どこか不穏な勇者認定
「そなた、勇者であろう?」
「―――へっ?」
一瞬、言われている意味が分からなかったソウジ。本気で混乱してしまい、ロクにしゃべることもできない。
気付けば顔を上げ、王様を見つめてしまっている。
「あの、仰る意味が―――」
「………ふむ」
王は目を鋭く細め、しかし口元だけは満足げに歪めながら、思案気に呟く。
「(ダニエルの申したことは本当であったか………)」
王は自らの白い髭を撫でつける手を止めた。代わりに肘掛けに両手を落ち着け、非常に様になった姿勢で告げる。
「ソウジよ。そなたには、この世界がどう見える?」
「………」
王の台詞に、ここにきてソウジは真顔になった。
先程までの動揺は今、欠片も見えない。
敵を見る目ではないが、その視線は、油断なく対象を観察するもの。王もまたそれに気付いている。
「探らずとも良い。我は王だ。当然、優秀な星詠みも囲っておる。その者らに聞けば分かること。遠き世界の住人が、この世界に迷い込んで、帰る術を探しているとな」
「………左様でございますか」
淡々と頷くソウジ。納得がいったと見えて、落ち着きながら頭を回転させているのが明らかだった。
「貴様、王を前にして勝手に首を上げるなど―――」
「よい。下がれ」
「………ハッ」
貴族の一人がしゃしゃり出て来ようとしたが、王に止められて部屋の隅に戻った。
同席する貴族達の嘲笑するような、憐れむような視線がその貴族に向けられる。
ソウジは無機質な視線を一瞬だけそちらに向けたが、すぐに王へと視線を戻した。
「恐れながら。私は確かに王がお察しの通り、異世界の出身ではございますが、勇者というわけではないと思います」
「ほう?」
探るような視線は王も同じだ。興味深そうに頷くと顎をしゃくるように首を動かしてソウジに続きを促す。
「というのも、私は特に、女神などに祝福を受けたり、特別な力を授かったわけではない……と思われるからです」
「だが、そなたは驚異的な魔力量を秘めておる。この世に存する人間である限り、およそあり得べからざるほどの」
「それは………自分でもわけが分かりません」
王の指摘に、ソウジはばつが悪そうな表情で伏し目がちになる。するとすぐに視線を上げ、説明を試みた。
「私の世界には、元々魔力が存在しないのです」
「そなたは魔力が存在しない世界の出か」
「はい。そして、元の世界で超常現象に見舞われた結果、こちらの世界に着の身着のまま、しかしロクな持ち物もないままに転移していたと思われる次第でございまして」
「その超常現象というのは?」
「はい、もしかして私の世界を襲ったその現象のヒントがあるやもと探してはいるのですが、見つからぬものでした。というのも―――」
ソウジの詳しい説明を聞いて、王の表情は曇った。
「そうか………魔物の大量発生」
「何か、ご存知でしょうか」
「古い文献を漁れば、おそらく一つか二つ、似たような事例が出てくるやもしれぬが………生憎と聞いたことがないな」
「左様で、ございますか………」
しゅんと項垂れてしまったソウジ。
王は何を思ったのか、そのソウジの様子を見て何かを確信した様子で言った。
「ソウジ、そなたは勇者だ」
「………その、お言葉ですが」
「この世界において、突出した能力を持つ者はそう呼ばれる。そう扱われる運命にある。あるいは、そういう慣わし、と言い換えても良いかもしれぬが」
「………」
黙るソウジ。王は構わない。ただ一瞬だけ、遠い目をしてどこか上の方を見上げた。何かを懐かしむかのように。
「………」
「………」
玉座に座る王、下から見上げる、跪いた流れ者。しかし両者、全く怯むことなく見つめ合っている。そんな両者を戸惑ったように、あるいは傍らのソウジを心配するようにエレンが見回しているが、それはもはや些細なことか。
何か、異様な気配、いや運命が。
ドロドロと不定形だった何かが、この場で型に流し込まれ、固まろうとしていた。
「良いか、ソウジ」
大事なことを言うぞ、と前置きをした上で、白い髭の王は言い放つ。
「勇者は、そう扱うほか無いがゆえに、勇者なのだ」
「………はい」
王が有無を言わせぬ気迫で、されど教え諭すように言った言葉に、異世界人は頷くしかないのだった。




