桜、それにまつわる噂 2
あの奇妙な風景を見てから1ヶ月。
あの桜は花弁が散り、葉が生い茂っているが、ほかの通常な桜は今満開を迎えたところだった。
あれから夕焼けの空がおかしな色になることも、羽虫の大群が空を舞うこともない、ごく普通の日常。
ただ、あの日から近所のHさんが行方不明だと言う。
残された家は窓が開いていたらしい。
この奇妙な現象がどうしても気になり私は母に聞いたが、祖父から聞いた教えをそのまま私に教えただけで、母自身もよくわかっていない様子だった。
その祖父にも聞いたが、返ってくる答えは母と同じで、昔から祖先が言い繋いできただけだという。
正直、ものすごく怖かったため、この奇妙な現象自体を私は忘れようと思った。
今日も平和な夕方の空、ニュースでは呑気にスポーツの特集をしていたり、お花見スポットの紹介をしたりしている。
だが、とあるお花見スポットの映像が流れた時、ほかのお花見スポットと比べると違和感があった。
花見客がいない。
映像と場所だけが淡々と紹介される。
その中で1本だけ、色がとても鮮やかな桜が映し出された。
ピンクというより赤に近い、とても発色の強い桜。
家の後ろの桜の色に似ていた。
そして、よく見るとその根元が黒かった。
なぜ黒いのか、私にはすぐわかった。
1か月前、家の後ろにある桜でも見たような羽虫の大群が桜の根元に集っている。
現時刻は4時37分。
もし、同じ現象ならあと5時のチャイムが鳴る23分後にあの羽虫が街に飛び交う。
幸い私の住んでる地域ではないため、窓を閉めなくてもいいが、せっかく忘れようとしていた恐怖心をもう1度記憶の中から引き摺り出された気がした。
なぜ、そのお花見スポットに人が一人もいないのか。
なぜ、どの桜よりも明らかに鮮やかな花を咲かせるのか。
なぜ、色鮮やかな桜の木の下にだけ羽虫が集るのか。
なぜ、その現象が起きるのか。
なぜ、別な地域でも同じような事が起きるのか。
頭を必死に回して考えた。
たまたまだと思ってもいい。だが、私には何かが引っかかっていた。
何十回、何百回と自問自答を繰り返した。
繰り返しても繰り返しても本質を掴めるような答えが出てこない。
気づいた時には5時のチャイムが鳴っていた。
空はもう完全に日が落ち、暗い藍色に変わっている。
テレビはいつの間にか桜のお花見スポット特集を終えて別な話題に切り替わっていたため、その後どうなったのかは分からない。
私はもう、桜の咲く季節自体が怖くなっていた。
どうにかして忘れたい私は、あの日と同じようにスマホを開いた。




