歩いてみる
山道を歩む異形と少女がいる。二人は仲良さそうに並んで歩いている。
「こんな所に来るのは初めてよ...」
少女は初めてみる光景に終始感心を持ち、騒いでいる。
貴族にとって妾の子とは存外不名誉な存在であり、外の人間に見られるようなことがあっては絶対にならない。この子も親の勝手により生まれ、勝手な理由で監禁に近い様な生活を送っていたのだと聞いた。
捨てられるまでちゃんと育ててくれただけましな方である。酷い所では不倫相手諸とも殺してしまったりする例もある。本を読み、窓の外の世界を眺める生活はこの年の少女にとっては大変な苦痛だっただろう。
「外の世界はまだまだ広い。これぐらいで驚いていたら先がもたんぞ...」
「全部見たいわ!」
さまよっていそうな鎧と少女が平和そうにピクニックをしているような光景だ。冒険者が見れば驚き逆立ちしてしまうような光景である。鎧は甲冑の下から覗く赤く光る目をギラつかせて周囲の様子を気にしている。
高山帯故に草地が続いており、周囲は開け、見渡しが良い。空も雲ひとつない晴天で絶好の旅日和である。モンスターも、ほとんどが草食系の中立的な輩であり、手を出さない限りは襲ってくることはない。行商人やキャラバンも比較的安全なこの道中を使って山を隔ててある2つの街を往き来している。轍も残っており馬車や車両が通っていることが窺える。
「あれは...」
少女にも聞こえないような声でぼそりと鎧が呟く。鎧の視線... 遥か数百メートル先には見るも耐えられない食い散らかされた人間の死体が映っている。裂傷に焼かれた跡... 特徴的な遺体の傷が犯人を物語っている。
竜種だ。
「不味いな... 死体もまだ新しい。近くにいる可能性がある。」
竜種といっても、ドラゴンのような奴ばかりではなく魚竜や蜥蜴竜と色々いる。ドラゴンではないはずだが......
「どうしたの?」
「大丈夫だ、なんでもない。」
「ねぇ... もしかしてアレ? アレが心配なの?」
少女が近くの岩を指差す。
「あっ...」
よく見れば岩ではなく蜥蜴をサイズアップしたような奴が地面で睡眠しているのであった。
「動くな。」
「うん...」
鎧の金属の擦れる音を発てないように慎重に近づく。両刃剣を抜いて構える。グロチックなことになるので少女に別方向を向いているようにジェスチャーで指示する。
そういえば蜥蜴竜って草食だったよな... そして美味しいって噂も聞いた。あの人間を喰らうような竜ではなかった気がするのだが......
少し興味が湧いた。人間を殺した別の竜の存在も気になるが、取り敢えず此方を始末しよう。一応攻撃性有りだし......
***
「今日は野宿する事になるが良いか?」
重々しい低音が響く。
「楽しみなぐらいよ!」
少女は元気そうに答える。森には毒を含んだ植物もあったため、その影響を受けていないか心配だったが大丈夫なようだ。独特の鎧ボイスにも嫌悪感を示すようなことがなく良かった。
「それは結構。明日にはケルーの街にたどり着く予定だ。何処か体調が優れなくなったら直ぐに言いなさい。」
「大丈夫、身体は強い方だから。」
歩きやすい山道とはいえ、小さな少女にとってはキツイ道程である。途中息を切らしかけた少女を見兼ねた鎧が、肩に乗せて連れていくことにしたのであった。
そして彼女の将来についても色々と考えてみた。なんだかんだで教養もあってお嬢様気質のある子である。修道院に預けて立派な淑女にして差し上げようかと考えた。
だが、好奇心に満ち溢れた彼女を修道院に預けるのも何処か後ろめたく感じ始め結局悩んでいるのである。
一緒にいたいとかそんな疚しい気持ちはない。ロリコンではない。
さて、日も傾き始めて、空気も冷え始めた。冬に高山で夜を明かせる程度の寝袋や防寒具は持っているのだが、モンスターとしての特性上、鎧は外すことができず、睡眠も必要としないため不要品と化していた。
彼らの出番が遂にやって来たようだ。「ふくろ」を覗くと、寝袋や防寒具の他、食糧に装備品、ポーション類などが詰め込まれている。見た目以上の収納性を持つ「ふくろ」は旅のお供 in 3018's ベストアイテムに選ばれている。
「ところで... 君」
話し掛けようとするが、名前が分からないため君と呼ばないといけないのが些か不便である。
「アリサよ。ラストネーム(苗字)はいらない。家とはオサラバだからね。」
察してくれたのか丁寧に教えてくれた。家の事についてはあまり思い出したくないのだろう......
「わかった、アリサ。そろそろ野営の用意をするから降りてくれ。」
体勢を屈めて、肩からアリサを降ろす。重たい鎧を着込んでいるせいか、彼女が降りても然程感覚が変わらない。
「焚き火をするための草木を取ってくるからこれを持って待っていなさい。」
そう言ってアリサに魔除けを渡す。先程の蜥蜴竜の爪に、魔導体を混ぜた簡易なブツだがこの辺りのモンスターには効果適面だろう。モンスターである自分には全く痛くも痒くもなく、多少の心配はあるが......




