セイタカオナガヒヒを狩れ!(2)
「後は作戦通りだ!」
「了解!」
パーティー『大鷹の爪』から一人、指導兼サポートとして一人がついてくる。あちらのパーティーでは紅一点だった、ヒーミルという女冒険者だ。こちらも例に漏れず中堅、つまりベテランに類する人間。経験豊富で実に頼もしい。
「あの群れは数が多いな……分断するにしても走行中のヒヒの端っこを上手く混乱させないと偉いことになるか」
「あら、頭がいいじゃないかい。だからあいつらも“ギリギリ”と言っていたんだよ。一見あれらとは距離があるように思えるが、それなりの速度で走っているからね、こちらも急いで移動、そんで位置に着く必要があるのさ」
俺なりにある程度の分析を済ませておく。もちろんベテランによる添削を前提としたものだが、おおむね俺の認識に間違いはないらしい。
「ほら、ゴタクはいいからさっさと走る!」
ヒーミルに急かされ、俺とエレンも走る。彼女も多少の速度で走ったところで息も切らしていないのは流石だ。まだ二十代くらいで若いというだけでなく、冒険者ってのは普段の訓練や活動なんかで体力もついている者が多いからな。
「ちょっと水分補給しておくか」
余り良くはないが、水魔法で作り出した水を、同じく土魔法で作り出した簡易なコップに満たして、走りながら水分補給する。気分はマラソンランナーだ。残念ながらエイドステーションも、付近で声をかけてくれる観客もいないが。
水を飲んだらコップなどその辺に捨ててしまえば良い。少しずつ水を口に含んでいき、喉が潤っていく感覚を確認する。
「ところであんたら二人は、付き合ってんのかい?」
「ぶっ」
「えっ」
俺は危うく水を噴き出しそうになった。
エレンも驚いたようにヒーミルの方を見る。
「いや、そういうんじゃないですけど」
慌てて否定する。エレンと顔を見合わせるが、彼女はなぜか俺の方を見て眉根を寄せて不満そうな表情をしていた。
「なぁに、冒険者で二人組って言えば、そういうのが定番だからね」
「そう……ですか」
俺もこの世界の常識にはまだまだ疎いと思わされるな。
例えば俺達が男性二人組で冒険者として活動していたとしても、そういう目では見られないだろうが………年若い男女ともなると事情が異なってくるのだろうか。同性愛を否定するわけではないが、異性同士が常に一緒では、そうした目で見られても不思議はない、か。
しかし、俺の魂の年齢は別として、俺とエレンは見た目も実年齢もまだまだガキなんだぞ。世間一般としてもそれは―――。
「成人まですぐなんだろう? 冒険者だって浮いた話の一つや二つあっても―――」
「えっ」
今度は俺がびっくりする番だ。
「つかぬことをお聞きしますが、成人って何歳ぐらいから……?」
「何だい急に、変な喋り方をして。成人って、十五からに決まってるだろうに」
俺が急にあらたまった態度をとったものだから、ヒーミルは怪訝そうな顔をした。
それでも教えてくれるのは彼女が親切な女性だからだろう。
「十五……!?」
この世界で成人だのの概念があったことに驚く。そういえば傭兵団では全く話題に上がらない事柄でもある。
しかも、その成人となる年齢については、俺の世界より幾分か早い。
いや、我が国でも昔はそのくらいの年齢で元服、つまり成人として扱われたりしたそうだが………。
文化的・文明的に未熟だと、おそらく寿命や生産性などの関係から成人の基準は早くなりがちなのだろう。
回復(治癒)魔法がある世界とはいえ、平均寿命はそれほど長くない可能性があるな。
「この辺りで罠を張るよ!」
「はい!」
考え込んでいるうちに指定ポイントに到着したため、ヒーミルの指示の下でゴニョゴニョと呪文を唱えて魔法を行使し、罠を張る。
「おお、見事なもんだね」
「ありがとうございます」
ちょっと適当な詠唱だったかもしれないと反省しつつ。もちろん実際には、無詠唱での魔法の行使だ。
この世界において、魔法の無詠唱は必ずしも一般的ではない。
無詠唱と言えば、特定の一つの魔法あるいは一つの系統を極めた末に得られる、熟達の証のようなもの。おいそれと迂闊に披露すると、余り歓迎しないお仕事をあてがわれる恐れもある。この辺は実にサラリーマン的な考えかもしれないが。まぁ前世がサラリーマンだった仕方がない。企業戦士は手の抜き方も心得ているものなのだ。




