あの世に行ったら二回じゃ足らんと訴えよう
目が痛くなる程の眩しさ、否、真っ白さが私の視界を塗り潰していた。
……はて?
ここはどこだろう、と夢見心地でぼんやりと思考する。
視界に広がるは、上下左右も何もかもがあやふやになる程真っ白な空間。
夢だろうかと思うものの、寝床に入ったような覚えが無い。
直前まで何をしていただろうか、と腕を組んで考えてみる。
・
そう、アレは確か、いつもの居酒屋。
いつもの居酒屋で、私は大学の友人達と飲んでいた。
それぞれべろんべろんに酔っぱらいつつ、ケラケラと近くの誰かに絡んだりしている見事なまでの酔っ払いまみれな酒盛り会場。
流石に見知らぬ人にまで絡みはしないけれど、近くに居る友人を引っ掴んでわいわいしていたのを覚えている。
「んでー? 四季は気になる子居たりすんのー?」
「おいおい何を聞いてんだよもう! 私が気になるのは魅力的な存在全員に決まってんだろもーわかってねーなー!」
「イッデェ! 酔っ払いの手加減無し肩パンイッテェ!」
「ふはは軟弱者め。私の好みはこの程度ではびくともしない素晴らしき筋肉だ。凹凸がしっかりしていて流れる汗が縁取りをするかのように筋肉の形に沿っていたりしたら最高にグッド! いやんもうそんな筋肉の持ち主に見下されたらヨダレが出ちゃう! 肉食獣が手頃な獲物はさてどいつかな、って見定めてるような侮蔑とはちょっと違うけど温度が無い感じの目で見られたら腰の方からゾクゾクした感じが上がってきちゃうね!」
「ドMの感性わっかんねー」
「おいこらテメェ他人様に聞いときながら片手間に酒飲むとは何事だ! 私の好みの話をしてるんだよ今は! ちなみにお前は戦力外な! そんな世間一般のお嬢さん方が好みそうな薄っぺらい細マッチョに興味はねえ!」
「俺は世間一般のお嬢さんにモテたいしお前に好かれるって事はつまり舐めるような目付きでガン見されるって事だろお断りじゃボケ! 誰が好き好んで視姦されっか!」
「あらヤダ視姦だなんてそんなダイレクトなワードを使うなんてお下品でしてよ! あと見るだけじゃない! 叶うなら匂いも嗅ぎたいし筋肉をなぞる汗を舐めたいしじっくりと触りたい! おっきいおっぱいに対して、見るだけじゃなくてぱふぱふだぜひゃっほうまでしたいのと同じだ! わかったか素人め!」
「めちゃくちゃわかりやすいけど女の自覚を持てや!」
「残念ながら私の胸はおっきいには分類されないおっぱいなんだよ。実に悲しい。自分の胸が揉み心地の良い巨乳になるのを夢見て風呂入った時とかに揉んでたのに、出来上がったのは日本人らしい質素なお胸。全体的にスレンダーなのは良いけどもうちょい肉が欲しい。具体的には胸と尻と太もも」
「本当にお前はもうちょい人目を憚れ! そんなんだから大学内でもお前の話する時は名前出すよりも「ほらあの女なのに筋肉と巨乳好きな変態の……」って言われてんだぞ! しかも相手も高頻度で「あー」って納得するし!」
「私は自分を偽りたくないからな!」
「フルオープンしちゃなんねえ部分もあるんだわ人間社会には!」
そう、そんな感じで友情百パーセントな友人、友也といつも通りにわいわい駄弁っていた記憶。
・
そこまで思い出し、んんん、と私は唸る。
一番最新の記憶がコレという事は酔っ払い過ぎて寝落ちコースとなった、のだろうか。
それにしたっていくら寝落ちたとしてもこんな真っ白い部屋に放り込まれる意味がわからん。
……夢、かなあ。
ふと見下ろせば、今まで気付いていなかったが私の体がちゃーんとあった。
良い言い方をすれば華奢でスレンダーな、身も蓋もなく言えばひょろんと薄っぺらい私の体。
床があるのかすらわからんが、一応座れるらしい真っ白い暫定床部分に胡坐を掻いて腕を組んでいる。
しかしそれだけ。
「可能性としては異世界転移とか異世界転生? 最近流行りの異世界コース? いやでも死んだ記憶も無ければ眠った記憶すら無いんだよなあ」
まあ結構酔っ払ってたので記憶がぶっ飛んでるだけの可能性が高いのだが。
なにせ厄介なレポートを倒しての友人達とヒャッハーな打ち上げだった為、そらもう飲んだし回りも早かったのである。
……ん?
