指南5 ストーリーの作り方 前編
「よし、今日も私が小説の書き方を指南してやる!」
僕の目の前でテーブルの上に乗ったロリがなにか言っている。
彼女のニックネームは『指南先輩』だ。
今現在、文芸部ではもっぱら『家に持ち帰りたい先輩ランキングナンバー1』の座をほしいままにしている。
もっとも、現在この部活を真面目にやっているのは僕と彼女だけなので、どのようなランキングにせよ彼女は『先輩ランキング』においてナンバー1だし、逆に僕も『後輩ランキング』ならばナンバー1を確実にとれるだろう。
なので僕は、真面目な後輩ランキングナンバー1の名に恥じない切り返しをした。
「先輩、今日は『ストーリーの作り方』でしたよね」
「お、どうした後輩!? 今日はやる気だな!?」
嬉しそうな先輩ランキングナンバー1の彼女は、ランキングに恥じない表情を浮かべる。
僕は、理想的な後輩ランキングナンバー1として、少々ニヒルな表情を浮かべ、先輩に話を促すこととした。
「では先輩、解説をお願いします」
「うん! 『ストーリーの作り方』は、読んで字のごとくだな。私のやり方だと、正しく言うならば『キャラクターのストーリーの作り方』になる」
「はい」
「つまり、『キャラクターが、物語の中で、どういう風に動いていくのか』だな」
「どういうふうに定めていけばいいんですか?」
「キャラクターに聞け! 以上!」
「……ええ……」
「難しいことじゃないぞ。考えることは三つだ。『キャラクターの目標』と『キャラクターの状況』、そして『キャラクターの障害』だな!」
「うーん、わかるような気もしますけど、簡単な例とかありませんか?」
「そうだな……じゃあ、『水を飲む』ことが『目標』のキャラがいるとしよう」
「すごい簡単そうな目標ですね」
「一例だからな。で、『水を飲む』が『目標』ってことは、『今は水を飲めていない』っていうことだよな? これが『状況』だな」
「まあ、そうですね」
「で、『なぜ水を飲めていないか?』が『キャラクターの障害』だ。この例の中では『ちょっと手が離せないから』としよう」
「なんで手が離せないんですか?」
「なんでもいいぞ! そこにキャラの特徴とか、普段そいつがなにをしているかが出る! 今回例を作ってるのは私だし、『書いてる小説がいいところで手が離せないから』『水が飲めない』『ゆえに水を飲むことが目標』としようか」
「わかりました」
「『じゃあ、このキャラはどうしたら水を飲める?』っていうのが、ストーリーだな!」
「なるほど。……それで、今の例の場合は?」
「そうだな…………『家族に「水とって」って言うことで、水が飲めた。めでたしめでたし』って感じだな!」
「ただのものぐさが、まるで一つの物語みたいになりましたね……」
「ストーリーっていうのは、そういうものだ! マクロにするかミクロにするかは自由に決めていい! 書き手によって『冬場にトイレに行く』だって一大スペクタクルになるし、『命懸けで復讐を果たす』がただのギャグになることもある! そこが個性だな!」
「はあ、しかし『命懸け』がただのギャグとか、その作者の頭おかしいんじゃないですか?」
「じゃあブーメランを突き刺す意味で、後輩が書いた今のところのキャラ設定を見ようか」
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★タイトル
・
★コンセプト
・先輩を飼いたい。
・メインコンセプト
なんか偉そうで不器用な先輩系女子と仲良くなりたい。ただしこっちが優位。
・ストーリーコンセプト
こちらを見下していた女の子に見上げられるようになる。
・キャラコンセプト
本心か偽装かは置いておいて、こちらを見下している女の子。
★あらすじ
・自分用あらすじ
奴隷という文化がある、剣と魔法とモンスターが存在する異世界で、女の子を奴隷にするのが仕事の男性は、女の子を見下したいので、『奴隷にする魔法』を用いて女の子を飼う。
・掲載用あらすじ
★キャラクター
・主人公
男性。
奴隷商人。
偉そうな人をひざまずかせることに快楽を覚えるサディスト。
・ヒロイン
偉そうで人を見下している少女。
