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プロローグ

お兄ちゃんは、人間社会で生きるには、どうにも不器用すぎると思う。

頭が悪いわけじゃない。勉強だって、やろうと思えばちゃんと点は取れるタイプだ。中学の頃なんて、私より成績が良かった時期もあった。

でも、本番になると急にダメになる。テスト、面接、発表、全部。プレッシャーに弱いっていうか、緊張に体が耐えられないみたいで、顔が真っ青になってるのを何度も見た。

運動は……まあ、最低限。体育の成績は悪くはなかったけど、得意でもなかった。私も運動は苦手だから、そこは何も言えないけど。


そして何より、お兄ちゃんは人見知りがひどい。

本当に、ひどい。知らない人と話すと、声が蚊の鳴くようになって、手がそわそわ動く。

だからなのか、高校を卒業してからずっと家にいる。最初の頃は就職活動してたみたいだけど、うまくいかなかったらしい。気づけば、昼夜逆転して、外に出なくなった。

お母さんもお父さんも心配してるけど、あの人たちは口うるさいタイプだから、言えば言うほどお兄ちゃんは引っ込む。

私も正直、「働け」と思うことはある。だけど、それ以上に――お兄ちゃんのこと、嫌いにはなれない。


だって、根は優しい人だから。

小さい頃、私が泣いたときに一番最初に駆けつけてくれたのはいつもお兄ちゃんだったし。

今だって、私が「ねえねえ、聞いて〜!」ってどうでもいい話を振っても、「うん、どうした?」ってちゃんと聞いてくれる。

わりと仲のいい兄妹だと思う。多分、私が一番お兄ちゃんと波長が合うんだと思う。

お父さんは理解できないって言うし、お母さんは「もっとしっかりしてほしい」って愚痴るけど、私は――「まあ、そういうところもお兄ちゃんだよね」って思ってしまう。


それに、お兄ちゃんには好きなことがある。

ゲーム。

特にFPSが得意で、なんかランクも結構上の方らしい。

私には細かいことはわからないけど、配信とかで見かけるような「強い人」ってやつなんだと思う。

正直、すごい。

だって、他のことには自信がないのに、ゲームの話になるとちょっとだけ顔が明るくなるんだ。

「このマップの構成がさ」「こいつのリコイル制御がさ」なんて、専門用語を並べて楽しそうに喋るお兄ちゃんを見てると、なんか嬉しくなる。

ああ、この人にはちゃんと“得意な場所”があるんだなって。


そんなお兄ちゃんが、ある日、珍しく外に出た。

ホームセンターの袋をいくつも下げて、汗だくで帰ってきた。

「どうしたの?」って聞くと、

「ちょっと、防音室を作りたくて。」

って。

中には板とか吸音材とか、見たことのない金具とかが入ってた。


「お父さんあたりに、うるさいって言われちゃった?」って心配したら、

「ううん。違うよ。やりたいことがあるんだ。」

と、お兄ちゃんは笑った。


その瞬間、ああ、って思った。

お兄ちゃん、たぶん“前に”進もうとしてる。

もしかしたら、配信とか始めるのかもしれない。

もしかしたら、自分の居場所を、自分で作ろうとしてるのかもしれない。


外の世界は怖いのかもしれないけど、それでも少しずつ動こうとしてる。

そんなお兄ちゃんを見てたら、なんだか私まで胸が熱くなった。


……やっぱり、応援してあげたい。

私、お兄ちゃんの妹だし。

どんなに不器用でも、どんなに社会に馴染めなくても――お兄ちゃんが頑張ろうとしてるなら、私もその背中を見ていたい。

だって、家族だから。

そしてなにより、私にとってのお兄ちゃんは、世界でいちばん優しい人だから。



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