そんな事を考えていれば、目の前に文字が浮かび上がっていた。
否、文字というには色が無く、周囲の真っ白い風景に溶け込みそうな白さの何か。
しかしそれは目視出来ている気がしないのに、確かに文字であり、そして何と書かれているのかが、脳に直接ぶち込まれているかのように理解出来た。
――突然のお話となりますが、貴方様には今まで生活していたのとは違う世界へと移動していただきます――
凄く開けっ広げに言うと、完全に異世界転移する際のチュートリアル会話っぽい。
――実質そのようなものとお考えください――
おお、意思疎通が可能だ。
いやまあ、意思疎通が可能というよりは一方的にこちらの考えを読まれただけなのかもしれないが。
――端的に申しまして、世界というのは複数存在するのです――
「パラレルワールドとか、それこそ異世界みたいな?」
――その異世界なのですが、幾つか人口的に悩まされている世界が複数存在しております――
こちらの声にさらっと応えてるような応えてないような感じで、その文字、もしかしたら私に自覚が無いだけで声かもしれないが、とにかくその天の声は続ける。
――人口のバランスが崩れている程度は特に問題ありませんが、飼い猫がガリだったりするような感じなので微妙に体裁が悪く――
「いやどういう例え?」
――なのでどちらかというと人口的にデブな地球から、異世界転移に対して拒絶が無い人間を適当にガリな方の世界へ放り込もうと思っております――
「正直に言えば良いってもんじゃねーぞ!?」
よく友人達からそうツッコミを入れられていた私が言うこっちゃ無い気もするが、んな事は知らん。棚に上げとけ。
今優先すべきは、天の声の言動についてだ。
「それってつまり、片方の花壇スッカスカで片方の花壇がぎゅうぎゅうだからぎゅうぎゅうな方から間引いたのをスッカスカな花壇にうーつそって事!? 移動させても大丈夫そうなのを適当にっていう!? 勇者がどうとかトラ転とかそういうアレでもなく!? 太い人の脂肪を痩せた人に移植するような、そんな感じで!?」
――雑に言えばそうなります――
「いやもうとっくに雑な言い方しかしてねえよ!」
何だこの、何だこの噛み合うような噛み合わないような感じは!
これアレだ! お喋りロボットとかAIとかそういうアレを相手する感じ! 話しかけたら会話っぽい事は出来るけどプログラムされた動きから脱しないもんだから変な違和感生じるアレだ!
