十四
忌々しい――何も言わずとも、何もせずとも、存在だけであの幼子は他の者の心を変える。鬼に成っても尚、忌まれる鬼が人に希望を与える。
「どうかされましたか、立烏帽子殿。気配が揺れましたよ」
「……ふふふ……小娘がよく言うもの」
「怒りましたか……けれど、怒っているのはこちらです」
薄桜に染まった瞳に鋭き光を宿らせ、
「戦い散った陰陽師達を出し、妹を詰った事。絶対に許しません」
雪と共に桜花を散り舞わせ、凜と花知流は言の葉を発した。
「ふふ、許さぬと言うのなら……どうなさるのです」
サァァァ――――
雪と桜が踊る――そこに、木花咲耶の焔燐の花が加わり。
「……そちらは三人。こちらは四人。私は戦わないということも出来ますが」
「お気遣い有り難う御座います。けれど、無用な事」
「ふふ、強気な事。けれど、良いのですか――」
刹那、
――ガァァァァッ!
雪と桜と焔が散る中、一閃の雷が降り落ちた。
地の雪が舞い上がり霞の様に広がる中、黒き影がゆらりと映し出され――
「――――」
その者、細長に似た装束を纏い、漆黒の小袿、単、宛帯、指貫袴。単には艶やかな紅き彼岸花を咲かせ、白き肌、長き黒髪に金色の角、切れ長の目、目尻と唇には紅化粧――
背を斬られた小袿は裂けたまま、角と同じく金色の瞳をゆっくりと開き、その視線を立烏帽子へと向けた。
(……雷の鬼人)
咲久夜は、花知流は内でその名を呟いた。
当然、雷の鬼人、カナの事は考えていた。敵として対するとして、人が少ないこちらはどうするか……けれど、その話をした時、キキは『……カナ様が敵となることは無いと思います』と小さく伝えた。
『どうしてだ』と聞いて見たが、キキは何も答えず……けれど、キキの言う事ならばと納得し。
「これはこれは、金童子。良く参りました。陰陽師が憎い貴女の事、必ずこの宴に参るであろうと思っていました」
「…………」
金童子、カナは応えず――そんな鬼人を見つめ、咲久夜はふっと静に息を吐いた。
キキの事を信用していないわけではない、けれど、命を削り戦った相手。気を抜くことなど出来ず。
「さあ、今こそ憎き陰陽師を滅ぼす時。共に戦いましょう、金童子」
「…………呼ぶな」
「……何と?」
「その名を呼ぶな」
カナは袖を揺らし歩みを進め、キキの隣で立ち止まった。
「……キキ」
呼びかける咲久夜にキキは首を横に振り、そして、カナを見上げる。
「……お前は、本当に妹に似ている」
何も言わずともこちらを信用してくれる。その心を見透かしているような幼子の頭を優しく撫で、
「五月様……」
キキの言葉、その小さき声に目を見開き……
「そうか、お前は全てを知ってくれているのだな……そうか」
鬼人は黄金の瞳を光らせ、直ぐに微笑んだ。
「有り難う、キキ。これで、迷いは断ち切れた」
――そして、
「我が名は滝夜叉っ! 将門が娘っ!」
その声は雷の様に天に響き、金童子――滝夜叉は鋭き視線を立烏帽子へと燐と向けた。
「父の屍を穢し操り、娘を、我が妹を斬った事、決して許しはせぬ。父の魂を解放し……そして、立烏帽子、お前を殺す」
――言の葉は響き、それは、心無い屍の熊童子、否、将門の何に伝わり揺らしたか。
「ふふ、さてもさても……」
親が娘を殺すなど、よく在る事だろうに……黒き烏は内で呟き、苛立ちを隠すように微笑んだ。




