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迷子の迷子のキメラさんはソロプレイに勤しみたい



 風呂場は意外にも大変幻想的で素晴らしかった。

 まあその風呂場に辿り着くまでが大変だったのだが。



「風呂場なら寝室があるぞ。ベッドの中で洗えば良い。室内全体に水気があるから滑って転ばないよう気を付けろよ。風呂場の寝室で転ぶとネズミの姿になるからな。室内に生えているキノコを舐める事で戻れるが、うっかりキノコを食べると一生ネズミの姿のままになってしまう」


「おいおいおい、寝室が濡れ場だなんて随分とセクシャルじゃないか。え、良いの? マジで良いの? 大きなベッドにしっとり濡れたシーツ、そしてその上に寝転がる全裸の主様なんていう私を食べてというチョコプレート乗っけたケーキよりもまっしぐらになっちゃうようなシチュエーションが許されるの? アダルトなビデオの撮影会場か何か?」


「何で風呂場がそんなはしたない事に直結するんだお前は!」


「全身茹蛸になってるけど事実そうだろ。寝室がしっとりしてるだなんていやらしい。しかもキノコを舐めるとか食べるとか完全なる隠語だろそんなの。主様がキノコ舐めたりするのを想像するだけで股間に無い物が生えそうなくらい興奮する」


「聞きたくも無い」



 そんな感じで色んな種類の風呂場を紹介してもらう度にちょっと正直過ぎる反応が原因で主様にぶっ殺されまくったわけだが、とりあえずまともな風呂場へと到着した。

 その風呂場は、森だった。

 薄暗い空間で、壁や天井が見えない程に葉っぱが生い茂っている。

 床も土と草じゃないのかという感触で、周囲にはぼんやりと幻想的に発光している大きなキノコ。

 壁から生えているとびきり大きなキノコ達は明かりとなり、それなりに大きなキノコは椅子代わりとなり、椅子代わりキノコの近くにある結構大きなキノコは魔力を流す事でその傘の下に水を降らせた。


 ……キノコシャワーだ……。


 シャワーキノコかもしれんがまあどうでも良い。

 微妙に薄暗くて扇情的かつ幻想的な空間。

 そんな空間で主様の珠玉の肉体を洗ったりなぞったり出来る喜びは凄まじい。

 泉のような形で広がっていた、恐らく浴槽みたいなものだろう水場は、泉のようっていうかマジに泉らしくて水だった。

 しかし、



「そういえば、足置きにしてあげると言ったね」


「良いんですか!? ヤッター!」



 目を細めて優しく微笑んだ主様にそう言われたらこちらは歓喜に舞い踊るしか出来なかった。

 もう本当にそれ以外の喜び方法が浮かばないくらい嬉しかったわけだが、私としてはもうちょっと喜び表現方法を増やしたいところ。


 ……主様はそっちの方が喜んでくれそうだしなあ。


 しかし手を変え品を変えをやり過ぎるとそれはそれで飽きられそうというジレンマよ。

 さておき、主様は泉の中で私を足置きにしてくれた。

 当然泉の中だし、座ったくらいで丁度良く肩まで浸かれる深さだった為、足置きになると水中で丸くなるしかない。

 四つん這い体勢だと高さが合わないのでアウトなのだ。

 なので丸くなる感じで水中に潜り、背中に主様の足をのせてもらい、足が伸ばされている事で角度的にも色々丸見えな主様のボディを堪能させていただいた。


 ……いやあ、最高な視界だった!


