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23 中学三年・七月六日放課後 清坂美里の独白

23 中学三年・七月六日放課後 清坂美里の独白


 立村くんに無理やり教室の外へ連れ出された。すれ違う他の人たちの視線が痛くてなんないのに。

「何よ、何か言いたいことあるんだったらちゃんと言いなさいよ!」

「とにかくこっちへ来てくれ」

 かなりきつい言い方だった。手を振り払いたくって思いっきりひっぱったら、すごい目でにらみつけられた。何でだろう。私だって言いたいことある。

 結局連れていかれたのは生徒玄関前の砂利道だった。引っ張り具合からすると、どうも立村くん、自転車置き場まで連れていきたかったみたいだけど、冗談じゃないわ。そんなの誰が言うこときくかって、ひっぱたいてやりたい。

「清坂氏、あのさ」

「人の邪魔して聞き耳立てて、最低よね!」

「最低ったって、どっちもどっちだろう」

 声を荒げたわけではないけれども、立村くんがこんなかたくなな言い方をするってことは、かなり怒っているって証拠だ。

「私も彰子ちゃんも、悪いことしようとしてたって言いたいわけ?」

「結果的に悪いことになる可能性大だろ。だからやめろって言いたいだけなんだ」

「冗談じゃないわよ。何が悪いことよ。実際やってみなくちゃ、どう転ぶかわからないわけでしょ。立村くんみたいにいっつも、びくびくして一歩も前に足を踏み出そうとしないよりはましじゃないの。なんで男子って力づくで物事を片付けようとするわけ? 私たちはただ」

「力づくって、女子の方がそうしてるようなもんじゃないか」

 怒鳴りはしなかった。けど、こういう時の立村くんが怖いことも、私は経験上、よく知っていた。この人はいつも、静かに別れ話を切り出す人だ。一度言い出したらよっぽどこちらが折れない限り、言うこと聞いてくれない。一度かなり派手なけんかをしたことがあって、私もそれなりにあきらめてきたのだ。けど、今の話は絶対に変。許せない。

 教室に残してきた彰子ちゃん、大丈夫だろうか。勘違いした南雲くんに怒られるなんて、きっと想像なんてしてないよ。絶対に。傷ついて泣いちゃうかもしれない。あんなにやさしかった南雲くん、いったいどうしてあんなくだらないことで怒っちゃうんだろう。

 私は立村くんの目をしっかりと見据えた。絶対に、言いなりになんて、なってやんないから。


 なぜこんなに立村くんが怒っているのか、もちろんわからないわけじゃない。

 三年D組の男子保健委員・東堂くんの彼女が、かなりまずいことになってるらしいってことを聞いて、彰子ちゃんがいろいろと相談に乗ってあげようとしていたみたい。一度は別れちゃったらしいけど、やはりどうしても気になるみたいでちょくちょく二年の教室へ向かっていたとかいないとか。彰子ちゃんもやっぱり、同じ委員同士だもの、心配になるのは当然だと思う。

 東堂くんの彼女なんだけど、私も遠目にしかみたことがない。だって雰囲気が完全に私と縁のない世界の子なんだもの。髪の毛は薄く茶色っぽいし、目つきがやたらとおっかないし、唇がやたらとてかてかしてるんだもの。あれ、絶対メイクしてるよね、って良くこずえと話していたもの。私たちはただ見ているだけだったけど、他の三年女子たちチームが目をつけて、いろいろと指導したらしいってことも、噂に聞いている。言っとくけどそれは決してリンチとかそういうものじゃない。悪いことしてるんだから、ちゃんと注意するってそれだけなんだから。

 ちなみに東堂くんって人は、南雲くんの親友らしくおちゃらけたところもあるんだけど、押さえるところはしっかり押さえる。言ってみれば臼みたいな人かな。男っぽいんだけど、あまり付き合いの浅い人には軽く流すタイプの人。立村くんとはやっぱりちょっと違う。南雲くんとつるんでよく、馬鹿話しているもん。そういうタイプの人が、なんでそんな不良っぽい子を好きになったのか、私にはわからない。こずえ曰く「きっと自分にないものを持っている人に惹かれたんじゃないの?」って。そうかなあ。わかんない。そんなの私の目を見て言わないでよ、こずえって言いたかった。

 とにかく、このままでは東堂くんの努力が実らないよね、ってこともあって、私と彰子ちゃんは前からプロジェクトを考えていたってわけなのだ。いつだったか、立村くんが杉本さん相手にいろいろしたというパターンでもって、「東堂くんの彼女を図書館へ連れ込んで、三年女子たちが精一杯面倒みてあげよう」ってこと。立村くんに文句言われるとは思ってなかったけど、女子同士のことは女子で片付けるのが一番だしね。だから、準備していただけなのにね。なんでそんなに立村くんが怒るわけ?


