桜、それにまつわる噂 4
季節は秋へと移り変わり木々に纏わりつく緑が赤やら黄やらに変わる。
私はあれから不安感に憂鬱感に襲われ他のことなどまともに考えれなくなっていた。
あの日見た気味の悪い絵はあれから何回も忘れようとしていたが、意地でも忘れられたくないのか人間の脳についている嫌な記憶を忘却させる機能をガン無視して記憶の中にへばりついて何度も海馬の奥から這い上がってくる。
私はあれからいつも通り過ごしてたはずだが、生まれてから私を何千回何万回何億回と見ている母には見破られていた。
「最近███おかしいよ、何考えてるのか分からない目をしてる。とても虚ろで、全て失って、幸福を捨てた人みたいな目。」
正直何を言ってるのか分からなかった。
たしかに他のことが考えれないようになってしまっているが、目が虚ろだとか、全てを失っただとか。
何も失っていなければ目が虚ろな自覚もない。
続けるように母は言った。
「あのわけの分からない現象、まだ忘れられないんでしょ」
その通りだった。
正しくは忘れることは出来たが絵のせいでフラッシュバックしただが。
私は全て話した。
あの桜の下に集っていた羽虫。
いつもとは違うおかしな色をした夕暮れ。
その時だけ猫も烏も鳴かないこと。
テレビで見た人のいないお花見スポット。
そのお花見スポットにある色が鮮やかすぎる桜。
必ず夕方5時のチャイムが鳴り終わった後起きている事実。
行方不明者欄にある不審な失踪。
あの奇妙な絵。
私が不審だと思ったことを全て余さずに話した。
根本的な解決になることはないと分かってはいたが。
やはり母は
「私にはよくわかんないからさ、怖い話だとかそういうのは。言い伝えられてきた事を███に教えただけだし。」
と言い残して食器を洗いにキッチンに戻った。
私も部屋に戻り、窓を眺める。
丸く黄金に光り都市を照らす月、月光に照らされて紅く輝くモミジ、墓石のように並ぶビル、その上の瞬きするかのように光る航空障害灯、虫の鳴く声。
あと数ヶ月であの桜がまた花を咲かせる。解決策もまともに思い浮かばないまま、季節は一巡しようとしていた。
忘れようとする事すら諦めたような、つついたら崩れそうな動きで布団に潜り、またあの時と同じように私はスマホを開いた。




