指南6 ストーリーの作り方 中編
「よし、今日も私が小説の書き方を指南してやる!」
僕の目の前でテーブルの上に乗ったロリがなにか言っている。
彼女のニックネームは『指南先輩』だ。
二日会えないだけで禁断症状を引き起こす生きた薬物。
ちょうど手にすっぽり収まりそうな理想的な太さのふくらはぎを持つ、世界で一番握ってみたい棒状物体。
『指南してるのに見下ろされるのやだ』という理由でいつも人より一段高い足場にいる、パンチラの危険より誇りを重んじる現代の女騎士。
彼女を形容するのに実に様々な表現があるけれど、だいたいどれも人に言えない。
というか僕のキャラが人に言えない感じになっている。
ここらで印象をどうにか挽回しなければならないので、僕は至極まっとうな受け答えをすることにした。
「ありがとうございます。お引き取りください」
「あれ? 土日挟んだから忘れた? 今日は前回の続きで『キャラクターのストーリーの作り方』だよ?」
指南先輩はもう、僕が拒絶しても堪えない。
なんていうことだ。最初は野生だった犬を餌付けで懐かせてしまったような、達成感とむなしさを感じる。
「そうでしたね。今日はいよいよ、ヒロインのキャラクターのストーリーの作成です。しかし今の一文『の』が多いですね」
「気にするな! 『キャラクターストーリー』って言うとなんか違う気がするしな!」
「またいつもの余人にはわからないこだわりですね。この物語で語られる『小説の書き方』はあくまでいち個人の意見であり、これを真似して被るあらゆる被害にかんして僕らや作者は一切の責任を負いませんからね。仕方ありませんね」
「週明けの免責事項も終わったところで、ヒロインのキャラを作っていくぞ!」
「わかりました。具体的に、どのように考えていけばいいんでしょうか?」
「まずは先週決めたことを振り返ろう」
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★タイトル
・
★コンセプト
・先輩を飼いたい。
・メインコンセプト
なんか偉そうで不器用な先輩系女子と仲良くなりたい。ただしこっちが優位。
・ストーリーコンセプト
こちらを見下していた女の子に見上げられるようになる。
・キャラコンセプト
本心か偽装かは置いておいて、こちらを見下している女の子。
★あらすじ
・自分用あらすじ
奴隷という文化がある、剣と魔法とモンスターが存在する異世界で、女の子を奴隷にするのが仕事の男性は、女の子を見下したいので、『奴隷にする魔法』を用いて女の子を飼う。
・掲載用あらすじ
★キャラクター
・主人公
男性。
奴隷商人。
偉そうな人をひざまずかせることに快楽を覚えるサディスト。
『こちらを見下していた女の子に見上げられるようになる』という目標を持っているが『奴隷商人自体が見下されていて、サディストでドン引きされてる。なおかつヒロインの身分が高いから、主人公は見下されている』という『状況』にあり、その『状況』をどうにもできないのは『やる気がない』から。
・ヒロイン
偉そうで人を見下している少女。
話の流れで、あらゆる権利を剥奪され主人公以外に頼る人がいない状況に陥り、主人公にひざまずくことになる。
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「週をまたいで見るとなおさらキツいですね」
「日がたつごとに冷静になるからな! 十万文字の小説なら、プロット作りに一週間、本文作りに二週間、推敲に一週間ぐらいが理想的だと私は思うぞ!」
「本文二週間で終わるんですか?」
「あくまでも理想のペースだな! でも、一日に三時間ぐらい使って一万文字書ければ、十日で終わる計算になるぞ! このペースが早いか遅いかは知らない!」
「人生は予定通りいかないものです」
「そうだな! ヒロインの存在もまさに、主人公の人生を予定通りいかせないためにある!」
「自然な導入」
「というわけでヒロインサイドのストーリーを考えるわけだけど、主人公のストーリーを考えた時に言ったことは憶えているか?」
「『目標』『状況』『障害』を設定するんですよね?」
「うん! それは今回使わない!」
「ええ……」
「主人公は視点人物にする予定だったから、主人公視点で色々設定した。でも、ヒロインは視点人物じゃないから、もっと客観的な感じで色々設定するんだ!」
「と、言いますと?」
「たとえば『スートーリーコンセプト』を見てくれ!」
「『こちらを見下していた女の子に見上げられるようになる』ですね」
「うん。だから、物語的には最後にヒロインが主人公を見上げることが目標になるわけだな。でもキャラクターの欄のヒロインは、『偉そうで人を見下している少女』だろ?」
「はい」
「『偉そうで人を見下している少女』の『目標』が『主人公を見上げる』っていうのはおかしくないか?」
「……おっしゃる通りですね。書き手としてそういう方向に持っていくのはわかりますけど、ヒロインが個人的に抱く目標としては不適切なように思います」
「というわけで、ヒロインのストーリーは、『作者として』設定していくんだ」
「なるほど」
「だから項目の名前を変えるぞ。『目標』を『話の着地点』に。『状況』はそのままで、『障害』を『主人公とかかわる理由』に変える」
「なるほど。かなり印象が変わりますね」
「まずは『話の着地点』をどうするか、だな!」
