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ドイツ風の異世界は……、転生した日本人が結構いました。  作者: わだつみ
第1章 辺境の子爵家でもお家騒動はある!
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10.悪役元令嬢弾劾イベント

 父達を引き連れて広間へ入ると、武官・文官・執事やメイドなど家臣達が勢揃いして両側の壁際に立っている。とても壮麗な光景だが、家臣達の表情は堅く緊張した空気が流れている。

 父達は一瞬ギョッとした表情をしたが、何かを感じ取ったのであろう戸惑いの中にも僅かながら恐怖心が見える。ゾフィーア以外は。


 館の広間は、騎士任命式など公式な行事が行われ為、百人入ってもダイジョーブ! な作りにしてある。広間の上座は三段程高くなっており、そこに立派な拵えの領主の椅子がある。

 騎士に囲まれた父達を広間の真ん中に立たせたまま、僕は躊躇する事無く三段高い場所に在る領主の椅子に座る。勿論、主要メンバーと打ち合わせ済みなのでクレームはきません。


 ゾフィーアは、ことこの場に於いてもアレクサンダーの名を呼びながら金切声を上げ暴れている。ここまで空気を読まないのは、ある種才能かもしれないな。

 そう云えば、最近は不用意な発言でその場の空気を凍らすことがあり、増長してあまりにも酷い振る舞いだと思ったことが度々ある。

 どこまでも自分勝手な様子に、僅かに抱いていた罪悪感も吹き飛んだぜ。とことん甚振ったる。


 しかし、ここまで酷いのは、ゾフィーア本人の資質もあるのだろうが躾にも問題があるのではないか、親の顔が見てみたいものだ。

 今度ウーラント侯爵に会えたら、間近でまじまじと顔を見て、嫌みの二つ三つ言ってやる。代替わりして、ゾフィーアのクラウス兄が当主だが構うものか。

 無礼だと激高したら、喧嘩を高く売りつけて安く買叩いてやるぜ! もっとも、その時にウーラント侯爵が存在していればの話だがな。


「アレクを戻しなさ……」


「黙れ! 御曹司の御前である! 」

ゾフィーアが、僕に向けた言葉をブルクハルト伯父上が大声で叱責し、ゾフィーアは沈黙する。

 勿論、これも予め打ち合わせ済みのこと。ゾフィーアは、きっと人の話など聞かずに喚き散らすであろうから、そこをブルクハルト伯父上に制してもらうことにした。

 ゾフィーアは、武人のブルクハルト伯父上と普段から何を考えているか分からないじーさんとライムント叔父上を苦手にしているからね。

 しかし、今回もブルクハルト伯父上はノリノリのキレキレだね。今度、一緒にキレキレダンス踊る?


「さて、やっと静かになりましたね。喚き散らすのは、貴族の嗜みでは無いと理解していたのですがね。ともあれ、これで話を進められます」

静かな口調で嫌みを言う僕を、ゾフィーアが睨みつけている。おう、おう、活きが良いねー。頑張って、虚勢を張ってね。簡単に心が折れると面白くないからね。


「父上達が帝都で物見遊山を楽しんでいる頃、少々厄介な騒動がありましてね。その話をさせてもらいます」

静まり返った広間で、父が唾を飲み込む音が聞こえた。今の状況、連れ去られたアレクサンダー、漸く何が起こったか推測できたのであろう。元々父は優秀だったのだから、冷静になれば簡単ことか……。

 ゾフィーアの顔色を窺ってばかりでなければ、今回の騒動も無くアレクサンダーもここに居たのに……。


「では、クリストフ伯父上お願いします」


「はっ」

クリストフ伯父上は落ち着いた良く響き渡る声で、僕とハンネローレがヴェルツル一族の襲撃を受けたこと。ヴェルツル一族を撃退し情報を引き出したこと。その情報を元にヴェルツル一族の隠れ里に出陣し族滅させたこと。襲撃者と隠れ里から得た情報により、依頼者がナータン達であり自白も得たことを淡々と告げた。

