天下分け目の決戦前夜
12月の始めに一途の兄である神楽和則の墓参りに行き、そこで一途の父である進と弟である各務に年末の予定を伝えた。
年末は正義の実家である安積家へ行き、そして、年が明けてから神楽家へと挨拶に向かう事を告げたのである。
神楽家は年始に挨拶会があるので進は
「わかった、年が明けたら正義君の実家に挨拶をしに行こうと思っている」
と告げた。
考えれば一途は23歳で社会人。
正義は高校を卒業したてで浪人する18歳。
合コン後にホテルへなだれ込んでセックスして心が誕生した。
勿論、結婚式もないまま。
家族との顔見せもないまま。
現在に至っているのである。
一途はそれに頷いて
「わかったわ」
と答え
「色々、ごめんなさい。お父さん」
と告げた。
進はそれに微笑むと
「何を言っている」
俺の方こそ済まなかった
「それにお前の選んだ夫が正義君で良かったと思っている」
と答えた。
正義は笑顔で
「ありがとうございます」
お義父さん
「そう言ってもらえて凄く嬉しいです」
と答えた。
心も笑顔で
「こころ、うれちー」
と応えた。
そこへ立花聡と彼らの親友である神在月直が姿を見せてそれぞれ挨拶を交わした。
空からはひらりひらりと白い雪が降り始め全てを包み許すように染め始めていた。
年末を迎えると正義と一途は心と共に正義の実家である安積家へと訪れた。
正義の実家へ行くと一途は最初に頭を下げて
「大切なお子さんを……すみません」
と告げた。
が、正義の母親の正子は一途に優しく
「何を言っているの」
こちらこそ正義を立ち直らせてくれてありがとうございます
と頭を下げた。
「正義はとても幸せそうだわ」
私たちはこの子に知らない間に重い期待をかけていたの
「貴方と心ちゃんのお陰で立ち直ってくれたわ」
一途は目を潤ませて
「ありがとうございます、お義母さん」
と微笑んだ。
専業主夫の探偵推理
安積家には12月31日から1月1日まで年越しで泊まり、元旦の正午に家を後にするとその足で神楽家へと向かった。
久守晴馬が車で迎えに来ており正義は初めて神楽家の本宅へと訪れたのである。
そこは広々とした庭がある大きな洋館で多くの人が年始の挨拶に姿を見せていた。
正義は心を抱っこ紐で抱っこしながら
「凄いね、心ちゃん」
と呼びかけた。
心は多くの人々のざわめきに正義の胸元で顔をつけると
「ぬー」
と小さな声を零した。
確かに圧倒されるような人の多さである。
一途はそっと心の頭を撫でると
「お部屋に行ってゆっくりしましょうね」
と囁きかけた。
心は目を潤ませながら「あい」と答えた。
正義は一途と共にエントランスに集まる人々の間を縫うように進み、順々に挨拶をしている進と各務の前に進んだ。
2人は心と正義と一途を見ると笑顔を見せた。
弟の各務は子煩悩らしく心の顔を覗き込むと
「心ちゃん、人が多くてびっくりしたのかな?」
後でお部屋で遊ぼうな
とニコニコと笑いかけた。
心は顔をあげて小さく頷いた。
心も各務が好きらしい。
正義は小さく笑って
「あけましておめでとうございます」
今年も宜しくお願いいたします
と頭を下げた。
「心ちゃん、ご挨拶しよ」
心は各務と祖父の進を見ると
「めでとうます」
おねします
とぺコント頭を下げた。
2人とも笑みを見せると
「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう。ゆっくりして行きなさい」
と3人を奥の部屋行くように促した。
庭やエントランスや応接室などは人でごった返しているが、二階の各人の部屋はそのざわめきすらも遠く静かであった。
一途の案内で一番奥の広々とした部屋に入り正義は驚いた。
「凄いね、まるでマンションの一室みたいだね」
そう告げた。
一途は頷いて
「ん、ここは屋敷の中でも少し切り離されていて1階と2階が奥の階段で行き来できるの」
と言い
「外への出入りも向こう側からも出来るようになっているわ」
と告げた。
正義はベッドと揺りかごを見ると
「もしかして?」
と聞いた。
一途は「こういうのいや?」と聞いた。
「父なりに気を使ったみたい」
正義は首を振ると
「俺の方こそ気を遣わせてしまって」
でもありがとう
と笑みを浮かべた。
所謂、二世帯住宅風に改造してくれたようである。
正義は静かになった途端に目をぱっちり開けて周囲を見ている心を見て
「降りる?」
と聞いた。
心は機嫌が直ったらしく
「あーい」
と笑顔で答えた。
正義は抱っこ紐を外して心を降ろした。
階段のところには柵がしており、心が誤って落ちないような配慮もしていた。
一途は心と同じように見回している正義を見て苦笑を零すと
「1階に行ってみる?」
と告げた。
正義は頷いて
「うん」
と答え、心を抱っこすると1階へと降りた。
庭に向いた窓はカーテンがされているが広々としておりダイニングキッチンにユニットバスやトイレなども完備されていた。
ここだけで生活が出来る状態のようである。
一途は正義を見て
「一応、食事も父は私たちの好きにすれば良いって」
自分たちで作って食べるのも本宅の方で食べるのも自由だって
「ただどちらにしても事前に知らせて欲しいって」
と告げた。
正義は頷いて
「わかった」
と言い
「基本は一緒に食べよう」
俺は良く分からないけど
「一緒に暮らしているのに別々でっていうのは俺の実家ではないから」
その方が心にもいいと思うんだ
と告げた。
「勿論、各務さんとお義父さんが嫌でなければだけど」
一途はくすくす笑って
「父と各務は本当はそうして欲しいみたいだったの」
心が可愛くて仕方ないみたい
と告げた。
「ありがとう、正義君」
正義は笑顔で首を振った。
「俺の方こそ色々考えてもらって申し訳ないね」
……本当に大学頑張らないとな……
正義はそう新たに決意を固めた。
1日から6日まで神楽家で泊まり心は一途と翌日から少しずつ挨拶会に参加するようになった。
慣れるためである。
食事も本宅のダイニングで食べ、4月からのことを話し合ったのである。
正義は大学受験の為にそれ以外は受験生モードで勉強に励んだ。
そして、6日の昼にアパートへと戻ったのである。
心はやはりアパートへ戻った瞬間に爆睡し、正義も一途もゆっくりとリビングでくつろいだ。
共通テストまで13日。
正に天下分け目の合戦前の気分だったのである。
最後までお読みいただきありがとうございます。
続編があると思います。
ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです。