話の流れで、あらゆる権利を剥奪され主人公以外に頼る人がいない状況に陥り、主人公にひざまずくことになる。
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「一日経つと冷静になりますね……なんだこの濃縮された気持ち悪い欲望は……これ考えたヤツの頭おかしいですよね?」
「お、ブーメランが刺さったな。さて、さっきの図式に合わせて『キャラのストーリー』を作っていくわけだが……今いるのは主人公とヒロインの二名だな。まずは主人公から行くか!」
「両方考えるんですね」
「そうだな。どっちから考えてもいいけど、基本的に視点にする人物のストーリーの方が考えやすいぞ!」
「視点にする、とは?」
「『そいつの知識や視界を基準に物語を語ること』だ! 人称の話はまだしないから、このぐらいの理解で頼む!」
「わかりました。まあ、視点にするなら、主人公でしょうかね。主人公ですし」
「サディストか」
「……そう言われると、すごく視点にしにくそうなんですけど」
「後輩の考案したキャラはどっちもどっちだと思うぞ」
「あっれえ……?」
「心配するな! 初めて物語を作る時なんかは、よくある! キャラが意味なくとがりすぎて共感も理解もできない、しかもまだ未熟だから表現もできてないで、キャラたちに振り回されて物語が壊れるのは『あるある』だ!」
「ええ……いやでも、最初ですけど、僕としては物語を成功させたいんですが」
「まあ、振り回されるのも楽しいぞ? 重要なのは書く前から『これはくだらない』とか『これじゃまとまらない』とか言ってやめないことだ!」
「なるほど」
「特に書き慣れないうちはどんどん書いた方がいいぞ!」
「……かもしれませんね。じゃあ、主人公を視点にします。サディスト視点で」
「じゃあ、主人公の『目標』『状況』『障害』を考えようか」
「とはいえ、どういうふうに考えていけばいいのか……」
「そこで昨日決めた『キャラクター』と、その前に決めた『ストーリーコンセプト』だ!」
「なるほど。『こちらを見下していた女の子に見上げられるようになる』『偉そうな人をひざまずかせることに快楽を覚えるサディストの、奴隷商人』ですね」
「目標はまあ、まだざっくりでいい。この場合は『こちらを見下していた女の子に見上げられるようになる』のが『目標』だな!」
「そうですね。それでは『状況』は『見下されている』になるのでしょうか。……なぜ?」
「うん、当然の疑問だ! そこで出るのが個性だな! ヒロインが個人的な理由で見下すのでもいいし、世界観に根ざした見下される理由があるのでもいいし、主人公の人格や職業なんかが見下される要因でもいい」
「……奴隷商人自体が見下されている世界観とか? まあ、あとサディストがあからさまだったら、嫌悪はされそうですよね」
「そうだな」
「あと、女の子が『偉そう』ってことは、そっちの身分も高いということも考えられますね」
「お、いいじゃないか!」
「どれがいいかな……」
「困ったら全部盛り!」
「いやそれ後々もっと困ることになるような……まあ、今は先輩の個人的意見に従いますか。では全部盛りで『奴隷商人自体が見下されていて、サディストでドン引きされてる。なおかつヒロインの身分が高いから、主人公は見下されている』という『状況』ですね」
「うん! 最後、障害だ! なぜ主人公はその『状況』にいる? なるべく具体的で、なおかつ解決の方法が想像しやすい『障害』がいいぞ!」
「でもあんまり解決の方法が想像しやすいと、安っぽいっていうか、『もっと早くに解決しとけよ!』みたいになりませんか?」
「あくまで初心者講座だからな! 難しいことは、中級者以上になってからでいい!」
「……まあ、とりあえず簡単なのを考案しますか。別にあとで変えてもいいんですよね?」
「本文に入る時には『叩き台』として完成してるべきだけど、その前なら大丈夫だ!」
「じゃあ……『気が向かないから』とかどうでしょう? 『気が向けば』解決しますし」
「それ実はすごい難しいぞ」
「そうなんですか?」
「『障害』自体が気分一つでどうにかできる程度のものだと、読者に納得してもらうのが難しいんだ。でもここは『本文の書き方』にかかわる部分だから……まあいっか!」