 父は、血の気が引き真っ青になる。ゾフィーアは、事態を理解していないのであろう未だ不満そうな表情をしいる。姉のユーディットは、話を聞いていないのだろう退屈そうにしている。

 この状況でのユーディットの態度は、選民意識の強いゾフィーアに育てられたから、ウーラント侯爵家の血筋の自分には関係が無いと思っているんだろうな。

 目の前でアレクサンダーが連れて行かれたのに…。その性根を叩きなおしてあげるからね、楽しみにしてね姉上様。


「以上の事柄から、騒動の原因であるアレクは神殿に送り、以降はウォルフガングを名乗らせぬことに決定した」


「そんなこと認められるはずないでしょ。今すぐにアレクを連れ戻しなさい」

クリストフ伯父上の話に、さほど強くも無い我慢が限界を超えたのであろう、ゾフィーアが大声で喚き始めるが、誰もが『良い加減しろよ。このヒステリックバァバァー』ってな表情を浮かべるだけで身動き一つしない。

 それが、ますますゾフィーアのヒステリーをヒートアップしていく。いいね、いいね、盛り上がってきましたよ。


「私を誰だと思っているのですか、ウーラント侯爵家の血を引いているのですよ。子爵家の者如きが逆らうと、どうなるか分かっておりましょうな。今すぐにアレクを連れ戻しなさい」


「やれ、やれ、ゾフィーア殿は聞き分けのない困った御方ですね。イレーネ、アレクの首だけを持ってこい」


「はい、承知しましたぇ。で、首から下は、どないします? 」


「野焼きにして、灰は川に流せ」


「はい、承知しましたぇ。では」 


「お待ちなさい、そのような事が許されると思ってているのですか」

ゾフィーアは、自らの望みと真反対な結果を出す僕とイレーネの会話に目を剥いて喚き声を上げ、歩き出そうとしていたイレーネを止める。

 うーん、ゾフィーア最高潮。そろそろ甚振り始めようか。


「仕方ないではありませんか。可愛い弟を死なせたくないので神殿送りで済ませようと言っているのに、ゾフィーア殿が殺せと言うのであれば死なせるしかありません」


「そんなことは言っておりません」


「言っているのですよ、ゾフィーア殿は」

ゾフィーアは、さらに言い返そうとしていたが、父に手で遮られ言葉を発しなかった。これから父のターン。


「親父は、なんと言っているんだ。家族思いの親父が許す訳無い」

残念! ゲーム風に言うならば、『マリウスは、的外れな言葉を口にして、せっかくのチャンスをふいにした』だな。

 せめて家族の情に訴えれば、神殿送りを止められなくても、面会の機会ぐらい勝ち取れたのにね。


「じーさんにアレクの処分を伝えると『オメェーも、弟の事になるとアメーな。俺が、始末付けてやろーか』でした。その上で、僕に一任してくれたんです。お勧めしませんが、じーさんに確認してもらっても良いですよ」


「うぐっ」

じーさんに連絡を取ったら、アレクが始末されると理解したのであろう、父は言葉に詰まる。僕のターンで『マリウスは会心の一撃を受けた。大ダメージを負った』てなカンジ。


 確かにじーさんは家族思いだが、アレクサンダーとその他の家族全員をを天秤に掛ければ、どちらに傾くか分かりそうなものを…。じーさんが、愚か者たちが増長した原因を残すはずもない。残せば、また騒動が起き、また血が流れる。


「兄は。兄のウーラント侯爵クラウスは承知しませんよ」


「アレを」

未だここに経ってもウーラント侯爵家の威光に縋ろうとする哀れなゾフィーアに追撃を掛けるべく、居並ぶ文官に短く指示を送ると、筒状に丸められ封蝋された羊皮紙を持って文官が前に出た。覚悟してねゾフィーア。まだまだ、僕のターンだよ。


