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5-6:クー・ファディルにて

 起きた結果を考えれば、一行を村に入れたガロン隊長の判断は正しかったと言える。あのまま外にいたら、今頃は襲撃者と鉢合わせて、袋叩きにあっていたことだろう。おかげで最悪の事態は免れたといえるが、それでも状況は安泰には程遠い。敵は壊れかけた防柵から侵入を試みようとするだろう。村の外壁には、常に気を配らなければならない。


 襲撃者たちは村の弱点をすでに見抜いており、傷んだ外壁に斧を打ちつけ、入り口を突破しようとしていた。クロトールとフェリックスが村の西側に到着したのは、まさにそんな時だった。


 この時、クロトールは森の戦士を初めて目にした。帝国に憎しみを抱いて戦うゲリラ兵。彼らの武器はどれも刃こぼれしていて、防具は過去の戦利品の寄せ集めでしかなかった。まさしく持たざる者の身なりではあったが、その目は帝国人に対する復讐心と、反転攻勢を目指す野心にあふれていた。


「空の荷台を持って来い! 侵入口を塞ぐんだ!」


 黒ずんだ見張り台の上から、ガロン隊長が大声で指示した。彼は部下や村人を指揮するかたわら、弓矢で敵をけん制していた。だが努力虚しく、外壁は破壊される寸前にあった。三つ編み髭を生やした森の戦士の一人が、壁の隙間に足をかけて、村に踏み入ろうとしている。


 そんな時、クロトールは不意にヒュン、と鳴る空気の音を耳元で聞いた。音がした直後、三つ編み髭の戦士は両目を大きく見開き、声を一言も発することなく突っ伏した。それもそのはず、今や死体となった男の首には、狙いの正確な一本の矢が刺さっていたのだ。それは後方にいたフェリックスが、とっさの判断で放った矢だった。


 敵が倒れるのを見たガロン隊長が、頭上で賞賛の口笛を吹き、叫んだ。


「やるな! 次も同じように頼むぞ」


 森の戦士が攻勢をかけているのは、この場所だけではなかった。奴らは部隊を複数に分け、守りの手薄な箇所を一斉に攻めていた。やがて傾いた南西の防柵を越えて、新たな敵が現れた。たまたま近くにいた弓兵は応戦する間もなく斬られ、息絶えた。


「南西から敵が侵入! 歩兵は急行せよ!」


 ガロン隊長はただちに命令を下したが、兵士たちが駆けつけるには時間がかかる。戦いは避けられないと悟ったクロトールは、ついに鞘から<誇り>を引き抜いた。


「そっちは任せたぞ、フェリックス。私は向こうの相手をする」


 すると、ちょうど三人目を射落としたフェリックスが、顔色を変えてクロトールを見返した。


「本気か、爺さん?」


 質問に答えている暇はなかった。弓兵を倒したばかりの兵士が、クロトールの前に現れたからだ。髭さえ満足に生えていない若者の戦士は、クロトールを視界に入れるやいなや、大股で接近し、武器を振り上げた。その防御も戦略性もない突進は、まるで己の若さと強い意志さえあれば、世界の全てを変えられると信じているかのようだった。


 斧の軌跡を読むのは容易かった。クロトールは余裕をもって右によけると、相手が振り向く前に首筋を一回切りつけた。若い戦士は驚きに目を見開き、傷口を本能的に抑えたが、やがて倒れた。絶命する寸前、斧を手放した彼の右手が、地面の土をかすかに二度かいた。


 二人目の戦士が間髪入れずにやって来た。その戦士は一人目と同じくらい若い男で、片手には古いロングソードが握られていた。時間稼ぎが目的なのか、男は最初の相手とは異なり、積極的に攻撃してこない。じれったくなったクロトールは勝負に出た。相手の鼻が触れる位置まで一気に詰め寄り、<誇り>を前に突き出したのだ。


 男が慌てて攻撃を受け止めると、そのまま押し合いに発展した。ここでクロトールは成功を祈りつつ、ありったけの力を込めて相手を押し返した。するとロングソードは根元から折れ、男は壊れた武器の先端が刺さって死んだ。彼の剣は補修が不十分で、強い圧力に耐えられなかったのだ。


 戦いには連続で勝利したものの、その代償は大きかった。先ほどの押し合いがきっかけで、背中の痛みがまたもやぶり返したのだ。思わずうめき、小声で毒づいたのを、後方にいるフェリックスが耳ざとく聞きつけた。


