表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の枷共(パーティー)は煩わしい  作者: 湯気狐
二章 〜奴隷ビッチと成金坊ちゃん〜
10/45

これは決してデートじゃない

「あぁ~……だっる」


 凝り固まった身体を休ませるが如く、顔からベッドにダイブする。


 心地良い布団の感触に頬が緩み、ふにゃりとだらしない笑みを浮かべてしまう。


 丸一日掛かると聞いていたとは言え、まさか本当に到着するのに二十四時間も掛かるとは……。


 ずっと馬車の中で揺られながらジッとしていたせいか、下手に動き回るよりも衰弱してしまった。


 本来なら途中で居眠りするところだったが、朝から深夜までピノがペチャクチャ喋って来るせいで、ただの一睡もできなかった。


 一日中起きているという経験は実は初めてだが、これほどまでに身体が言うことを聞かなくなるとは思わなんだ。


 腹は減ってるし、喉も渇いてるし、身体もあちこちベタベタする。コンディションは最悪だ。


 やるべきことは沢山あるが、布団の魔力が俺の身体を引き離そうとしてくれない。だらしなくはあるけど、いっそこのまま寝てしまうのも有りなのでは、と悪魔の囁きが聞こえて来るかのようだ。


 そんな酷い状態の中、ふと部屋のドアが開けられる音が聞こえた。


「ビャクト様、起きてください。寝ていないから疲れているのは分かっていますけど、昼食は食べないと駄目ですよ」


 人が死んだように寝ているところに、やはりノックをせずにクソ女神が入室してきた。


 極力顔を見たくないから部屋を別々に取ったのに、そんな風に遠慮なく来られると部屋分けした意味がないのだが。


 あいつは馬車で一人勝手に眠っていたからか、俺のように寝不足で苦しんでいる姿が見受けられない。


 むしろいつも通りの気に食わない柔らかい表情でいるためか、こっちは睡魔に誘惑されている状態なのにイライラしてくる。


「昼食もいらねぇ……俺は眠いんだ……お前ら二人で勝手に食べてろ……」


「それはいけません。昨日の夜は軽食でしたし、今朝の朝食は抜きだったんですから。昼食も抜いてしまったら身体が衰弱する一方ですよ」


「二食抜くくらいで大袈裟なんだよ……余計なお世話だクソ女神……」


「クソだろうと何だろうと、今回ばかりは見過ごせません。正しい生活スタイルの意地こそ、人としての本分ですよ。ほら、肩貸してあげますから、ちゃんと立ってください」


 こっちは何度も不要だと言ってるというのに、無駄に面倒見の良いクソ女神が無理矢理俺の身体を起こして来て、肩に手を回させて立ち上がった。残業帰りのサラリーマンか俺は。


「鬱陶しい奴だな……こんな眠いのに食欲なんてあるわけないだろ……」


「それでも少しでも何かを口に含んでおかないと。身体を壊しては元も子もありませんから」


「だから大袈裟なんだよお前は……過保護か……」


 部屋を出て下へ続く階段を降りて行き、少し歩いた先でロビーに出て、四人用の客席に並んで腰を下ろした。


「酷い顔だね。夜通し喋ってるからそういうことになるんだよ」


 テーブルの上には沢山の料理が置かれていて、既にピノが一人でもっさもっさと食事中だった。美味そうに食べる姿がまた腹立つ。


「お前のせいでこんなことになってんだろうが……」


「そうだっけ? まぁまぁ細かいことは気にしない気にしない。ほら、この秘薬を一粒あげるからさ」


 ピノはポケットに手を突っ込むと、錠剤のような物が入った小さな小瓶を取り出した。見るからにアレな薬にしか見えない。


「薬中毒が……幻覚と共に朽ち果てろ……」


「そういう薬じゃないよ。ただ少しハイになるだけだから」


 まさにそういう薬の特徴なのだが、平然とした面で一粒だけ手渡しして来た。さては人が衰弱しているところにトドメをさす気だな?