「ウーラント侯爵閣下から、ゾフィーア殿に手紙です。使者の目の前で書いて下さったので、内容は我々も存じています」

フッフッフ、驚いたろゾフィーア。根回し、手回し、報・連・相は、社畜には必須スキルなのだよ。喧嘩の下準備に手を抜くはずもない。


「ウーラント侯爵には、今回の騒動の事を全て伝えています。その上で、閣下ご自身が書かれたそうです」

奪い取るように手にした手紙を読んだゾフィーアの手が、ワナワナと震えている。おー、怒ってる怒ってる。


 因みに手紙の内容は、『ウォルフガング家に嫁いだからは、ウォルフガング家の決定に全て従え。たとえ何があろうとも、ウーラント侯爵家が手助けをすると思うな。

 アレクサンダーの件は、ゾフィーアの増長が招いた結果だから受け入れろ。ウォルフガング家には、大変申し訳ない事をしたから、ゾフィーアからも心の底から謝罪しろ』との事柄が、貴族らしい文脈で書いてある。


「では、ナータン達の処分についてなのですが、今回の騒動に関わったのはナータンとその妻、それに執事が二人。この四名は、即刻死刑を執行しました。それぞれの家族は、連座して財産没収・犯罪奴隷としました。調査の過程によりウーラント侯爵家から連れてこられた者達全員に、横領と着服の事実が発覚しましたので、全員を財産没収・犯罪奴隷とします」

そうアツラは、ゾフィーアの威光を笠に着てやりたい放題してやがった。それをバルツァー家の面々が詳細かつ綿密に記録してくれたから、天網恢恢疎にして漏らさず全員を処分してやるぜ。

 バルツァー家、そなたらに百万の感謝を!


「なんですってー! 」


「閣下の手紙に、ウォルフガング家の決定に全て従えと書いてありますよね」

ゾフィーアは、何度目か分からない叫び声を上げるが、僕はその言葉をサラリと躱す。僕の口説き文句をサラリと躱すクリスティーネのように……。

 ああ、駄目だ……。クリスティーネに振られたのをまだ引きずっているようだ。これが終わったら、弱った振りしてもうワンチャン狙おう。


「どうして……。どうして兄は……」

そう謎だよね。何故、ウーラント侯爵家が子爵家でしかないウォルフガング家に気を遣うのか分からないよねー。でも、未だ内緒。教えてあげない。もっと引っぱって、もっと苛めたるどー。


「では、犯罪奴隷となった者達は、私が買い取りましよう。それならば、問題無いでしょ」

キター!! 期待通りの言葉を口にしてくれましたよ。その言葉を待ってたんです!!


「ほう、それは結構なことですが、費用はいかがされるのですか? まさか、ウォルフガング家に被害を与えた者達を買い取るのに、費用を我々に出せとは言いませんよね」

ブロー、ブロー、ボディーブロー。小さなダメージを蓄積させていきます。勿論、前振りです。


「わ、私の財から出します。それなら文句ないでしょ」


「ええ、構いませんよ、出せるものなら」

僕の態と含みを持たせた言葉に、勇んでいたゾフィーアが『えっ』って感じで訝しがる。さーて、フニッシュブローいきますよ。


「アプト商会・フーベルトゥス商会・オトマイアー商会、この三商会を御存知ですよね」


「え、ええ」

僕を睨みつけていたゾフィーアが、視線を逸らす。その瞳は、オリンピックの金メダリスト並みに泳ぎまくっていますね。あの泳法は、きっとバタフライだね。


「ウォルフガング家の名を勝手に使い、三商会から莫大な借金をしてますね。しかも、一度も返済していない」

ゾフィーアの事だ、貴族様だから踏み倒しても構わないと思って借金を重ねたのだろうが、そんな事されると信用を無くしてこっちが困るんだよ。

 これだから、市場経済を理解できず、領民から税を搾り取ることしか考えていない馬鹿貴族は手に負えん。


「なので、我々が返済しておきました。父上とゾフィーア殿と姉上とアレクの私物を処分して」


「なんですってー」

絶句したゾフィーアが、またもワナワナと震えている。


「金を借りた者が金を返す。当たり前の事ではないですか」


「ぺ、ペンダントはどうしましたか。瑪瑙に掘られたカメオのペンダントは、どうしたのですか。あれは私が母から貰った、代々ウーラント侯爵家の女に引き継がれていく物ですよ」

大嘘つくな。代々引き継がれる物なら、他家に嫁ぐ娘に渡すかよ。渡すなら、ウーラント侯爵家に嫁いできた嫁に渡すだろうが!!