 世の中には女性用プールの壁面をガラス製にして向こうにわからないようじっくり見たーいという性的な意味で見るのが好きな紳士も居る事だろう。

 私もそういうマジックミラー的なヤツは結構好きだ。


 ……銭湯とかではもしここで盗撮とかされてたら、とか考えて合法的に露出欲を妄想で満たしてたっけなあ。


 まあ自分の体の貧相さにコンプレックスがあった為、巨乳の客が入ってきたらそっちを見る方に意識をシフトチェンジしていたけれど。

 露出欲が興奮した際は想像で自分を満足させるけれど、それはそれとして自分のボディにコンプレックスがあると興奮し切るにはちょっと微妙なんだよなあ。

 具体的には恋愛ゲームのラブシーンでロード画面の暗転により自分の顔が写されて萎えるくらいには微妙な気分となってしまう。


 ……でも、今はそういうのも無いし、目の前には最高の主様が居る!


 水中であるが故に、逆に鮮明な視界。

 呼吸が不要なので特に苦しくもならない水の中。

 陸の上で這いつくばりながら主様を見上げるのも良いが、水の中だからこその光景もまた良いものだ。

 主様の筋肉は程良く脂肪がついている上等な筋肉の為、浮力によって微妙に揺れたりするのが見えるし、上からのぼんやりした光がまた良い影を作ってくれる。

 更に水の中だからこそ、ちょっとした身動きにより発生する波が視界に揺れを発生させ、それがまた主様を幻想的に彩っていた。

 思わず大興奮して体温が急上昇し、泉を温泉状態にしてしまったくらいだ。


 ……主様はあんまり熱いの好きじゃないから、思いっきり蹴り飛ばされたけどな……。


 まあ足乗っけてた置物が急に高熱発し始めたら蹴り飛ばしても致し方あるまい。

 こっちはこっちで水の重さをものともせずに蹴り飛ばされた喜びでまた温度を上げてしまったわけだし、充分妥当な扱いと言えよう。





「……さて、私はどこへ行けば良いのやら」



 風呂上り、主様と別行動になった私はそう独り言ちる。

 というのも、風呂から上がって着替えた主様はどうせまだ睡眠は不要だし、ここはいつも違うから暇潰しにはなる、と言ってスタスタ一人で歩いて行ってしまったのだ。

 雰囲気や言い方すると一人で居たい気分っぽかったのでついていくわけにもいかず、結果的に別行動。


 ……こっそりこそこそついて行きたいところだけど、主様の嗅覚を前にしてこっそりなんて事は無理だし、後をつける事自体主様は嫌がりそうだしなあ。


 勝手についていくのはわりと許容範囲内な主様だし、こっそりこそこそついて行くのでもわりとセーフなのが主様。

 しかしそういう気分であるならば、だ。

 一人で居たい気分の時についてったりするのは不愉快値を上げるだけなので、今後も主様と良い感じの関係を築きたい私としてはごり押しせずに行きたい所存。


 ……うーん、とはいえ本当にここはどこだ……。



「そもそもの大前提として、風呂に案内はされたけど別に客間へ案内されたりはしてないもんな……」



 ここがホテルなら取ってある個室に帰るところだが、その個室が無いんじゃ行く宛ても無い。

 あの()()を探そうにも、探し出してじゃあどうするんだって話だし。


 ……これはもう、大人しくその辺の廊下に座り込んで主様の脱いだ衣服に残っている香りを全力で堪能しつつソロプレイに突入するのがベストかな?


