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戦狂のキキ  作者: shio
第十五章
461/462

十四


 忌々しい――何も言わずとも、何もせずとも、存在だけであの幼子は他の者の心を変える。鬼に成っても尚、忌まれる鬼が人に希望を与える。


「どうかされましたか、立烏帽子殿。気配が揺れましたよ」

「……ふふふ……小娘がよく言うもの」

「怒りましたか……けれど、怒っているのはこちらです」


 薄桜うすざくらに染まった瞳に鋭き光を宿らせ、


「戦い散った陰陽師達を出し、妹をなじった事。絶対に許しません」


 雪と共に桜花おうかを散り舞わせ、凜と花知流は言の葉を発した。


「ふふ、許さぬと言うのなら……どうなさるのです」


 サァァァ――――


 雪と桜が踊る――そこに、木花咲耶このはなさくやの焔燐の花が加わり。


「……そちらは三人。こちらは四人。私は戦わないということも出来ますが」

「お気遣い有り難う御座います。けれど、無用な事」

「ふふ、強気な事。けれど、良いのですか――」


 刹那、


 ――ガァァァァッ!


 雪と桜とほのおが散る中、一閃のいかずちが降り落ちた。

 地の雪が舞い上がり霞の様に広がる中、黒き影がゆらりと映し出され――


「――――」


 その者、細長ほそながに似た装束を纏い、漆黒の小袿こうちきひとえ宛帯あておび指貫袴さすぬきはかまひとえにはあでやかな紅き彼岸花を咲かせ、白き肌、長き黒髪に金色の角、切れ長の目、目尻と唇には紅化粧――

 背を斬られた小袿こうちきは裂けたまま、角と同じく金色の瞳をゆっくりと開き、その視線を立烏帽子へと向けた。


(……雷の鬼人)


 咲久夜は、花知流は内でその名を呟いた。

 当然、雷の鬼人、カナの事は考えていた。敵として対するとして、人が少ないこちらはどうするか……けれど、その話をした時、キキは『……カナ様が敵となることは無いと思います』と小さく伝えた。

『どうしてだ』と聞いて見たが、キキは何も答えず……けれど、キキの言う事ならばと納得し。


「これはこれは、金童子。良く参りました。陰陽師が憎い貴女の事、必ずこのうたげに参るであろうと思っていました」

「…………」


 金童子、カナは応えず――そんな鬼人を見つめ、咲久夜はふっと静に息を吐いた。

 キキの事を信用していないわけではない、けれど、命を削り戦った相手。気を抜くことなど出来ず。


「さあ、今こそ憎き陰陽師を滅ぼす時。共に戦いましょう、金童子」

「…………呼ぶな」

「……何と?」

「その名を呼ぶな」


 カナは袖を揺らし歩みを進め、キキの隣で立ち止まった。


「……キキ」


 呼びかける咲久夜にキキは首を横に振り、そして、カナを見上げる。


「……お前は、本当に妹に似ている」


 何も言わずともこちらを信用してくれる。その心を見透かしているような幼子の頭を優しく撫で、 


五月さつき様……」


 キキの言葉、その小さき声に目を見開き……


「そうか、お前は全てを知ってくれているのだな……そうか」


 鬼人は黄金の瞳を光らせ、直ぐに微笑んだ。


「有り難う、キキ。これで、迷いは断ち切れた」


 ――そして、


「我が名は滝夜叉たきやしゃっ! 将門まさかどが娘っ!」


 その声はいかずちの様に天に響き、金童子――滝夜叉は鋭き視線を立烏帽子へと燐と向けた。


「父のかばねを穢し操り、娘を、我が妹を斬った事、決して許しはせぬ。父の魂を解放し……そして、立烏帽子、お前を殺す」


 ――言の葉は響き、それは、心無い屍の熊童子、否、将門の何に伝わり揺らしたか。


「ふふ、さてもさても……」


 親が娘を殺すなど、よく在る事だろうに……黒き烏は内で呟き、苛立ちを隠すように微笑んだ。


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