「確か嫁入り道具などは、高値で売れたそうですね。その中に入っていたのではないですか」


「ジークそれは、拙いだろ。引き継がれる物を売ってしまうと、ウーラント侯爵家の顔を潰す」

……父上。もうちょっと考えようよ。いくらゾフィーアにベタ惚れでも、妄信しちゃだめだよ。


「そ、そうです。流石に兄でも、これ程の無法は許しませんよ」

おっ、父の助力を得てゾフィーアが生きを吹き返した。やったね、これで楽しく止めを刺せる。


「どうぞ、閣下に連絡を取られるなら自由にして下さい。返事がくるとしら、もっと叱責されると思いますよ。まぁ、ウーラント侯爵家もそれどころでは無いので、返事は来ないと思いますがね」


「どうゆうことだ、ジーク」

流石に父のほうが頭の回転が早いか、あれだけ思わせ振りにしているのにゾフィーアは、イマイチ分かっていないようだ。もう、頭がパンクしているのかな。


「ウーラント侯爵家先々代当主バルナバス閣下が、ヴェルツル一族と接触を持っていたとの確たる証拠を入手しました。先程も言いましたが、その件を含めて全てを伝えてあります」


「そ、そんな……」

会心の一撃が入ったようだな、ゾフィーアが座り込み項垂れている。おお! ゾフィーア、死んでしまうとはなにごとだ。仕方の無い奴だな、お前にもう一度機会を…………、与えん!!

 今の気分は、どうだいゾフィーア、楽しんでるかい。僕は、むちゃくちゃ楽しくて元気だよ。I'm fine, thank you!!


「そ、その証拠は陛下に提出したのか、ジーク」

おっ、父が想定外の事を聞いてきた。なんだろうな、これ以上株を下げることを言わないで欲しいんだけど。


「ええ、報告書と一緒にじーさんに送りました。確認後、奏上されます」


「今から、報告書のウーラント侯爵家の記載を消してくれないか。父の頼みだ」

何言ってだ、このクソ親父! 母と僕とハンネローレには、殆ど顔を合わせないだろうが。いまさら父親面して、何ぬかすねん。大体、そんなことしたらウォルフガング家がヤバいだろうが!


「無理ですね。大体、今回の騒動で何人死んだと思っているのですか、都合の悪いことだけを隠すことなど出来ませんよ」


「ヴェルツル一族のような下賤の者達と、ウーラント侯爵家を一緒にしないで」

座り込んだままのゾフィーアが、声を振り絞るかのように叫ぶ。

 てめー、人権思想を持った元日本人に喧嘩を売りやがったな。おう、買ってやろーじゃねーか。


「違う!! 人の命とは、皆等しく尊い、違いなどあるものか!! 違うのは、生まれながら持った責務だけだ。ゾフィーア! 貴様は、貴族として生まれた責務を果たしているのか! 貴族は、その生まれによって尊ばれるが、信頼を得るのは行いを以ってのみだ。貴様は、信頼を得るべく何を為した! 」

買ってやりましたよ。それも思いっきり。そんで、フルボッコだ。興奮のあまり、椅子から下りて、立ち上がっちゃったよ。


「ヴェルツル一族もナータン達も、罪を犯したから裁かれた! ウーラント侯爵家も同じことだ等しく罰せられる! 貴族であろうとなかろうと」

水を打ったような静けさだ。誰も、物音一つ立てない。


「ゾフィーア、貴様に一つだけ聞きたい。顔を上げよ」

もう完全にマウント取って、上から目線での呼び捨てですが、誰も咎める者はいません。流石にディーターも、神妙な顔をしていますよ。


「何故にアレクを当主に望んだのだ。私が次期当主に選ばれたから、父上が当主代理となった。父上が当主代理となったから、私が次期当主に選ばれた訳ではない。私が死ねば、違う者が次期当主に選ばれ、直ちに父上当主代理から解任される。そんな事ぐらい理解していただろう」


