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配信は、家族にバレるのは嫌なものだ。と、親に配信してるのがバレたことを嘆いている動画を見て再確認した。
まあ、確かに。誰が見てるか分からないし、身内に知られるのが一番気まずいのかもしれない。だから私は、お兄ちゃんの「やりたいこと」が何なのか、なんとなく察しつつも深くは触れないでおいた。
それから、もう数週間。
夕方。
私はいつものように、動画サイトでお気に入りの配信者のアーカイブを見ていた。
リアタイしたい気持ちはある。あるけど、夜の10時を過ぎるともう眠くなる。
「さすがにもう少し起きてもいいんじゃない?」とお母さんに言われるくらい、健康的な生活をしている。生まれつきなんだ。
お兄ちゃんが夜更かししてるのが少し羨ましいけど、まあ、夜行性みたいなものだから仕方ない。
私が見ていたのは、アナザーストーリーっていうVTuberグループの配信。
企業勢で、世界観が凝ってる人が多くて、メンバー同士の絡みも面白い。
推しが誰っていうほど特定の人はいないけど、みんな好き。全体の空気感が好き。
それに、アナストを好きになったきっかけはお兄ちゃんだった。
隣でお兄ちゃんが見てるのを、たまたま覗き込んで、それからハマった。
だから、ある意味お兄ちゃんが私を沼に落とした張本人でもある。
そのアナストが、最近タレントの募集をしたらしい。
気づいた時には応募期間が終わってた。私がファンになってから初の新人さんが来るってことで、内心お祭り騒ぎ。
私はワクワクしていた。次はどんな人が来るんだろう。男性かな。落ち着いた声の人がいいな。
そんなことを考えていた時、部屋のドアがトントンとノックされた。
珍しい。お兄ちゃんだ。
「どうぞ〜」って言うと、少しだけドアを開けて、顔だけひょこっと出してきた。
「どしたの。珍しいね。」
と声をかけると、お兄ちゃんは妙にもじもじしている。
目線が泳いでる。何か言いたそうで、言い出せない感じ。
「あー……えっとさ」
「うん?」
「アナザーストーリーのタレント募集があるって、知ってる?」
「うん、知ってる。楽しみだね、新人さん来るんでしょ?」
「うん、それで……その……」
そこでお兄ちゃんは一度息を吸い込んで、言葉を絞り出すように言った。
「一次試験、通っちゃった。」
「……マジ?」
「……マジ。」
数秒、頭が真っ白になった。
え? え? 一次試験って、あの一次試験? つまり――
「なるほど、それで防音室ね〜。」
言いながら、私の中でようやく点と点がつながった。
あのホームセンターの買い出し。部屋にこもってなにか作ってた理由。
全部これだったんだ。
「……。」
お兄ちゃんは不安そうに目を伏せる。
口の端が少し震えてる。
たぶん、“バカにされるかも”って思ってるんだろう。
「引きこもりがVTuberとか無理だろ」って言われるのを、きっと怖がってる。
私は、そんなお兄ちゃんの顔を見ながら、ふっと笑った。
「やるじゃん。」
お兄ちゃんが、驚いたように顔を上げる。
私はニッと笑って、続けた。
「それ、誰かに言われたわけでもなく、お兄ちゃんが自分で行動したんでしょ?」
「う、うん。」
「偉いよ。自分で変わろうとしてるんだから。」
お兄ちゃんの肩から、少し力が抜けたのが分かった。
彼は小さく笑って、「ありがと」と呟いた。
なんか、胸の奥がじんと温かくなる。
長いこと止まってたお兄ちゃんの時間が、また少しだけ動き始めた気がした。
きっとこの先、うまくいくことばかりじゃない。
でも――どんな形でも、挑戦してる姿を私は誇りに思う。
だからその夜、私はひとりでスマホを握りながら、そっと呟いた。
「次の新人、応援しなきゃな。」
そして思う。
もしかしたら――その“新人”は、ずっと前から私のそばにいた人かもしれないから。




