好みがハッキリしてるんだよなあ
勝手に記憶を取り戻したらしい小鳥は、思い出しているのか焦点の合わない目で遠くを見ながら何かをぶつぶつと呟いている。
人間に擬態しているとはいえ、キメラの聴覚は人外のソレ。
そんな聴覚でも聞き取れない程に途切れ途切れの声だが、まあ、何か、自分の言動でクックロビン家が滅んでしまったという自責の念に囚われているらしい、という事はわかった。
目を見開いてボロボロ涙を零している姿は痛々しいが、キメラになって二年以上が経過しているからか、いまいち同情的な気持ちになれなくて困ってしまう。
どうしたもんかなあと眺めていれば、知っている気配が背後にあった。
「まったく……深掘りはしないよう言ったはずなのですが」
「してないよ失礼な! 幾ら良い感じの筋肉持ってるからって冤罪まで受け入れるわけじゃないからな!? ワンナイトなら全然受け入れるけど!」
「おや、それは失礼しました。ですがワンナイトはお断り致します。成熟済みの上、無理矢理襲ったところで楽しい反応を見せてくれそうにはありませんし」
見本のようなニッコリ笑顔でキッパリ言われた。この野郎。
しかしまあ譲れない性癖というものは大事にすべきなので致し方あるまい。
性格がサド寄り、それも暴力系というよりも精神系の言葉責めメインっぽいし良い筋肉してるので個人的に結構好みの気配がするのだが、相手の性癖と私の情報が一致しないのであればどうしようもない。
私だって誰かに好みと言われたって、その相手がガリヒョロだったら普通にお断りするもんなあ。
「……さ、アルエット様。こちらへ」
「触るな! おま、お前! お前達が、こんな!」
優しくゆっくりと、抱きしめるように手を伸ばす執事に対し、小鳥は恐慌状態といった様子でその手を振り払う。
「俺の家族を、あんな形で奪って、その上で俺に、俺を……!」
「ええ、優しく、甘く、可愛がって、愛しておりますよ」
小鳥は依然として警戒を緩めなかったが、相手は子供。
それも人間とキメラとなれば、力量の差は歴然だった。
一瞬にして距離を詰めた執事に肩を掴まれ、するりと腕に手をずらし、小鳥がその感触と距離に動揺している隙に、執事は顔を近付けて小鳥の頬をベロリと舌で舐めあげていた。
「う…………ぁ」
「おっと」
目をぐるりと回して力を失い、小鳥はガクリと執事の腕の中で気を失った。
危なげなく小鳥を受け止めた執事は、ニコニコした笑顔で小鳥を腕の中へと抱え上げる。
手慣れたようにお姫様抱っこ状態になっていて、先程の頬ベロを考えると色々アウトな気もするが、まあ異世界なので気にするまい。
異世界でもアウトな気はするが貧民街では体を売っている小さい子も居たし、そもそも人間を食料とするキメラにそういう事を言う権利は無い。
……そこまで積極的に、止めないと、とも思ってないしなあ。
下手に手を出す方が面倒臭そう、という気配がぷんぷんする。
触らぬ神に祟りなし。くわばらくわばら。
「それでは私は一旦、アルエット様を自室まで運ぶ事に致します」
「私は?」
「好きになさればよろしいかと。別にこの屋敷内で何をしていようが特に気にしませんので」
「主様が脱ぎ捨てた服を引っ張り出してソロプレイしても?」
「こういう開けたところというのは良い興奮を得られますからね」
何だよコイツわかってるじゃないか。
アイコンタクトを取り、私と執事は無言で強く固い握手を交わした。
向こうはお姫様抱っこから小鳥を片腕で抱える体勢へと移行しているが、こういうエロ話を分かち合える相手というのは大事にすべきものである。
……まあ、私はあんまり外での露出系は他への迷惑とか色々が脳裏をよぎるからあんまりなんだけどな。
しかしこういう個人的な敷地内なら良いんじゃねえのという発想もあるし、相手がそういうのを厭うかと言われたらそうも厭わないだろうキメラというのもあって判断がゆるゆるになっている自覚はある。
そう思いつつ、私は去っていく執事に手を振って見送った。
……アイツ、寝てる小鳥相手に何かやらかしたりするのかな……。
めちゃくちゃやりそうな気配がするけれど、まあ、うん、あんまり気にしないでおこう。
さて折角だし許可が出たって事でソロプレイにでも移行、
「あまりにも躊躇いが無いな、貴様……」
「うおっとぉビックリしたぁ! 知らない間に背後に佇むのをやめろよな鳥籠! 背後に巨乳が居るのは嬉しいから良いけど!」
「我は巨乳に喜ぶ気持ちがよくわからんが」
ハァ、と扇子で口元を隠して溜め息を吐く鳥籠だが、その溜め息によって露出されている上乳がぽよんと跳ねてて大変グッド。
見ている限り、水に浮きやすいぽよぽよ系の柔らか巨乳っぽくてとてもよろしい。
巨乳とは巨乳の一言では済まないくらいに多種多様な種類があって、良いぞ。
「そんで、鳥籠は何でここに居んの? 何か用?」
「まあちょっとした暇潰しのようなものだ。諦観者のヤツは早々に目的の品を見に行ってしまったのでな」
確かに、主様はじっくり見たい気分の時は誰かが傍に居るのを嫌がる為、単独行動をしたがるだろう。