「飲まないんですかビャクト様? あっ、もしかしてお薬は苦手なんですか? だったら私が飲ませてあげますね」


「は? おいちょっと待て止めろ――んぐっ!?」


 いらん気遣いでコップの水を一口飲まされると、掌に持っていた錠剤をひょいと取り上げられて、口の中に放り込まれた。


 抵抗力のない俺は終始されるがままで、ゴクリと水と共に飲み込んでしまった。


「くっ……うおぉおおお!?」


 瞬発的に錠剤の効力が発揮される物だったのか、飲み込んだ瞬間に身体中に異変が起きた。


 後から後から力が(みなぎ)ってきて、さっきまでの眠気が何処ぞへと吹き飛んだのだ。


「何飲ませやがったお前!? やっぱりアレな薬だろこれ!」


「ドーピング薬みたいなものだよ。使い続けたら効力が薄くなるけどね。副作用とか無いし、寝不足で具合悪くしてるよりはマシでしょ」


「何だよ驚かせやがって……。本当に副作用は無いんだろうな?」


「うん。三日後の夜にやたら発情することになるくらいで、問題は無いよ」


「いや大有りだろうが! なんつー物飲ましてくれてんだ!」


 思い切りミルクの脳天に拳骨を叩き込む。


「あいたぁ!? なんで私を殴るんですか!?」


「飲ませたのはお前だろうが! 余計なことばっかしやがって疫病神が!」


「うぅ……。私はただビャクト様の身を案じていただけなのに……」


 ぷっくりと大きなタンコブを膨らませるも、クソ女神はパクパクと食事に有り付け出した。逞しいのかマイペースなのか……。


 急激な回復を果たした俺も料理に手を出して、やたら美味しい品物の数々に甘美する。


 ウンターガングと違って見たこともない料理ばっかりだけど、これはリンクス独特の食物なんだろうか? 料理好きの身としては実に興味深い。


「で、途中妙な連中にも遭遇したとはいえ、無事こうして到着したわけだけど……。これからどうすんの?」


「決まってんだろ。まずはこの街のギルドに行って、冒険者を集めている人達がいないかを調べる。もしくはなりたいと思っている候補者を探して、どっちも駄目ならウンターガングと同じく募集の紙を張り出してもらう」


 日にちとしては一週間くらいまでこっちの方にいるつもりだから、募集するとしたら大体五日間程度か。


 ウンターガングよりは人口密度が明らかに多いことは明白だし、向こうで募集するよりは望みが大きいだろう。


「丁度良く都合の良い方がいてくれればいいんですが、この街の冒険者の密度ってどの程度なんでしょうか?」


「あ~、私大体分かるよ。まずこの町の人口が約二百万人くらいで、その内冒険者は一万弱ってところかな」


 思ってた以上に少ないな冒険者。それだけ魔物の数が減って平和になったということなんだろうか?


 世の中にとっては良いことなんだろうけど、俺としては非常に困ることである。


「変態さんなのに博識なんですねピノさん」


「まぁね~。実はこの街でも一時期、怪盗活動していた時期があったからさ。その時に人口を調べて、男と女の比率を調査したりしてたんだよ。ついでに言うと、二十代の女のスリーサイズも五千人程調べて――」