 ふんわりしたスカートを揺らし、私はそう考えた。

 ちなみに今の服はふんわりしたドレスやワンピースといったテイストだ。

 上は胸元が開いており、肩部分がパフスリーブになっていて、手首辺りもふんわりしつつ裾部分をフリルで飾っている青いトップス。

 下はスズランをボリューミーにした感じの、膝丈で裾周りが少しばかりキュッとなってふわっと広がるデザイン。

 裾周りのフリルもボリューミーで可愛らしいが、このスカートのワンポイントとなっているのは腰部分から飾りのように垂らされている布だろう。

 青いスカートに、燕尾服の燕尾部分みたいな形をしたピンクの布が垂らされているのだ。

 金糸で細やかな刺繍が施されていて、相当な高級品じゃないかと思わせる。


 ……ま、どれだけ上等なドレスだかワンピースだか知らないけど、上等でも上等じゃなくても主様が飽きるまでの寿命なんだよなあ。


 尚、首には細いピンクのリボンがアクセントとなっている青い付け襟。デザインが丸っこくて、丸いシルエットとなっているスカートと合っていて良いと思う。

 靴は履いておらず、主様も本当は青とピンクでシマシマな靴下を私に履かせようとしていたようだが、どうせここはキメラの巣だから素足で良いだろう、との事で素足である。

 素足、と言っても纏足靴で誤魔化さずに蹄状態で歩いているというだけなのだが。


 ……お陰で歩く度にカッポカッポと独特の音が響くっていう。


 まあこの足音も楽しいので良いだろう。多分。

 ちなみに髪は短くカットされていたのを一気にいつも通りの長さへと伸ばし、主様の手によって流れるように編み込みを施された。

 右の耳下からリボンと共に編み込み、左の耳下で可愛らしくリボン結びにされている。

 カチューシャのような編み込みなんて生前から人間業じゃないだろと思っていたものだが、こんな凄技を数分足らずで何でも無い事のようにやってのける主様はやっぱり凄い。

 肩に触れるリボンの端も、下ろされている故にちらちらと揺れるウェーブがかった長い髪も、主様の優しい手指の使い方を思い出してテンションが上がる。


 ……本人としては優しいとかよりも、一番効率的な動きを考えてるだけなんだろうけどなあ。


 しかしそういうところがまた最高なのでヨシ。

 何てこと無いような、しかしどこか真面目な雰囲気を出して髪の毛と向かい合い、編み込んでいく主様。

 思い出すだけで興奮してくる。

 トキメキもあるだろうが、やっぱり主様の気持ち伏せられた目とかを思い出して震えるのは興奮という感情だった。

 自分に正直になればこんなもんは大概性癖に一致したがゆえの興奮だよな。

 勿論、その濃度が薄ければトキメキという名称が使われるのだろうが、私はいつでもフルスロットルなのでトキメキじゃ止まらないというわけだ。


 ……かといって、流石に廊下でいきなりのソロプレイは駄目だろうし。


 私にだってそのくらいの倫理観はある為、当てもなく適当に歩いていた足を止め、うーむと顎を撫でさする。

 というかマジでここはどこなんだろう。



「窓を開けても廊下に出たり、廊下に置いてある棚の扉を開けたら個室だったり、その個室のベッドの下に潜り込んだらキッチンだったり、冷蔵庫っぽい棚開けたら廊下の天井から落っこちたりしたもんだからもう何もわかんないな……」



 そもそもの居場所もわかってないってのに未知の道ばっかりで完全なる迷子である。

 いやはやまったく、地球の色んな施設に置いてあるマップがどれだけありがたいものか身に沁みるというものだ。

 適当なところを開けまくっても、これといった目的地が無い以上はどこに繋がっても全部が全部ハズレみたいなものなのだし。


 ……何より、適当に扉を開けたら猛獣の口の中って可能性もこの城の中ならあり得るのが問題だ……。


 消化される前にぶっ飛ばせばいけるだろうけど、まずその状況に陥りたくない。

 不死身のキメラにだってそのくらいの常識はある。

 この城の中では常識なんて何の役にも立たないけどな。



「うん、まあ、良いか。とりあえず適当に扉開けて、良い感じの個室っぽいところに行けたらそこでソロプレイに勤しもう」



 私は触って快感を得るよりも見たり聞いたり嗅いだりとかで充分にフィニッシュ決めれるというタイプの為、別にその辺でもあんまりヤバい絵面には、うん、ギリギリならないと思う。

