暴れるなんて勿体無い
結論から言うと、誘拐された。
・
いやまあ、うん、今のはちょっと焦り過ぎたなって感じがするので順を追って話そう。
まず医者達との件があってから適当にぶらぶら歩く感じとなり、気付けばあっという間に半年近くが過ぎていて、随分と北の方までやって来た。
「もう少し北上して海を越えれば、マカハドマ大陸だよ」
「マカハドマ大陸、ですか」
「設備や装備を整えなければ、地元の人以外は凍り付いて凍死するだろうと言われる地域だ」
「成る程、北極とか南極系!」
「それは知らない」
異世界に落ちて主様と出会い、あっという間の一年だった。
その間も当然ながら常に脳内の主様ベストショットとかは更新され続けていたが、特筆するようなイベントらしいイベントは特に無い。
一度だけ主様が再びそういう気分になってくれたらしく、相手をしろと夜のお誘いを受けたものの、今回は受け身気分じゃ無かったようでうつ伏せにされてそのまま即座にINされた。
こちらとしては常に大興奮だし、そもそも腕を捥いだりに比べれば全然問題無かったので平気だったが。
しかし問題はここから。
インアウトが五分から十分程続けられた辺りで、
「飽きた」
「えっ!?」
まさかの中断が発生した。
どうもインアウトを続けるだけというのも飽きるらしく、快楽に夢中になるというわけでもないのかあっさりと萎えていた。
私の体内にズッポリとINしていたので、膨張していたソレが発射もせずに萎えたのはよくわかった。
……まあ、私の内部に問題あるとかでは無いっぽかったしなあ。
こちらの内部に問題有りなら大問題だが、しばらく維持出来ていたならそういうわけでも無いのだろう。
つまり、単純な飽き。
暇潰し扱いで時折そういう気分になっても、達成するまでに飽きてしまう、というのが確定した。
前の時もそんな感じだったが、二度目でコレなら確定だろう。
私は私で押さえつけられてうつ伏せ状態のまま固定されていた為、主様の扇情的な姿を目視したり汗とか匂いを堪能したり触ったり揉んだり舐めたりがぜーんぶ不可能状態。
……とはいえ主様は読書でも同じ本を読み続けるってのは難しいみたいだし、数ページごとに違う本を読んだりって事も多いし。
少なくとも一年という大台は超えたので、私が変に調子乗らない限り、即座に処分とはならないはずだ。
ならば再戦チャンスはまだあるはず。
そう、それまでに素早く事を達成出来るように手段を考えておかなければ。
……しかも主様、多分、遅いタイプっぽいっていう……。
これでも三人程の交際経験はある。
交際と言っても学生特有の青さがあったし、告白されたから受けただけだし、正直言って中学とか高校時代じゃまだ正直に性癖暴露もしてなかった時代なので全然好みじゃない奴らだった。
美形だろうがスマートだろうが巨乳も筋肉も無い野郎に用は無い。
そういうのもあって高校時代に両親が事故で死んでから、もう誰に憚る事も無いなという事で正直に性癖を暴露するようになったのだが、それからは恋人というよりもワンナイトが主流になった。
あとは夜のお店で働いてる好みの人を金で買ったり。
なので交際経験はともかくとして夜の経験数はそれなりにあり、個人差も自分の中での平均値はある程度割り出せている。
……そこから考えると主様、確実に遅いタイプ……!
飽き性で、急に飽き、その途端に萎えるレベルで切り替えが激しい。
だというのに遅漏というのは相当に難易度がベリベリハードな気がするが、相手が主様ならばこちらがひたすら精進あるのみ。
まあ再戦あるかどうかもわかんないけどな!
