成井さん(謎)の告白
気がつくと休憩室のソファに寝てた。しましまの成井さんの膝枕で。
「よかった、大丈夫ですか?」
「……うん」
「本当に?」
「うん。ちょっと休めば多分。なんで膝枕?」
「その、堀渕さんが」
「やっぱり」
「嫌ですか?」
うーん、嫌というかそれ以前になんていうか。うーん、なんて言っていいのかよくわからないけどとりあえず。
「柔らかい」
「えっ?」
「あっごめん、セクハラだよね」
成井さんの輪切りになった目のある部分の皮膚が赤っぽくなった。なんだか不思議だ。目が浮いている。眉毛は両方揃っていて、鼻がない。なんか面白い。
ぼんやり見ているとだんだん目が近づいてきて、唇にそっと何かが触れた。うん? と思って目を下に向けると、浮いた唇が離れていくところだった。ああ、鼻がなければキスしてる時唇が見えるんだ。……キス!?
そう思って成井さんの目を見ると、これ以上なく真っ赤で、多分照れていて、異界だった。
成井さんは俺が好き。
「成井さん修行どうだったの?」
「よく、わかりません」
「うん? 滝に打たれたりとかじゃないの?」
「最初は打たれてみたんですけど、冷たかったです」
まあ、もうすっかり冬だもんな。それはそうだろう。膝枕が温かい。
「風邪ひいたりしなかった?」
「それは大丈夫でした。その後は何か部屋に呼ばれて、写経をしなさいっていわれました」
「写経? 写経ってあのお経書き写すやつ?」
「そうです。でも経文の内容より自分のことを考えなさいって言われました」
「自分のこと?」
「そうです。私には霊力は少ないんじゃなくてどちらかというと多くて、それを偏らないようにするのがいいと言われました」
どうみても偏りすぎてると思うんだけど、どうしてこうなった。
というかそもそも霊力が偏ると実体が見えなくなるの? そんな馬鹿な。霊が漏れてエクトプラズムみたいなのが漏れるならともかくさ。
「ええと、成井さんはまだ結構偏ってるけど、前みたいに中途半端な感じじゃなくなったと思う」
「そうですか! よかった。自分じゃわからないし他の人にもわからないみたいなんです、主任しか」
そっか、俺だけがわかるのか、これ。自分じゃわからないんだよね。他の人も違和感ないみたいだし。
そうするとやっぱり、これは成井さんのせいじゃなくて俺のせいなんだな。
「成井さん、俺、ちょっとどうしていいかわからない」
「私じゃだめですか?」
「ううん、そうじゃなくて、多分俺がおかしいんだ。俺が原因なんだよね。」
「そんなことありません、主任は誰も気づかなかった私の足りないものに気づいてくれたんですよね?」
気づいたというか、むしろ眉毛に気づかなかったというか。気づくもなにもみたまんま存在しなかったというか。
「成井さんは何かが足りないわけじゃないと思う」
「そうですか?」
「うん、今も俺には足りてないように見えるけど、俺が見えないだけで足りてることは知ってるから。だから俺の問題なんだ、これは」
そう、俺がどうしたいか。
成井さんが普通に戻れば興味がなくなると思っていたけど、より普通じゃなくなって戻ってきた。俺はそれにびっくりした。それはもう強烈なインパクトで驚きで。正直その意外性に心臓は掴まれた気はする。
すごいドキドキしてる。俺のサム・ライニ。
俺は成井さんの『見えない左眉』から異界の扉が開くのか、よくわからなくてもやもやしていた。その先にはどんなものがあるのかわからなくて不安になっていた。斧を振り上げたジェィソンが本当に斧を振り下ろすのかわからない恐怖。
でも成井さんは異界の扉をフルオープンにして、そこに怖いものはない、恐れることはないと俺に示した。安全な異界?
「ええと、こんなことを聞くのもどうかと思うんだけど、成井さんは俺のどこが好きなの?」
成井さんの目は少し宙をさまよい、考え込んでいるようだった。
「私、変じゃないですか?」
「変?」
「私、よく変わってるって言われるんです」
「そうかな」
眉毛以外で変わってるところってどこかあったっけ。ううん?
「そういうところです」
「そういうところ?」
「私、よく浮いちゃってて、でも主任はずっと私に普通に接してくれました。私を変な目でじゃなくて普通に見てくれてる気がして、そんなの初めてで」
その途端に感じた罪悪感。俺は成井さんを普通になんて全然見てなかった。多分『見えない左眉』しか見てなくて、それをカバーする逃避行動として右側を見て話して。それだけで、全然成井さんを見てのことじゃない。
なんだかものすごく反省した。成井さんは俺をみて、俺を好きになってくれた。なのに俺、何やってたんだ。俺はそもそも成井さんを全然見ていなかった。
それなのに勝手に普通に戻ったら好きにならないだろうとか思ってしまって。そもそも見てなかったんじゃないか。
なんか急にすごく恥ずかしくなった。カッコ悪かった。
恥ずかしくなって、帯みたいな成井さんの目を見たら、目とその下の帯にある口がニコッと笑った。ドキッとした。
「成井さん、ごめん。俺は成井さんが思ってるようなやつじゃなくて」
「え?」
「でももう1日だけ頂戴。ほんとに。きちんと考えるから」
成井さんはなんだかよくわからない表情をした後、また微笑んだ。
◇◇◇
昼休みを挟んで仕事に復帰した俺は、早速堀渕の首根っこを掴んで休憩室に逆戻りした。
「なんすか主任」
「成井さんのことなんだけど、成井さんって変わってるの?」
「ハァ?」
なんだその鳩が豆鉄砲を食ったような顔は。
「主任、成井さんに引いてんの? それ、めっちゃ男らしくない。それはダメ」
「待て待て、違う。成井さんに自分が変だって言われたんだけど、どこが変なのかわかんないんだ」
堀渕は目をぱちぱちした後、面白そうにニヤッとした。
「そんならオッケ。うーん、成井さんかぁ。変わってるっていうと変わってると思います」
「どんなところが?」
「うーん、成井さん結構空気読まない。突然よくわかんないこと話し始めるし、発想が突飛?」
「そうだったかな」
「程度問題でギリギリかも。こないだの飲み会も延々主任とスプラッタの話してたでしょ? 主任は珍しくだいぶん酔っ払ってたから気づかなかったかもしれないけど、周り結構引いてた」
どうだったかな、正直何離したかも覚えてない。そういえばジェィソンが引き出した腸はシリーズ合計で何本かとか話してた気がする。げぇ、みんなごめん。