――人口確保用の移植ですので、一応の餞別として、選抜された方には転移後の世界で受けた死ぬレベルの事象を二度だけ軽減致します――
「え、二度?」
――そうしないと不意打ちで意外とあっさりぽっくりが多くて――
「犠牲者が! その言い方だと既に複数人の犠牲者が出てる!」
何てこったい知らない内に異世界転移させられて不意打ちによるあっさりしたぽっくりさんが複数人発生していたらしい。
しかも、多くてと表現されるくらいには間引かれてたご様子。
――尚、死ぬレベルの事象に関してはそれを跳ね返す形となります――
「…………よくわかんないんだけど、つまり?」
――盗賊に突然殺されても復活しますが、一般人でしかない場合は追撃で死にますので――
「成る程そりゃあぽっくり逝くわな!」
思わずやけくそで叫んでいた。
いやしかしまあ、うん、納得はする。
致命傷が仮にかすり傷で済んだとしても、攻撃してきた相手とかがその場に居たりすれば、「ヤッベ手が滑ったかなコイツ生きてるじゃんもっかい殺っとこ」になって人生終了コースと相成るだろう。
しかし致命傷を相手に跳ね返せばこっちは無事だし相手は追撃不可能だし、という事でその場はどうにかやり過ごせる。
人口を増やしたいというなら、そのくらいのセーフティが無ければならない。
株分けした花を別の花壇に移動させたって、根付けないなら無駄に終わるという事だ。
「……ん、でも人口増やしたいなら、既にその世界には地球人が沢山居るの? クラスごと異世界転移とか、同じゲームのプレイヤー達皆が、みたいな?」
――地球も元は男女二人からの多頭飼育崩壊状態ですので、多過ぎるとちょっと――
「まさかそれアダムとイヴの事か!? 私ら地球人は増えすぎた猫扱い!?」
――あと時間の流れも違いますし、まあ、別に世界が崩壊するわけではないので時々様子を見て人口がガリなようならデブな方からほんのちょっぴり斡旋するくらいがベストかと――
「デブ猫の飯を減らしてガリ猫の飯増やすみたいなテンションで異世界転移させられる!」
――ではそういう事でハバナイスデイ――
「えっ」
ぐ、と突然重力が消えた。
否、重力が掛かったと言うべきだろうか。
気付けば見えずとも確かにあったはずの床の感触が消え、背もたれが突然倒れたかのような勢いで重心が崩れて背中の方から落ちていく。
そのままいけば後頭部が床にダイレクトアタックによる激痛が発生して、最悪舌まで噛んでおっぎゃあとなるところだろうが、それを上回る最悪があった。
「ひ」
ぐるん、とそのまま背中から落ちるようにして一回転し、私は下を向いていた。
上下左右がわからなかった真っ白い空間では無く、広がる大地という下に向かって絶賛スカイダイビング。
体勢を崩しに来る強い風、抗えない重力、夏という事で薄着だった剥き出しの手足を苛む寒さ。
耳には風を切る音が届いているが、もう何か、勢いが凄過ぎてドライヤーの何か凄いうるさいヤツが横で使用されてるみたいな気分だった。
いやまあ、そんな気分は完全にただの現実逃避なのだが。
私としては現実逃避をしたまま気絶をしたいくらいだが、風の音と寒さが無理矢理にでも意識を覚醒させやがるので気絶する事すら出来ない。
――グッドラック――
思い出すのは、透明の文字のような音の無い声のような、とにかく無機質さが強かった天の声。
背中から落ちる時に聞こえたその最後の声に、私はとんでもない高度だろう空中で重力と風に翻弄されてぐるんぐるんしながら、風に抗い右手の中指をおっ立てる。
「バーーーーカバーーーーカお前英語の発音悪いんじゃボケーーーー!! やーーーーい日本人特有の片言発音ヤローーーーーー!!」
天に向かって全力でそう叫んだ途端、私は下にあったらしい大変硬い何かとぶつかった。
「ごへっ」
丁度後頭部が接触事故を起こした為、首が嫌な感じにグキッとした気がする。
既に結構な時間滞空してたのもあって相当な重力が掛かっており、その接触事故は完全なる致命傷だった。
・
「ぎゃふん!」
我ながらやたらと古臭い悲鳴をあげつつ、私は目を回しながら身を起こす。
何があったんだと思ってぐらんぐらんと派手に揺れる視界で必死に周囲を見渡してみる。