・
何だか大分脱線してしまったが、そんなこんなで北の方の町へと来たわけだ。
そこで様々な店を見たりしていたら、声を掛けられた。
「あれー!? 諦観者だ! ヤッホー!」
「……幸運か」
掛けられた声に主様が反応したので、私も振り向く。
そこに居たのは肩までの金髪で、毛先がくるくるとカールしていて、前髪を右側に流している女性。
キリッとした眉だが、蜂蜜色の瞳は大きくて温和な雰囲気を纏っているものの、どこか力強さが潜んでいる。
しかし何より重要なのは、
「巨乳! 主様この巨乳お知り合いなんですか!?」
「キミはもう少し人目というものを気にした方が良いね」
溜め息を吐かれてしまったが、人気の無い通りなので多分セーフのはずだ。
それを言ったら諦観者とか幸運とか、独特のあだ名で呼び合ってる方が違和感だろうし。
私が巨乳に反応するくらいは当然のような通常運転である。
……いや、でも他人からすれば中々に高身長の爆乳が、それより低いとはいえ高身長巨乳の胸に反応してるわけだから中々に変な光景ではある、か……?
そうは言っても胸元がバックリと開いていてお胸とお胸の間に出来る深い谷間を露出しているホルターネックタイプのサロペットが相手では、ついつい胸に目が行くのも致し方あるまい。
しかも微妙にワンピース型というか、ひらひらした裾が上手く誤魔化しているとはいえ、丈がホットパンツ並みに短い。
腕も足もドーンバーンと惜しげもなく晒されていて、コレで反応しないのは貧乳派かデブ派くらいのものだろう。
……しかも北の町だし。
雪が降っているとまでは言わないが、気温はかなり冷えている方だ。
当然ながら地元の人は普通に半袖の人も居るけれど、ここまで露出度が高いというのは中々見ない。
私ですら、今の格好は黒い長袖にフリンジのついたストール、スリットが入ってるとはいえスリット部分に柄付きの布が当てられている黒いタイトなロングスカート状態。
ストールの留め具とスカートのスリット部分の布地には蝶があしらわれていてセクシー寄りの雰囲気を醸し出しているが、露出度としては低い方。
ちなみに髪型は昔の人のように下の方でゆったりと結び、そこに毛先をすいすいっと入れて輪っかを作った髪型となっている。
「……あ、もしかしてこちらの方、ご贔屓にしてる夜のお店の店員さんだったり? え、他にも巨乳居るなら紹介して欲しいです!」
「呼び名からしてそんな可能性は皆無だろう。そんな事もわからないのかい? それともわざとかな」
「例え確率がゼロに等しくても、こうだったら良いなという期待を持ち続けるのが人の欲ってものですよ主様! そう、私が主様から今日夜のお誘い来ないかなー多分無いけどあると良いなーって毎日思ってるようなものです! 思う事は自由ですからね!」
「毎日そんな事を思われていたのか。知りたくも無い情報だな」
「褒め言葉です!」
真顔かつ淡々とした温度の無い声で言われた為、つい反射的に喜んでしまった。
いけないいけない、結局目の前の幸運と呼ばれている巨乳についてがサッパリのままだっていうのに。
しかし巨乳、ではなく幸運の方はあまり気にしてないらしく、ニコニコしたままこちらの様子を窺っていた。
「何かよくわかんないけど、仲良しなんだね!」
「酷い誤解だ。コレはただの眷属だよ。使い勝手が良いから傍に置いているだけだ」
「眷属歴一年! 呼び名は変態! よろしくな巨乳!」
「印象的なのはわかるけどいくら何でも初対面の相手にそういう態度はよくないと思うよ。俺は気にしないけど、人によってはコンプレックスだからね」
「ま、真面目に対応されただと……?」
キメラって言ったらわりとゴーイングマイウェイで独特の拘りや執着を見せる傾向にあると思っていたのに、何だこのまともな対応。
子供を叱るような態度なのもまともポイントが大変高い。
いやまあ、同時にガキが調子に乗ってセクハラし始めそうなポイントも高いけどな。