「いやいやいや……今までは難易度上がりすぎないようにそれとなくフォローしててくれたじゃないですか。今回も止めてくださいよ」
「とりあえず主人公側の『目標』『状況』『障害』の設定は終わったな! 『目標』の時点で他者が不可欠だから、ヒロインの方も無理なくかかわらせることができると思う!」
「ヒロイン側は設定しなくていいので?」
「それは次だ!」
「次? ああ、そうか、それでタイトルが『前編』なんですね……わかりました。じゃあ、今決めた主人公の『目標』『状況』『障害』をキャラの欄に書けばいいんですね?」
「うん!」
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★タイトル
・
★コンセプト
・先輩を飼いたい。
・メインコンセプト
なんか偉そうで不器用な先輩系女子と仲良くなりたい。ただしこっちが優位。
・ストーリーコンセプト
こちらを見下していた女の子に見上げられるようになる。
・キャラコンセプト
本心か偽装かは置いておいて、こちらを見下している女の子。
★あらすじ
・自分用あらすじ
奴隷という文化がある、剣と魔法とモンスターが存在する異世界で、女の子を奴隷にするのが仕事の男性は、女の子を見下したいので、『奴隷にする魔法』を用いて女の子を飼う。
・掲載用あらすじ
★キャラクター
・主人公
男性。
奴隷商人。
偉そうな人をひざまずかせることに快楽を覚えるサディスト。
『こちらを見下していた女の子に見上げられるようになる』という目標を持っているが『奴隷商人自体が見下されていて、サディストでドン引きされてる。なおかつヒロインの身分が高いから、主人公は見下されている』という『状況』にあり、その『状況』をどうにもできないのは『やる気がない』から。
・ヒロイン
偉そうで人を見下している少女。
話の流れで、あらゆる権利を剥奪され主人公以外に頼る人がいない状況に陥り、主人公にひざまずくことになる。
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「主人公ひどいですね……」
「なー。この『やる気さえ出せばなんでも解決できると思ってる感じ』はすごい」
「実際どうなんでしょうね?」
「それを決めるのは、後輩の自由だ! 『現実は甘くなかった』とするのも『やる気を出せば本当に解決できた』とするのも、後輩のさじ加減一つだぞ!」
「……『現実は甘くなかった』ってバッドエンドになりません?」
「まあ、そうかもな。やりようは無限にあるけど……別にバッドエンドだって悪いものじゃないぞ?」
「でもこれ、僕の欲望を煮詰めた話ですよね? だったらハッピーエンドで終わってほしいっていうか……バッドエンドなんて現実的な終わり方はちょっと」
「普通そう考えるよな! じゃあ『本当に解決できた』ってなっていくわけだけれど……ここから先は次回だな!」
「なるほど。主人公とヒロインの『キャラクターのストーリー』は、それぞれ一話使って指南するぐらい重要なんですね」
「そうだな! 『視点人物っぽい話作り』と『ヒロインポジションっぽい話作り』は別なスキルが必要だと心得るのだ!」
「わかりました。じゃあ、今日は解散ですか?」
「ああ、また来週だな!」
「明日ではなく?」
「明日は土曜日だ! この物語は『部活動をやってる感じ』で進んでいくから、平日午後四時に予約投稿をする方針なんだ!」
「今回はメタネタがないと思いきや、ありましたね」
「そうだな! キャラクターが作者にしゃべらされている悪い例だ!」
「僕らのキャラは反面教師的というか、応用理論で設定されてますしね……」
「それでは、お疲れ様でした」
「うん、お疲れ様!」
先輩がぴょんと机から飛び降りる。
僕は『そろそろここで語るネタも手詰まり感あるな』と思いながら先輩を見つめた。
さて、来週はいよいよヒロインキャラの作り方か。
今までの流れで僕のキャラクターが『心に深い闇を抱えたロリコンサディスト』みたいになってるから、挽回の機会は次だな。
僕がもっと純粋な気持ちで先輩の人権を剥奪したいということを、わかってもらおう。