いつも通り過ぎて、見てもいないのに脳内再生が出来てしまうくらいだ。
「普段なら女とわざわざ話す気も起きぬが、貴様は面倒な女とは違うようだ。話し相手になるが良い」
「良いよ!」
鳥籠の言葉に、私は反射で親指を立てる。
「これでお前がまな板おっぱいだったらテンション上がんないけど、お前良い感じの巨乳だから寧ろラッキー! ついでにおっぱい触って良い!?」
「女に触られる趣味なぞあるか!」
めちゃくちゃ本気の拒絶をされた。
そんな牙剥くような威嚇までしなくても良いのに。
・
改めて貴賓室へと移動し、ふっかふかなソファへと腰掛ける。
先程は特に手をつけなかったが、テーブルの上に置いてあるクッキーを一つ摘まんで齧ってみた。
うむ、サクサクで美味い。
……砂糖しっかり使ってるな、コレ。
香りからするとバターもふんだんに使われている様子。
一般的なお菓子系は砂糖が少なかったり、はたまた砂糖の味しかしない甘ったるい高級品だったり、かと思えば乾パン系だったりと結構ピンキリ。
美味しいところのは安定して美味しいのだが、ここのクッキーは安定した美味しさでホッとする。
「このクッキー美味しい」
「そうか、後で執事のヤツに言っておけ。作ったのはあやつだ」
「へえ……見た目は執事っぽいけど実際そんな感じじゃないのに、ちゃんと家事スキルあるんだな」
「意外ときちんと見ておるのだな、変態」
ほお、と鳥籠は素で驚いたようにパチパチと目を瞬かせる。
その表情は何だか童顔な感じが強く出ていて、何となく意外だった。
「あやつは実際、執事では無い」
放置されていたからかとっくに湯気が消えている紅茶を飲みながら、鳥籠は言う。
「元々、あやつは家庭教師をやる事が多くてな。その方が目的を達成しやすいから、とか言ってやがったぜ。我はそういうの面倒だから好きじゃねェけど」
「目的って、エロ系?」
「当たり前だろ。アイツ性犯罪者って事で収容されて初期キメラ用の実験台にされてんだから」
「当たり前かなあ!?」
っていうか初耳だよ!
そう叫ぶと、何だよ何も聞いてねェのか、と返された。
「我もあやつも初期キメラであり、実験台だ。奴隷売買やら国が敗北したとかで連れてこられる者も多かったが、我らのような犯罪者も実験台にされておったのよ」
「鳥籠も?」
「うむ」
胸を強調するように腕を組み、鳥籠は目を伏せて当然のような面持ちで頷く。
「我は恋人が居るとかでも構わずに初物を狙っておった事と……要人相手でも平気で声を掛けた事、加えてわりと無理矢理に襲ったのが有罪と言われてな」
「逆レイプかよ……」
「いや、男の尻も狙っておったから普通に逆じゃない方もあるぞ。前の方は熟練者であっても、ケツを掘られるとは思ってもねェから良ィーい反応をくれるんだよなァァ」
ギヒ、と鳥籠は悪辣に笑った。
相変わらず、口が耳まで裂けるような笑みだ。
「ただまあ、我としては初物にしか興味が無い事もあって、襲った男や円満に初物を奪えた男から訴えられる、というのも何度かあった。その後も初々しい反応を見せてくれるなら初物でなくても良いのだが、中々そういう美味しいヤツはおらんのがなあ……」
「巨乳を好きになればそこらじゅうに巨乳が居るから楽しいぞ。初回限定って事も無いし」
「我は反応を楽しみにしてんだよ。そんなモンに興味あるか」
両手で自分の乳を下から持ち上げるようにしてタプタプと主張して見たが、嫌そうに顔を顰められた上に手でシッシッと払われた。
うーむ、確かにおっぱいってのは反応が無くともおっぱいだもんなあ。
……大きさよりも感度がどうこうっていう派閥にはあんまり興味無かったけど、鳥籠の場合はそっち系か?
私は大きさが重要派閥だったのでそっち側の界隈についてはよくわからん。
「そもそも生前の我に胸は無かったしなァ」
「え? 何? 元は男だったりするタイプ?」
「元から女だっつの。ただジャンキー大陸出身ってのと、あんまり良い暮らしじゃなかったってのもあってか肉付きが悪くてな。キメラ化してからは魔物の影響か髪の色も変わったが、元々は金髪碧眼に華奢な女だったんだぜェ?」
「つまりまな板だったのか、お前」
「スレンダーって言え」
「貧乳には変わりないだろ。大丈夫大丈夫、私は後付けだろうと巨乳は巨乳として愛でるから」
そう、豊胸手術の結果巨乳になったのだとしても、愛すべき巨乳である事に変わりはない。
豊胸ってか、キメラ手術って感じだが。
「まあ正直なところ、パッド仕込んで増量してるとかじゃ無けりゃヨシ! まあ増量しててもわかんなければシュレディンガーの巨乳だからそれでもヨシ! 大事なのは私が巨乳と認識しているかどうかだ!」
「我ですら貴様の言動はどうかと思うが、そこまで吹っ切れていると逆に話しやすくて好感が持てるな」
「じゃあおっぱい揉んで良い!?」
「女に揉まれる趣味はねェっつってんだろォがよォ!」
吠えるようにキレられた。
「仮にテメェが男だったとしても、初々しさの欠片もねェ野郎なんざお断りだ!」
「えー」
そこまでマジギレの顔せんでも。




