6-4:ルキウス・アルコニウス・ノガタス
村を出発した一行が茂みの中を移動していると、偵察係のフェリックスが芳しくない表情で戻ってきた。彼は下草にブーツをこすりつけて汚れを落とすと、ズボンの側面で手を拭きながら、次のように言った。
「お手上げだ。これ以上は追跡できない。痕跡は消えてしまった」
「どういうことだ、フェリックス? ドラゴンやヤンクログの足跡すら見つからないというのか?」
エイレナが納得いかない様子で尋ねた。こうして立ち止まるまで、一行は森の中を順調に移動していた。ドラゴンとヤンクログが、追跡に役立つ手がかりをいくつも残していたためだ。それゆえ、これらの痕跡を辛抱強くたどっていけば、じきに居場所を見つけられるだろうと、ある種楽観的に考えていた。
「そうだ。だって、見つけようがないんだから」
フェリックスはいたって真面目に答えた。
「信じられないなら、ついて来てくれ。実際に見てみれば納得するだろう」
案内されるまま進むと、狩人のフェリックスさえ追跡できない理由が明らかになった。崖だ。深い渓谷が森を東西に分断し、間に川を作っている。その幅は翼でも生えない限り、渡るのが不可能なほどだ。
「たぶん、あのデカブツたちはこの谷を飛び越えたんだ」
フェリックスが指し示す反対側の渓谷には、枝が不自然に折れ曲がってできた空洞があった。それはまさしく、ドラゴンとヤンクログが通った跡だった。
「人の足跡は、ここでばらばらになっている。どうやら、森の戦士も置いていかれて困ったみたいだな。人間はここからは進めない。別の方法を探さないと」
「別の方法? 我々全員に翼が生えるのを待つとでも言うのか?」
エイレナの皮肉に対抗すべく、クロトールは懐の地図を広げてみたが、大して役に立たなかった。クー・ファディルから先の紙面はほぼ空白で、それは<黒鉛の森林>の東側が、帝国人にとって未知の領域であることを示していた。
「向こうに渡る道を探すしかないな。運が良ければ、浅瀬や橋に行き着くかもしれない」
クロトールは、地図を懐にしまった後、言った。
「気をつけて進もう。渡れそうな場所を見つけたら教えてくれ。見落としがないようにしたい」
四人は木陰に身を隠しながら渓谷の縁を進んでいった。クロトールは主に右側、すなわち谷の方角に注意を向けて歩いたが、下の方は極力見ないようにした。崖上から川底までの距離を意識するたび、胃を鷲掴みされたような気分になるからだ。
「野営についてはどうしますか、マスター?」
一団の最後尾を歩くミアが、エイレナに小声で尋ねた。彼女は敵に気づかれることを警戒してか、声量を最小限に留めていた。
「私たちがこの地域を通るのは初めてのはずです。どこに危険があるか分からない中で、休息できる場所が見つかるでしょうか?」
「最悪、クー・ファディルに戻ることも考えるべきだろうな」
答えるエイレナも声を潜めていた。
「とにかく、日没までは探索を続けよう。空白の地図を書き足すように、周辺を少しずつ把握していくのだ。いきなり猛獣の輪に飛び込むような事態は避けたいからな」
ミアはエイレナの言葉を最後まで聞くと、首を傾げた。
「猛獣? それはヤンクログのことですか?」
「いや、これはあくまで例え、比喩の話だ」
その後、エイレナはクロトールのそばに来ると、
「ミアの対話能力は日々進歩しているが、それでも完璧には程遠いな」
と言って苦笑した。前方を偵察していたフェリックスが、ただならぬ表情で戻ってきたのはその時だった。
「止まった方がいい。この先の空き地に、大勢の<森の民>がいる」
「大勢? どれくらいだ?」
エイレナが眉を寄せて尋ねると、フェリックスは、
「数え切れないくらいたくさん、って意味さ」
と肩をすくめて答えた。
「ただ、全員が武装しているわけじゃない。女や子供に、老人もいた。連中は言い争ってるみたいだった。怒鳴り声がしょっちゅう聞こえて——」
クロトールは、戦いに備えて服装を整えつつ、エイレナの方を見た。
「どうする、エイレナ? この集団のリーダーはあなただ。迂回するか、それとも様子を見に行くか?」
エイレナはしばらくの間、無言で考えていた。彼女の心は、この先で起きている出来事を知りたい欲求と、仲間に降りかかるリスクの間で揺れていた。
やがて彼女は言った。
「少し近づいてみよう。向こうで何が起きているか知りたい」
一行は物音を立てないよう、細心の注意を払いながら進んだ。馬のファリオンは人目につかない場所で待機させることにした。あの馬は大抵の場合大人しいが、念のためだ。
フェリックスの報告通り、空き地にはたくさんの<森の民>がいた。ざっと全体を確認したところ、彼らは一つのグループではなく、おおむね二つの勢力に分かれているようだった。二つのうち一つは、女や子供が混ざった非力な集団で、誰もが怯えているように見える。もう一つは斧や弓をちらつかせた、森の戦士の集団だ。
四人が到着した時点で、非力な集団の代表らしき老人が、戦士の一人と言い争いをしていた。しかし、彼らは<森の民>の言葉で話しているため、会話の中身は分からない。
「ミア、今一度君の才能に頼りたい。彼らの話を聞き取れるか?」
クロトールが尋ねると、ミアは怒鳴り合う老人と戦士の方に目を向けながら、
「男たちは老人に金品を要求しているようです」
と答えた。
「子供を連れていく、とも言っています。若いうちに鍛えて、我々の仲間にすると。そして、逆らえば誰かが死ぬと」
「つまり、俺たちは強盗と人さらいの現場に居合わせたわけだな」
フェリックスが今にも舌打ちしそうな顔で言った。
「森の戦士が、弱い連中から宝を奪おうとしているんだ」
よくよく見ると、怯える非力な集団の周りを、武器を持った戦士が取り囲むように回っている。か弱き者たちは退路を断たれた状態で脅しをかけられており、選択肢は最初からないも同然だった。
「あの話をしている老人には、見覚えがある」
エイレナが、非力な集団の代表者を見ながらつぶやいた。
「以前、我々が助けた放浪民の長老だ。そうだろう、フェリックス?」
「そうだっけ? 人を覚えるのはあんまり得意じゃないからな」
フェリックスの回答は全くもって役に立たなかったが、ここで記憶力に優れるミアが口を挟んだ。
「私は覚えていますよ。あの老人は確かに放浪民の長老で、クロトール以外は彼と面識があります」
「ミアがそう言うなら、信頼できるな」
クロトールはうなずいた。
「あの非力な集団の正体は、放浪民ということか。ではどうする、エイレナ? 知り合いが目の前で困っているのであれば——」
「助けたいのはやまやまだが、いかんせん数が多すぎる」
エイレナがクロトールの言葉におっかぶせて言った。
「戦士はここから見えるだけで十人。奴らが一斉に襲いかかってきたら、数の面でこちらが不利だ」




