表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/12

2

お兄ちゃんは最近、部屋で面接の練習をしている。

こもってブツブツ喋ってる声が、壁越しにうっすら聞こえる。

最初はゲームの通話かと思ったけど、耳を澄ませてみたら、どうやら自分の話す練習みたいだ。

「初めまして」「よろしくお願いします」みたいな、丁寧な声。

たまに詰まって、「……っ、あ、すみません」と小さく言ってるのが聞こえて、思わず笑ってしまった。

お兄ちゃん、ほんとに頑張ってるんだな。


VTuberのオーディションだから、相手はコミュニケーション慣れした人たちばかりだろう。

でも、お兄ちゃんは吃音がちょっとあって、人前で喋るのが苦手だ。

そんな彼が、それでも毎日練習してる。

少しでも伝わるように、少しでもちゃんと喋れるように。

自分の殻を、少しずつ破ってる。

正直、すごいと思う。

きっと、私よりずっと勇気がある。


そんなある日の夕方。

スマホをいじってたら、またドアがノックされた。

「どーぞ〜」と返すと、お兄ちゃんが入ってきた。

前より少しだけ顔が明るい。目の下のクマも、前より薄い気がする。


「どしたの?」

「……その、報告があって。」

「報告?」


お兄ちゃんは息を吸って、少し照れくさそうに笑った。


「オーディション、受かったよ。アナストのVTuberになれる。」


一瞬、頭が真っ白になって、次の瞬間――心臓がドクンと跳ねた。


「え、うそ、ほんと?!」

「うん、ほんと。」

「すごいっっ!おめでとう!!」


気づいたら立ち上がっていた。

胸の奥から熱が込み上げてきて、気持ちが抑えきれなかった。

お兄ちゃんの目が少し潤んでるのを見て、私まで泣きそうになった。


「え、ヤバい。興奮してきた。抱きしめていい? ゴメン、待てない。抱きしめるね。」


言うが早いか、勢いよくお兄ちゃんに飛びついた。

ギューッと力いっぱい抱きしめる。

お兄ちゃんの体温が、じんわりと腕に伝わってくる。

ずっとこの瞬間を待ってた気がした。


「おめでとう。お兄ちゃん!」


声が震えて、涙が少しこぼれた。

お兄ちゃんは最初、びっくりした顔をしてたけど、すぐに優しく笑って、そっと背中に手を回してくれた。


「ありがと。」

その一言に、全部が詰まってた。


引きこもってた日々も、壁の向こうから聞こえた練習の声も、ホームセンターの袋を抱えて帰ってきたあの日も――全部、この瞬間に繋がってたんだ。


「お兄ちゃん、ほんとにすごいよ。世界が変わるかもしれないね。」

「うん……そうだといいな。」


少し照れくさそうに笑うその横顔を見ながら、私は思った。

きっと、お兄ちゃんはもう“引きこもり”じゃない。

ちゃんと、自分の居場所を見つけたんだ。


その夜、私は布団に入ってからもずっとニヤニヤが止まらなかった。

アナストの新しいメンバーが発表される日が、今までで一番楽しみになっていた。

だって、そこには――私の一番の“推し”がいるんだもん。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