「これは着地点から考えた方がいいので?」
「いや、ケースバイケースだな! 思いついた順番でいい! 他のとこもそうだぞ!」
「じゃあちょっと先に、『状況』から思いついたんですけど、いいですか?」
「お、いいぞ!」
「『逃亡中』」
「ほう。どんな理由で、誰から?」
「それはまだ……なんかパッとボロボロの服装で逃げてるヒロインが思い浮かんだんで」
「インスピレーションが降ってきたわけだな! じゃあ、細かいところはあとで考えるとして、まず『状況』は『逃亡中』に決定、と。次は『話の着地点』と『主人公とかかわる理由』だけど……」
「『主人公とかかわる理由』を、『逃げてたら主人公に捕まった』にしておきましょうか。主人公は見下される奴隷商人ですから、裏路地とかにいそうですし。逃亡中に出会いそう」
「お、いいねいいね! じゃあ最後、『話の着地点』は?」
「『主人公の奴隷になる』でしょうか?」
「コンセプトとも合ってるな! じゃあ箇条書きでいいから、並べてくれ!」
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★タイトル
・
★コンセプト
・先輩を飼いたい。
・メインコンセプト
なんか偉そうで不器用な先輩系女子と仲良くなりたい。ただしこっちが優位。
・ストーリーコンセプト
こちらを見下していた女の子に見上げられるようになる。
・キャラコンセプト
本心か偽装かは置いておいて、こちらを見下している女の子。
★あらすじ
・自分用あらすじ
奴隷という文化がある、剣と魔法とモンスターが存在する異世界で、女の子を奴隷にするのが仕事の男性は、女の子を見下したいので、『奴隷にする魔法』を用いて女の子を飼う。
・掲載用あらすじ
★キャラクター
・主人公
男性。
奴隷商人。
偉そうな人をひざまずかせることに快楽を覚えるサディスト。
『こちらを見下していた女の子に見上げられるようになる』という目標を持っているが『奴隷商人自体が見下されていて、サディストでドン引きされてる。なおかつヒロインの身分が高いから、主人公は見下されている』という『状況』にあり、その『状況』をどうにもできないのは『やる気がない』から。
・ヒロイン
偉そうで人を見下している少女。
話の流れで、あらゆる権利を剥奪され主人公以外に頼る人がいない状況に陥り、主人公にひざまずくことになる。
『主人公とかかわる理由』……『逃げていたら主人公に捕まった』
『状況』……『逃亡中』
『話の着地点』……『主人公の奴隷になる』
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「……あれ?」
「どうした後輩?」
「これ、物語終わってますよね? なんにも複雑なことがないっていうか……だって『逃げてたら主人公に捕まったヒロインは奴隷にされました』で終了ですよね?」
「いやいや、これでいいんだよ」
「はあ、そうなんですか?」
「うん。だって、物語作りはここからだからな」
「……ええ……」
「先週末と今日で、主人公とヒロインの『それぞれのストーリー』が決まったわけだ。次の指南では、ここから『二人が交わったことにより展開するストーリー』が決まるんだ!」
「ああなるほど……」
「それに今回のタイトルは『ストーリーの作り方 中編』だったろ? つまり後編があるってことだな!」
「もっとわかりやすく一回でまとめてほしいという気持ちもありますが……」
「この話は『作者が詰まった時に見る用』だから、かなり丁寧にやってるぞ! 『記憶喪失になってもこれさえ読めばまた話が書けるぐらい』を目標にしてる!」
「まあ、僕と先輩の茶番がそこそこの尺をとっている気がしないでもないんですが」
「茶番なしだったらただのデータの打ち込みになっちゃうだろ!? つまんないだろ!?」
「物語形式は書いてて楽しい代わりに文字数が五倍ぐらいなんですが……」
「とにかく明日は『二人のストーリー』、ようするに『プロットの自分用項目完成編』だ!」
「お、いよいよですか?」
「そうだな! 細かい説明は次回! 次が終わったら本文行くから!」
「この会話は次が終わってから書いた方がいいんじゃないでしょうか。予定通りいったことないでしょ」
「とにかく今日は解散! あとひょっとしたら『後編・前』と『後編・後』になるかも」
「その増やし方を容認すると『後編・前の前』とかもできそうなんですが……」
「……がんばる」
「がんばってください。では、お疲れ様でした」
「お疲れ様!」
先輩がぴょんと机から飛び降りる。
僕はふわりと浮かぶ先輩の髪から放たれる香りをかいで、『シャンプー変えたな』ということを理解しつつ、彼女を見つめる。
さて、次回で長かった本文前作業も終わりだ。
本当に明日で本文前作業が終わった場合、休日を挟んだので日数的には九日かかっているが、休日もやっていたら、たしかに七日で本文に移ることができる計算になるだろう。
……え、っていうことは本文の書き方は全十四回もやるのか?
この事実に僕よりも作者が戦慄しているぞ……
いや、そんなことにはならない。
本文編は多くても三回で終わるという天啓が降りてきた。
まあでも、どうなるかは終わってみるまでわからないだろう。
なにせ人生は予定通りいかないものなのだから――
本文の書き方、三回じゃ終わりませんでした