「ご馳走さん。んじゃ俺は先に行ってるぞ」


「あっ、私も食べ終わりましたので付いて行きます」


「はははっ、ブレないなぁウチの大将達は」


 腹が膨れる程度には食べ終えて、そそくさと席を立ってミルクと共に宿を出て行く。


 少し遅れてピノも後を追って来るが、口元はケチャップやらマヨネーズやらが付着していて、余程慌てて食べました感が丸出しだった。


「それにしても、都会というだけあって色んなお店がありますね。自然とあちらこちらに目移りしてしまいます」


 ミルクの言う通り、辺りには大きな建物の店や小さな出店が選り取り見取りで、食べ物を売っている店もあれば、お洒落なアクセサリーを売っている店もある。


 事前に調べておいた話だと、ここにはよく旅の商人が品物を売り出しに来る比率が多い街であるようで、元々店が多いことから物流が盛んな都市なんだとか。


 全世界で五つ指にも入る有名な観光地としても知られていて、俺達のように遠くからやって来る連中も少なくないらしい。


 丸一日掛かったとは言え、本来ならば辿り着くのにもっと時間を要するのが旅というもの。ウンターガングの近くにこんな都市があってラッキーだった。


「街に到着したばかりでまだ時間はあるんだし、興味のある店に寄っていくのも良いんじゃない?」


「で、ですよね! ピノさんもそう思いますよね!」


 やたらテンションが高くなったミルクが、ちらちらと人の目と足元を見て来る。露骨にも程がある。


「ふざけんな、無駄遣いする余裕なんて俺達にあるわけねぇだろ」


「あはは……やっぱりそうですよねぇ……」


 これまた露骨にがっかりした様子を見せる。笑ったり悲しんだり感情表現の忙しい奴だ。


「……ビャクト」


 予定を変更せずに真っ直ぐギルドに向かおうとしたところ、俺に慈愛の眼差しを向けるピノが肩にそっと手を置いて来た。


「何だ変態。お前も自分の物は自分で買えよ」


「私のことはいいんだけどさ。ミルクにそんなケチなことを言ってて、自分の器が小さいなぁって思ったこと……ない?」


「…………こんにゃろう」


「殺し屋と言えども女性には優しく」と、親父の教訓の一つにあったような無かったような。


 でも実際俺達にとって、この残りの金は命の生命線とも言えるキーパーソンだ。


 無駄なことに使えば自分の安泰な生活を脅かすことになると分かっているのに、どうしてこの馬鹿共は少しでも使おうという気になるのか。


 ……という考え方が器小さいとこいつは言ってるわけだが、少し納得してしまったことが悔しい。


「……仕方無ぇな。でも本当に無駄な物は買うなよ」


 ミルクとピノにそれぞれ三万ゴールドを渡す。これだけあれば大抵の物は買えるだろう。


「おぉ! まさかの大奮発!? なんだよビャクト~、普通に空気読めるんじゃ~ん!」


「こ、こんなにビャクト様が大金を……。明日台風にならなければいいんですが……」


 少しでもこいつらに気を許した俺が愚かだった。ちょっとした優しさを見せ付けた矢先にこれか。


「文句があるならすぐに返せや。恩知らずなクソ共に出す金は無い」


「文句なんてあるわけないじゃないですか。ありがとうございますビャクト様」


 ニッコリと朗らかに微笑むミルク。


 一つ前の無駄口が無かったらイラっとすることも無かったのに。


「私も怪盗活動止めて装飾品無くなっちゃったし、丁度良かったよ。何か適当に掘り出し物でも探してくるわ」


「とか言ってまたパンツとブラジャーを新調するつもりじゃないだろうな? 只でさえお前の顔は知れ渡ってる可能性があるんだから、目立つような行動は控えろよ」


「分かってるって。それじゃ、一時間後くらいにギルドの方に集合ってことで」


「へいへい。いいからとっとと散れっつの」


 意気揚々と三万を手に握り、ピノは街中へと消えて行った。


「何やってんだクソ女神。お前もとっとと行って来いよ」


「え? いえ、私はビャクト様と一緒に見て回ろうと思ってたんですけど……」


