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ドイツ風の異世界は……、転生した日本人が結構いました。  作者: わだつみ
第1章 辺境の子爵家でもお家騒動はある!
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11.フェリニシー・ソシューリュル

 広間にて行われた(まつりごと)の為の祭りを終え、僕は館の中を一人歩いていた。

 今回の処分に後悔は無い。ウォルフガング家の為に必要な処分だったが、アレクサンダーの事は胸に小さな棘が刺さった痛みがある。


 アレクサンダーは、本当に可愛い弟だった。中庭で遊ぶ僕とハンネローレを見て近寄ってきて以来、ゾフィーアに騎士家の母から生まれた下賤の者に近付くなと言われながらも、何度も遊びにやって来ていた。

 お馬さんゴッコがしたいと言えば、アレクサンダーとハンネローレを背中に乗せてやったし、絵本を読んでと言われれば二人のリクエストを交互に読んでやった。

 遊び疲れて船を漕ぎ出すと、ベッドに連れて行き三人で川の字になって寝たりもした。年相応に幼く『おにいちゃま。』と、僕を呼んでいた。そのアレクサンダーと、もう会うことは無い。


「不運な星の元に生まれたなアレク………。」

と呟いて、本当はハンネローレに『おにいちゃま。』と呼んで欲しいんだよと思っていました。だってクヨクヨしたって仕方ないでしょ、神殿送りになったんだから。

 一旦、神殿に預けられると世俗とは切り離されて育ち、時々、面接ができるぐらいだ。

 大金払えば還俗出来るけど、神殿側も安易な逃げ場所にされて権力争いに巻き込まれたくないから、還俗費はチョー高い。払えませんよ、そんなモン。



 あの後クリスティーネにチョッカイを出そうと思っていたんだけど、広間に居なかったので残念無念と諦めて、ハンネローレ成分を補充すべくハンネローレの部屋へ向かっています。←いまココ。


「ハンネ、入るよ。」

ドアをノックして、返事を待たずに入る。今の内から、僕は返事を待たずに入ると意識に刷り込んでおいて、ハンネローレが成長した暁には着替えるタイミングで突撃し、ばっちりとボディーを視姦させてもらおうとの深慮遠謀な策なのです。

 ハンネローレ、安心して大きくなってね。お兄ちゃんが、成長を見守ってあげるからね。


「あっ、ジーク終わったの」


「フェリニシー動いちゃダメ。お兄様も邪魔しないで。それにハンネじゃなくて、ハンネローレよ」ハンネローレは、プラチナブロンドの髪に金の瞳、細長く尖った耳のエルフ女性・フェリニシーをモデルに絵を描いているようだ。


「御曹司、こちらにお茶をお入れしました」


「ありがとう、イルマ」

テーブルに気を利かせて淹れてくれたお茶があるので、ソファーに座り一口飲む。うん、美味しい。イルマって、なにげにお茶入れるの上手なんだよね。


「行き遅れですから」

今日は、そんな事思って無いよ。少ししか。


「御曹司、お疲れさまでした」


「ああ………」

何だ、イルマが憎まれ口を叩かないぞ。熱でもあるのか。


「因みに、平熱です」

あっそ。もう驚かないよ。


「随分と元気になったな」


「はい、この頃は良くお笑いになられる様子を拝見します。」

ソファーに座る僕と背後に立つイルマ。僕達が少し離れて見つめているのは、モデル役のフェリニシー。


 フェリニシーは、ウォルフスブルクに帰還した翌日に目を覚ました。その時僕は執務室に居たのだが、館内で急に高まった魔力を感知して発生源に向かって急いでいた。

 絶え間なく高まる魔力を感知しながら発生源に到着すると、数人に抱えられたメイドが去って行く背中が見えた。そして、発生源の部屋の中からは、女性の悲鳴と何かが壊れる音がした。