ただ叱るんじゃなくてじっくり見極めた上でどう対応するか決める感じの相手だと、まだ叱られないならこんくらいのセクハラはオッケーだろと調子に乗る時もあるから気を付けた方が良い。
「まあ良いや、幸運って呼べば良い?」
「人前ではシシーって呼ばれる方が良いかな。一応シシアーシチィって名前なんだけど、それだと長いからさあ」
ま、と幸運は困ったように笑いながら頭を掻く。
「とは言っても俺、まだキメラ歴短いからこういうのもあんまり馴染んでないんだけど」
「え、今何歳?」
「三十六。十四の時に、ちょっとね」
何と、随分若い。
いや私の方が年下なので若くも無いのだろうし、キメラになった時点の年齢というのは青いのとかも充分若かった。
しかし医者とかは普通に四百年前の時代の人間だったようなので、そう考えると充分若いように思えてしまう。
私の場合、異世界人だからちょっとばかりイレギュラー状態だしなあ。
「能力とか見た目がどうとか元々の年齢より大人になってるとか以前に、まさか性別が変わるとは思ってもなかったよ」
性別、とな。
普通に元気な俺っ娘と認識していたが、
「…………男?」
「生前はね。一応中身も男のつもりだよ。擬態すれば男の体にもなれるけど、擬態しっぱなしって面倒だから」
「ああ、うん、それはわかる」
結局私も足とコルセット部分の擬態については諦めているし。
それに医者の時に注射器で仕留められかけた事からもわかっているが、弱ったりして擬態に意識を割く余裕がなくなると擬態が解除される辺り、擬態するのにはそれなりに容量を割いているという事。
人前で化けるくらいならば別に外出時にメイクして外着に着替えるようなものだから良いけれど、四六時中メイクしておすましし続けるのはメンタルにもよろしくない話だ。
「……しかし、幸運が居るとは」
「俺もコーも定住せずに転々としてるし、諦観者に会ったのも十年以上ぶり? 会ったのも一回だけだったもんね。凄い偶然!」
「どちらもあちこちを移動していて、尚且つ寿命の問題も事故死の問題も無いならどこかで出会えても何も不思議は無いけれど」
「相変わらず諦観者ってばロマンが無いなあ」
むぅ、と幸運は不満げに口を尖らす。
「ま、良いや。珍しい顔に会えて嬉しいし、あの諦観者が誰かと一緒に活動してるなんて聞いたらコーが驚きそうだしね。良いサプライズだと思うよ。コーのヤツ、諦観者の話をする時はいっつも誰とも長続きしないって言うのが定番だもん」
「事実だけどね」
「今はその事実が覆されてますよ! 私が居ますから!」
「僕は覆されてもされなくともどうでも良い」
「わあいその反応ご褒美です!」
うん、主様はそういうタイプだって知ってた。
主様の事を軽んじるような言動行動はアウトだけれど、単純に事実であり、それを馬鹿にしたりしなければどうでも良いというタイプだし。
しかし、ですよね! と言おうとしたはずがまたもやついつい反射的かつ本能的な返しをしてしまったのは我ながらどうかしていると思う。
いやまあ普段から性癖には忠実な私だから今更だけど、うっかり主様の機嫌損ねちゃったらどうしましょと心配する気持ちだってあるにはあるのだ。
不機嫌な主様も最高だけどさ。
「それにしても、色男はどこへ行ったんだい? 見ていて鬱陶しい程キミにべったりだった気がするが」
「最近は俺が不死身になったって事をようやくしっかり認識出来たのか、離れても精神が不安定にならないようになってきてるんだ。お陰で適当に町をぶらぶら歩いたり、一日に何回ナンパされるか数えて遊んだりが出来る!」
ほう、
「随分面白そうな遊びしてるなお前」
「結構面白いよ! 俺、中身は普通に男のままだから尚更楽しい!」
成る程、素直で元気でまともな子と思ったがまあまあいい性格してるらしい。