「なんで俺がお前の買い物に付き添わないといけねぇんだ。女の買い物は総じて長いと言うし、俺は先にギルドの方に行ってるからな」


「そんな寂しいこと言わずに色々見て回りましょうよ! ほら、ビャクト様が欲しい物も見つかるかもしれませんよ?」


「生憎今は物欲なんて微塵もないんで」


「も~! だからそんなこと言わずに一緒に行きましょうってば~!」


 興味を示さずに軽くあしらって去ろうとしたところ、いつものように手首を掴まれて駄々を捏ねられた。


「行くと言うまで離しませんよ私は! さぁどうしますか!? 自分でも自覚あるくらいに鬱陶しいことをしていますが、ずっとこの状態の私と持久戦をなさるおつもりで!?」


「プライドが無いのかお前には!? あぁもう、分かったから手首離せ! 周りに見られてるだろうが!」


 年増の夫婦や老人達がニコニコしながら俺達のやり取りをチラ見してくる。


 どいつもこいつも見世物扱いしやがって。こいつもこいつで雑草根性の闘志を燃え滾らせてんじゃねぇよ。


「ったく、面倒臭ぇな……。で、何処に行きたいって?」


「そうですね……まずはお洋服から見て回りましょうか。今も私はリィアさんの服を貸してもらっている身ですし、自分が着る服を何着か買っておきたいです」


「へいへい、好きにしてくださいよお嬢様」


「お嬢様だなんてそんな……。急にどうしたんですかビャクト様?」


「皮肉で言ってんだよ! 素の意味で受け取ってんじゃねぇよ!」


「えぇ? そうなんですか?」


「……もうお前分からん」


 神経が図太いんだか、か細いんだか。ただ馬鹿正直ってだけな話なのかもしれないが。


 天然な女って、怖いわ。




〜※〜




「あっ、これ可愛いですね。でもこっちのも良いかも。いやでもこちらも捨て難いです。う~ん……」


 女性限定の洋服店に来たところ、案の定俺の予想通りの展開だった。


 数ある様々な洋服に目移りしっぱなしで、買う品物を一向に決めずに選別し続ける。


 何着か興味深く見ることもあったが買うには至らず、時間は刻一刻と過ぎて行くばかりだった。


「ねぇビャクト様、こっちとこっちだとどっちが私に似合うと思いますか?」


「お前どんどん俺に対して厚かましくなって来てるよな……」


「心を開いていると言ってくださいよ。それよりもほら、どっちが似合ってますか?」


 何故か今度は俺が選ばされる羽目に。どっちが似合ってるかだなんて個人の主観で変わるだろうに。


 一方は、黄色がベースのワンピース。麦わら帽子でも被れば、より絵になるであろう可愛らしいデザインだ。


 もう一方は、桃色と白が混ざったチュニックのような服とミニスカート。異界にしては現代に近い服装で、俺からしたら馴染み深いと言えば馴染み深い服装だ。


「ん~……。正直な感想を言うと、どっちも普通過ぎてつまらん」


「変化球な回答ですね。普通に見えればそれで充分ですよ」


「それはそうだが、買うならもっとお前の絵になるような服にしろよ。お前外見の素材だけは良いんだから、少しでも周りの連中を見た目だけで騙して金取れる感じにしないと駄目だろ」


「騙して金取れる感じってなんですか!? どんな商売させる気なんですか!?」


「そりゃお前……身体で金を稼ぐ的な?」


「嫌ですよ! あざとい商売なんてしませんからね私!? 真面目にコメントしてくださいよ!」


 失礼な奴だ。これでも途中までは真面目にコメントしてやっていたというのに。


「どうされましたお客様? 何かお探しですか?」


 ミルクがギャーギャーと騒いでいたせいで、店員の人が駆け付けて来てしまった。カモられる可能性があるからあんまり関わり合いになりたくないんだが……。


「聞いてください店員さん。私は真面目に意見が欲しいと言っているのに、この人が真面目に答えてくれないんですよ」


「あらあら、初々しいカップルさん達ですね。ちゃんと褒める時は褒めてあげないと駄目ですよ彼氏さん」


「いえ、カップルじゃないんで。ただの主従関係なので」


 何だこの現代でも有り得そうなラブコメ的展開。ここって本当に異界なんだよな?


