十五 和可と宇加(一)
白き地に紅花を咲かせたのは果たしてどちらだったか。人か、鬼か――
「父よっ、兄よっ、ご覧あれっ!!」
そう吼えたのは備前でキキに助けられ、その小さき背を恨めしく見た青年であったか。
けれど、その咆吼はここで戦う武士全ての気持ちでもあった。一年前の京の戦い、そこで散った父や兄、仲間達への想い。歳若いというだけで共に戦えなかった悔しさ、未熟だったという自身への憤り――鬼への怒り。
その全てを一時たりとも忘れた事など、忘れる事など出来なかった。その願い望んだ鬼との戦が今こうして出来ているのだ、吼え猛るのは当然だった。
――けれど、
「オオオオォォォォォオオッッッ!!!」
鬼の雄叫びもまた轟き、勇猛にその大太刀を、その大槍を、その大長刀を武士の群れへと薙ぎ振るった。
鬼の兵、鬼の軍。ここに居る全ての鬼は京の戦で戦い抜いた鬼達であり、古くから虎熊童子、星熊童子に従って来た鬼でもあった。そして、そこには将への忠誠や絆は確かに在り――その『心』は鬼兵を猛り燃え上がらせた。
両軍の雄叫びが天に轟く中、けれど、そう、けれど。
「――――」
少女二人の心は清流の如く静かに透き徹り――和可、宇加はその白縹の瞳、白藍の瞳を僅かに伏せ、冷たき空気を胸に染み込ませた。
『――良いですか。貴女達二人は戦の経験が余りに少ない、その事を決して忘れぬように』
心に浮かぶ、その言葉。
『戦に呑まれていけません。どんな事が起きようとも心を平静に保ちなさい。いいですね』
豊代のその声に和可と宇加は心で(はい)と応え、瞳を上げ白の雪と紅の血が舞い散る戦場を見つめた。
惑わず、迷わず――自身の弱さを知っているからこそ、そう己に言い聞かせ、震える拳を握り絞め。
鬼との戦いには幾度も身を置いて来た。けれど、戦前で武士と共に戦うのはこれが初めて。
京での鬼との決戦――そう、この戦いが和可と宇加の初陣だった。




