表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わたしにたりないもの。~新入社員の成井さんには眉毛がない!? まじで!? そこはまるで異界だった。~  作者: tempp


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/12

成井さんと謎仮装

 バッグに荷物を詰めて靴を履く。

 1泊2日だ。着替えを適当に1日分。いつもの出張と違って私服でいい。営業先ではあるけれど今日はプレ公開の一般利用者として行くんだから。下手にスーツだとそれはそれで不自然。テーマパークなんだから。それに行くとどうせすぐに着替えることになる。


 東京駅で待ち合わせ。

 今度は映画の時とは違ってドキドキは全然しない、前回の反省もあるしまあ仕事だし。でも成井さんは多分そうじゃなくて、なんか期待に目を膨らませているみたいな、そんな風にキラキラしてた。右側は。でも左側はやっぱり眉毛がなくて、表情がなくて、目は右目と同じ形に動いているけど全然違って見えた。いうなれば極寒、コキュートス。地獄の最下層の嘆きの川で、俺はすでに氷漬け。

 部長が気を利かせて取ったグリーン席。特急で1時間、そこから送迎バスで15分。そこが夢と欲望の国。グリーン席は進行方向左側の2列シートでほっとした。窓際を勧めたら成井さんの席は俺の左側になるから。


 これはデートじゃなくて仕事。私服を着ていても仕事。成井さんは若草色のTシャツに紺のジーンズ、黄色のパーカーを羽織っていた。この間とまた雰囲気が違ってパステルカラーで明るい感じ。そもそも右側の成井さんは明るい。


 俺はこれから行くテーマパークの説明を始める。これはあくまで仕事だから調査目的がある。成井さんはテーマパークのメインターゲットである女性としてツアーを組むのにどこが売りになるか、顧客満足度を上げるにはどうするかを考える。だから思うままに楽しんでもらえればいい。

 俺は客観的に施設の把握。何がどこにあって、どんな動線が必要で。それぞれのアトラクションの所要時間とか混み具合、物販や飲食の感じを確認。


「そんなわけで成井さんは楽しんでもらえたらいいからさ」

「ちよっと反省しました。お仕事ですもんね。うかれてないで私も良く見ます。もちろん楽しんで」

「うん、ああ、あと感想とかは適宜言ってもらえると参考になるから」

「わかりました! ちょっと恥ずかしいけど」

 

 成井さんの右顔はニコッと笑った。左顔は少し影になってたから、僕をじわりと見つめる瞳に気づいてはいたけど気にしないことにした。


◇◇◇


 辿り着きましたるは噂の新規開店のテーマパーク。奇麗なハコモノ感。

 豪華な白いゲートにチケットに通すと、キャストが丁寧なお辞儀をした。俺は成井さんの右手側でエスコートする。普通は利腕だから反対だろうけど、左が利き腕と押し通す。成井さんは恥ずかしそうに俺の左肘にそっと手を置いた。正直成井さんの右隣に居続ける限りは俺の心の負担が少し軽い。Fly High。


 はぁ、なんだかな。

 気は進まないけどこういう場所だから。まるで結婚式のウェデングロードを歩くように白の代理石を踏みしめながら色とりどりの花壇の間を通って城に到着。このまま結婚式の父親のように成井さんを送り出して帰りたい。

 そんなことを思いながらチェックカウンターの前に立つ。ここで今日1日の仮装を決めて、着替えとメイクをする。へぇ、メイクもフリーパスに含まれるのか。当然ながら着替えも含まれる。

 豪華なドレスには保険がかけられていると極秘資料にあった。だから故意に汚すとかじゃない限り、多少汚れても請求されない。顧客には雑に使って欲しくないからあえて言わないけど、旅行代理店は客が汚して請求された時に被弾する可能性があるからこっそり教えてもらっている。そうじゃないと安心してツアーが組めないの。もちろんツアーに保険は含まれるけど内容と保険料が若干変わってくる。


 システムはまず仮装したいジャンルを備え付けられたパッドからオンラインで選んで、それから好みの色、好みのデザインと順番に選んでいく。アクセサリも選べて、それがアバターに表示されて着る前に大体の雰囲気が分かる。

 女性としては服を取っ替え引っ替えするのが楽しいのかもしれないけど、その必要はない。もちろんフリーで選ぶこともてきるけど、それじゃあいつまでも決まらなくて、この入り口で1日が潰れるかもしれないな。

