13-3:新たな旅立ち
森を後にし、ゆるい勾配のついた坂を下ったクロトールは、自分を待つ三つの人影に出くわした。三つの人影のうち、二人は自分の足で立っているが、あとの一人は怪我をしているため、馬に乗っている。
そう、彼らは<黒鉛の森林>で出会った仲間たち——<永遠の夜明け>のエイレナ、フェリックス、ミアの三人だ。
「お前の神には会えたか?」
未だ戦いの傷を抱えるエイレナが、馬の上からクロトールに尋ねた。彼女が乗っている馬は、森の戦士のイヴォが以前所有していた黒毛馬だ。イヴォはファリオンを失い、ふさぎ込んでいたクロトールを励ますために、自分の馬を譲ったのだった。
そしてイヴォ自身は、新たな生き方を模索するためにどこかへ旅立った。行き先は聞かなかったが、彼とは再びどこかで会えるような気がする。
「ああ。ようやくな」
クロトールは、森で起きた出来事を思い返しながら答えた。それ以上を口にするのはやめておいた。あれは自分と神だけの”対話”だ。誰かに簡単に教えられるものではない。
「待たせてしまって、悪かった。時間をつぶすのは大変だったんじゃないか? 特にフェリックスは」
「いや、そうでもないぞ」
フェリックスは、辺りに咲く野花に負けないくらい陽気に答えた。
「あんたを待っている間は、ミアを手伝って薬草を集めていたんだ。そのせいで、少し膝が痛くなったけどな」
「この地域は素材の宝庫ですね。<黒鉛の森林>と同じくらい恵まれていますよ」
よほど大収穫だったのか、ミアの声は普段より弾んで聞こえた。
「珍しい植物もいくつか手に入りました。これらを市場で売れば、次の旅の資金は十分に賄えるでしょう」
「次の旅か」
クロトールは、ミアの言葉をぼんやりと繰り返した。
「あなた方はこの後、どこへ向かうつもりなんだ? 帝国の首都に出かけて、薬草の売買でもするのか?」
「いや、我々はこれ以上、帝国内に留まる気はない」
エイレナがかぶりを振って答えた。
「我々は、逃げたドラゴンを追うつもりだ。ヤンクログから預かった遺言を、無下にはできないのでな」
「<永遠の夜明け>は、律儀な集団だな。神々にどこまでも忠実だ」
クロトールは心からの賛辞を述べた。エイレナたちが属する集団については依然謎が多いが、少なくとも邪悪な人々ではなさそうだと、これまでの経験が教えてくれる。
エイレナはクロトールの言葉を受け取ると、珍しく気恥ずかしそうに笑った。
「それは少し違うな。我々は神々ではなく、組織の教えに忠実なのだ。お前も組織の命令に従って、ノガタスを倒しただろう? それとほとんど同じだ」
「確かにな。これまで私は組織の中で生きてきたし、それが正しい生き方だと思ってきた」
クロトールは言った。
「だが、これからはそうじゃない」
今の一言に不穏なものを感じたのか、エイレナとフェリックスは、訝るように目を細めた。一方、ゴーレムのミアは状況を上手く理解できないのか、答えを求めるように辺りを見回している。
「私は自分を救ってくれた神に、一生の恩義を感じていた。だが、その神が異教の神ではないかと疑い始めた時、信仰は大きく揺らいだ。だが、ここに来て一つ、分かったことがある」
そこまで言うと、クロトールは自分が背後に残してきた森を振り返った。幼少期の頃とほとんど変わらぬ森。しかし数百年単位で考えれば、あの森も確実に変化しているのだ。文明や人々、そして——今の自分と同じように。
「私はようやく分かった。信じるべきは他でもない、私を助けてくれた神だけなのだと。その神が帝国の神であっても、異教の神であっても構わない。妙な考えに思われるかもしれないが」
「別にいいんじゃないか」
真っ先に反応したのはフェリックスだった。
「俺を含めて、リベロニア人は宗教に寛容なんだ。何せ自由都市の民だからな」
「わたしもフェリックスと同意見だが、ミアはどう思う?」
マスターであるエイレナから話題を振られると、ゴーレムのミアは少し気まずそうに肩をすくめた。
「ごめんなさい。今の話は私には難しいようです。ただ、クロトールは元々、行動に一貫性のある人です。心にまっすぐな芯が伸びているような感じで、それは今も失われていないように思います」
「前に、似たようなことを言われたな。あなたには芯のようなものがあると」
クロトールは、かつてクー・ファディルのロイガーから言われた言葉を思い出した。あの当時、己の信仰は今ほど揺らいではいなかったが、忖度を知らないミアが同じように言うのなら、新たに宿した信仰は前とそれほど変わらないのかもしれない。
「それなら、これでいいんだな。他でもない、私自身の神を信じるという生き方で。しかし、このような考え方は、帝国では異端どころか、背教にあたるかもしれないな」
「そうかもしれんな。今後は同業者との論争は避けるべきだろう」
エイレナはまたもや笑った。
「お前は組織に敵が多いのだろう? 下手に喋れば、相手に利用されるぞ」
「分かっている。だから首都には戻らない。今後、進む道は自分で選ぶつもりだ」
クロトールは、それまでの過去を断ち切るように、はっきりと述べた。
「私は組織には戻らない。正しい道を歩んでいれば、神は運命という形で自然に応えてくれるからだ。<黒鉛の森林>を訪れたのも、あなた方と出会ったのも、ファリオンが最後に助けにきてくれたのも、神の導きがあったからだ。全ての出来事には意味があると私は信じる。今までがそうだったし、きっとこれからもそうだ」
「待ってくれ、爺さん。ちょっと言いにくいんだが、俺もミアと同じで、話についていけなくなってきた」
フェリックスが両手を振りかざして、話を中断させた。
「もっと分かるように言ってくれないか? 組織に戻らないなら、あんたはこれからどうするつもりなんだ?」
「分からなかったのか、フェリックス? わたしは今の言葉で大体分かったぞ」
エイレナがのぞき込むようにして尋ねると、フェリックスは機嫌を損ねて鼻を鳴らした。
「自慢はよしてくれ。俺もミアも、ちゃんとした答えを待っているんだ。そうだろう、ミア?」
ミアがおずおずとうなずくのを見たクロトールは、エイレナ以外の二人にも理解できるよう、はっきり教えてやることにした。答えを聞いた二人がどんな反応をするか、想像を巡らせながら——きっと彼らは驚くだろう。
「私はあなた方とともに行く。ノガタスのドラゴンにケリをつけるのは、私の役目だ」
(完)
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!
本作を最後まで公開できたのは、皆さんの応援のおかげです。
今作のラスト、次回に続くような終わり方をしておりますが、続編については今のところ製作途中となっております(現在は別の新作と同時並行で執筆を進めております)。
続編の執筆ペースは非常にゆっくりですが、もし「続編を早く読みたい」などの要望がある場合は、ぜひコメントにてお知らせください。速度にブーストをかけます。
改めて、読者の皆様、今までありがとうございました!