「清坂氏、いいか。それって言うのは、大きなお世話だよ」

 立村くんはため息をついて落ち着いた風にみせようとしながら、

「東堂の立場になって考えてみたらそう思うに決まってるだろう。自分とその二年女子とは、個人的な話をしてるんであって、外部からうるさく言われたらかえってこんがらがるさ」

「でも、このままだったら退学になっちゃうかもしれないじゃない! あの子、すっごく悪いことしているらしいし。先生たちにばれたらどうするのよ」

 私も言い返した。立村くんが私に文句を言う権利なんて、絶対ないはずなんだから。きっと立村くんは、その子がもし杉本さんだったら同じことしてるに決まってる。東堂くんの彼女の顔、知らないからこうやって脳天気な返事できるんだわ。きっと。

「東堂くんは男子だから、力づくで物事を片付ければいいって思い込んでるよね。でもそれは違うと思うの。男子たちが無理やりああしろこうしろって怒鳴ったって、彼女が売春をやめることなんてないと思う。それよりも、私たち女子が直接、彼女を守ってあげるとかしたら、きっと変わる、絶対変わるはずよ」

「かえって悪い方向に進んだらどうするんだよ。どこかの担任みたいなこと考えるなよ」

 菱本先生に最近、思いっきり負けっぱなしだから、八つ当たりしてるんだきっと。

「どういうことよ!」

「本当にしてほしいことって、本人しかわからない。赤の他人がずかずか入り込んできてお礼を言わなくてはならない立場に追い込まれて、本人たちがどれだけ傷つくか想像したことないのか」

「あんたにそれ言われたくないわよ!」

 そうだ、私はいつもそう思ってた。

 立村くんの方じゃないの。杉本さんに「ずかずか入り込む」ことして、さんざん嫌がられて傷つけて、それでもまだやめようとしない、あんたなんかに!

「いいか、これだけは俺も譲らないから」

 唇をぎゅっと結び、一呼吸置いた後、立村くんは私を鋭く射た。怖くないもん。そんなもの。

「東堂は保健委員なんだ。他委員会の話に評議委員として口出ししたらいけないんだ。本人同士で話し合いすればいいことであって、あとは俺たちが口出すことじゃないんだ。いいか、清坂氏、東堂たちの件については、一切かかわるな。評議委員長命令として、それだけは絶対だ」

 なあに、勘違いしたこと言ってるんだろう。この人は。

 私は即、言い返した。

「なにが評議委員長命令よ。肩書きに頼ろうとするなんて最低よね。立村くん。じゃあどうして杉本さんの時、そういう風にクールに対応しなかったわけ? 私たちに杉本さんのことかばわせようとしたけど、あれは違うわけ?」

「なんで杉本のことが出てくるんだよ!」

 慌ててる。立村くん、やっぱり痛いところを突かれたんだ。私は負けない。

「杉本さんが本当は嫌がっていることわかってるでしょ。本当は思いっきり杉本さんに好きなようにやらせてあげたかったのに、結局評議委員から下ろしたり、クラスにいられないようにしたり。結局私よりも立村くんが杉本さんのこと、どつぼに落としてるんじゃないの?」

 立村くんの目が、すっと私から離れた。空を見上げるようなそぶりをした。

 

「おいおい、委員長殿が揃わないと、委員会始まらんから早く来いよ」

 B組の難波くんが私たちに声をかけてきたのはその直後だった。私と目が合ったとたん、咳払いしたとこみると、全部今の話聞いていたに違いない。なんだかばつが悪い。

「あ、ああ、わかった、すぐ行く」

 難波くんは立村くんの腕を軽くはたくようなそぶりをして、そのまま生徒玄関へ走り抜けていった。立村くんもしばらく私から目をそらしていたけれども、言葉をそれ以上発せずに追いかけていった。結局私だけ取り残されたってわけだった。


 夏の日差しで、顔が焼けてきてる。早く日焼け止め塗らないと。

 頬がなんとなくひりひりしてきた。熱く火照る。ぐっと喉からこみ上げてくる。

 ──自分でできなかったくせに、なんで私がやろうとしたら邪魔するのよ! 

 私は空を思いっきり見上げた。さっき立村くんが見据えたところと同じなんだろうか。真っ白いまぶしい太陽が、また私の眼をちかちかさせた。たらっと涙がこぼれた。。  

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