 というか、ここでもこいつとはそういう関係に見られてしまう定めなのか……。


「主従関係……つまり夫婦ってことですか? ふふっ、それにしては随分お若いんですね」


「いやそういう意味じゃなくてですね――」


「ちなみにお客様はどういった服をお探しでしょうか?」


 駄目だ、誤解解けないこれ。まるで俺とこいつがデートしているかのような流れになってしまっている。


 あぁ……店の中だが不毛過ぎて反吐が出そうだ……。


「できれば可愛くて動き易い服が良いんですが、何か良い物はありますか?」


「それでしたら、あちらなんて如何でしょうか?」


 ミルクが店員に連れられて行き、一人取り残される俺。なんて言うか、もうあいつにゃ付いて行けん。


 店の空気となったため、外に出てミルクの帰りをただジッと待ち続ける。


 そうしてしばらく黄昏ていること一時間。ようやく袋を持ったミルクが店から出て来た。


「すいません、お待たせ致しましたビャクト様」


「全くだ。ちゃんと満足のいく物を買えたんだろうな?」


「勿論です。店員さんのご助力を得て、長い目で審査した物ですから」


 そう言ってミルクは、袋の中から一着分の服を取り出して広げて見せてきた。


「どうですか? 可愛いデザインですよね」


「…………」


「どうしましたビャクト様? 何だか白けた目になっていますけど」


 藍色と白がベースであり、ゆったりとした袖が印象的なローブのような服。それは何処からどう見ても、シスター服以外の何物でもなかった。


「あれだけ数ある衣服の中からどうしてそれを選ぶ!? 宗教でも開くってか!?」


「私が女神っぽい服をお願いしますと言ったら、店員さんがこれをお勧めしてくれたんです。五着買って合計二万七千ゴールドでした」


「しかも五着も買ったんかぃ! 完全にぼったくられてんじゃねぇか!」


「これで貴女も正真正銘の女神様ですよ~って、アクセサリーとしてロザリオの首飾りまで付けてくれました。お腹抱えて笑ってくれて、良い店員さんでしたよ」


「それネタにされて笑い者にされてるだけだっつの! 純粋にも程があるわ!」


 あの店員、人の良さそうな顔して騙しやがって……。


 見事に天然の痛いところを突かれた。これだから店の店員ってのは信用できないんだ……。


「二つくれたので、一つはビャクト様にあげますね」


「いらんわ! 神様紛いの物は嫌いなんだよ俺は!」


「そんなこと言わずに。所詮は効力の無い飾り物なんですから」


「元女神が言う台詞じゃ無くね!? それで良いのかよお前は!?」


「女神だったのは昔の話ですから。それに神物に頼って願ったところで、未来を切り開くのは結局自分の力じゃないですか。最近それを思い知ったばかりですし……ね」


「お、おぉ……。いつの間にか頼もしくなったなお前」


 目が死んでいるが、これ以上余計な発言は控えておこう。俺にも良心というものはあるのだから。


「沢山服が買えましたけど、結局三千ゴールド余ってしまいました。これは返した方が良いですよね?」


「そんなの今更だっつの。そこまで使ったのなら、最後の最後までちゃんと綺麗に使い切れよ」


「そう言われましても他に欲しい物は――あっ、そうだ」


 今度は何を思い付いたのか、建物の店ではなく、出店のアクセサリー店へと向かって行く。


「う~ん……どれが良いでしょうか……」


 仕方なく後に付いて行くと、またもや多くの品物を目の前にして悩んでいる。


「お手頃な物と言えば……あっ、これが良いかな」


 だが洋服店の時のようにはいかず、今度は時間を掛けずにちゃんと自分で入念に選び抜いていた。


 見たところ、買おうとしているのは水色のブレスレットのようだ。


「店主さん、これ二つください」


「あいよ~。どうもね、お嬢ちゃん」


 何の意図があってか、無駄に二つも買っていた。


 丁度値段が千五百ゴールドだったとはいえ、いい加減に使い過ぎだろう。無駄遣いはするなと釘を刺しておいたというのに。


「お待たせしました。はい、ビャクト様」


「……あん?」


 今買ったばかりのブレスレットを小包の中から取り出したと思うと、その内の一つを差し出して来た。


「これはビャクト様が私に服を買ってくれたお礼です。どうぞ受け取ってください」


「買ってくれたも何も、お前に渡した金で買ったものだろ。一応お前も働いて稼ぎ出してるんだし、その分を渡していたに過ぎねぇよ」


「じゃあこれは私からのプレゼントと言うことで。それなら受け取ってくれますよね?」


 ニッコリと笑って意地でも渡して来ようとする。こいつが何を考えているのか俺には全く分からない。


「日頃から俺に散々な仕打ち受けてんのに、なんでお前はそうまでして俺と仲良くしたがるんだよ?」


「それは勿論、私とビャクト様が一心同体な関係だからですよ。それにこう見えて、私は色々とビャクト様に感謝してるんです」


「感謝ってお前な……」


 何度も見捨てようとして、何かとあっては冷たくあしらって、ピノと対峙した時に盾として扱って……。


 思い出せば思い出す程、感謝というよりは恨みを抱く方が真っ当な考え方だと思ってしまう。


「今までのことをよく振り返ってみろっての。俺がお前にした行為は辛辣なことしか無いだろ」


「確かにそういうこともありましたけど、でも何だかんだ言ってもビャクト様、最後にはちゃんと良くしてくれてるじゃないですか」


「分からん……。例えば何だよ?」


「そうですね……例えば、ビャクト様と出会ったばかりの時です。女神じゃなくなって普通に生きられなくなった私を助けてくれました」


「それはお前が『見捨てようとしないでください!』って縋り付いて来たからだろ」


 今でも隙あらば捨ててやろうと思ってるくらいだし、感謝されるような筋合いは一切無い。


「でもビャクト様は、今もこうして私の傍にいてくれているじゃないですか。見捨てようと思えばいくらでも見捨てられるはずなのに、ビャクト様は一向にそうしようとしていません。それはきっと、ビャクト様の優しさだと私は思うんです」


「買い被り過ぎな上に、そりゃとんだ誤解だな。自分のことは自分が一番分かってんだよ」


「ならビャクト様自身が自覚していないか、または気付いていないだけですよ。自分ではなくて、周りの人の目でしか分からない特徴っていうのも結構あるんですよ?」


 ……流石は元女神様ってか。どうにも人間観察はお手の物らしい。


「それに土木工事の時だってそうです。仕事をしながらも瀕死状態だった私を気遣ってくれていました。後は食堂で働いたこともですね。あの日、寝る時間の頃に、リィアさんが私を励ましに来てくれたんです」