 ぐったりとして抱えられ去って行ったメイドも気になるが、先ずは部屋の中を覗くと椅子やテーブルが倒れ絨毯には大きく血の跡があった。

 そして三十前半ぐらいのメイドと十代半ばぐらいのメイドが二人、手や頬から血を流しながら部屋の隅に向かって『何もしないから、落ち着いて』と叫んでいた。

 次の瞬間、見えぬ何かに引き裂かれるカーテン。どうやら、風属性の魔法が放たれているようだった。


「危険です、お止め下さい御曹司」

部屋の中へ一歩踏み出そうとした時、背後から肩を掴みメイド長のマクシーネ・アスペルマイヤーが僕を止めた。

 マクシーネは、立ち姿が美しい四十代後半の女性で、イレーネと共にウォルフガングの二大女傑と呼ばれていたりする。

 なんでも、伯父上達の初恋の相手だとかで、マクシーネが結婚した時は伯父上達が人目も憚らずに大号泣したとか。でも僕は、ちょっと苦手。


「マクシーネ、そなたの意見は正しい。が、私以外に終息できる者がいるのか? 」


「だとしても危険です。騎士か魔法師団を呼ぶべきです」

豊富な人生経験を持つマクシーネの言は、いつも正しい。だから常に人の隙を窺ったり、裏をかいたりすることを考えている僕は苦手だったりする。

 えっ、最低だなって。うるせー、ほっとけー。兵は詭道なりって言うでしょ。ついこの間も殺されかけたし、殺伐とした世の中が悪いんだー。


「騎士か魔法師団では、被害が大きくなりすぎる。暴れているのは、あのエルフだろ」

帰還していから忙しくて、エルフ女性の看護はメイド任せにしていたから、彼女が寝かされていた部屋を僕は知らなかった。でも、僕以外にこれだけ魔法をガンガン放てる人間はいない。


「家臣一同、ウォルフガング家の為に死ぬ覚悟は出来ております。御曹司を危険にさらす訳にはいきません」

だからさー、それが嫌なんだって。『命に代えても』とか言って、本当に死んじゃうでしょ君達。そんな死に方されると夢見悪いのよ。


「きゃ」

肩を押さえながら倒れ込む三十前半ぐらいのメイド、手の隙間から血が流れているのが見えた。


「離せ、これ以上の議論は無駄だ」

マクシーネの手を払い除け倒れたメイドに駆け寄り、回復魔法を掛ける。その傍ら即興で、空気を圧縮し壁状に展開する風魔法を放つ。

 急激に極限まで圧縮された空気は熱を帯び、紅く淡い燐光を発する盾が出来た。おっ、即興にしては、なかなかカッコ良くて良いじゃん。


「そなたもこちらへ参れ」

十代半ばぐらいのメイドにも盾の内側に入るように指示をして、隣に来たところで顔の傷を治そうとすると。


「私などに……」

と遠慮されてしまった。


「顔に傷を残しては、嫁にもいけまい」

こんな時でも余裕を持ち、爽やかに笑いながら僕はキメ顔でそう言った。


「……私、もう結婚して大きな子供も四人おります」

えっ、十代半ばなのに大きな子供が四人。何才で結婚したの? 法に触れてないよね、旦那さん処罰するの嫌なんだけど。


「……私、今31才です。こんなナリですけど………」

うわー、ロリババァーだったよ。童顔で身長も低くてツルペタだから、てっきり十代半ばだと思ったんだけど。


「何か、失礼なことを考えていませんか」


「いや、別に……。しかし、未婚扱いして礼を欠いたな、許せ」

とりあえず謝っておこう。普段顔を合わせないメイドだから名前を知らないけど、イルマといい何でそんなに感が鋭いの!