見た目美女な同性相手にナンパする様子を見て楽しんでる気配がするし、そういう楽しみ方をするって事はそういうメンタルしてるって事だろう。
キメラらしくちょっとどっかおかしいようで逆に安心した気分だ。
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で、折角だからアイツとも会って行ってと主張する幸運が色男とやらを探しに行き、主様は同じ場所で待っているのは面倒だからと町を歩きに離脱。
私は主様について行こうとしたのだが、
「一人で歩きたい気分だ。それにキミは他のキメラに会ってみたいんだろう? だったらそこで大人しくしておいで」
「他のキメラに会いたくっても私は主様が同行許してくれさえすれば主様を最優先しますからね!?」
「どうでもいい」
思わず自分の譲れない部分を主張したら当然のようにそう返された。
そういうクールなところが主様の良いところなのでゾクゾクする。
まあさておき、そんな感じで忠犬ハチ公よろしく人通りの邪魔にならないよう気を付けながらその場に突っ立っていたわけだ。
別に邪魔になるとかを気にする程人通りが多いわけじゃない場所だったが、それがよくなかったらしい。
「おらァッ!」
「うおっ!?」
ラリアットかタックルかという勢いで背後から飛び出た影が思いっきりこちらの腹へとアタックし、一瞬で俵のように担がれた。
コルセットで覆われた腹なのでダメージも何も皆無だし感触も無いが、担がれた際の視点、そして胸とか腕とか足が触れる感触からして、相手は高身長のギッチリガッシリムキムキ体型と確信。
……うん、好みの体型してるヤツが相手じゃ暴れて逃げるとかそんな勿体ない事出来ないよな!
それは巨乳好きに巨乳のお姉さんが突然襟元ガッパァ開いて生のおっぱい見せてくれたような状況下であり、その状態で逃げるなど言語道断。
エロ同人のいきなりステーキよろしくかぶりついてむしゃぶりつくのが礼儀だろう。
つまり私もまたそういう心理となり、一切の抵抗無く担がれ、折角だからと相手の背筋やらをペタペタ触って満喫していた。
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そういった経緯で誘拐され、連れて行かれた先、恐らく盗賊のアジトなのだろう、街道を離れていて人目につきにくい位置にある洞穴へと放り出される。
どうも外側はただの洞穴に見えるが、内側は快適に過ごせるようある程度の設備が整えられているようだった。
そして今更に手足を適当な縄で拘束される。
……うーむ、目の前のムキムキな誘拐犯の指レベルでぶっとい縄ではあるけれど、このくらいの拘束じゃあんまり意味がなあ……。
何せこちとらドラゴンが混ざったキメラである。
ドラゴン混じりの生物兵器となれば、この程度の縄は物理で千切れるし、そうでなくとも口から火を吐けばどうにかなるレベルの拘束。
しかしムキムキ相手優位みたいな状態で一方的に攫われて拘束されてるという現状に加え、アジト内には誘拐犯であるムキムキゴリラ以外にも、タイプの違うムキムキが二人居た。
……え、そういうイメージプレイに対応してる筋肉好き向けの夜の店とかそういう系?
思わずそう思うくらいには好み過ぎる。
しかも聞こえて来る会話も売るとかその前に遊ぶとかいうテンプレみたいな賊台詞ばかりで、ムキムキを堪能出来るのかと思うとウキウキわくわくしてしまう。
「……おい、さっきから随分と静かだが、意識はあるか? それとも突然攫われた事に理解が追い付いてないのか?」
気遣うような、しかしどこかニヤつきを残した表情で私を攫った男がこちらを向いてそう言う。
「いや、めちゃくちゃ好みの筋肉が三種類な上に拘束まで加わって今から大興奮状態に陥ってる」
「待ってくれ」
私の言葉に相手は顔を覆い、もう片方の手で待ったと手のひらをこちらへ向けて来た。
何だよ、私は正直に自分の欲望を告げただけだぞ。




