第十九話 レイアの狂乱とジェイドの逃走
――ガシャン!!
何かが割れた音がして、3人は顔を見合わす。すぐに木の階段を駆上がり、レイアの部屋に駆け込んだ。
レイアは奥歯をギリリと噛みしめながら、だき枕をトーマスに投げつけ半狂乱になっていた。他にも髪飾りやリボン、アクセサリーが散乱している。
「何が、『不倫の子供』よ!!私がなんで、こんな目に遭わなきゃいけないの?なんで、私がここまで我慢しなくちゃいけないのよ。お母様のばかぁぁぁーーーー!!!」
レイアは、持っていた木彫りの人形をトーマスに投げつけた。運悪くトーマスの腕に当たる。
「レイアお嬢様!!おやめください!!」
マーサが急いでレイアを落ち着かせようと抱きついた。
しかし、レイアは風魔法でマーサを吹き飛ばす。危うく、ドアにぶつかりそうになったところをトーマスが抱きとめた。
「レイアさん、落ち着いて話を聞いて!!」
ジェイドが声をかけると、レイアは鬼の形相でこちらを睨んできた。
「全部あんたが悪いのよ。あんたさえ、この家に来なければ!!!」
レイアの体の周りに鋭い風が吹き始めた。
(まずい!!攻撃される!!)
「レイアさん、落ち着いて。あんな噂、君は信じてはいけない!!」
「だったら、なんであんたの髪の色はお母様そっくりなのよ!!」
「現に俺は、君のお母さんを知らない。会ったこともないよ。君が聞いた話は、全部デマなんだ!!」
「嘘よ!!だったらなんで、お母様は、私の前から姿を消したのよ!!不倫?最低……本当に汚らわしい!!!」
「それは――」
それは、ジェイドが口を挟む内情ではない。
レイアがジェイドに近づくと、モカ色の髪を鷲掴みにした。
「いっ…痛いよ、レイアさん!!!」
「うるさい、黙れ!!!」
ジェイドはレイアに髪を乱暴に引っ張られながら、階段を降りていく。そして玄関の外階段まで来ると、レイアに勢いよく突き飛ばされた。
――ドサッ!!
「ぐっ!!」
「出てってよ!!二度とその顔を私に見せないで!!」
レイアはジェイドに唾を吐いた。明るかった彼女とはまるで別人のようになっている。
(あの目つきに見覚えがある……)
『出てってよ、この変態!!』
想い人であったメリッサの涙声で放った言葉。
頭の中であの声がリフレインしてくる。ジェイドの鼓動が激しくなり、足元から闇が這い上がってくるような感覚に、冷や汗がじわりと溢れてくる。
声を出したくても声が出ない……。
息をしたくても、息ができない……。
激昂しているレイアの姿がメリッサと重なっていく。
(俺は―――)
今にも崩れ落ちそうな世界から逃れるように、ジェイドは走り出した。
裸足のまま、家々を通り過ぎ、図書館や寄り合い所も通り過ぎ、酒屋を通り過ぎ、アーチの木の橋を越え、ホタルキノコが並ぶ石畳を駆け抜ける。
はぁ、はぁ、――息を切らせ体中に熱を纏いながら、矢のように突っ走る。
ジェイドが走った足跡には血が滲んでいる。しかし、ジェイドは気付いていない。
そして、大きな切株の転移魔法陣前までやってきた。
ジェイドは走るのをやめ、肩で大きく息を切らせながら、その切り株に上がろうとした。
すると次の瞬間、切株が強烈な光を放ち、ジェイドは咄嗟に瞼を閉じて身体をよじらせた。
光が止み、そっと瞼を開くと、初等学校の15人ぐらいの子供たちがそこに立っていた。もちろん引率の先生もいる。おそらく下校時間なのだろう。
すると、レイアと同級生ぐらいの男の子が指を指して叫んだ。
「あっ!!あいつだよ。例の不倫の子供!!」
「なに言っているんだ。俺は違う!!俺は不倫の子供ではない」
ジェイドは叫んだ。
「先生、あいつのせいでレイアは倒れたんだよ」
「こら!なんてこと言うの!!」
先生は生徒を窘める。
「不倫の子供だって、なんか、いやらしい~」
「おい、みんなであいつを泣かそうぜ!」
少年達は、ジェイドに詰め寄ってきた。引率の先生はおろおろするばかりで、止めもしない。
ジェイドは仕方なく、背を向けて逃げるように村の外へと走りだした。
「こら、待て~~」
「逃げるな、この卑怯者!!」
「不倫の子供を追っ払え!!」
「レイアのためにやっつけろ!!」
男の子5~6人がジェイドを追いかけては石を投げる。
その石は、ジェイドの背中や後頭部に当たり、そこだけジンジンと熱を感じる。だが、そんなこと気にしている場合ではない。
「水流の如く走れ!!【ストリーム・ランナー】」
ジェイドの足が羽がついた様に軽くなり、倍速で森を流れるように駆け出した。
「あいつ、魔法を使いやがったぁーー!!!」
「きったねぇーーー卑怯者!!」
子供たちの叫び声が遠くなった。姿は見えず、もう追っては来ないだろう。それでもジェイドは疾走した。
どっちに向かっているのか、山を下っているのか上っているのか、方向すら分からない。ジェイドは深い森をやみくもに走り続ける。
――何時間、走り続けていただろうか。日も沈み、辺りもだいぶ薄暗くなってきた。既に足元も暗く、よく見えない。
ジェイドは息を切らせながら、ひたすら前へ前へと突き進んでいた。走るスピードも落ち、魔法もすでに解いている。だが、ジェイドはここから離れようと必死に岩と岩を飛び越え、足を止めることはしなかった。
ジェイドが次の岩へジャンプしたときだった。
突如、岩のバランスが崩れ、ジェイドは崖から転落した。
読んでくれてありがとうございます。
また、来週の土曜日、この時間で。18時00分に投稿します。