「無理するな、爺さん! 後ろに下がれ」


「爺さんと呼ぶなと言っただろう!」


 怒りと痛みをいっぺんに吹き飛ばすようにクロトールは叫んだ。そうしている間に三人目の敵が現れた。若くも年老いてもいない中年の男で、斧に加えて小型の金属盾を持っている。だがちょうどその時、幸いにも援軍の兵士たちが駆けつけた。兵士たちは中年の戦士を寄ってたかって殴り倒すと、防柵を上ろうとしていた別の戦士を突き落とし、その場の防備を固めた。


 一息つくタイミングで背後を見ると、侵入口を塞ぐための巨大な荷台が、今まさに村の中から運ばれてくるところだった。荷台が外壁の隙間を埋めると、そこから入ろうとする敵は二度と現れなかった。


「ここはもう大丈夫そうだ」


 そうつぶやいて近寄ってきたフェリックスは、すでに弓をしまっていた。短い間に何人も射殺したにもかかわらず、彼の態度は冷静そのものだった。


「早くエイレナのところに戻ろう。長い時間離れているのは危険だし、何よりあんたの怪我は悪化しているみたいだから」


「いや、休むのは村が安全になってからだ」


 剣についた汚れを拭きとりながらクロトールは言った。


「連中が襲っているのはここだけじゃない。他の場所にも応援に行くべきだ」


「ああ、そうしてくれると助かるな」


 そう口にしたのは、見張り台にいるガロン隊長だった。彼は敵に弓を向けながら、二人の会話を抜かりなく聞いていたのだ。


「もしその気があるなら、アキシオスが馬鹿をやらかしてないか、見てきてくれないか? 奴は酒場の近くで今も指揮を執っているはずだ。この騒乱で死んでいなければの話だが」



***



 二人が駆けつけた時、アキシオスと彼が指揮する兵士たちは、すでに戦闘を終えていた。辺りには力尽きた森の戦士の死体と、彼らが手放した武器が無数に散らばっている。


 ガロン隊長がその身を案じていたアキシオスは、防壁の上で静かにたたずんでいた。彼と肩を並べて立つ他の兵士たちも、なぜか異様なほど静かだった。


「隊長に言われて来た。ここも敵の襲撃をどうにか切り抜けたようだな」


 クロトールは近づいて労いの言葉をかけたが、アキシオスからの反応はなかった。彼は表情を強張らせたまま、釘に打たれたかのように動かない。


 そこでクロトールは、ぼんやりたたずむ彼の肩を強引につかんで、疑問をぶつけることにした。


「どうした? 具合が悪いなら医者に連れていこうか?」


「いや、大丈夫だ」


 ようやくアキシオスは答えたが、その唇は弱々しく震えていた。


「では、なぜぼんやり突っ立っているんだ?」


 質問を重ねるとアキシオスは、


「たぶん、さっきのことで混乱しているせいだろうな」


 と曖昧に、まるで他人事のように答えた。クロトールがさらなる追及をする前に、彼は自らの体験をぽつぽつと語り出した。


「戦場で俺たちは劣勢だった。向こうの数があまりにも多くて、途中で押し切られそうになったんだ。戦いながらも諦めかけていた。そんな時だったよ。あの恐ろしい“手”が現れたのは——」


「“手”? 何だ、それは?」


 口ではそのように尋ねながらも、クロトールには心当たりがあった。その背徳的な予感は、直後のアキシオスの証言で確信へと変わった。


「“手”だよ。たくさんの黒い手が地面から湧いて出たんだ。そいつは敵の体をつかむと、空中に高く持ち上げて——殺したんだ」


 黒い手だ——クロトールは以前目にした、エイレナの黒魔術を思い出した。ということは、彼女も密かに戦いに加わっていたのだろうか。別れ際に彼女が口にした、”表立っての支援はできない”という言葉の意味が、今ここでようやく理解できた気がした。


 アキシオスは捕食者から逃げ延びた山羊のように、体全体をぶるっと震わせた。


「ああ、ちくしょう。奴らの悲鳴が今も耳に残っているんだ。くそっ、何なんだこの森は? 火を吹く爬虫類にでかい狼、悪魔みたいに黒い手! 俺は悪夢の中にいるのか?」


 エイレナが黒魔術を使ったのかどうか。答え合わせのためにフェリックスの方を見ると、彼は茶目っ気のある瞳でこちらを見返し、口の前で指を立てた。“これは内緒だ”という無言の合図は、ここで起きた真実と邪悪の恐るべき証明だった。

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