「むっ、誠意が感じられな……」


「二人は、入口まで下がれ」

このままでは、ロリババァーがイルマ二号機に変身しそうだったので言葉を被せ気味に指示を出し、部屋の隅に小さく蹲っているエルフ女性を見た。


「来ないで、もうやめて……。いや、来ないで……」

駄目だ、完全にパニックてる。とても小さな声で呟くだけで、こちらの声は届いていない。仕方ない盾を全面に押し立てて強行突破か……、エルフ相手に即興の盾だけで大丈夫かな。

 なんか魔法の威力が『大迫半端ないって! 』ってカンジなんですけど……。嫌だな、怪我したらどうしよ。僕、痛い・汚い・野外露出の三つは、プレーとして嫌いなんだよ。


「落ち着くが良い。そなたを傷つける者はここには()らぬ」

両手を前に出して、盾に魔力を送り維持してるんだけど、彼女の放つ魔法でガシガシ削られていくから修復が大変だよ。

 しかし流石エルフだな、無詠唱・魔法名破棄でガンガン魔法を放ってくる。僕も無詠唱・魔法名破棄出来るけど、タイミングと計る為に魔法名は口にしている。


 ゆっくりと一歩づづ近付いて行くと、ますます彼女は半狂乱になり魔法を放ってくる。それでも彼女に近付き、遂に目の前に立った。

 ふー、大変だったよ。だって、風魔法のくせに、壁や床にぶつかると方向を変えて飛んでくるんだもん。掠り傷一つでも作ろうものなら、マクシーネからまた説教されちゃうじゃん。


 部屋の隅で、両手で身体を抱え小さく蹲り震えている彼女はとても痛々しく、まるで小さな子供が泣いているようだった。左手をゆっくりと伸ばし彼女の額に当てると、ビクっと一瞬身体を震わせたので、すぐさま魔力を流した。

 すると彼女の震えが徐々に収まり、乱れていた呼吸を穏やかになっていった。良かった、上手くいったよー。何度も同じ作業をしていたので、お茶の子さいさいてなカンジなんだけど、ちょっぴり自信無かったから。


「……あ、貴方が夢の中の人? 」


「ああ、そうだよ」

彼女が僕を見つめながら訳の分からないことをほざくが、ここは空気を読んで肯定していおきました。


「ありがとう」


「おわっぷ」

突然、彼女が抱きついて来て、僕は貴族にあるまじき声をあげながら、彼女の胸に抱擁されるのだった。

 うん、良かった。ちゃんとメイド達が身体を清めてくれている、フローラルな香りはするがイカ臭くない。実は天幕や馬車の中では、少し臭くて我慢してたんだよ。

 もし未だ臭かったら、心身共に傷ついた彼女を弾き飛ばして、エンガチョって叫ぶところだったよ。


「御曹司!!」

切羽詰まった声が聞こえたので振り返ると、箒を振りかぶったマクシーネが見えた。


「止すがよい、マクシーネ。彼女に害意は無い」

体を起こし立とうとするが、彼女が左手を抱え込んで離してくれないので、右手を高く上げマクシーネを止めた。

 マクシーネ……、気持ちは嬉しいけど、幾ら何でも魔法使いに箒で挑むのは無謀だよ。それに、その箒を何処から出したの?


「離してくれないか」


「やっ」

優しく語りかけたつもりだったが、拒否られてしまった。なんか幼児退行してないか。それとも、元からこんな性格なのか。


「床の上だと痛いでしょ。だから、ベッドへ行こうね」


「フフ、ベッドへ行こうなんて助平だね」

なんだコイツ、気を遣って幼児に話すように語りかけたのに助平だと。馬鹿にするな、僕は大助平だ!


