいだろ」
とはいえ、〈聖騎士〉ということもあり、その実力は本物だ。
俺が削った前線を、きっちりと押し広げ、取りこぼしを確実に処理していく。
――で、だ。
「クロム殿、その剣」
戦闘の合間、シルフィアの視線がこちらの大剣に向けられる。
「……随分と、異質だな」
「あー、これか?」
俺は軽く持ち上げて見せる。
刃がわずかに呼吸するように蠢いた。
「見ての通り、ちょっとした問題児でな……欲しいのか?」
「強力そうに見える」
正直でよろしい。
「やめとけ。これ、使い手の精神削るタイプの呪われた魔剣だぞ。腹減るし、下手すりゃ精神が乗っ取られる」
「……却下だな」
即座に引かれた。
距離まで一歩分下がった気がする。
「よくそんなものを使えるな」
「無理やり黙らせてるだけだ。ほら」
軽く刃を叩くと、ぎちり、と不満げな音が返る。
「従わなかったら廃棄して鉄の塊に戻すぞって」
「……理解したくない理屈だ」
そりゃそうだ。
対して彼女の剣は特別な輝きはない。
魔力を帯びてはいるが、それだけ。
「そっちのは?」
「手に入れた剣だ。業物ではある」
なるほど、確かに悪くはない。
魔力伝導、耐久性、加工精度――どれも一定水準には達している。
「……普通だな」
「これが普通だと?」
「俺基準だと中の下くらい」
ぴく、と眉が動いた。
怒りというより、納得のいかない顔だ。
しかし、そんな会話をしている最中だった。
ガギンッ、と嫌な音。
「っ――!」
シルフィアが相対していたAランク個体の一撃を受け止めた瞬間、その剣の刃に亀裂が入った。
「おいおい、マジか」
使って手入れもしていたのだろうが、この程度。Aランク相手に正面から受ければ、そりゃ持たない。
だが、この隙は致命的だ。
魔物が追撃に入る、その刹那。
「シルフィア、これを使え!」
俺は『収納の腕輪』から一本を引き抜き、そのままシルフィアに投げた。
一直線に飛ぶ剣を、シルフィアは迷いなくそれを掴み――
「――っ!?」
振るった。
次の瞬間、魔物が、まるで紙のように断ち切られて宙を舞った。
凍りつくような斬撃。
刃が通った軌跡に、遅れて白い霜が走る。
「……これは」
驚愕の色が、はっきりと浮かぶ。
「よく斬れるだろ?」
「……ああ。信じがたいほどに。先ほどの剣とはまるで別物だ。使ってもいいのか? 貴重な剣なのだろう?」
そう言ってシルフィアは剣を見る。
俺がシルフィアに渡したのは、斬れ味・強度・魔力伝導性・氷属性強化を重点的に鍛えられた白を基調とした剣。
剣身は氷で出来ており、常に冷気を纏っている。
「俺にとっては氷を纏っているだけで、面白味もない魔剣だ」
だから一回使っただけで、それ以降使わなくなて『収納の腕輪』の中で腐っていた。
まあ、冷蔵庫の冷却機能としては使えそうだ。
「銘は『氷晶剣グラキエス』。氷の魔剣だ。お前にぴったりだろう?」
「なっ、これほどの――」
何か言いかけているが、無視だ。
「それお前にやるよ。後で感想聞かせろよ」
それだけ言って、俺は再び前へ出る。
戦闘は続く。
騎士団の加入で確実に押し返してはいるが――
「……妙だな」
数は減っているが、統率が崩れない。
普通なら、この規模でこれだけ削れば、どこかで瓦解して逃げて行く。
「シルフィア!」
「何だ!」
「誰かが魔物を操ってる」
短く告げる。
「……根拠は?」
「勘と魔境での経験と、あと空気感」
我ながら雑だが、間違いない。
「普通なら魔物が逃げていてもおかしくはない。どこかに指揮系統がある」
「……了解した」
即座に理解した顔になるあたり、やっぱ優秀だ。
「じゃあ――」
俺は笑う。
「ちょっとその元締め、潰してくるわ」
「単独行動か!?」
「すぐ戻る」
地面を蹴る。
「それまで任せるぜ!」
魔物を蹴散らし、裂き、吹き飛ばしながら、俺はその気配のある方角へと、一気に駆け出したのだった。
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