吐きそうなくらいに揺れる視界を押さえようと頭を手で支えて確認すれば、何やら、私はクレーターの中に居た。
「……ふむふむ」
穏やかな笑みを浮かべ、私は頷く。
私は賢いので、このクレーターの意味、そして遅れて鈍い痛みを発し始めた左足首の異常をすぐに理解した。
「あの野郎一回分は詐欺じゃねえか!」
つまり異世界転移時にポーイッとする為、そこで一回死ぬという事。
そりゃ人間ってのは案外頑丈だけども、それなりに脆くもあるのでとんでもない高さから高い高いされて母なる大地にキャッチされれば死にもする。
死ぬレベルのダメージが左の足首を捻りました程度で済んでるのはかなり良い事のような気がするが、だからといってこれは無い。
二回分のクジ券あげるね初回は確定で外れだけど、みたいな話じゃないか。
尚、人間社会ではそれを詐欺と言う。
私は詐欺罪について大して詳しくも無い平和ボケ一般人なのでコレが詐欺に当たるかどうかは知らないが、世間一般的に見たら詐欺と分類されるレベルの所業だろうよ。
「ったくもー、しかもあと一回分残ってるとはいえどこなんだここは」
地面にぶつかった時、足と一緒に痛めたのかじんじんとした鈍い痛みを放っている後頭部を撫でつつぶちぶちと零す。
「見た感じ砂漠っぽいけどクレーター状態でこの外側どうなってるのか見えないし……」
というか砂漠のようなサラサラ砂で、クレーターのへこみ部分ど真ん中で、足首捻ってるこの状態というのは、一般的な意見以外でも絶体絶命と呼ぶんじゃなかろうか。
こんなサラサラのお砂を登れるような技術は持ち合わせてないし、サラサラのお砂に発生したクレーターからひょいひょい出られるんならアリジゴクは一匹残らず飢え死にして絶滅してる。
つまりヤバい。
じんわりとした心地よくない汗が分泌されているのを感じながら、私は慌ててクレーターの外側へと視線を向ける。
突然何か空から降って来てドッカンしてクレーターが出来たのだから、何だ何だ隕石か、という感じで現地人が覗き込んだりしてくれないだろうか。
この際、宇宙人扱いも甘んじて受けよう。
……別に覗き込んだら滑り落ちて足首捻った薄幸の通行人女性ポジションでも良いけど、それだとこの世界についての説明を聞ける気がしないもんなあ……。
それなら実質的に何も変わんないので、宇宙人扱いされてでもこちらの世界についての詳細を伺った方が良いのでは、と思う。
まあどう考えたところで覗き込んでくれる誰か、それも人間食ったりしない知的生命体が来てくれなければ一巻の終わりである事に変わり無し。
ここで猛獣だとか魔物だとか人食いの化け物だとかが登場したらデッドエンド。
登場するのが言語による意思疎通が可能であり友好的で善良な知的生命体であれば生存出来るが、そうじゃなければ無人島に遭難したのと難易度は大して変わらない。
今年の初詣で行った近所の神社で引いたおみくじは大吉だったので、その強運が素敵な誰かを呼んでくれる事を切に祈る。
思い返すと運勢こそ大吉なのに書いてある内容とか諸々はあんまりよろしく無くて、しょっぱいを超えて渋い感じの内容だった気がするが、困った時は神頼みなのが日本人。
さっき中指立てた相手も神である可能性はあるが、日本人は多神教なので善良な神様がお助け存在との縁結びしてくれるの希望です。
発想が甘っちょろい自覚はあるが、生き残るには体力を温存する為に大人しくしつつ天に祈るしか出来ないのも事実なのだ。
「ん?」
そう思った時、天への祈りが届いたのか、砂を踏みしめるような音がした。
見上げれば、砂漠地帯の人のような恰好をしている誰かがこちらを覗き込んでいる。
人型であるその誰かは、ひょいっとジャンプしてクレーターの斜面をサーフィンでもするかのように立ったまま滑り落ちてくる。
下までやってきたその人、恐らく男性だろうその人は、こちらから数メートルの距離を開けた位置で再びジャンプして勢いを殺し、危なげなく着地する。
その動きで、ばさり、と男性が全身を覆っているマントがはためいた。
マントというか、薄汚れたシーツのような大き目の布を頭から被って巻き付けてるような感じだが。
……ああでも、砂漠だと直射日光がヤバいから布で覆い隠してる方が涼しかったりするんだっけ?