 主様の衣服を無断で嗅ぐのはアウトだろうが、全年齢でもセーフな部類だろう。多分。

 そもそも興奮材料が無いと触ってもあんまり気持ち良くない方なので、あんまり物理的なのは役立たない。


 ……エロい道具系もなー……私は筋肉が好きなだけであって腹筋に力を入れた感じとかが内部からわかるって事で合体自体は嫌いじゃないけど、イチモツ単体とかはちょっと……。


 それとは別にやっぱり興奮出来る筋肉かおっぱいが欲しいところだし、究極言うと別に、物理的な快楽が無くても見たり妄想したりの興奮で普通にフィニッシュまで行けるので、やっぱり道具系は不要という現実。

 多分私は元々性感帯の感度が鈍いのだろう。



「って、ん?」



 適当な扉を開けようと思ったら突き当たりとなっており、そこに暖炉が置かれていた。

 この空間内ならこの暖炉も通路か何かだろ、と思って暖炉の中を四つん這いになって潜り込んでみたところ、思った通りに別の空間が広がっていた。

 そこには、部屋があった。

 酷く簡素で、今までに見たこの城の中の豪華だったりファンタジーだったりする空間とは随分違う、そこらの民家を思い出す作り。

 全体的に色合いが茶色と灰色で、温かみが無くて、コンクリート打ちっぱなしかつ家具が無い部屋のよう。


 ……何も無いな……。


 そう思って見渡してみると、一応何も無いわけでは無かった。

 酷くボロで、体重を掛けたら壊れそうなベッドがあった。

 既に足が折れている小さな椅子があった。

 大きなヒビが入っている机の上には、この部屋に似つかわしくない上等な布が折りたたまれ、その上に頭蓋骨が鎮座している。



「……いや、何でしゃれこうべが花瓶みたいに飾られてんだよ」


「俺の母さんに失礼な事を言うんじゃねえ」



 後ろから()()の声が聞こえると同時、強い力で首を掴まれる。

 直後に耳の奥からコキンという音が聞こえたので、多分首が折られて一回死んだ。





 間もなくして意識が覚醒したので周囲を確認してみれば、見覚えのない空間だった。

 果てもなく広がる床があり、壁は見えない。

 天井もまた果てしないと思える程遠くにあるように見える為、相当広い空間なのだろう。

 そう思った瞬間、床から大きなテーブルが盛り上がり、気付けば大きなテーブルの上へと乗っている。


 ……夢の中特有のトンチキ起承転結みたいな……。


 こうも広い空間の中で大きなテーブルの上に乗っているとなると、まるで小人になった気分だ。

 そう思いつつ、真正面でぶすくれた顔をしている()()を見る。



「さっきの頭蓋骨を母さん呼びしてたけど、アレ何?」


「…………こっちのセリフだ。何で私の部屋に居たんだ、お前」


「さっき俺とか言ってなかったっけ」


「生前はそうだったから母さんの前だと癖が出るんだよ! 放っとけ!」



 全身を真っ赤にして叫ばれたので、あんまりつつかれたくない部分らしい。

 一人称なんて別に気にするこっちゃないだろうに。

 あ、いやでも主様が僕から俺に変わるのはゾクゾクして素晴らしいから気にすべきか。あれ最高だもんな。重要だったわ。



「てか、何? アレってお前の部屋なの? 生活出来なくない?」


「私は睡眠を必要としないし、他の部屋があればどうにでもなる。何より、アレは私が生前暮らしていた部屋から持ってこれた家具を置いているだけの部屋だ」


「頭蓋骨も?」



 問えば、大きなテーブルの上で、私達のサイズに合った椅子に腰かけていた()()は椅子の上で膝を抱えた。

 バーに置いてありそうな背の高さで、背もたれが無いタイプの丸椅子である。

 その椅子の上で膝を抱えた()()は、白目を何度か瞬かせてから、呟くように口を開く。



「…………私は、母さんが大好きだった。だから母さんの骸を置いて行くなんて出来なかったんだ」



 迷子になった子供のように、()()は膝に顔を埋め、囁くような声でそう言った。



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