「土木工事はお前が身体を壊して働けなくことを避けるためだ。もしそれで本当に身体を壊したら働くのは俺一人になるし、稼ぎの効率が悪くなるからな。食堂の件に関しては俺は何も関係ないだろうが」


「そんなことないですビャクト様。実は知ってるんですよ私。リィアさんが私を励ましに来たのは、ビャクト様に頼まれたからだって」


「……何のことだかさっぱりだな」


 余計な誤解を生むから絶対言うなと言っておいたのに、俺の身内って言うこと聞いてくれない奴ばっかか。少なくともリィアさんだけは信じていたというのに。


「もう、またそうやって惚けるんですから。たまには素直になりましょうよ」


「喧しいわ。俺はいつだって自分に正直に生きとるわ」


「だったら私が言ったことも認めてくださいよ」


「それはそれ、これはこれだ」


「とことん捻くれるんですね。だからビャクト様はツン――いえ何でもないです何も言ってません!」


 少し殺気を出しただけで大人しく引き下がった。


 それを言ったが最後だと前にも言ったはずなのに、本当に学習しない奴だ。


「と、とにかく、これは私がただビャクト様に渡したくて買った物なんです。だから素直に受け取ってくれると嬉しいです」


「……嫌だと言ったら?」


「そんな意地悪言わずにほら! これを手首に付けるだけでもお洒落に見えるんですから!」


 結局強引に手渡ししてくるどころか、手首を掴まれて勝手に嵌められた。


「横暴な奴め。近いうちにバチが当たるに違いない」


「当たりませんから! こんなことでバチが当たってたら、私はバチによって既に死に絶えてますよ!」


「それこそ大袈裟だと思うんだが……」


 また喚き出した思いきや、ミルクはミルクでもう一つの小包を開けると、同じ青のブレスレットを俺と同様に手首に嵌めた。


「丁度良いですし、これは私達の絆の証としましょう! これが私達の手元にある限り、この繋がりは永遠に繋がったままです!」


「そうか。じゃあ明日にでも資源ゴミに出しとくわ」


「出さないでくださいよ! 捨てるなら燃えないゴミです!」


「そこは捨てられる前提をまず否定しろよ!? 本当に捨てんぞこれ!」


「駄目です駄目です! 折角買ったばかりの物なんですから、大切にしてくださいってば!」


「そこまで言うのならしょうがない……が、知ってるかミルク? 形あるものはいつかは崩れる。つまり、これが壊れた時こそ俺達の絆は無くなるわけで……」


「だから意地悪言わないでくださいってばぁ!!」


 ……善意で人から物を貰ったのはいつ以来だろうか? ガキの頃に馴染みからミサンガ貰った時くらいだったか。


 何にせよ、これを無下に扱ったら、またこいつがうるさそうだ。


 どうせ付けてても困る物じゃないし、仕方無いからこれくらいは割り切って――


「偶然発見、我がパーティー! 二人してお揃いのブレスレットなんかしちゃって、何してんの~?」


「…………お揃い?」


 ギルドで待ち合わせして会うはずの予定だったピノが、何処からともなくやって来た。


 さっきまで一緒にいた時とは少し見た目が変わっていて、包帯を眼帯代わりにして左目に巻き、黒いニット帽を被っていた。


 恐らく俺が渡した金で新調したんだろうが、そんなことよりもだ。今更ながらに、このブレスレットがお揃いになっていることに気付かされた。


「うん、やっぱこれいらんわ。返す」


「何でですか!? さっきまで受け取ってくれるような雰囲気だったじゃないですか!」


「こんな誤解を生みそうな物をお前とお揃いで付けてたまるか。故に俺はいらん」


「そんなこと言わずに! あっ、そうだ! だったらピノさんも同じ物を買うことにしましょう! それならビャクト様も良いですよね?」


「むしろ余計にいらなくなったわ! 受け取らないなら今すぐ捨てる!」


「だから捨てちゃ駄目ですってば~!」


「おっちゃん、私にもこれくださいな」


 結局、俺達三人は同じブレスレットを付けることとなった。


 こうして俺の枷が、今度は形となってしまった。


 こんな調子でこいつらに流されたままで、いつか自由に独り立ちできる時が来るんだか来ないんだか。


 ……多分来ないんだろうなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