「それだけ復調したなら、もういいかな」

ちょっとだけムッとしたが、子供げないと思いハンネローレに話し掛ける口調を使ってみた。そして、流し続けていた魔力を止める。


「やだ、止めないで。もっと一杯ちょうだい。もっと奥まで入れて。お願いだから」

ちょっと、そのヤバげな表現18禁になるからヤメテー。しかも、腰の辺りに縋りつきながら言われると怪しさ満点で、僕が如何わしい事したみたいだから。ほら、メイド達の視線が冷たいよ。


「落ち着いて、大丈夫だから」


「ふぅー」

彼女が、まるでお湯に浸かったような安堵の声を上げる。

 落ち着いた態度に見えるように頑張りながら、直ぐに魔力を流したが内心はバクバクです。だって、昨日マクシーネにクリスティーネの事で説教されたばかりだもの、二日続けて女性がらみで小言は勘弁です。

 でも、何故マクシーネは、僕がクリスティーネに振られたこと知ってるんだろか。


「もう大丈夫よ。ありがとう」

いや、魔力流してなきゃいけないんだから大丈夫でないだろ。

 それにしても感情の振れ幅が大き過ぎる、まるで解離性同一性障害だ。辛い経験をすると防衛本能が違う人格を作ると聞いたことがある、これは細心の注意で接しなければ。


「ベッドで休んだ方が良いよ。連れて行ってあげるから」


「あら、私は重いわよ。フフ」


「フロイラインに、重たいなんて言ったことはないよ」


「あら、お上手。きゃ」

素早く身体強化の魔法をかけ、彼女をお姫様だっこすると可愛らしい声が聞こえ、僕の頭部にしがみついた。

 魔法で破壊され荒れ果て絨毯に血の跡が残る部屋の中を、魔力を流しながらベッドへ運び彼女を横たえた。よし、ベッドに寝かせたぞミッション完了。

 しかし、彼女の暴走を押さえる為とはいえ、状況にマッチせず内容も無い虚しい会話をしてしまった。まるで、前世でバブルの頃に読んだ、やたらと字の大きかった小説のようだ。

 確か『貴方とS○Xすると、アインシュタインの方程式を思い出すわ』とヒロイン女性が抜かしやがったところで読むのを止めてしまったな。もう、作者もタイトルも覚えてないや。あの時以来の虚しさだ。


「彼女に軽めのスープを少量持ってきてくれ。数日、何も口にしていないので、胃に負担をかける物は駄目だ」


「お腹空いてないよ」


「食べておいたほうが良いよ。でないと、元気にならないよ」


「うん、なら少し食べるよ」

弱々しく笑う彼女を見ながら虚しい会話だとしても、今は続けるのが一番だと思っていた。

 そんな事と、考えていると絨毯の血の跡が目に入り、部屋から抱えられて連れ出されていたメイドの事を思い出した。


「私が来た時に、連れ出されたメイドも怪我をしておろう。手当をするので、連れてくるがいい」


「あの者は、こちらで手当しておのますので、お気遣いなく」

なんだ、いきなりマクシーネから表情が消えぞ。さっきまでは怒ったり、心配したりと百面相だったのに……。

 なんだか、とっても嫌な予感がするぞ。最近、度々嫌な予感に襲われるが、的中率100%を誇っているからな。もう少しマクシーネを問い詰めるとするか。


「では、私がその者の処へ向かおう。何処に居るのか」


「我ら家臣の休息場です。御曹司が行かれるような場所ではございません」


「ならば、ここへ連れてこい」

マクシーネが嫌がっているな。これって、かなり危ない状況ってことなんじゃないのかな。


「マクシーネ、我が命を復唱せよ」

マクシーネ、粘るなよ。一刻を争う状態だったらどうするんだ。彼女の看護を命じたのは僕だ。その命令を守って死んだりしたら、食欲減ってお替り三杯しか出来なくなっちゃうだろ。


「承知致しました。御曹司……。ロジーネをお連れします」

マクシーネに表情が戻ってきた。但し、溜め息混じりの諦めたような表情だけどな。

 うーん、ついノリで連れて来いって言っちゃったけど、もしスプラッタだったら彼女に見せるの拙いんじゃねぇか。どーしよう。うーん、仕方ない連れて来てから考えよう、野となれ山となれだ。

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