「ア、アレクは、ウーラント侯爵家の血を引いています。ウォルフガング家を継ぐのに一番相応しいのです」

俯いたままだが、この期に及んでも自説を曲げない。だからこそ、これから生き地獄を味わうんだよゾフィーア。わかるかなぁ、わかんねぇだろうなぁ。


「ウォルフガング家に嫁いできた時に『ウォルフガングは、血筋よりも実力を尊ぶ』と聞いているだろ。理解できないのか、いや理解したくないのか。どちらにせよ、もう遅い。アレクは、二度と戻らぬ」

ノロノロとした動作だが、顔を上げ僕を睨みつけるゾフィーア。往生際が悪くて良いね、とても良いよー。


「羊が狼を率いる事などできん。狼を率いる事が出来るのは、狼だけだ。今回の騒動が無くても、アレクがウォルフガング家を率いる事は無い。それを理解していれば、ここにアレクが居たのにな」

そう言って、憐れみに満ちた視線をゾフィーアに向ける。プライドの高いゾフィーアことだ、僕に憐れまれたほうが辛いだろ。

 また俯いちゃったけど、どうだい辛いだろう。ゲスス、ゲスッスス(笑)


「皆に問う! 私、ジークフートがウォルフガング家次期当主だ。認められぬ者、意を異なる者は去れ。咎めたりはせぬ」

家臣達を見回しながら声高らかに宣言すると、武官・文官入り混じって『御曹司こそが次期当主』とか『御曹司以外にはおりませぬ』とか叫び立ち去る者はいない。

 よしよし、日頃から好感度を稼いだ甲斐がある。皆、空気を読んでくれている。


「宜しい。では諸君、我に従え、我が力となれ。アララララーイ!! アララララーイ!! 」


「「「「アララララーイ!! アララララーイ!!」」」」

天に拳を突き上げながら叫ぶ僕に合わせて、家臣達が鬨の声を上げる。その声は、館中に響き渡り、この場に居なかったウォルフガング家の者達に安堵の気持ちを与えるのだった。

 あっ、なんだか高揚してきてハイな気分になる、気持ち良くてクセになるかも。ギレン・ザビも、こんな気持ちだったのかな。


 暫くの間、皆で気持ちよく叫んだ後、僕は右手を上げて鬨の声を静めた。だって、これから最後の攻撃して、死人に鞭打つんだもの。


「父上」


「何だ………。まだ在るのか………」

父は、座り込んでいるゾフィーアの手を取り慰めている。これが傷を舐めあっているのでなければ、感動のシーンなんだけどね。


「ええ、たった二年間で、かなりの事をやらかしましたからね」

父は、当主代理を立派に勤めあげてきたとでも思っているのだろうか、眉を寄せ不快そうな表情を作る。が、無視をして話をすすめよう。いちいち父に構ってられるか。


「ウォルフスブルク領内の全ての商会に、父上達にお金を貸すと営業権を取り上げると通達してありますので、その心算でいて下さい。また、借財を強要された場合は申し出るようにとも通達してありますので、私達に秘密裏にというのは無理だと思いますよ」

ほら、やらかしているからウォルフガング家の恥を晒し、家名を下げる事になるんじゃねーか。


「続いてじーさんからの処分です。まず、父上は、私が成人するまで当主代理を引き続き勤めます。但し、裁可はクリストフ伯父上とブルクハルト伯父上との連名で。父上単独での裁可は、無効となります。次に、本館から離れの館に居を移してもらいます。そこで、必要以外は外出禁止とし、謹慎せよとのことです。なぁに、離れの館と言っても、なかなかに快適ですよ。なにせ私と母上が10ヶ月過ごした場所ですから」

父が顔を引き攣らせているが知った事か。どうだクソ親父が!! やったら、やり返されるんだぜ。分かったか!


「ああ、それと。姉上につきましては、再教育の必要性を認めますので、厳しい指導と定評のあるオトマイアー夫人に家庭教師をお願いしました。腐りきった性根を、叩き直してください」

一言も発せずに、空気に成りきっていたユーディットが泣きそうな顔をしている。ざまぁ。ウケケケ。


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