第二十二話 初めての仲間
「ピィギィーー!!!」
飛び出してきたのは、一匹の小さな白い雛鳥だった。傷を負っているのか、白の羽毛に血がついている。心なしか目が泣いているようにも見えた。
「ピギィーー!!」
幼い黒いくちばしが口を開く。
「すまない。俺の水魔法で傷ついたのか?」
ジェイドが近づくと、白と薄茶色の雛鳥はパタパタと動き暴れ出した。ひな鳥がいた草むらには、食べかけの幼虫が散らばっていた。
「もしかして食事中だったのか?本当にすまない」
ジェイドは、何とか怪我だけでも治そうと、雛鳥に手を伸ばした。
「ピギィー!!ピギィー!!」
羽をばたつかせ、木の根っこに沿って走る雛鳥。それをジェイドは追いかけた。
「はぁ、はぁ、……待て、コラ、逃げんな!!」
1羽の雛鳥を追いかけ続けると、いつの間にか森を抜け、崖が崩れた岩だらけの場所まで来てしまった。
あの雛鳥は大きな岩と岩の隙間に入ってしまった。そこは子供が四つん這いで入るぐらいのスペースだ。
ジェイドは躊躇することなく、その隙間へと入っていった。
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「おい、ピギーー!どこに居るんだ」
雛の名前をピギーと勝手につけて、ジェイドは声をかけながら四つん這いになって進んだ。でも、鳴き声が聞こえない。
「暗くて何も、見えやしない。【ライト・オン】」
青白い光球を手の平に乗せると、辺りを見渡した。すると、先程の雛鳥が息を荒くして倒れていた。体力の限界だったんだろう。
「今助けてやるからな、ピギー」
ジェイドは、腹ばいになって弱り果てた雛鳥を片手で持つと、呪文を唱え始めた。
「我が水よ、生命エネルギーを癒しに変換し、隣人を治せ【アクア・キュアリー】」
右手が淡いエメラルドグリーンに光り出すと、治癒の水が雛鳥の傷を癒した。それに雛鳥が気がつくと、今度は逃げもせずに、不思議そうな顔をしてジェイドを見つめ返してきた。
「良かったな。ピギー」
そう言って、雛鳥を地面に下ろした。白色の雛鳥は小首をかしげて大人しくしている。まるでこちらを観察しているようだ。
「器よ、開け【マジック・ボックス】」
ジェイドは魔法円陣の中央に手を突っ込んで、ふきの葉で巻いた焼き魚を一匹、雛鳥に差し出した。
「ピィ~!」
雛鳥はイワナを見るなり夢中になって、激しく突っついては食べ始めた。小さな羽をぱたつかせて、一生懸命食べている姿はとても可愛らしく、ジェイドは目を細めて微笑んだ。
「悪かったな、怪我させて。この魚はほんのお詫びの印だ」
雛鳥が一度視線をジェイドに向けると、小首をかしげると再び目の前の魚を食べ続けた。
(でも、この雛は一体、なんの鳥だろうか。成鳥をみたら一発で分かるのだが……)
「ピピィーーー!!!」
食べ終わった雛鳥が一声鳴くと突如、真っ白な強烈な光に被われた。突然の出来事にジェイドは、思わず瞼を固く閉じ頭を伏せる。
「なっ、なんだこれは!!」
光が落ち着き、元の真っ暗な穴に戻ると、雛鳥の姿が見えなくなった。もう一度、ジェイドは手のひらに明かりを灯す。すると、さっきまでの可愛らしい雛鳥が、山カラス程度の大きさの鳥に変化していた。
明るい黄色の目を輝かせてこちらを見ている。羽は茶色と青色の縞模様になっていて、お腹の辺りは、白と茶色の縞模様になっている。鉛のような色のくちばしが開いた。
《おまえ、にんげんのこどもだろ?》
「!!!」
《おどろくことはないさ。ぼくは、シルヴァンイーグルというタカ科の魔獣なんだ!》
「聞きたいことは、山ほどあるけど。なんで君、いきなり光り出したの?しかも、成長してるし」
ピギーは、ピィピィ鳴くと、ジャンプしてうつ伏せになっているジェイドの目の前に立った。
《それはね。ぼくら、シルヴァンイーグルは、にんげんにやさしくされたり、たすけられたりすると、おんをかえすために、まじゅうけいやくをするおきてがあるの。まじゅうけいやくするとね、はやくおとなになれるって、ママからきいたことある》
「いきなり、魔獣契約?……他の、猛禽類もそうなの?」
《いや、しらない。ぼくはママにおしえてもらっただけだから》
「魔獣契約って、常に俺と一緒にいなきゃならないと思うけど、ママやパパが恋しくないのか?」
《……それは、……そのとおりだけど。でも、ぼくらのおきてだから、しかたがないんだよ》
「仕方がないって……何も、掟に縛られることないんじゃないか?」
《いいえ。きにしないで。まさか、そんなにまじゅうけいやくがいやなの?》
小首をかしげて不安そうにみてくるピギー。
「別に嫌じゃないさ。嫌じゃないけどな。……ただな。急に子供がいなくなったら、家族は心配しないのか?」
《……う〜ん。きみがそこまでいうのだったら、ママとパパにわかれのあいさつだけしてこようかな》
「……一応聞いておくが、俺と魔獣契約なんかして良かったの?」
《きみは、たぶん、いいやつそうだから、だいじょうぶだよ》
(たぶんいい奴ってなんだよ)
久しぶりにおかしな気持ちになって、クスリと笑った。
《きみのなまえは、なんだい?》
「俺の名前は、ジェイドさ。君の名前は?」
《なにいっているのさ。きみがピギーとつけてくれたじゃないか。それがぼくのなまえだよ》
「そっ、そうか。あれでいいんだな。よし、じゃあ、よろしくな。ピギー」
《こちらこそ、ジェイド。さあ、さっそくもりにいって、ママにあってくるね。それまでここでまっていて。すぐ、もどってくるからさ》
そういうと、ピギーは、黄色の足でよちよちと出口まで歩くと、すっかり日が落ちた紫色の大空へと茶色と青い翼を広げ飛んで行った。
それを四つん這いで眺めるジェイド。まさか、こんな形に仲間ができるとは思ってもみなかった。
「ピギーが帰ってくるまでに、もう一匹の焼き魚でも食べておこう」
正直寂しかったジェイドは新しい仲間ができたことで、ほんの少し浮かれていた。
《グルルル……》
――なんの音だ?
《ガリガリガリ――》
――土を掘っている音に聞こえる……
《ハァ、ハァ、ハァ……》
――獣臭い……けもの?
ぱっと目が覚めると、岩と岩の間から黄色い眼光の狼が顔を覗かせていた。
「なっ…マッドウルフ?!」