混乱し過ぎて自覚が無かったが、いざ意識してみると確かに剥き出しの手足に直撃する日光はじりじりと熱い。
暑いのではなく、焼かれているように熱い。
成る程これは覆った方が良いヤツだ、と思考の隅で思いつつ、私はその男性をじっと見つめていた。
……何か、イケメンの気配がする。
あと距離あるしこっち座ってるしで間合いがわかり辛いが、この位置から見える視覚情報からすると、大分背が高い上に筋肉質と見た。
砂に足を取られないようにしていた動きが、こう、重量感のあるタイプだったのだ。
スピード重視の軽量タイプの場合はもうちょい軽やかに動く気がする。
あとこっからでもわかるくらいに厚みがある。
被ってるフード部分取ってくれないかなと思って、ぺたんこ座りから膝立ちになった、その瞬間。
「がぼ」
バチリ、という音がした気がする。
光る何かを見た気がする。
黒い中に爛々と光る眩しく黒っぽい赤色を見た気がする。
一瞬のうちにそう思って、次に思ったのは、何か喉に痰が絡むな、という事。
「ごぼっ……!?」
喉で絡んでいるのは痰で無い、という事に気付いたのは、ゴキンという骨を伝って全身に響いた重い音を聞いた後だった。
喉に鋭い、恐らく牙だろう物が突き立てられていた。
喉の違和感は私自身の血が溢れたものだった。
言葉が出なかったのは、喉奥からあふれた血が口から零れ出ていたからだった。
ゴキンという音は、私の首が外された音だった。
いや、折られた音なのかもしれないが、とりあえずそれが致命傷に違いないのは確実だった。
痛みは無い。
痛覚が痛みを自覚する前に、生体反応の方を潰されたらしい。
息が出来なくて意識が遠くなって指先の方から感覚が無くなっていくのに、恐ろしい程痛みが無い。
倒れ込んだ感覚すらも知覚出来なかった。
……何だろう、この、テレビとかの配線が断線した時の、テレビ画面はブツッと消えたけど断線した部分はバチバチと火花散らしてる時みたいな、死んでるけど死に切ってないような……。
何を考えたいのかわからない。
わかるのは、私の腹がある位置で、先程の男が身を低くして何かやってるらしいという事。
流石に死体と性交されるのは嫌なんだけどなあと一瞬思ったが、そういういかがわしい事をしている感じの動きには見えなかった。
視界もすっかりぼやけて、どんどん薄暗くなっていくけれど、その動きはテレビで見た肉食獣が狩りをして食事をしている時のような、ガツガツ食べてる時の頭の動きに見える。
赤が散らばり、ピンクの何かが伸びて、ピンクの何かに噛み付いたまま引き千切ろうとしたのか、身を仰け反らせた男のフードが重力に従いバサリと落ちた。
……あ。
青が見えた。
金が見えた。
黒が見えた。
赤が見えた。
もう脳みそが機能を停止し始めたのか、見た情報が上手く整頓されない。
しかし、理解は出来た。
その男の口元には人間とは思えない牙があって、その口周りは血でべとべとになっていて、そして、そして何より、その顔つきがとても端正で整っていて男前タイプなイケメンである事を認識出来た。
……イケメンに食べられるなら、まあ良いかな。
痛みも無いしね、と思いつつも、遠ざかる意識の中で思うのは別の事。
善良な知的生命体どころか人食いの化け物来ちゃったよ、というのが一つ。
もう一つは、やっぱおみくじってのは当たるもんだなあ、ということ。
……死にはするけど眼福だったし。
とはいえ、これで死ぬなら私はいつの間に二回もの致命傷を負っていたんだろうか。
着地時で一回のは確実だけど、と考えた時に思い出したのは、中指おっ立てた時の衝突事故。
もしや後頭部にあった鈍い痛みは、着地時じゃなくてあの謎の衝突事故時に致命傷を負った分だったりしたのだろうか。
そう思案するも、既に思案するような脳みその機能は何も残っていなかった。
どんどん意識が浮かぶような、寧ろ深海へと沈んでいくような、そんな不思議な感覚に包まれながら、私は思考が無に包まれて停止していくのを感じていた。
まあ、最期に大変好みのお顔を拝見出来たので悔いは無い。
名も無き猫に倣って、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。ありがたいありがたい。