 オープン時には予めオンラインでドレスの閲覧と予約ができるようになるらしい。なるほど合理的。


 今まであまり興味を持たなかったけど、好きな服を着れるというのは女性の集客効果が高いシステムかもしれない。そういえば鮎川さんが誰かの結婚式の時にブツブツ言ってたな。安いドレスなのにレンタルしても買うのと同じくらいの値段がするとか。


 俺はシステムとしては興味があるものの服自体は正直興味はなくて、成井さんが決めたらそれに合わせて適当に決めようと思っていたら声がかかった。


「村沢主任、これ面白そうです」

「うん、どれ?」


 それはペアプランと名付けられたカタログ。見るとシンデレラと王子、ウェンディとピーターパンというようにテーマに沿ったセット服が並んでいた。正直王子の白タイツもピーターパンの半ズボンも勘弁して欲しいと思って見ていると1つ興味深いものがを見つけた。『仮面舞踏会』セット。

 それは仮面とどこかダークな感じの大人びた衣装のセットで、白タイツや半ズボンより余程マシに見えた。それになにより。


「成井さん、もしよければこれがいい」

「えっ? 仮面舞踏会? うーん、ドレスも奇麗だしいいですよ」

「ありがとう。それでお互いの仮面はお互いが選ぶというのはどうかな」

「それ面白そうですね。わかりました」


 にこりと楽しそうに笑う成井さんと別れて、俺は試着室に向かった。Fly High。

 服はそれぞれで選んで仮面だけ秘密にお互いが選んで。なんだかそれは少しだけ秘密っぽくてわくわくした。エスコートというのは女性の片側しか見えないいいシステムだと思う。でも俺はそもそも眉毛が見えなければ向かい合ってても全然いいの。


 適当にタキシードっぽいのを選んで小物はキャストにお任せ依頼して仮面を選び始める。オンラインで選べば成井さんのキャストが用意して成井さんに渡してくれる。

 なるべく眉が隠せるものをと思ったけど、だいたいどれも目元が覆われていて、どれを選んでも大丈夫そうだ。よかった。

 パラパラとめくってみるとひとつ良さそうなのがあって、それを用意してもらうことにした。


 簡単に髪をセットしてもらい、豪華な宮殿のような、エンジ色に統一された待合室で待つ。部屋の中では何人かの男性が退屈そうに欠伸をこぼしていた。

 目の前に置かれた小さなプレートから好きに選べるフリードリンク制になっていて、新聞や主に男性向けの雑誌がたくさん置かれているコーナーがある。ここで長時間を過ごす男性も多いのかもしれない。


 テーマパークツアーはリピーターも多い。男性とペアの場合はお金を出すのは男性だから、もう少し男性の好感度があがるオプショナルかある方がいいのかなとか考えていると、思ったほど時間をかけず成井さんは現れた。

 そしてその姿に俺はかなりの衝撃を受けた。


 成井さんは、なんていうか奇麗だった。

 この部屋に会う深いグリーンを主体にしたベロアの滑らかなドレスに首元には豪奢なジュエリー。イミテーションだろうけど少し暗い室内でシャンデリアの光をキラキラと照り返していた。そして恐る恐る顔を視界に入れる。成井さんは髪を結い上げていつもより豪奢なメイクをしてまるで別人だった。そして顔の左半分を三日月型の仮面が覆っていた。

 見えない左眉が見えない。何を言っているのか自分でもよくわからないけど、それだけで物凄く印象が違った。顔の右側が全部見えている分、余計に普通の人みたいだ。しかも成井さんは化粧映えする顔なのかもしれない。にこにこした目元にドレスに合わせた薄い緑のラメが散りばめられていて、赤紫っぽい紅をさした唇が光を反射してつやつやと色っぽかった。思わずごくりと喉が鳴る。


「さすが村沢主任です。この仮面かっこいいです。私が選んだの普通すぎますよね」

「いや、そんなことは全然」


 成井さんが選んだのはバタフライ型のオーソドックスな目元を覆う仮面。奇をてらいすぎてるのよりはこういうシンプルなのがいい。顔全体を覆うのもあったけど、息苦しそうだし。


 改めて成井さんを見つめる。普通だ。いや、仮面舞踏会スタイルって普通じゃないんだろうけどさ。月の裏側に異界がすっぽり隠れてた。存在はするとしても、夜の帳が下りるまでは月は昇らない。太陽が俺にニコリと笑いかける。今までとのギャップで思わずそう感じた。

 とはいえここは仕事で来てるんだ。急ぎ残りのコーヒーを飲み干して、正式に成井さんの左側に立って恭しくエスコートした。そしてすぐに後悔した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